普通少女のヴィランアカデミア   作:火ノ鷹

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超常解放戦線結成後からの話についてはちょっと時系列が前後しまくってるので堕とし子毎で見ていく


堕とし子の三女 艶羽 ー白い翼と剛き翼ー

 

 時はナイトアイが退院した頃、勇也がオールマイトを訪ねるよりも、死柄木たちが解放軍と戦うよりも前の話。

 成生が脳死判定されてすぐの頃であり、堕とし子は電花の『広範囲電波』を身につけるために特訓しており、先んじて身につけた奪姫以外誰も動けない時だった。

 

 九州地方。ホークスが事務所を構えている周辺の空に彼女はいた。

 

「んー……流石にここまでくれば転移以外で誰も追いつけないでしょ」

 

 白い翼で空を飛ぶ彼女──艶羽。依光成生の三女であり堕とし子の中でも最も自由と言われている者だった。

 

 今日も特訓を放り投げ、好き勝手に行動していた。電花姉は慕っているし特訓が大事だと分かっていても、優先しなければならないことが艶羽にはあった。

 

「空はホントいい。何でも受け入れてくれる感じとか、自由感が最高」

「おっ、分かってんじゃん。それでこんなところを飛んでるってことは俺に用があるってことでいいんだよね」

 

 艶羽がリラックス全開気味で飛んでいた横に、並走してもう一つの翼が飛んでいた。彼──ホークスも同じように、リラックス全開気味だった。

 

「わ、待って。戦う気は無いから」

「へぇ?許可無しで個性をバシバシ使ってるのに?」

 

 ヒーローとしては問答無用で捕まえても許される案件。しかしホークスは捕まえない。

 『速過ぎる男』。ホークスが受ける世間からの呼称だが、これは何も速さだけが突出してるだけに留まらない。思考速度や判断速度も速過ぎるからこその評価だった。

 

 そしてホークスの本質の一つには自由人というものもある。この性質だけで見るとホークスから見た艶羽は余りにも気が置け過ぎる。例えヴィランと見做されても、誰にも視られてないなら談笑くらいは別にいいと判断できていた。

 

「もう少ししたら他所のヒーローのところに飛ぶ予定だっただけ。もしあなたが捕まえられるならって」

「ヒーロー……ふぅん?何か企んでる?」

「もちろん!好きなもののために頑張るのは誰だって当然だから!」

 

 飛びながら笑顔でホークスの方に顔を向ける艶羽。

 ホークスは艶羽の笑顔が綺麗過ぎたことに加え、無垢というイメージを抱き……笑う。

 

「あはは!面白いな!自分の好き勝手しながら、どうせならできたらいいなって感じ。俺も気持ち分かるから何も言えないなぁ」

 

 気持ちが分かる。行動も分かる。考えも分かる。ホークスと艶羽が違うのはヒーロー免許を所有しているかというただ一点のみ。

 ヒーロー、ヴィラン関係なく、誰かを救うという観点で見れば、二人の行動結果も同じなことだった。『誰を救うのか』という視点こそあれど、過程は同じなのだ。

 

「で、どこに行く予定なんだい?」

 

 ホークスも面白そうだと並走して飛んでいく。テンションが上がり高揚していく二人の速度は徐々に上がっていく。

 

 方向は東、目的地は九州からは離れた場所。彼らは上空を飛べるのだ、物理的障害は無く一直線に進める。

 

「オールマイトの相棒とオールマイトの師匠のところ。呼んだの私だけど他の人もいるかも」

「は!?」

 

 予想だにしない大物への誘い。ホークスははやまったかなとほんの少しだけ冷や汗を流し、即思考から消す。

 

 ()()()()()というのが予想以上に楽しかったからだ。艶羽もまた、ホークスに似た笑みを浮かべていた。

 

 

■■■

 

 一時間とかからず到着したのはナイトアイの事務所。居たのはナイトアイとグラントリノ、そしてルミリオンの三人だった。

 

「まさか君が来るとはな」

「いや俺も予想外っていうか、そんなことある!?って感じなんですが」

 

 ホークスとナイトアイに面識はほぼ無い。昔のチームアップで極々稀にあったくらいであり、情報連携を直接行うような仲ではなかった。

 

 そして艶羽とはこの場で面識があるのはナイトアイだけだ。ルミリオンは面識はあるが今回の役回りが護衛兼見張りであり、部屋の入口近くの椅子に座っていた。

 

「で、一度会ってるはずだが名乗ってはいなかった。君が艶羽でいいのかな?」

 

 ナイトアイは手紙を懐から出し、全員に見せつける。手紙には確かに艶羽の二文字が記されていた。

 

 艶羽は、肯定の意味を込めてにっこりと笑う。

 

「はい!私が艶羽!依光成生の三女です!」

「は!?三女!?」

「電花姉と奪姫姉、続いて勇也兄でその次が私。弟や妹もいますよ!10人の兄弟姉妹です!」

 

 依光成生には部下となる子供がいる。プロヒーローでも相性が良くなければ勝ち目は薄く、敵対する場合は近くに依光成生がいる可能性も高いのでまずは撤退して連携をとること。

 そうヒーローネットワークに流れていたが、子供が何人いるかまでは流れていなかった。電花、奪姫、艶羽だけであり、エンデヴァーが脳無と戦った時に灯火が初めて見つかったという程だ。

 

 それほど重要な情報なのだが、艶羽は軽くバラしていた。そんなことから話さなきゃいけないのかと気だるげな雰囲気を出しながら。

 

「10人……あの……電花と言ったかな?あの子と同じ程度の戦力、強さを持っているのか?」

「純粋な肉体の強度的な意味なら電花姉は私たちの中では下から数えた方が早いかな。でも皆一番尊敬してる!だって誰より個性の使い方が上手だし教え方も上手だから!」

「もっとも知識があり教える側。リーダーなのか?」

「リーダーってより年長者って感じ。リーダーは奪姫姉の方かな、まぁ統制とれてるかは別だけど」

 

 内部事情をこれでもかと暴露していく艶羽。情報の重要さが分かっていないのではない、分かっていて話しているのだ。これは必要なことだからと。

 

 当然だが秘匿されていた情報ば流れるのはヒーローにとって好都合であり、Ms.ダークライらヴィランにとっては困ることだ。

 

 何せ情報を一切流さないことで能力を秘匿、不意打ちを成立させるという……依光成生、Ms.ダークライが使ってきた戦術。その戦い方が崩されていっているのだから。

 

 ただ速過ぎる男は情報を処理する速度も速い。話を聞きながら、疑問を組み立てて口にする。

 

 

 

「俺も暇じゃないんで……話は結論から行こう。何で俺を呼ぼうと?」

 

 

 

 ナイトアイ、グラントリノはオールマイトの関係者だ。ホークスの情報網にも引っ掛かっており、ルミリオンはナイトアイの事務所のホープと分かっている。

 

 ホークスもオールマイトのことは流石に知っている。しかしホークスの目指す社会とはかけ離れたところにいる人であり、縁遠い人達とも言い換えることができた。

 

 つまりはホークスに関係するところは別件に近いはずなのだ。それがどう繋がるのかが分からなかった。

 

 ホークスの疑問に艶羽は凛とした顔になって口を開いた。

 

「私達とヴィラン連合に忍び込むとかそんなことしようとしてるんじゃないかなって思ったので」

「一応聞いておこうかな。どうしてそう考えた?」

 

 公安から頼まれた案件ど真ん中。まさか全く関係ないところから的中させてくる等ホークスからすれば予想外もいいところ。即座に言葉を返したのも、動揺を隠すためだった。

 

「二つあって、一つは直感。私はあのおかーさんの子供だからね!直感は大事にしようって電花姉達も言ってたし。

 

 もう一つは今の社会情勢から予想立てたから」

「……続けて」

「うん。社会で今一番怖いのはおかーさんだけど、実際のところ怖いだけ。危険と言う意味ではヴィラン連合の方が危ない。

 私たち……っていうかおかーさんはヒーロー社会が崩れかねない程のダメージを受けてもおかしくない戦力があって、その証明も神野でやってる。実行に移すならとっくに損害出てなければおかしいのに、ヒーロー社会そのものは崩れきってない程度。

 つまり私たちは、ヒーロー側から見たら『ヴィランだけど社会を壊したくない』と思われてるはず。恐ろしいけど手を出さなければ危険じゃない。

 

 けどヴィラン連合はそうじゃない。明確にヒーロー社会を壊したがってる。オールフォーワンが指導者だったんだから明白。

 

 で、ヒーロー側に立って考えるなら……まずこの連携を確認したいと思うはず。

 

 弔のおにーさんとおかーさんは兄妹弟子だから、可能なら分離させたいってのもあるんじゃないかな。

 

 そう考えるとおかーさん、ひいては私達の方には来ないでしょ?そもそもおかーさん一人で動いてると思われてるし、忍び込むにもどこに?って話もある。対してヴィラン連合は忍び込めるし可能性がある」

「それは?」

 

 想像以上に論理立てて話してくる艶羽にホークスは聞く側に回る。ナイトアイやグラントリノも艶羽の理解力の高さや頭の回りように「ほぉ……」と声が漏れていた。

 

「論理的なところが分かる荼毘のおにーさんが一番かな。トガさんも悪く無いと思うけど難しいだろうし。

 

 内部に入り込み、何をしようとしているか情報収集を……要するにスパイ。

 

 何でかって言うと、オールフォーワンが一番最初に弟子にしているから。最初から弟子にしてるってことは死柄木のおにーさんにはオールフォーワンが何かしらの計画に組み込んでる可能性がある。

 

 神野でオールフォーワンを殺そうとしたおかーさんはその辺が逆に無いんじゃないかなって。

 

 あとオールフォーワンはおかーさんのことばっか喋ってて何も言ってないとかありそう。おかーさんは人気者だし」

「ナイトアイさん」

「当たっている。ヴィラン側の視線だとこれ程透けて見えるのかと驚く程にな」

 

 正確にはヴィラン側ではなく成生側の視点だが、正しく全容を理解しているものは艶羽以外いないとすら言える。母親のことを正しく知り、ヴィラン連合といった繋がりまで分かっているのは電花と艶羽のみ。

 そこから成生は眠りにつき、子供たちは性格のまま好きに動き始めている。

 

 その上で子供たちの性格を理解できているのは電花と艶羽くらいなのだ。電花は動けないため社会には出ず、艶羽だけが俯瞰的な視点を持ち行動できる。

 

 誰よりも速く動けるが故に、誰よりも速く情報を得る。ヒーロー側のホークスと鏡移しもいいところだった。

 

「で、ヴィラン連合にスパイするならやめてほしいなって」

「何故だい?」

「トガさんにバレる可能性がすっごく高い。トガさん()()()()()()()()()()()()使()()()みたいで、使いようによっては一発アウトだと思う。

 

 トガさんに裏切り者を殺すみたいな真似はさせたくないし、ホークスさんにも死んでほしくないもん」

 

 ホークスは一瞬だけ悩み込み、ふと気づく。知らなければ戦いにすらならないとホークス自身考えていた内容が入っていたと。

 

「……ん?、Ms.ダークライの個性って分かったんですか?」

 

 まだ確定すらされていない最大の情報。『指先発光』が嘘であることは大半のヒーローが知っている。であれば真の個性は何か、誰しもが知りたがっていた。

 

 ホークスの疑問に答えたのはナイトアイ。今回に限ってはナイトアイだからこそ答えに意味があるのだった。

 

「まだ確定はしていないがな。現状においては怪しいこともある上、発表した方が致命的なダメージを負うと判断して公表していない」

「……ああ、オールフォーワンの『個性を奪う個性』とかみたいにですか。それでこの面子になってるんですね」

 

 ナイトアイ、グラントリノ。オールマイトの極秘情報を担っていた二人。情報の秘匿という意味ではこれ以上ない面子だ。個性が何なのか分かったという情報だけですら流せないが、情報を抱えて死ぬ未来だけは避けねばならない。ならば明かせる人を絞り共有する他ない。

 

 しかし物事には必ず例外というものが存在する。例えば……情報を得るのが速く、処理能力も高く、知らない間に真実に到達してしまうという場合。

 周囲に伝えないよう秘匿していたのに第三者に知られてしまうというリスクが生じる。であれば最初からそういった例外は身内にしておく方が賢明だ。

 

 艶羽がホークスを人選した理由はそれだった。そしてそれだけでは相互に信頼できないことも艶羽は分かっていた。

 

 艶羽は、パチンと指を鳴らした。

 

「で、情報流すの私がやったげる」

「「は?」」

 

 ヒーローがスパイするよりも余程有効な手段。()()()()()()()()()()()()()()、迷わず頼む程にストレートな解決方法。

 

 艶羽からすればヴィラン側全員には信頼されているのだ。容易もいいところだった。

 

「ヴィラン連合に張り付け、なんてことは流石にできない。でも情報を流すだけでしょ?それなら簡単だから」

「……待った、一つ確認だ。お前一人でのヴィラン連合の壊滅は可能か?」

 

 グラントリノの言葉。実力を測る言葉でもあり、ヴィラン連合を壊滅が最終目標であるグラントリノには希望にも近いものだ。

 

 そもそもヴィラン連合の戦力を考えれば、不意打ちが成立しなければ死者が出るだろう。艶羽は不意打ちが可能な人材であり、制圧もできるのは間違いないのも事実だった。

 

 艶羽は腕を組み、悩み込む。数秒の後に、答えを出した。

 

 

「んー……やろうと思えばやれる。でも……うん、これが一番かな。感情的な意味で私はやりたくない」

 

 

 感情的な意味でやりたくない。絆されたから、友達だから、助けられたから。理由はいくらでもあるが、ヒーローにとっては最も大事な繋がり。ヴィランにとっても同じことだ。

 

 ただ、艶羽の場合は少し違う。艶羽はヴィラン連合の誰とも友達と呼べるほど仲が良くない。仲が良いのは、母親だ。

 

 

 

「おかーさんのことを全部知らないから、そんなことしたら嫌われるかも。トガさんとおかーさんの仲の良さなんてみんな知ってるけど、何でそんなに仲が良いのかなんて聞いたことも無い。

 

 だから手助けはできても、直接的なことはできない……ううん、したくない」

「なるほどね。感情的だけど間違いでもないな、動機が分からないっていう論理的なものだよそれ」

 

 

 ホークスの指摘に頬を綻ばせる艶羽。

 

 

「へへへ……そっかぁ」

 

 

 自分でも分かっていない自分のことを、知っている。それが自分自身と関りがある人となれば、ごく自然に笑顔になっていた。

 

「で、バレるってのもあると思うけど……どうするんだ?」

「私はバレないから代わりができる。だって私に監視なんて無いし、あっても無駄だもん」

「個性か」

 

 ナイトアイの言葉にコクリと頷く艶羽。まだ未熟気味と周りには見せている個性であり、実際は一定時間なら十分以上に使えるようになっている個性だった。

 

「『広範囲電波』。電花姉の個性だけど作られた子供たちは全員使える。そしてこれは同時に、自らがジャミング染みた存在にも……誰にも探知されない存在なれる。

 

 これはおかーさんの意志と電花姉の想いがくれた……私達が好きに生きるための証で、力。監視することなんてできない」

 

 母親の遺伝がなければ複数の個性を身にすることはできない。電花がいなければ習熟することも遅くなるどころか身につけることはできない。

 しかし身につければ電子的な面では誰にも見つけられず、好きに生きることができる。電花はそれを分かっていたからこそ子供たち皆に自ら(個性)を差し出した。

 

 

 長姉だから。皆を好きに生かせるという母親の願いのために。艶羽もその覚悟を受け取って動いていた。

 

 

「それが事実なら助かるんだが……本当に信じていいのかな」

「それなら問題ない。予知が示している未来で裏切られていないからな」

「ううん。ダメでしょ」

 

 艶羽は首を横に振る。提案した側がする行為ではないのだが、邪魔しているものがあるのだ。

 

「こういうのは実績が無いとね。だからもう少ししてから判断してほしい……何より私、今ヴィラン側だからさ」

 

 ヴィラン側の立場でありながらヒーロー側に手を貸す。逆もそうだが、本来あり得てはいけないことだ。

 ヒーローはヴィランを捕まえる・退治する・救う者であり、共に戦う者ではない。

 ヴィランは社会に混乱を招いてでも自らの意志に従い行動する者であり、基本的にヒーローと敵対する者だ。ヤクザ等の例外もあるが、それはかつて信頼を築いたからこそのもの。新参者には不可能なことだ。

 

 立場が無条件の信頼を許さない。艶羽は分かっており、三人も理解していた。故に何も言葉を返せなかった。

 

「これも二つ、一つはホークスさんに。

 ヴィラン連合の動きについて。随分遠くからなら連合側も分からない。だって感知系の個性持ってないし、トガさんでもずっと変身してるわけじゃないし。

 

 その地点と、方角。あと何でそこにいるのかって理由くらいは伝える」

「助かるけど、連絡をそれなりにしないとダメじゃないか?どうする気?」

「私を捕捉することはできないから会いに来るよ。私個人としてもちょっとあってね。

 

 そこからは……私とホークスさんの個性の相性とかあるけど……もしかしたら私の妹の闇子(あんず)とか連れて来るかも。ちょっと中二病入ってるけど連絡要員になってくれる。あの子夜限定しか使えないけど馬鹿みたいな個性してるから」

 

 艶羽の脳内に浮かぶのは新月の夜に「ククク……今宵の月は我が力を抑えるには足りん」等と言い出す妹の姿。悪い子ではない上、艶羽を一番に慕ってくれている為、言いくるめるのが非常に簡単な子なのだ。

 二人だけの秘密だと言えば、母親を除いて誰にも話すことは無いと言い切れる。変に真面目なところがあり、個性で自らの記憶を隠すなんて真似までするのだ。艶羽が性格だけで信頼しているという、子供たちでも珍しい関係だった。

 

 艶羽の話を聞き、ホークスの行動はおおよそ決まってきていた。だが、まだピースが足りていなかった。

 ホークスの目的はヴィラン連合だが、最大の目的はそのもう一つ後ろ。ヴィラン連合であってヴィラン連合ではない者達、すなわち────オールフォーワンの側近である者達の存在。

 

 間違いなく存在し……実際に、グラントリノが黒霧を逮捕している。更には黒霧逮捕の際にギガントマキアに逃げられている。他に居てもおかしくないというのが公安の認識だった。

 

「……悪くはない。悪くはないしトガヒミコの新しい情報は確かに助かる。それあると無いとじゃ話変わるし。

 

 ただヴィラン連合ってオールフォーワン一人だけが後ろ盾とは思ってないんだ」

「死柄木のおにーさんのお世話役なんてオールフォーワンと黒霧、あともう一人の三人だけって話をおかーさんから聞いたことあるけど……ん?もしかしてドクターの事?」

「「「!!!」」」

 

 作られた艶羽は作った者達、オールフォーワン達のことをよく知っている。まして作られたのは成生がオールフォーワンと連携していた真っ只中。知らない方がおかしいとすら言える程に知っている。

 

 暴露したら危険である事実など知っている。そんなことを言い出したらこの集まり自体があり得ないことですらあった。

 

「最近黒霧見てないなぁ……ドクターはどこに住んでるのかや名前は知らない。私達が呼ばれる時も転移だし。

 

 一つだけ確実に言えるのはドクターがいなければ私達は生まれなかったし、きっと脳無も生まれてなかった」

「脳無の製作者!本当にいたんだな!」

「そいつさえ捕まえれば連合の力は大きく削がれますね」

 

 グラントリノとナイトアイは顔を合わせて突き止めたと拳を突き合わせ、ホークスは逆に悩み込む。デカすぎる情報であるが故に、それを齎した者に対して慎重にならねばならない。

 

 単純な裏切り者なら後で始末すればいい。一度裏切った者は二度裏切る。裏切りとはそういった信頼関係に変貌させることを意味するのだ。

 

 ただ単純な裏切り者ではない場合、対処が変わる。信頼ではなく別の角度から裏切った場合だ。

 

 

 

 

 

「……艶羽って言ったっけ、大丈夫なのか?これは明確な裏切りだろう」

 

 

 

 

 

 どこか心配するような声。ホークス自身、自分でもこんな声を出せるのかと驚くような声色だった。

 そんなつもりは毛頭ない、信頼関係の構築でありビジネス的な考えのものであり……そんな言い訳がホークスの脳内を走る。

 

 向けられた艶羽の表情は、どこか遠い場所を見つめるような……もの寂しいものもある、苦い笑い顔だった。

 

 

 

 

「ドクターもオールフォーワンも、黒霧も……なんなら死柄木のおにーさんも。私にとっては要らない人達。捕まえても私は敵対なんかしないから安心していいよ。

 

 

 私が望むのは私とおかーさんが好きに生きれる世界。あと兄妹姉妹も一緒だと嬉しいかな……きっと奪姫姉や崩華は怒るけど、艶羽のことだからいっかって言ってくれる。そう信じてる」

 

 

 

 

 

 仲間のことを信じているが、だからこそ苦しい道を行かなければならない。艶羽の覚悟は軽く見せながらも、内実は重いもの。ただその重さは自らが背負うと決め、問題ないと、背負えると分かったから艶羽は変わらず行動し続けられる。

 

 

 ヴィランではなくヒーローであったら。この場にいる艶羽を除く全員の考えが一致した瞬間だった。

 

 

「で、ナイトアイさん。話は変わるんだけどあなたにも一つ。

 

 きっと勇也兄があなたに会いに来る。オールマイトとおかーさんから作られた馬鹿なんだけど……多分、オールマイトさんに会ってからだと思う。

 

 あの正義バカの世話をして欲しい」

「正義バカって……ふふっ」

「ほぉ……俺も会ってみたいところだな」

 

 ホークスへの頼みは終わった。なら後は他の人達への頼みだけ。中でも身内に関係することであるが故に、当人を馬鹿にしながら簡潔に告げる。

 

 勇也は堕とし子でも仲がいい面子と悪い面子で綺麗に分かれる。艶羽は悪い側なのだが、感情を隠して仲良くしていた。実際にどれくらい嫌いかで言えば筆頭どころか更に上なまでにあり……だからこそ行動が分かってしまうのだった。

 

 しかし身内を売る行動ではある。理由があってと分かるものの、ヴィラン連合への裏切りとはまた違う。ヴィラン連合は友達や仲間であって、家族といった関係ではない。今の艶羽はそれすら売ろうとしている。

 

 不審に思うのは当然だった。

 

「一つ教えてくれ。おまえさんどうしてこんな真似を?」

「え?おかーさんが好きに生きていいって言ったからかな?」

 

 グラントリノの問いに艶羽は軽い口調で答える。艶羽にとってはこっちの方が軽いものだった。

 

 何せ理由が簡単だ。絶対視する母親の言葉、それに倣って動いているだけでありそれ以上でも以下でもない。まして、勇也は母親を敵対視していると艶羽が予想できている者なのだ。裏切りというよりも制裁という見方が正しい。

 

 そこで殺しに走らず……せめて居たい場所へ行かせてやる。それは艶羽が持つ、母親譲りの優しさだった。

 

「私達はおかーさんが大好き!だからおかーさんの言うことはきちんと守る。それで私達が好き勝手していいって言ったんだからそうするだけ。

 

 ホークスさんは私が作られた時に関係あるらしくて、会ってみたかった。ナイトアイさんは、あの正義バカを何とかしないといけないけど一番説得力ありそうなところだったから」

「何故オールマイトではダメだと?」

「馬鹿みたいに意志が強くて似た思考回路持ってる人同士だと説得できないでしょ」

 

 ホークスはふふっと笑い、ナイトアイとグラントリノが沈黙する。デクとオールマイトというほぼ同じ思考回路を持っている二人を知っているからだ。そして神野で止められていなかったことも覚えていた。

 

「私はおかーさんの横で電花姉や奪姫姉、大に崩華に闇子に仁に……好きな皆と一緒にだらーっとしたいの。だからそのために全力を尽くす。

 

 面倒そうなヴィラン連合と、身内の不始末。やっとかないと後で面倒になるって確信すらあるから」

「対応が速いんだな」

 

 ホークスの言葉にへらっとした笑いを返す。その笑い方は軽いように見えて自分は平気だと言い聞かせる……ホークスがする笑い方だった。

 

 

 

 

 

「だって、暇な方が幸せじゃない?私は誰も不幸になんかしたくないだけ」

 

 

 

 

 

 ヒーローが暇を持て余す社会にしたい。ホークスの願う社会とほぼ同質の願い。笑い方といい、まるで自ら鏡を見ているようですらあった。

 

 

「あ、そろそろ行かなきゃ。まだ個性慣れてないんだよね……時間ギリギリになる。

 

 また連絡とります、その時はお願いします」

 

 一礼し、白い羽根をバサリと羽ばたかせて艶羽は飛んでいく。一瞬で消えていった姿はもう後ろ姿も見えず、速度が速過ぎると目に見えていた。

 

 静かになった部屋。ナイトアイが情報認識が間違っていないか再確認しようと口をするよりも早く、ホークスが気になっていたことを口にする。

 

「ナイトアイさん、あの子に俺の遺伝子使われてます?」

「……本当は答えない方がいいかもしれんが、察しのいい君のことだ。遅かれ速かれ答えに辿り着くのは分かっている。

 

 答えは────YESだ」

 

 依光成生とホークスの遺伝子で作られた子供。ホークスの頭では理解でき、納得できるものもある。個性どころか行動や考え方まで近しいとまでくれば肉親か何かかと思考するのは当然。

 

 そこまでなら依光成生に憤慨するだけで済んだ。問題はそこではなく、艶羽が余りにもいい子だったからだ。

 

 

「……」

「随分と自由人のようだが、その実態は親のため。どこかで聞いた話だ」

「さぁ……まぁ、いい子なのはよく分かりましたよ。信用も置いていいと思います」

 

 

 ほぼヒーロー側の存在。ただ行動指針がヴィラン側にあるため、味方と呼べるが敵とも呼べる。しかしホークスに対して何も言わずに敵対することはまずあり得ないと言い切れる。

 

 何せ思考回路が近いのだ。仮に何かしら事情があれば、分かりやすく態度やらを変えたりするだろう。ホークス自身、自分なら間違いなくそうすると認識していた。

 言い換えれば、ホークスにはだいたい何でも事情が伝わる子。信頼関係の構築という意味では最高レベルの相性だ。表側に出てくれれば、即サイドキックにすると言い切れる程に。

 

「私は最初から分かっていたがな」

「予知でしょ?ズルい人だ」

「いいや……予知が正しく使えるようになったのはこのところ最近だ。彼女は正しくなかった予知でも、行動がほぼ変わっていない堕とし子……三人の内の一人だった。

 勇也、艶羽、そして灯火。彼らの意志は強い、母親がどんな姿に変わろうと、自らの意志を通そうと動くだろう」

「……そう、ですか」

 

 ナイトアイは堕とし子の名前を既に予知で知っている。個性こそまだ把握しきれていないが、性格の方を優先的に予知して見ていた。

 

 そこで見たのは一枚岩ではないこと。そして母親のこと以外であれば介入の余地が十分以上にあることだった。

 

「電花、奪姫……あとは大と仁だったかな、彼らは逆に母親の姿が変われば動きも変わる。良くも悪くもだが。

 崩華、闇子、散月は放っておいてもいいくらいだ。純粋な感情に任せて動く……故に勝手にヒーロー側に味方することすら多いだろう。母親の姿が変われば動きは変わるが、ブレ幅は少ない」

 

 母親が関わらない限りは、とナイトアイは話す。仮に母親が全面戦争を望めば全力で力を貸すだろう、社会を壊そうとすれば容易に可能だろう。

 

 しかし今現在がそうなっていないことからナイトアイはある意味楽観的だった。予知でまだ見えていないが……必ず、堕とし子達は自らの意志で親を離れる。そうなればMs.ダークライが持つ戦力は落ちていくだけだ。

 

「ヴィラン連合に与するような奴はいるのか?」

「いませんが、彼らが勝手に仲良くするみたいなことは既に起きてます。友達・仲間だから動くという形で……組織的連携だから動くという形ではない」

「逆に厄介だな。そういった方が子供の年齢だと意志が強い」

「艶羽はそれが分かっていたから来てくれてます。可能な限りヴィラン連合とは外すという方向に持っていきたいというのが彼女の意志です」

 

 グラントリノと情報を共有するナイトアイ。ホークスも二人の話を聞きながら、今後の自らの行動について思考しつつ口に出していた。

 

「……狙いを変えないとだな。ヴィラン連合は危険過ぎる……別の角度からだな。別の組織と組んでくれると助かるんだけど」

 

 ホークスの狙いがヴィラン連合から変わる。それは艶羽が示した軌跡であり、ヴィラン連合────超常解放戦線にとっては最悪の一手となる。

 

 ヴィラン連合側にスパイしていれば、灯火やトガ、荼毘といった勘が鋭い面子にぶつかったのは間違いなく……そうすれば何があってもホークスは死傷を負うことになっただろう。艶羽がどれだけフォローしようと灯火や崩華によって妨害されるのは間違いない。

 情報を流すこともなく始末される可能性すら十分にあった。

 

 だが解放軍側であれば話は大きく変わる。情報をメインに受け持ち、艶羽もそうフォローするため担当がスケプティックになる。そうなれば勘が鋭い面子と長い間一緒になることも無く、交渉することも無い。監視も艶羽によって一部抜けられることが保証されているものであり、()()()()()()()()()()()()()

 

 奪姫と大は解放軍を半ば離れていることや、その二人は力こそ強大だがそれほど勘が鋭くないため艶羽の裏切りに気づけない。艶羽のフォローが存分に発揮できるのだ。

 

 

 四人にちゃんと伝えたいことを伝えられた艶羽は笑っていた。思う通りに進んでいることが何より嬉しかったのだった。

 

「次はミルコって人に伝えないとね。まずは帰って電花姉達を誤魔化さないと」

 

 艶羽は飛ぶ。誰よりも自由が故に、自由を尊重しているために。

 

 しかし苦痛などではない、好きでやっていることなのだ。母親に言われたまま、好きにいきているだけだった。

 

 その証拠は艶羽の表情。満たされた、屈託のない笑顔をしていた。母親のように痛ましい笑顔を浮かべることは無いと信じて突き進む。

 

 

 

 未来で……忌み、禁じられた本を読むまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どうして、私が動いてたこと、本に書いてるんだろうね。おかーさんは一切関係してないのに」

 

 パラりと、本が一ページ進んだ。

 

 




今回の話

ミルコと艶羽接触(執筆予定なし)

九州でエンデヴァー&ホークスVS脳無 64話「堕とし子の脈動 灯火」

なので時系列で言えば三章の始めに該当してたりする


64話でホークスが何も知らない様子だったのは灯火の勘が鋭いことを既に知っていたから&エンデヴァーの家族絡みを突っつきたくなかったからだったり

64話にいたのが灯火ではなく崩華だったら話は別だった

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