小話なので軽めに
あれは何時からだったか、神野の後少ししてからとかそんくらいだったかな?
真夜中に声が聞こえるようになったんだ。
寮に移行してからは分かりやすく聞こえるようになった。最初は幽霊か何かかとびっくりしたもんだ。
(見……つけ…………た………………聞こえ……る……?……)
こんな声が真夜中に届くんだ。そりゃ怖いさ、俺ビビリだし。
でもさ、話を聞けばすぐ分かった。これ個性で声だけ届けてるんだって。
寝てる時に届くから夢みたいな感じではあるんだけど、生活に支障ねぇからまぁいっかって。
(でね、この間はおかーさんが勝手にヒーローのとこ行っちゃって!迷子になるかもって!でも私頑張って見つけたんだ!)
それに、こんな話聞いたら放っておけないだろ?
多分話してるのは子供。助けてほしいって話してくれない。……けど、何処か聞こえるんだよ、
んで夢みたいだからって声出せるか試したら届くんだよ。驚くことに。
だから聞いてみた。
(何で俺に話してくるんだ?プロヒーローだっているだろ)
(お兄さんは私にとって特別だから)
正直言って心当たりなんて皆無だった。それでいいって言ってくれたけどな。
(ごめんなさい。絶対分からない経歴してるからお兄さんには伝わらないの)
(でも伝わらなくていいんだ。私にとって全然大事じゃないから。大事なのは聞いてくれるのがお兄さんだってこと)
訳アリなのはよく分かった。ついこないだエリちゃんなんて話も聞いたんだ。轟みたく家庭の事情なんてもんもあるだろうしな。
裏に隠れてる声無き声はともかくとして、聞いてると目的もちゃんとしてたしな。
(それに……私にとって大事なのは、こうして話せて、一緒にいる時間)
(……生で一緒にはいないのは残念だな)
(うん。……そうだね)
最初は声が聞こえるだけだった。なんか少しずつ慣れてきたのか、寝てる時だと夢の中みたいな空間で話す感じになったりしてた。
話してくる子供はいなかったけど、シルエットみたいなのが見えた時もあったりした。俺と話すだけで個性伸びるんなら……いやヒーロー的には良くないけど、俺はまぁいっかなって思った。
だってそれが幸せだって言ってくれるんだもん。
(大事な人と一緒に居られる。それは私にとって幸せなことだから)
(そんな当たり前のこと……じゃない人もいるか)
大事な人。子供だと両親や兄弟姉妹で、話してると実際に彼らが該当するみたいだった。父親がいないのは気になったけど、シングルマザーなんてよく聞く話だ。
(まぁ私はいくらか特別だし?お兄さんが雄英にいるくらいには?)
(あっ調子乗ったなお前)
(あっあっ待って回線切りしないで)
面白かったのは俺の個性は回線切り出来たんだ。子供……多分女子。電波系──電磁波系って言った方がいいか──の個性の派生みたいな使い方らしく、帯電個性だと電波乱れて届かなくなるらしい。
あと俺が授業全開に個性使った日も電波が届かなくなる。ただそっちの理由は『アホみたいな顔見せられるのなんか嫌だ』っていう……んだそれって言いたくなる理由だったけど。
でも最近は……しないって決めてた。聞いてて分かるんだ、辛い環境が。
この間の話が分かりやすく、心にクる内容だった。
(昨日は兄弟姉妹みーんな集まったんだ!私は声出すのも辛くなってきてるから奪姫に代弁してもらったんだけどね)
(奪姫?)
(私自慢の妹!私のこと大好きだから代わって貰うくらいならって)
(兄弟姉妹仲が良いんだな)
(……私はね。妹と弟だと喧嘩するし。弟達は暴れん坊だし、言っても聞かないこと多いの)
(そんなもんだろ)
(
トイレとかで一時的に離れた時とか考えて、軽い言葉で話してた。それが俺にとっていつも通りだったから。
(はは……。……『居なくなったら』?どっか行くのか?)
でもそいつにはとんでもない重さがあったみたいだった。
(……)
言葉が詰まるなんて中々無いことだからな。一発で地雷踏んじまったって分かった。
せめてフォローしないとって言ったのは、自分でも声には出さない言葉だった。
(……なぁ、辛かったら言ってもいいんだぞ。ここ夢みたいな場所だしな)
きっとこんな場所だからだろうな。普段も自然体だけど、ここだと本音ばっかりだ。A組のやつらになんか隠すこと無いんだけど、見栄張ったりとかで隠すことはある。
そんなのが全然無かった。
(優しいね、お兄さんは)
(そりゃヒーローだしな)
こんな台詞も言わないしな。照れくさくて言うことなんか滅多にない。でも言わなきゃ後悔してた。
(実はね、こうやって電波繋ぐのもしんどくなってきてるんだ。ちょっと前は丸10日ぶっ続けでも平気だったのに……今は体調良くて半日)
今にも倒れておかしくない。そいつの声はそんなこと言ってた。
病気なのか、重傷なのか、理由は分からない。でも前は大丈夫だったって話だったし、話し始めた当初は元気いっぱい!って感じだった。
……病気、なんだろう。なら俺に言えるのはせいぜい心配くらいだ。
(……大丈夫なのか?)
(大丈夫なわけない。辛いし苦しいし……全部投げ出してしまいたい)
(なら)
(でもやらなきゃいけないことだから)
(皆が辛くて、苦しくて、悪夢に縋ったらおしまいだから。おかーさんも兄弟姉妹も生きてきた意味が無くなる。
私がやらなきゃいけないの)
悪夢。思い出すのはMs.ダークライ。あいつがやってることは知ってる。ヴィランになろうとしてる人をヴィランにする。ヒーローになろうとしてる人をヒーローにする。それ自体は悪いかと聞かれると何にも言えねぇ。だってヴィランもヒーローも背中を押されてんだ。ヴィラン増やすな!って怒りたいけどせいぜいそれくらいだ。
Ms.ダークライに縋ったら終わりだって言ってるんだ。ならヒーローになりたい側なんだろう。母や兄弟姉妹のためにって……病気か何かだとしても。
(ごめんなさい、辛いこと聞かせて。お兄さんには迷惑だったかな)
(んな訳ねぇだろ)
辛い環境に置かれてるのに救えない。ヒーローとして許せないことだけど……当人が望んでないなら俺だって手を伸ばせない。それでも手を伸ばすのは我儘でしかない。
緑谷とかなら手を伸ばすかもしれないが……あいつは底力がヤバいからな。今の自分じゃキツくても限界を超えて何とかする。俺もそう在りたいけど、緑谷と違って俺には限界を超えるとアホになるっていう行動そのものに限界がある。
アホになったら手を伸ばしても救えない。それじゃあ意味が無い。
だから……せめて先に出来ることは全部やりたい。
(俺はヒーロー……今はまだ卵破ってるとこかもしれねぇけど)
(ヒーローだから、泣いてる子に話聞くのは当たり前だし、泣いてる理由が悪いヴィランがいるとかならやっつけるのも当たり前だ)
例えば、手を伸ばしてほしいなら声を聞くとか……例えば──
(──頑張ろうとしてる子なら応援するのもだな)
十秒くらい間が空いて、クスクスって笑い声が聞こえてきた。子供らしい……いや、少女らしい声だ。
(カッコつけ?)
(ヒーローだからだよ!?)
(兄アピール)
(お前がお兄さん呼びしてるだけだろ!?)
(アホ面)
(ただの罵倒じゃんそれ!?)
なんか急にボケとか色々突っ込んできた。俺はただのヒーローの卵。アホにはなるけど、今はアホ面はしてねぇ。
子供だから純粋にそう言ってきただけだなって、分かってたけどな。だって続いた言葉がこんなだったし。
(でも、カッコよかったよ)
(ふふん、そうだろ)
ヒーローとして嬉しい言葉。聞いてるだけだったけど、何かいい方向に進んでくれたんなら十分だ。
あぁ、あと一つだけ忘れてた。
(そろそろ名前聞いてもいいか?)
(あれ?言ってなかったっけ?)
ずっと子供とかそいつとかこいつとか少女とか言ってたわ。最初に聞いとけばよかった。
(電花、だよ。上鳴おとーさん)
(お兄さんだろ馬鹿)
そんなに年いってねぇし老け顔でもねぇ。ただ揶揄われただけって分かりやすいのに……何でか少しだけしっくりしたような気もした。
(ふふ……そうだね……ごめんなさい。今日はここまで)
(そっか。それじゃお休み)
(ん……お休みなさい)
それから電花の声が届くペースは落ちていった。きっと体調が良くないんだろう……心配ではある。
でもそれで下向くと怒られそう、ってかまたアホ面見せて嫌だとか言われそうだから止めとく。
まぁなんだ。特別だと言ってたんだ。いつか会えると信じておこう。
という訳で電花回でした。かなーり前の話だったり。