普通少女のヴィランアカデミア   作:火ノ鷹

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これにて三章は終わりになります




堕とし子の長女の後が為 電花 ー仁と咎と残された堕とし子達ー

 超常解放戦線が結成されてから数日後、電花と連れられた三人はトガとトゥワイスの部屋を訪れていた。

 

「あ、いたいた」

「お?」「電花じゃねぇか!」

「電花ちゃん、家族引き連れてどうしたです?」

 

 幹部となったトガとトゥワイスの部屋。本来なら気軽に来れる場所ではなく、元解放軍やヴィラン連合でも幹部クラスでなければ訪れることも困難だ。

 もっとも、ナイトメアの面々は基本的に顔パスでここまで来れる。これは信頼関係もあるが、堕とし子を暴れさせたら一般兵レベルでは対処が不可能であるためという側面も持っている。

 

 四人もの堕とし子が同時にやってくれば、警護の面子は何も言わずに通すしかないのだった。当然杞憂でしかないのだが。

 

「仁さんとトガさんはおかーさんと仲良いから、皆紹介しときたいなぁって。奪姫と艶羽、大に崩華と灯火はともかく、他の皆には会ったこともないでしょ?」

「確かにそうです」

「言われてみれば!」「会ったことあるぜ!」

 

 元ヴィラン連合がちゃんと話したことのある堕とし子は電花、奪姫、艶羽、灯火、崩華、そして大であり、勇也、闇子、散月、消一、仁とは話した事も無かった。

 成生の親友であるトガでさえその事実は変わらない。徹底的に隠されていた面々がこの場に揃っていた……二人を除いて。

 

 連れてきた三人にはどこか面影があった。一人はステインに、一人はヒーローのイレイザーヘッドに、そしてもう一人は……目の前のトゥワイスに。

 

「まぁ皆個性がまだまだ制御甘いってことで表に出せない子達だからってのもあるんだけど、会いたいって子ばっかりだったから……仕方なく。来たの三人だけなんだけど」

「お姉ちゃんしてるですね」

「まぁ私が一番紹介したい一番上の勇也は来てないんだけど」

「こら」

「ぐえー」

 

 ほっぺをグイッと押される電花。トゥワイスや三人は笑いながらその様子を見ていた。

 

「そして上から順だとまず闇子(あんず)だけど……あの子夜以外はシャイだからちょっと今日は来てないんだよね」

「幸先悪いな!」「良いな!」

「私もまだ会った事ない子です」

 

 どんな子なのだろうと顎に手を当てて考え込む二人。電花は笑っていたが、連れて来ていた三人は苦笑していた。

 

 シャイと言えば聞こえはいいが、実際には中二病とい呼ばれるのが正しい。通訳するのも面倒だから放ってきたというのが真実であり、後日闇子は艶羽に慰められることになる。

 

 トゥワイスとトガが好き勝手に闇子がどんな子なのか想像している中、一歩前に出た一人の男の子が口を開く。

 

「初めまして。今回電花ねえさんが紹介するって話でしたが、実のところは紹介させてほしいって俺が言いだしてます」

「あ、ちょっと!?」

 

 電花が振り向き男の子の方へと向き直る。睨み付けるような視線を向けるも、男の子──仁は涼し気な顔をしていた。

 

「名前は仁です。電花姉と奪姫姉、あと艶羽がおかーさんを抑えた時に連携してくれてたとかって聞いてます」

「……お前、もしかして」

 

 トゥワイスが気づく。どこか自分自身の面影があること……正確には、かつての自分自身の面影がそこにあった。

 

 

「成生かあさんと……仁さん、あなたの遺伝子を使ったと聞いています」

 

 

 精悍な顔立ち、凛とした所作。トゥワイスのようにがっちりした身体と、成生譲りの碧色の瞳。何も隠すことは無いと示せる姿と立ち振る舞いにトゥワイスとトガの二人は、口を大きく開けて笑う。

 

「あはははは!!!全然似てねぇな!」

「ホントです!!!物凄く礼儀正しいです!」

 

 笑いが止まらない二人に仁もあははと笑う。「自分の血を継ぐ」というのはトラウマ持ちのトゥワイスやトガからすれば辱めにすら等しいもの。但しそれが……自分に似ていたらという条件が付く。

 

 逆に似ていなければ、自分とは関わりのないものという認識を強くする。それこそ、笑えるくらいには。

 

「そう言われると嬉しいです。どうにも奔放な姉や兄を持っているもので」

「一番下だもん。仕方ないよ」

「あなたも大概奔放側なの分かってます?」

 

 睨んでいた電花にギロリと睨みを返す仁。傍から見れば幼女にキツイ目を向ける男性の構図だが、電花からすれば優しい目線にすら思えるものだ。

 何せ姉弟仲が良い二人なのだ。じゃれ合いのそれでしかないものだった。

 

 ただ何も知らない人からすれば全く別の意味に捉えられる。振り回される弟と、振り回す姉という形だ。

 

「あー……一番下だから礼儀正しくないといけない感じですか」

「いやこれは素で」

「ははは面白いな!」「ホント似てねぇ!」

 

 トゥワイスの爆笑に、仁はニコリと笑う。トラウマが酷いトゥワイスにとって肉親が自分に似てないというのは救いの一つ足り得る。笑うのも救われるが故。

 

 仁はトゥワイスのことをよく知らない。ただ、何を思って行動しているかだけは電花から聞いていた。

 

 

 

 

「でも仲間の為に命賭けれるのは同じです」

「────!!!」

 

 

 

 

 トゥワイスにとっての信念にも等しい言葉。余りにも同じ言葉は、ヴィラン連合という居場所にいるトゥワイスには自らを肯定できるそれとなる。

 

「訂正するわ、お前俺の息子。もし違ってもそう言ってやる」

「奪姫姉以外皆言ってました。何だかんだ言っておかーさんもお父さんも会えたら嬉しいって。

 

 よく、分かりました」

 

 横にいられなくても、後ろに居なくとも、繋がりがあることが二人には分かる。名前が同じだからではない、信念が同じだからこその繋がり。

 下手しなくても親子の繋がりよりも硬く強いものだった。

 

「お前は息子かもしれねぇがそれよりも先に仲間だ。忘れんな」

「──分かった!」

 

 あっと口を抑える仁。思わず素が出た様子に、トガや電花は微笑ましいと笑い、トゥワイスは再び笑いが止まらなくなっていた。

 

「あはははは!!!」

「礼儀正しくてもまだまだ子供です」

「だって私達まだ生まれてそんなに経ってないんですよ?」

「電花ちゃんに言われるのはなんか違う気がします」

「あはは……まぁ下が多いと上は早熟にならないといけなくて……。」

 

 トガの横に並んで電花は話す。その様子に憤りを見せた二人が、後ろから口を挟む。

 

「はぁ……そんなこと言わせるのは辛い感すごいから嫌なんだけど」

「電花姉は皆に構おうとするから自然とそうなる感じです」

 

 溜息を吐きながら悪態をつく女子に、フォローするような形で口を出す男子。どちらも電花が自虐したから口を挟んだ形であり、姉妹弟仲がうかがえるものだった。

 

 スラッとした身体つきをした女子、散月。赤い髪のポニーテールがトレードマークであり、どこかきつい目つきをしている。トガよりも身長は高いが、少し猫背気味なのか同じくらいの目線だった。

 

 そして眠たげな目をしている男子──消一。少年といった風貌であり、気だるそうな雰囲気がそのまま気質にも出ている。やる気は無いと言いたげだが、電花の自虐に口を出すくらいにはやる気はあった。

 

 口を挟んだ消一の眼が、光る。

 

「んむ、ちょっと身体に違和感……男の子の方です?」 

 

 爆笑していたトゥワイスはトガの様子に気づき、笑いを止めてトガと電花達の話に入り込む。

 仲間であるため手を出すことは無いと分かっていても、不可思議な現象が起きるなら身体を張るのがトゥワイスだ。自然とそう動き……空回りさせられる。

 

「消一です。個性を一時的に停止させられる個性で……散月あとお願い」

「やる気!」「皆無か!」

 

 消一の目が閉じられる。眠ったのか眠って無いのかも分からない姿だが、散月はニタリと笑いながら消一のことを話し出す。

 

「はぁ……まぁこういう面倒くさがり屋です。『停止』の個性で、一点特化を磨くタイプなんで動き止めるの得意です。見ればOKというお手軽が長所。

 やるときはやるタイプなんで頼ると面白い反応しますよ」

「止めろ」

 

 パチリと目を開いて散月に睨み付ける消一。イジられることに対しての消一の反応に、トガやトゥワイス達も消一がどういう立ち位置なのかをすぐに理解できていた。

 

「助かるのです。それなら遠慮なく頼るのです」

「遠慮してください」

「頼りになるやつなんだな!」「頼らないぜ!」

「だから止めてくれ……!」

「はぁ……むーりだってば。いつも通り諦めたら?」

 

 散月の言葉に胸倉掴む……まではいかないが散月に近づいて顔を近づけ、ガンつけるという言葉が正しい程に睨み付ける消一。怒っている雰囲気そのものだが、散月と電花の表情は微笑んでいるものだった。

 

「散月がいつもそうしてんだろうが……!」

「二人は同じタイミングで生まれたから双子じゃないけど大の仲良しです」

「「誰が仲良しだ!」」

 

 綺麗にハモッて同じ言葉を返す二人。それだけで仲が良いのが分かりやすく示されていた。

 

「はぁ……次は私ね。名前は散月で、こいつと同じ生まれ時」

「勇也は今日いないから素が出てる」

「勇也の兄貴大好きだもんな」

「こら電花姉ぇ!消一ぃ!」

 

 電花のちょっかい出しに加え、消一がさっきまで揶揄われていた仕返しと言わんばかりに口出しする。やったらやり返す、但し程度は抑えた上でという、兄弟姉妹でよくあることだった。

 

 勇也という名前だけは知っているトガとトゥワイスには何を言っているか分からないところもある。しかし勇也がいるかいないかで見せる性格が変わることは理解できていた。

 

「こいつ勇也って兄貴が好きなもんで、お淑やかに見せるんですよ。バレバレなのに」

「可愛いところあるのです」

「こら!」

 

 コツンと怒るように電花とトガに拳を当て、当てた拳を舐める散月。それだけで二人……三人の動きが固まる。トガと電花、そして消一の三人だ。

 

「──!?」

「あ」

「トガちゃん!?」「あー……電花姉やり過ぎだって」

「はぁ……『凝固』。指紋レベルの遺伝子情報から舐めた相手を特定して動きを止める個性。遺伝子的に近い相手も止められる……なんならヒト科の設計図にアクセスして無理やり他人だって止められる」

「俺も止めるの止めてよ」

「誤差みたいなもんだから諦めて」

「扱い切れよ!」「扱えねぇな!」

 

 茶化すトゥワイスだが散月は知らんぷりという様子。というのも簡単なことだった。

 

 すぐに、解けるからだ。

 

「あ、動けるようになったのです」

「数秒程度がデフォであとは人を指定できる……時間で言うなら何度も舐めればいいだけだからそこまで不便でもないかな。すぐ解けるから知ってれば別に脅威でもないよ」

「いや怖ぇよ!」「怖くないな!」

 

 散月自身既に気づいているが、散月の個性は解ける時間を選択できる。まだ鍛え方が足りないから出来ないだけで、出来るようになる。ただ意識しなければ出来ないため、どうしてもデフォルトではすぐに解けるようになってしまうのだった。

 

「私、奪姫、艶羽、灯火、崩華、闇子、散月の7人姉妹と、勇也、大、消一、仁の4人兄弟の11人の兄弟姉妹。ゆっくり覚えていってほしいです」

「灯火ちゃんと崩華ちゃんはよく知ってるのです。他の皆もいい子ばっかりで安心です」

「ホントにな!」「嘘だろ!」

 

 わいわいと6人で雑談が続く。放っておけば一日中続くとすら思われたそれは、コンコンという音と「トゥワイスさんいるー?」という声で打ち切られることになった。

 

 声色と話し方から察せられる相手は艶羽。気づけば一時間以上は話していたのだった。

 

「じゃあトガちゃん俺呼ばれたから行ってくる!」

「あ、艶羽姉来たみたいだから私達もちょっと行くね。ちょっと呼ばれてるんだ」

 

 トゥワイスと散月が出ていき、散月に首根っこ掴まれていた消一も同時に連れられて行く。その様子はトガ、電花、仁は笑って手の平をひらひらと向けていた。

 

 パタンという音と共に扉が閉じる。残された三人の雰囲気はさっきまでとは明確に変わったものだった。

 

 

 

 

「それにしても何でこんなタイミングです?会わせたいっていうのは嘘じゃないけど……それだけじゃないですよね?」

「……ん、トガさんは流石に鋭い」

 

 

 

 

 トガが最初から疑問に思っていたことだった。紹介するのはいずれ必要になることではあった。トガ自身の個性の成長から広範囲攻撃を会得できるのは分かっているため、明確な味方の識別は必要なことだからだ。

 ただ今ではなくてもいい話だった。何よりトガから言い出そうと思っていたことですらあった。それを電花、ひいては仁すら言いだしたのは自分だと言うのだ。何かあると見るのは当然だった。

 

 電花はトガに向けていた視線を外す。話すべきではないことなのだと、身体で示していた。

 

「おかーさんが起きる前に会わせたかったっていうのと……あとは秘密です」

「むぅ」

「思考まで移して変身したって分かりませんよ?これは私の問題なので」

「じゃあ成生ちゃん起きたら聞いていいです?」

「それなら」

 

 頷く電花を見てふふんと機嫌がよくなるトガ。親友の成生ならまず間違いなく教えてくれるのは分かっている。時間が過ぎれば勝手にやってくることとトガは考えており、問題にすらならない結論だった。

 

「横の部屋で眠ります。また何か話したくなったら起こすです」

「いや、今日はこれで大丈夫です」

「そうです?ではおやすみなさいです」

 

 トガが別の部屋に移動し、残ったのは電花と仁の二人だけ。その二人の表情は、さっきまでとは全くの別物。

 

 

 非常に、険しいものだった。

 

 

「電花ねえさん。何を隠してるのか知らないけど……それは電花ねえさんにとってやらなきゃいけないことなの?」

「当然。私にとっては生まれた意味ですらある」

 

 幼女にも近い身長や顔立ちの電花が見せるのは周りに恐怖をまき散らしかねない程の本気の顔。誰よりも真剣なものであり、息苦しさすら強要させかねない程だ。

 

 見せる相手は当然選ぶ。仁は、見せられる相手だった。

 

「たまに出る電花ねえさんの本気顔。嫌いじゃないけど、あんまり見たくないな。きっと笑えないことだから」

「ごめんね、仁」

「いいんだよ。電花ねえさんが一番俺達兄弟姉妹のことを想ってくれてることくらい皆知ってる。おかーさんに好きに生きろって言われたことを一番体現してることも」

 

 仁は生まれたのは一番下だ。だからか、誰が一番兄弟姉妹想いかなんかもなんとなく分かっており、その重さも肌では分かっていた。

 

 同時に、その重さが電花を縛っていることも。

 

「ただ、一人は寂しいよ」

「『増殖』……分かってる」

 

 数人に『増殖』した仁が電花を抱きしめる。余りにも軽い姉が持つ重さ。それをせめて軽くしたいと願う弟の姿がそこにあった。

 

「あったかいね、仁は」

 

『増殖』を解除し、増えていた仁が消えていく。『増殖』は増えるも消えるも自由自在、『二倍』のように人格さえ搭載させて増やすことも可能な個性であり、しっかり者の仁が使えばどれだけ強大な個性になるのか等検討すらつかない。

 

 しかし仁は無暗に力は使わない。電花という姉が力を持っているのに使い方を選んでいるのだ、習うのも当たり前のことだった。

 

「じゃあ俺も行くよ」

「うん、ありがとう」

 

 艶羽に連れられた二人がどうせ艶羽に振り回されているだろうと仁はフォローしに部屋を出る。その表情には悲しいものが宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人残された部屋の中……電花の瞳からは一筋の涙が流れる。

 

 

 仁の暖かさ、託せるものを託せたこと、どれもが電花には耐え切れないことだった。

 

 

 

 泣き出してしまいたかった。こんなにも自慢の弟妹なのだと叫びたかった。そして……謝りたかった。

 

 

 

 

「私には時間が無いから……トガさん、ごめんなさい。奪姫、勇也、艶羽、灯火……仁に皆。伝えられなくてごめん。

 

 

 

 これは、おかーさんのためにやらないといけないことだから。

 

 

 

 おかーさんにはどうやっても覚られてしまうから…………一人で、やらないとダメなことだから」

 

 

 

 

 電花の覚悟は重く、辛いもの。それは絶望の悪夢に光明を示すためのもの。

 

 

 だからこそそれは、これまでの繋がりを裏切りかねないもの。捨てかねないもの。

 

 

 

 

 

 

「ごめんね」

 

 

 

 

 

 

 

 誰に言っているのかも分からない。けれど言葉が溢れて止まらなかった。

 

 

 

 

 母親を救うため、兄妹姉妹を救うため、長女である電花は個性(自ら)を弟妹に託す。自らの出来得る限りの繋がりも全てを渡していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自らは未来に進めないと分かっているから……残りの命の使い方を既に決めていた。

 

 

 

 

 例えそれが、今の母親は望まない未来へ続く道だと分かっていても。

 

 

 

 




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