普通少女のヴィランアカデミア   作:火ノ鷹

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四章に入ります

四章は全面戦争編です。被害レベルはまだ決めてなかったり


四章
眠れる世界の戦い


 普通の日常、普通の光景、普通の場所。

 

 よくある住宅街を一人の少女が歩いていく。すれ違う人達は歯が血を吸うような形をしている少女だったり、アホ面に近い笑顔をした幼女だったり、ガッチリしたアメコミ風の書き込みでもされてそうな男子だったり、天使のような羽を生やした少女だったりと個性豊かな人達ばかりだ。

 

 私服、いつだったか忘れたけれど切島くんと会って膝枕した時のもの。何でこの服を着ているかなんて分かりはしない。

 

 私にとっての日常は、きっとこんなものが良かったという願望。この光景はきっとそれなのだろう。

 

「夢もいいところね」

「悪夢ではないでしょう?」

 

 文字通り空からかけられた声。同じ姿で同じトーンで話しているのに別人であると言い切れる存在がそこにいる。

 

「あなたが悪夢だものね」

「あなたが作ったのよ?」

 

 ここが私の精神世界であると言いたいことは分かる。第一目の前にいるのも(Ms.ダークライ)なのだ。言葉の意図が伝わらない訳が無い……どこかニヤケ顔なのは苛つくけれど。

 

「なりたい自分を『ヴィラン』に置いた。なら日常を壊すのは私のやるべきこと」

「そんなこと思ったことは無いけど?」

 

 (依光成生)の望みに日常を壊すことは入っていない。『なりたい自分』にも入っていない。だから誰かの日常を好き勝手に壊すことを望んではいない。

 

 日常を壊すことは『なりたい自分』の行動の結果として起こるだけなのだ。私自身の目的のための犠牲という考えの方が近い。

 

 だから……分からない面もある。どうして目の前の私が……

 

「ええ知ってるわ。だってあなたがやりたいことは『目立つこと』。『なりたい自分』の要素には『周囲の目線』という概念が挟まる以上、『目立つ』のは個性を加速させる。

 ……私からしたら途轍もなく厄介な目的を準備された。私と言う存在に到達する可能性は無くなったとすら言えた」

「でもあなたはここにいる」

 

 どうして目の前の私が存在しているのか。『なりたい自分』の副次的結果の存在とも呼ぶべきもの。

 確かにヴィランには成る、それが『なりたい自分』だから。けれど目の前の存在ではないはずだ。

 

 答えは、胸を突き刺すような指摘だった。

 

「ええ、ええ……!感謝しているわ。だってあなたが持った目的は『ヴィランと成って目立つこと』で、私は『なりたい自分』である『ヴィラン』の1要素でしかない。

 だから本来であれば『なりたい自分』という縛りがかかる。

 

 ただ……。……ねぇ……今のあなた、何になりたいか覚えてる?」

「────」

 

 

 ()()()()()()。それが全てだった。

 

 

「言葉にもできないかしら?それはそうよねぇ……だって、ずっとごく自然とパッシブ的に使ってきた個性が、突然アクティブに使えるようになった。

 

 いきなり新しい個性が生えたようなもの。すぐには扱えないことはよく知っているでしょう」

 

 Ms.ダークライが手を伸ばしてくる。物理的に伸びた腕は数mは伸びてくる。

 

 分かる。これは私がレーザーを使う時と同じ、髪が伸びたようなものだ。成長であり個性ですらない。

 

 

 

「それでも、出来る事はある」

 

 

 

 五指が光り、距離すら縮めて収束する。刃と化した光を一線し、伸びてきた腕を肘から二つに裂く。

 レーザーソードの最も威力が高い状態。ただの成長した腕程度なら問題になどならない。

 

 これは私が最も頼っている『普通』の延長足る個性。最も時間をかけて成長させた象徴。

 

 通用しない時は私にはどうしようもない時とすら言えるものだ。

 

「私を斬る?出来ると思ってる?

 なりたい自分は、『私が斬れる自分』になれてる?」

「煽るのが随分得意になったみたい────ねっ!」

 

 瞬間、跳び──光の刃を更に収束させて振り下ろす。エネルギー総量で言えば原子すら消滅させる刃がMs.ダークライへぶつかり──

 

 

 

 

 

「やっぱり出来てないじゃない」

 

 

 

 

 

 ──右手で掴まれる。

 

「掴んだ!?」

「当たり前でしょ?私はあなたが『なりたい自分』すなわち────あなたの将来の姿。

 

 子供の筋力が大人の筋力に勝てると?瞬発力……身体機能、それに五感機能が人生の全盛期に勝てると思うの?」

 

 未来の全盛期に成長期は勝てない。『なりたい自分』の到達点であれば確かにその通りだろう。

 

 分かってた。通じないって。誰よりも個性が伸びていく私にとって時間は最大の味方。なら時間が最大化された私が最も強く……今の私には太刀打ちできない。

 

 だから、切り札は私じゃない。私の最大の切り札は、拙いながらも頼ろうとした人達。

 

「ましてやここは精神世界。未熟な精神が勝てる訳が無いでしょう」

「────なら!」

 

 ここは私の精神世界。なら出来る。私の頼れる人達を呼ぶことだって。

 

 転移してきたかのように瞬間的に現れる私のヒーロー。最初からそこにいた、精神世界ならそれができる。

 

「烈怒頼雄斗。なるほど、マイヒーローにお願いってこと。随分と他人に頼るのね」

「あなただって知ってるはず。

 

 

 私は………………一人じゃない!

 

 トガちゃん、電花、奪姫、艶羽、勇也と親友や子供たちも次々と現れる。その背中にあるのは私だけじゃない。彼ら自身の意志もきちんと乗っている。だからこそ頼れる。

 

 私は一人じゃない。同じ歩み方が出来なくても、頼っていい人たちがいるんだから。

 

 

 

 

 

 

 なのにどうして、(あなた)の顔は悲しいものなの?

 

 

 

 

 

 

「──それが本当にそうなら、良かったのにね」

「えっ……」

 

 現れていた友や子供たち、ヒーローまでもが姿を消していく。最初からそこにいなかったのように。

 

 

 数瞬後には誰も居なくなっていた。

 

 

「な、なんで……!?」

「今のあなた自身は誰も信頼出来てないからよ」

 

 (Ms.ダークライ)の言葉が理解できない。違う、理解したくない。

 

 言葉の意図が理解できてしまうから、理解したくない。

 

 

 

 

 

 

 それは、それだけは、私がずっと、ずっとずっとずっとずっと────目を背けてきたきたことだから。

 

 

 

 

 

 

「あなたが信頼できるのは自分の全てをさらけ出してなお信頼してくれる人。……全部よ?

 

 普通の少女。

 最強のヴィラン、大量殺戮者、ヴィランの軍を作ろうとした女。

 自分を救うためにヴィランとなり、デビューで人・親を殺し、自らの肉体を弄ってでも味方を作る女。

 肉親すら自らの為に殺し、母親となって自らの子供を作りながらもそれですら自らの為に使う悪女。

 

 そして────それら全てをさらけ出すこともできない臆病者の寂しがりや

「────!」

 

 声にならない叫び。精神世界だというのに慟哭の声が届かない。

 

 何故、違う、合っている、否定しないと、そんなんじゃない、間違ってる、図星を指された、違う違う絶対に違う!

 

 感情が混ざり狂う。全部全部否定してしまいたくなる。

 

 もはや依光成生(わたし)(Ms.ダークライ)の掌の上。微笑みかける声がそれらの感情に意味を与える。

 

 

「いいえ、いいえ。分かるわ、無理よ。さらけ出すことなんて出来はしない。

 したところで理解されない、されても意味が無い。

 

 

 

 ────だってあなたは、ヴィランだもの」

 

 ヴィランだから、理解されない。ヴィランだから、理解されても意味が無い。

 理解されなくていい、されなくても(Ms.ダークライ)は行動する。

 理解されてもいい、されても(Ms.ダークライ)は行動する。

 

 であればそこに至るまでに意味はあっても無くなって……、そこまで考えた時点で依光成生(わたし)の思考は停止する。

 

「あ」

 

 何故なら理解(わか)ってしまったから。たった一つの目的と信じていたものが、一つではないものになっていることを。

 

 目立ちたい、ヴィランにならなければならない。どちらも希望でしかなかったはずなのに、いつしか変わっていた。

 

 個性をちゃんと使えないからヴィランにならないといけないなら……もし使えるようになったら?

 好き勝手に使えるなら、既にその立ち位置にいてしまう(ヴィランである)なら……?

 

 普通の少女(依光成生)が抱いた希望と、いつの間にか変わっていた絶望は、意味をもたせるものと無くすものだった。合わさったなら、その意味そのものを消してしまう。

 

 

 

「理解出来てしまったようね。ならもう分かるでしょう。

 

 あなたは救われない、救われても意味が無い。

 

 あなたの頑張りも、意志も、伝わらなくて大丈夫なの。

 

 だって私はもう、ヴィランなのだから」

 

 

 

 しかして希望だけを抱いている依光成生(わたし)は信じたくない。分かるけれど信じたくない。

 

 血塗られた道だ、その道だと知っていた。その先に光があると信じていた、いや実質的に今掴んでいる。

 

 掴んだものは確かに光だった。ただ……Ms.ダークライがデビューした時の逆のように、白から黒に変わるものがあった。全部が白と信じて掴んでいただけだ。

 

 騙された訳ではない。かつての感覚で言えば間違いではない。混沌に変わっていた瞳は間違いではないと告げる。碧色の瞳も間違いではないと告げる。

 ヒーローを応援するような普通の少女(依光成生)だけが、間違っていただけなのだ。

 

 ヴィランになれば、光を掴む(個性を抑えて目立つ)必要なんてそもそもないのだ。好き勝手に使っていいのだから。

 

 だから『なりたい自分』は何も間違えていない。

 

 

 そして今の私は、ヴィラン(なりたい自分)だ。

 

 

「い、いや、違」

 

 間違っていないのに間違っている。矛盾そのものでありどうすればいいのかすら分からなくなってくる。

 

 明らかな弱み。目の前に見せてはいけない者がいたのに見せてしまった動揺。

 

 Ms.ダークライは手を私に向けてグッと掴む。それだけで『なりたい自分』が望んだ個性が発動する。

 

「もういいのよ。あなたは私と違って藻掻いた。それだけで勲章にも値しましょう。

 

 だから後は任せて────私に喰われなさい」

「────」

 

 言葉を終わらせた瞬間、足元に口が開く。生物的な口がガパッと開き、数秒にも満たない時間だけ宙に浮く。

 

 

「い、や」

 

 

 落ちていく、呑まれていく、私が私で無くなっていく。『なりたい自分』に上書きされて、消されていく。

 

 

『なりたい自分になる』。《不可逆変化》の異形個性。

 望めば望めるだけ力を得られる個性であり……デメリットは、《確実に》発生する自分自身の変貌。

 ほんの少しだけ変わるなら元々と変わらないが力を増せば増すほど別の存在へ変わる。

 

 だから、普通の少女はもう要らない。

 

 

 

「きり…………し……m……………………」

 

 

 

 

 返事はない。普通の少女(依光成生)はヴィランに呑まれて消えていく。

 

 不安はある。恐怖はある。ヴィランに襲われて殺されていく市民はこんなものだと分かっている。

 

 

 

 

 けれど、依光成生はクスリと笑った。(Ms.ダークライ)が気づけもしない短い間だけ。

 

 

 

「随分と呆気なかったわね……。……?」

 

 

 グッパッと手を握ったり開いたりを繰り返す私。

 

 違和感。何か足りない感覚と……さらに五感にも違和感が生じる。

 

 すぐに、気づけた。だって私の世界なのだから。

 

「ああなるほど。そういうこと。これはやられたわね」

 

 喰った。けれど喰いきれていないのだ。

 

 メインを食べたのにドリンクが無い感じ。つまりは依光成生が残っているということだ。

 

 

「敢えて大半の力を奪われて、核の欠片だけ逃がしてかくれんぼに切り替えるとは中々やるじゃない……!」

 

 

 逃げて隠れた。それ以外に選択肢はない。

 

 自身の全てを喰われる寸前に分けて逃がした。私に気づかずやり切るとは中々恐れ入る。

 

 そして、問題はこっち。

 

「それだけじゃないわね、体感時間が弄られてた。

 

 同じ私だからどう足掻こうと喰らってしまうわね。道連れにも等しいでしょうに、よくもまぁ躊躇なく選べること」

 

 

 

 外の時間と大きく異なっているだろう、自分自身にも突き刺さる選択肢をいつの間にか選ばされていた。

 

 一年は無いはずだが一月は経過しててもおかしくない。それは外に目を向けなければ分からない。

 

 

 

「ただ……今持っている私だけでも全盛期のオールマイト以上は優にある。十分過ぎる力なのは分かっているでしょうに。

 

 何を待っているのやら」

 

 

 

 

 欠片を持っている。たったそれだけだが、その事実は悪夢が成生の力を限界を超えて使うことを拒否する。

 

 完成しきっていない形なら一か所の歪みが亀裂を走らせる。限界を超えれば待っているのは自滅だけだ。

 

 

 

 世界さえ認識できない程に薄くなって隠れた成生はただ待つ。必ずやってくれるはずだと信じている。

 

 

 仁、仲間を想う強い人の想いを受け継いだ優しさ。

 消一、個性だけを視ずにその人を視られる純粋さ。

 散月、歩みを止めるために誰だって止められる勇気。

 闇子、暗い場所を歩く時に横を歩いてくれる暗闇。

 崩華、崩れそうな道を先に歩んでくれる華。

 大、その身体で誰だって助けてくれる大きさ。

 灯火、なりたい自身にな()る儚い炎。

 勇也、正義感が強い誰でも助けるヒーロー。

 艶羽、禁忌を持ちながら飛び立った強い天使。

 奪姫、人の痛みを奪おうとしてしまう優しいお姫様。

 

 そして……電花。限られた未来しか生きられないからこそ『なりたい自分(Ms.ダークライ)』に振り回されるけれど、自分を貫ける花。

 散ってしまうのが分かっている、だからこそその先を考えられる。Ms.ダークライ(わたし)には出来ないことだった。

 

 何故なら望まない結末を迎えることに等しい。それは個性が許さない。

 

 ただ今の依光成生(わたし)なら……受け入れられるものだった。電花(あの子)の、子供たちの、選択なら。

 

 そして────成生自身(私の全て)が心から求めたヒーローの、選択なら。

 

 

 

 

 

 

 「さぁ始めましょう。(Ms.ダークライ)の時間よ」

 

 

 

 

 

 

 

 




成生が自分の個性を初めて理解したのはここだったりする

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