普通少女のヴィランアカデミア   作:火ノ鷹

80 / 90
書きたいところ全部書いてたらちょっと長くなった

時間と余裕とモチベさえあればこれが一日で書けるってんだから自分でもびっくりだ


禁忌の奥から伝える者

 

「プレゼントマイク!話せるか!?」

「かはっ……あれは……こいつが、起こしたやつだ」

 

 エンデヴァーに捕まれた殻木を指差しプレゼントマイクが答える。殻木は隠すことなど最早ないと、エンデヴァーから言われるまでも無く話し出す。

 

「依光成生の、クローン。予期はしておったが、こうなった、か」

()()依光成生のクローンだと!?馬鹿な真似を、制御できるはずが無いだろう!

 

 やつの狙いは『目立つこと』。競争対象なぞ排除する以外選択肢は無い!」

「じゃろう、な……じゃが、それでも、よかった……あの、依光成生を、手に入れ、られる、なら」

 

 依光成生は最高の研究材料だ。手に入れられれば個性の研究は何倍にも早められる。

 会って数年でクローンが作れてしまうほどなのだ。できるはずも無いと殻木自身諦めていた産物であり、叶った程なのだから熱情だけで言えばAFO並のものを向けていた。

 

 もっとも、それはモルモットに対して向けている愛情のようなものなのだが。

 

「マイク!動けるか!?連れていけ!」

「ぐ……分かった」

 

 軽度の全身打撲程度でプロヒーローは動けなくなることはない。ましてプレゼントマイクは雄英高校の教師なのだ、その程度で動けなくなるような教育を受けさせていない。

 

 エンデヴァーから殻木を受け取り、プレゼントマイクが動こうとした時だった。

 

  依光成生(クローン)の口が、開いた。さっきまでのケダモノのような声ではない、理性的な声で。

 

「……これは?」

「さっきまでとは違う……?」

 

 エンデヴァーは拳を構えプレゼントマイク達の前に立つ。二人を逃げさせるためだけではない、目の前は依光成生ではなく怪物。であれば勝てるために塞がったのだ。

 

「ああ、なるほど。ドクターめ、やってくれたわね」

「……貴様は、誰だ?」

 

 フフフという笑み。余裕がある笑みではなく邪悪な笑み。普通の少女に近いものであれば絶対にしない笑い方だった。

 

 邪悪気味にニヤケた顔をした 依光成生(クローン)はエンデヴァーへと身体を向ける。

 

「知っているのでしょう?私は依光成生と呼ばれた少女なのでしょう?」

「俺が知っている依光成生(やつ)は、そんな表情はせん」

 

 エンデヴァーは神野で戦った経験がある。最初は見逃されたということも未だ記憶に新しい。

 

 あの時の底知れない力そのものと、そこからあふれ出る余裕は目の前の存在には無く……かつての姿なら今のようにヴィラン染みた笑い方もしていないはず。ゆえに別人と判断していた。

 

「そういえばあなたとは神野で会っていたわね」

「……クローンではない、のか?」

 

 記憶がある。クローンであるかどうかを判別する時の常套句だがそれがある。目の前の人物は別人ではあるが、本人でもない存在だと言っていた。

 

「いいえ、いいえ、合っているわ。私はMs.ダークライ(依光成生)のクローン。随分とまぁふざけた真似をしてくれてるからこんなところにも影響が出たようね」

「言ってる意味が分からんな、お前は見かけたら撤退しろという手筈だったが……そうだな、一度この質問をぶつけておこうか」

「何かしら?」

 

 話好きである。ヒーローは皆この情報は知っており理解できている。しかしヒーローに周知されているものはもう一つあった。

 

 

 

「お前にとって『普通』とは何だ?」

 

 

 

 この質問はエンデヴァーが聞きたかったものではない。オールマイトがグラントリノを通じ、全ヒーローに聞ける機会があれば聞けといった形で通達されたものだ。

 

 大半のヒーローは理解できなかったが、一部のヒーローは理解できていた。エンデヴァーもその一人だ。

 

 しかしMs.ダークライは何のことやらと手をひらひらと、あっちいけとジェスチャーしながら言葉を返し──

 

 

 

「言っている意味が分からないわね。『普通』だなっ……!?んて……!?」

 

 

 ──血反吐を吐いた。

 

 

「ごぶっ!?」

 

 目、鼻、口から血を流し両手は腹を抑える。身体のあらゆる場所からダメージを受け、よろよろとよろめき膝をつくMs.ダークライ。

 最強のヴィランにあるまじき醜態がそこにはあった。

 

「……なるほど。もう違う、ということか」

 

 思考を加速させてもMs.ダークライ本人には心当たりなど無い。クローンだからといっても先程まで無事だったことを考えるとあり得ない。

 

 であれば、可能性は先ほどのエンデヴァーからの疑問だけだ。

 

『普通』とは何か?その質問はMs.ダークライの中にある物を起こすものだった。

 

 

 

「あんの……!『普通の少女』風情が……!」

 

 

 

『普通の少女』、それは今でもMs.ダークライの中でもくすぶっている。今の依光成生ではない、かつて依光成生(普通の少女)と呼ばれた者が縛っていた鎖であり、壊れても無くなった訳ではない。

 むしろ不純物として体内に残り続けている物。Ms.ダークライを構成するからこそ手放せない代物であり、故に突き刺さる。

 

「今の物言い、お前は依光成生ではないな。安心したぞ、やつなら勝ち目は0だが、今のお前なら可能性は十分にある」

「ヒーロー風情がぁ!たかがクローンの身体でも私は十分に────えっ?」

 

 Ms.ダークライが自らの力を発揮しようとスッと立ち上がり五感を張り巡らせ、気づき、真後ろへ振り向く。

 

 

 あってはならない自分自身が、あってはならない場所にあることに。

 

 

 

 

 

 

 

「何でそこにある?」

 

 

 

 

 

 

 

 バッとドクターの方へ視線を向けるMs.ダークライ。こんな馬鹿な真似をしでかす存在などMs.ダークライには二人しか心当たりが無い。

 

 ドクターと、そしてもう一人。

 

「ドクター!お前まさか……いやこれはまさかあの依光成生(普通の少女)の仕業……!?」

「……気づかれた、か。やはり、お前は、彼女とは、別物じゃな」

 

 予想は外れ。二人が行っていた共謀だった。狂信者(殻木)狂人(普通の少女)の選択が普通のヴィランに分かるはずもない。特に狂人(普通の少女)のことなど分かる訳がない。

 何せ狂人(普通の少女)は『可能であり選択肢にはあるけど使いたくない最悪の選択肢』を『なりたい自分ならやる』という理由で実行する。ヴィランなら実行しない選択肢すら実行する。

 

 だから理解できない、予想できない。ヴィランの一部分でしかないMs.ダークライが分からないのも当然だった。

 

 ただ、納得できない話でもあった。

 

 

「やつの記憶は全て私が持っている!これは記憶にない話よ!?」

 

 

 依光成生を99.9%以上喰い切ったMs.ダークライには依光成生の全ての記憶があると言っても過言では無い。無いのは烈怒頼雄斗との記憶のワンシーン程度。それも予想がつくため完全な記憶があるといっていい。

 

 

 そして今回の情報は、記憶の一切に存在しないもの。あり得るはずが無いものだった。

 

 

 

 答えは、殻木の口から告げられた。

 

 

 

「それは、そうじゃ。これは、お主の、中にいた、オールフォー、ワンとの、話、なのじゃから」

 

 

 

 

 それは、依光成生(普通の少女)の最期の抵抗にして最悪の選択だった。

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 時は依光成生(普通の少女)の最期。個性破壊弾の直撃を受けた時まで遡る。

 

 彼女は個性を少しずつ失い……正しくは『巻き戻り』の影響により、個性を生前まで少しずつ戻らせられていた。

 

 しかし彼女が持っていた個性は一つだが、正しくは一つではない。大元は一つだが、個性因子は複数持てるし作れる個性だ。大元は本人そのものであり絶対に消されないが、複数持っていた個性因子は『巻き戻される』。

 

 そして複数持っていた個性因子の中には、AFOから貰った個性があった。さらに言えば、『AFOの意思』が乗せられた個性も。

 

 かつて個性を渡した時、ついでと『個性を奪う個性』の複製版を渡していたのだ。それが成生の個性の劣化でしかなかったために、目に見えることは無かった。むしろカスタマイズされ、『女性の遺伝子から個性因子を自らが取得する特性』から『誰からでも個性因子をコピーしカスタマイズできる特性』に扱われていた。

 

 それが巻き戻された。ならば本人に喰われて(カスタマイズされて)いた個性も巻き戻り……『AFOの意思』と対峙する時が来る。

 

 個性因子のやり取りである以上精神世界であり、個性も巻き戻っている最中であるが故にまだ『思考加速』により話す時間が出来ていた。

 

「久しぶりだね」

「随分と」

 

 『AFOの意思』と対峙する依光成生(普通の少女)。かつて出会った時のようでありながらも、依光成生は対等以上である話し方になっていた。

 

「このまま僕は『僕』の元か、ドクターのところへ行く。多分ドクターの方だろう、抵抗なんて出来もしない、これは『摂理』に等しい。君自身の個性ならともかくね」

「まぁ私は消えないでしょう。だから個性破壊弾を受けたのですから」

 

 受けても受けなくてもどちらでもいい。それはこの確信からだった。自分自身(個性)が消えないのだからどちらに転んでも結末は変わらない。

 

 今回の結末が変わらない。だがこの先の未来も変わらないのは困ることは直感で察していた。だからこその選択だった。

 

「しかしどうしてだい?受けるなんて君らしくもない」

「これはきっと抵抗なんです」

「抵抗?」

 

 何に抵抗しているのかはAFOにも依光成生(普通の少女)にも分からない。だが依光成生(普通の少女)はこれを抵抗と称するしかなかった。

 

 ただ何となくは分かっていた。きっと自分自身(個性)への抵抗なのだと。自分は自分なのだというアイデンティティのための抵抗。きっとそれなのだと。

 

「私は私の個性を知らない。けれど分かる、危険過ぎる個性だ、世の中を考えれば死んだ方がいい個性だ」

「そんなこと僕が許すと思うかい?」

「もちろん私も許しませんよ。でも私の中の『普通』が叫ぶんです、このままじゃダメだって。きっと私は袋小路に走っているんだって」

 

 このままだと自分自身(個性)のあるがままに進む。それは個性を身体能力と同じ扱いに見れることを考えれば悪くはない。

 

 しかしだ、腕や足に縛られる頭があっていいのか?将来的に全世界で全てのスポーツで一位になれる身体になれるなら必ず幼少期からスポーツをしなければならないのか?

 

 それはただの呪いだ。強制的に縛られる選択肢。普通の少女には望まれない力。捨てられないともなれば、呪詛と言っても間違いでも何でもない。

 

 けれどこれは個性だ。個性であるならば、やりようはある。

 

 

 

「だから、誰かに託さなきゃって」

 

 

「託す……嫌な響きだね」

 

 

 

 託す。かつてオールマイトがワンフォーオールを受け取った時のように、誰かに個性を渡す……訳ではない。

 

 自らの未来を他人に託すのだ。ある意味で言えばワンフォーオールよりも重い。ワンフォーオールは『AFOを討伐する』願いの結晶。未来を託すのではなく目的のために託すものだ。

 

 成生がやろうとしているのは自らの未来そのものを託す行為。しかも目的は本人にすら正確には不明瞭ときた。

 

 けれど託された者には分かるという確信が成生にはあった。だからこそできる選択肢だった。そしてできる選択肢ならば、実行できるのも成生だ。

 

「君のヒーロー、君の子供たち。十分過ぎる戦力だろう。国をいくつ潰す気だい?」

「足りないんですよ。だって下手すれば敵対するのは私ですよ?」

「ふむ、確かにね。それじゃあ可能性があるとかそんなレベルだ。君が潰す可能性の方が遥かに高い」

 

 成生は個性を全開にすれば全ヒーローと敵対しても戦える。そしてこの時間が終わればそうなる未来が現実になる。まさしく悪夢、誰も幸せになれない未来だ。

 

 だからこそ、ジョーカーを仕込むことにしたのだ。

 

 

 

 

 

「世界全てを敵に回す程の力。私と同等にある程のものがあれば安心できる……だからこれは、ただの保険なんです」

 

 

 

 

 

 世界全てを敵に回せる。その言葉から連想するのはかつてのオールフォーワン全盛期を覆したオールマイトの存在。そして今目の前にいるのは、同等の力を持ったヴィランだ。

 

 

 

「つまり、()か」

 

 

 

 クスリと笑う依光成生(普通の少女)。それは失われる前の笑みであり、誰隔てなく向けられる痛々しい笑みだ。

 

 

 AFOでさえ、魅了された笑みだ。

 

 

「どうせ私の個性も欠片程度に使う予定でしょうから、そうしてくれと伝えてください。やり方は、どうとでも」

「面白いね」

 

 AFOの意思が笑う。託された側が拒否できるのはワンフォーオールでも同じだが、それ以前の話がオールフォーワンにはあった。

 

 

「僕がオールマイトみたいな真似を受けることになるとはね。いやだが……悪く無い気分だ」

 

 

 オールフォーワンは託すなんて感情も無ければ託されるなんてことも無かった。あっても不便な個性だから誰かにあげてくれだとかそういった類のもの。今回のように重さが桁外れのものは初めてだ。

 

 初めて託された今回……()()()()()()()ことが嬉しくて仕方なかった。

 

 

「他に伝えることはあるかい?」

「ここから先の私はきっと私じゃない、とだけ」

 

 オールフォーワンからすれば最も大事な情報をサラッと言われ、珍しくオールフォーワンは焦る。

 

「おいおい待ってくれ、僕は君が欲しかったんだ」

「私は誰のモノにもなりませんよ」

 

 クスクスとおちょくるような笑い声。ヴィランとして全てを手にし、オールマイトに奪われたオールフォーワン。

 

 そんな彼が新しく手に入れるはずの宝石であり栄光は手に入らないと告げられ、クるものが無い訳が無かった。

 

 

「私の全部をちゃんと見てくれるなら別だけどね」

「絶対に奪う。必ず」

 

 託されるなぞ要らない。その前に手に入れる。オールフォーワンはそう告げて消えていく。

 ドクターの元にある脳無にでも送られたのだろう、残された依光成生(普通の少女)は予測だけして少しずつ消えていく。

 

 

 

 

「ごめんね、弔。私は先に逝くよ」

 

 

 

 

 巻き戻され、AFOの意思が入っていた個性因子が消えていくと同時に、この記憶も巻き戻され消えていく。これは個性因子に残った記憶であり依光成生(普通の少女)本人の記憶ではないから。

 

 

 依光成生(普通の少女)は残らない。だからMs.ダークライが気づくことも無い。

 

 

 Ms.ダークライ(依光成生)に突き刺さることを期待して、普通の少女はクスリと笑って逝った。

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 ものの見事に普通の少女による攻撃が刺さったMs.ダークライ(依光成生)は怒りに叫ぶ。

 

 

 

「どうして死柄木に私の個性が混じってるの!?」

 

 

 

 個性とは自分自身。そして独善的なMs.ダークライの個性は他人を許容しない。それは当然の帰結であり彼女にとって当たり前の事象。

 にもかかわらず死柄木が手にしている。憤慨しない訳が無かった。

 

「欠片も、欠片。そのまま、など、使えん。独善、だからの。

 

 じゃが、十分」

 

 殻木が答えを告げるが、Ms.ダークライには納得が出来ない。いくら欠片と言えど『なりたい自分になる』個性は途轍もなく強力だ。一般人をNo.1ヒーローまで押し上げられる程の強化を齎す。

 

 その代償が今の彼女なのだ。デメリットを支払わずにメリットだけ受け取るなど腑に落ちる訳も無かった。

 

 怒りに燃えるMs.ダークライに、エンデヴァーからふふふと余裕のある笑みが零れる。

 

 

「どうやら予定外のことが乱立しているようだな。こちらとしては好都合だ」

 

 

 今得られた情報だけでも確定で目の前の存在は依光成生ではない。ならば一度依光成生である云々を考えるのをやめ、擬態しているような姿をしたヴィランだと考えれば判断は容易い。

 

 エンデヴァーの判断は間違いではない。だが『怒り』とは一時的に感情を増幅させるものだ。

 

 

「舐めないでくれるかしら?」

 

 

 一瞬で距離を詰めて跳び蹴りを腹に直撃……することは無かった。エンデヴァーが両手で腹を守っていたのだ、衝撃に後ろへ飛びダメージも軽減していた。

 

「ぐぅっ!」

「これは無理、なら次」

 

 エンデヴァーの反応を見るよりも早く二歩で背後に回って首を手刀で切り落とす……ことは出来ず、一歩目で突如現れた盾にぶつかる。

 

 

「ぬっ!?待たせた!」

 

 

 個性『盾』。No.6ヒーロークラストの姿がそこにあった。Ms.ダークライのクローン体は圧倒的なまでの身体能力ではあるが、気配を殺したりといった技能がまるでできていない。いくら個性が乗せられるとはいえ生まれたての身体では不可能な領域の話だ。

 

 ならばプロの予測が上回る。クラストもトップ10に名を連ねるヒーローだ、その程度は可能な技能だった。

 

 

 

「次から次へと」

 

 

 

 苛立つMs.ダークライ。そんな姿だけでもこいつは依光成生ではないと誰でも分かるものだった。

 

「Ms.ダークライ……!?どういうことだ!?」

「やつは擬態しているだけだ!本物には及ばん!俺が生きてるのだからな!」

「分かった!」

 

 妙に説得力のあるエンデヴァーの台詞に納得するクラスト。

 

 トップヒーローが二人に増えた。いくらMs.ダークライと言えど生まれたての身体に個性も技能も使えないとなれば戦いづらいことこの上ない。

 

 そもそもこの身体は本体ではないのだから捨ておいても構わないのだが、死柄木が手にするのは許せない。

 

 Ms.ダークライがそう思っていた時だった。

 

 

「厄介ねぇ……あら?」

 

 

 直感で認識していた死柄木の気配が完全に消えた。周辺探知とすら呼べるほどの五感による探知だが、そこから死柄木がいなくなったのだ。

 

 同時に感じ取ったのは、何かしらの装置をミルコが破壊した音。これらを繋ぎ合わせれば、事実はおおよそ見えてくる。

 

 すなわち、死柄木の死だ。

 

 

 

「ドクター、あなたの野望、潰えたようね」

「な」

 

 

 

 先程まで考えていた死柄木は死んだのだ、死ねば『なりたい自分になる』個性も関係ない。

 

 殻木は崩れ落ち、Ms.ダークライはふふふと笑う。

 

 

「ならこんなところにいる理由は無いわね。さようなら」

 

 

 憑依されていたような形だった依光成生のクローン体はバタリと倒れ伏す。まるで憑き物が落ちたかのような倒れ方だった。

 

「消えた……?」

 

 エンデヴァー、クラストの警戒はまだ続く。何せプレゼントマイクを無力化したのは不意打ちだった。演技である可能性は否定できないのだ。

 

 エンデヴァー達はそのまま倒れてくれと願うも空しく、期待していない返事は返ってきた。

 

 

 

 

「聞こえ、る?」

 

 

 

 

 しかしてそれは別の意味で助けになる者だった。

 

「まだ動く!」

「いや待て、様子がおかしい」

 

 エンデヴァーがクラストが動こうとしたのを止める。さっきまでとはまるで違う、穏やかな声だ。

 

 

 

 ただ、今にも死にそうな声でもあった。

 

 

「今すぐ、逃げて、死柄木が、目覚める」

「「!!!」」

 

 警告。ヴィランならばそんなことはしないが目の前の存在はさっきまでの者とは違う。ほぼ間違いなく、依光成生だ。

 

 彼女であればヴィランであっても、ヒーローであっても助ける可能性はある。どちらに転ぶかはその場の状況であったりと判断は難しいが、警告してくれるというのならばヒーローを助ける側になっていると予想はついた。

 

「あと、切島くんに、よろしく」

「お前は……!」

 

 エンデヴァーが驚愕するのを見ながらニコリと笑い、足先から崩れていく依光成生のクローン体。正統な個性所有者が身体を扱えばこうなることは分かっていた。

 依光成生の個性は依光成生の身体しか許容しない。欠片の一部程度なら話は別だが、本来はこれが正しい結末なのだ。

 

 しかし依光成生には助かるものだった。何せあのままだったら何も言えずに埋もれていくだけだったのだから。

 

 

 

 マイヒーローにも、何も言えずに。

 

 

 

「ごめんね、って」

 

 

 

 

 謝罪。エンデヴァー達も面食らう言葉に声も出ない。ヴィランとヒーローであり敵対が分かりやすく示されているのに何故、と。

 

 返事は、二人の背後にいるプレゼントマイクと殻木……その後ろから放たれた。

 

 

 

 

「お前で言えよ。依光成生」

 

 

 

 

 依光成生を『視』るイレイザーヘッドの姿がそこにはあった。

 

 イレイザーヘッドの個性『抹消』。個性による崩壊であれば多少は抑えられる。一瞬で崩れる筈だった身体は、ほんの少しだけ寿命を延ばす。

 

 それでも一言分程度の時間でしかなかった。何せクローン体なのだ、個性も正しく動けてなければ効くのも薄い。むしろ効いただけでも十分な功績だった。

 

 

「俺の生徒に色目使いやがって」

「ふふ、ふ……わた、しの……ヒーロー、だもん……」

 

 

 まるで小学生が「あーげないっ!」と子供ながらに言うように依光成生は口にし、身体は全て崩れていく。

 延命できても結末は変わらない。分かっていたが、せめて情報を少しでもとイレイザーヘッドは『視』ていた。

 

 クローン体が完全に消滅したのを確認し、イレイザーヘッドはエンデヴァーへ叫ぶ。

 

「あの女の影響が死柄木にあるって話だな。

 

 撤退だエンデヴァー!死柄木は止められん!」

 

 舌打ちを一つだけし、エンデヴァーは即判断を下した。

 

 

 

「っ!全員撤退だ!」

 

 

 

 依光成生は止められない。新しく現れたヴィランの姿をしたMs.ダークライならともかく、依光成生は無理だ。

 

 その依光成生が逃げろと言っているのだ、危険度は段違いもいいところ。しかもヴィランではあるがヴィランとしての行動を知っているからこそ、信じざるを得ない。

 

「俺はミルコとエクスレスを連れていく!プレゼントマイクが重傷だ!先に行け!」

 

 コクリと全員が頷き、プレゼントマイク、クラスト、イレイザーヘッドが殻木を連れて脱出していく。

 

 数秒と経たず、ミルコが五体満足でエクスレスを脇に抱えて奥から跳んできた。その表情は焦りそのものだった。

 

「起動装置は破壊した!目覚めないはずだったが……けど野生の勘だが死柄木は起きる感じだった!逃げるぞ!」

「無事か!?根拠はそれでいい!行くぞ!」

 

 もぬけの殻となる研究所。しかしその奥からはドクンと脈打つ鼓動が鳴る。

 

 その音とほぼ同時に、崩壊の大津波が走り始めた。

 

 先んじて退避を始めていなければ誰かは間違いなく犠牲になっていたであろう崩壊速度、そして伝播する特性。能力自体は艶羽から伝わってものの、速度といった死柄木本人の練度による箇所は分からないとされていた部分。

 

 最も重要な箇所だが警戒し過ぎて悪いことは無いと判断したのが正解だった。逃げるエンデヴァーの口からは自然と声が出ていた。

 

 

「これが新しい死柄木の力か……!」

 

 

 戦場が、崩壊の津波によって押し流されていく。止められるものはいなかった。

 

 

 

 ■■■

 

 

 ミルコが依光成生クローン体の破砕音から逃れた時、死柄木は精神世界にいた。上空に何もかもを呑み込む暗闇、それに吸われる壊れた家の残骸と大量の大きな指。今の死柄木を表すモノたちそのものだ。

 

 そして、暗闇の奥に見えるのは一人の男、オールフォーワンの姿だった。

 

 死柄木の強化改造時に埋め込まれた個性はオリジナルのAFO。AFO本人は複製した個性を使用し、オリジナルは隠されていたのだ。

 

 個性因子には意識が宿る。個性に宿る『AFOの意思』と死柄木が合流するのは自然なことだった。

 

 そして、死柄木────志村転狐には、引き止める者もいた。かつて住んでいた家の住人、家族だ。

 

「お父さんはああいうけどねぇ。私は転狐のこと応援してるから」

「華ちゃん」

「ごめんね、違うの、ひみつって言って見せたの私なのに、ごめんね」

「写真か……いいんだ、その件は。もう」

 

 首をかきながら暗闇の方へ歩く。再び引き止める者が現れる。

 

「ねぇ転狐。まだヒーローになりたい?」

「ああ」

「目の周り、酷くなってきちゃったね……掻くとまた痒くなっちゃうよ」

「もう大丈夫だよ。お母さん」

 

 死柄木の髪が黒くなる。引き止められ、暗闇へ進もうとする意志が弱まった証拠だ。

 

 再び引き止める者が現れる。

 

 

「転狐!書斎に入ったな!」

 

 

 しかしてそれは抑圧の象徴。破壊者である死柄木にとっては進む意志の原動力でしかないもの。

 

 精神世界で引き止める意思。である以上巨人のように大きな体をもって抑えつけるように手を向けられるのもおかしくない。

 

 

 

 

 それを、死柄木は崩壊させる。

 

 

 

「邪魔だ」

 

 

 

 暗闇の奥へ空を歩いていく弔。AFOの意思が、黒霧のような姿をしながら手を広げて待っていた。

 

「弔」

「先生!黒霧みたいになってら」

「おいで」

 

 呼ばれ、AFOの意思の方へ歩いていく弔。その背後から6本の腕と、真正面から一本の腕が伸び、首・腕・顔面・後頭部を掴む。

 

 祖父母、母、姉、父……そして志村菜奈。憧れたヒーロー。

 

 しかし弔はもはや彼らが止められるものではなくなっていた。

 

 

 

 

「俺を否定するな」

 

 

 

 

 

 全ての引き止める手を崩壊させAFOの意思の方へ歩いていく弔。そして暗闇の奥に吸われ、AFOの意思の下へ行く。

 

 そこでもう一人に気づき、ハハハと笑った。

 

 

「……お前はそこにいたのか」

 

 

 

 AFOの意思の背後。そこに彼女はいた。

 

 

 彼女は確かに引き止める姿はしていなかった。むしろ応援してあげると手を引いてくれたような覚えすらある。そしてそれが彼女のヴィランとしての動き方だったのはよく知っている。

 

 

 

「だって私、ヴィランだもん。引き止めなんかしないし、あなたの手でも壊れない。横にいてあげる」

 

 

 

 依光成生(普通の少女)と呼ばれた、混沌の目をした少女が、そこにいた。

 

 

「はっ、ヒーロー気分か?」

「ヴィランだよ。だって弔のこと肯定してあげるなんて、私にしかできないもの」

 

 

 弔は感情のままにハハハと笑う。言っていることは正しい。間違いなく正しい。

 

 

 そして弔が抱いた感情はもう一つ。こいつと一緒に進めるのならという安心感。横に並んでくれる者がいる。思わず優しい笑みを浮かべるくらいには嬉しいものだった。

 

 

「壊れないなら確かにお前にしかできないな……でも、悪くない気分だ」

「さ、行こう」

 

 

 弔の手を引き暗闇の奥へ向かう彼女。手はボロボロと崩れ……るが即座に回復していた。

 

 

 弔のよく知る依光成生だ。ならば力関係以外はこれまでと同じ扱いでいい。それもまた、嬉しいことだった。

 

 

 

 

「やっぱお前はヒーローだよ。俺が目指してるのと同じ……ヴィランの為のヒーローだ」

 

 

 

 

 クスリと弔の見えないところで彼女は笑う。弔も見えないながらも気づき、気づけば笑っていた。

 

 

 

 精神世界が閉じられていく。ヴィランのヒーロー(依光成生)に手を引かれ、ヴィラン(死柄木弔)はよりヴィランの為に、ヴィラン(死柄木弔)らしく動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霞む視界の中、遠くに脱兎の如く逃げ出したミルコが見えた。だから、指を奮った。

 

 

 

 

 

「ヒーロー……やってくれたな。ここからは()()の時間だ」

 

 

 

 

 

 破壊の権化と成り果てた男は目覚め、崩壊の津波を引き起こす。

 

 

 

 

 

 

 




よく分からなくなってきた人の為に時系列ちょっと作ったから↓どうぞ



成生(碧目) 生誕

普通の少女+成生(綺麗な碧目) ~五歳

普通の少女+成生+目立つ人(≒ヴィラン) (濁り混沌目) 五歳~

普通の少女+成生(混沌目)+ヴィラン+最強のヴィラン+堕とし子の母 (混沌目) ~個性破壊弾着弾まで

(個性破壊弾により一度バラバラに)

最強のヴィラン+ヴィラン(Ms.ダークライ)
普通の少女+成生+堕とし子の母(依光成生)        ←今ここ

???



だいたい自分にぶっ刺さることやってるのは混沌目時代までの産物。自分のことは自分が一番よく知っている

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