普通少女のヴィランアカデミア   作:火ノ鷹

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一番書きたかった回です。ずっとここを書けるの楽しみにしてた

お盆の更新はこれで終わり


雷の花が散る頃に

 場所は変わり超常解放戦線の幹部が集まる定例会の会場。そこでは既に戦いが始まっていた。

 

 セメントスが会場への壁をこじ開け、中からはわらわらと解放戦線の戦士たちが湧いてくる。

 

 火蓋を切ったのは、幹部の一人だった。

 

「増やして放つ!『増電』こそ至高の個性!」

 

 広範囲殲滅の個性を持つ幹部による電気。その電撃を吸っている学生からの激によりヒーローも攻撃を始める。

 

「……『帯電』といったところか」

「幹部一名無力化完了!皆さんお願いしまっす!」

 

 名だたるヒーロー達が動き出す。攻撃に動く面子は全員連携ができている制圧攻撃持ち。連携どころではない解放戦線の戦士は為す術も無く捕らわれる。

 

「忍法、千枚通し」

「眠り香全開──スリーピング・スキャッティング!」

「ウルシ鎖牢!」

 

 しかし解放戦線の優位性は『数』にある。先んじて外に出たのは一割にも満たないのだ。後続が次から次へと出て来ていた。

 

「ぐちゃぐちゃだ!編隊もままならない」

「一人でも道連れに……地面が!?」

 

 ヒーローは手を緩めない。出鼻をくじいたなら次は自分たちの優位なフィールドを作り出す。そうして少しずつ戦域を狭めていくつもりだった。

 

 そのためのヒーローは、学生に居た。

 

「いいぞマッドマン」

「マジすか」

 

 さらに、凶悪な広域制圧を可能とする個性の持ち主もいた。

 

「んなもん──ゴホッ!?き、きのこ!?」

「広域制圧はおまかせノコ!」

「凄いぞシーメイジ!後は任せろ!我々が総力で中枢を叩く!」

 

 プロヒーローや雄英高校の先生生徒だけがヒーローではない。その意地を見せるためにヒーロー達は制圧に乗り出す。

 

 

 

 そして、超常解放戦線で最も危険な人間二人(弔とトゥワイス)の内のもう一人の目の前には、No.2ヒーローがいた。

 

 

 

「襲撃日時は念のため暗号でやりとりしました。大変でしたよ」

 

 

 

 ホークス。退治するのは最も危険だと自ら説明する程のヴィラン……トゥワイス。ひっくり返ることもなく、ただ真正面に対峙していた。

 

「……俺と二人きりになるためだけにか?」

「あなたと閉所でのタイマンなら俺に分がある。あなたが『増やす前に一対一』の形にする。これしかなかった」

 

 トゥワイスも絆されておらず、ホークスも絆されていない。ある意味ヴィランとヒーローという対等かつ正しい関係性。

 ピリピリとした緊張感が漂いつつも、しかし本気には二人共なっていなかった。

 

「ふざけんなよ……!その為だけに俺達に、仲間になったって言うのかよ……!」

「……そうだったらよかったな」

 

 ホークスは超常解放戦線の内部にいた。だからトゥワイスやヴィラン連合の面子と関わることもあった。警戒こそされていたものの、ホークスの真骨頂である『人を視る目』は十分に発揮できていたのだ。

 

 ゆえに、分かってしまうのだ。

 

 

「知ってしまったからな。あなたは……いい人だ。罪を償ってやり直そう」

 

 

 トゥワイスが、悪い奴ではないことが。

 

 

 

「うるせぇ」

 

 

 

 トゥワイスも分かっていた。ホークスが、悪い奴ではないことを。

 

 

「これがヒーローか。何をやり直すってんだ?なぁ!?

 

 俺は俺のことなんか!とっくにどうでもいいんだよ!」

 

 

 しかしトゥワイスの信念が故に相容れない。『仲間の為になら命すら投げ捨てても構わない』が故に、『仲間』を捕まえようとするホークスを許すことが出来ない。

 

 

 

「……そうか、仕方ない」

 

 

「俺の魂はただ!連合()の幸せのためにあるんだよ!」

 

「知ってるよ。だからあなたが一番怖かった」

 

 

 ヴィランの危険度No2の男と、No2.ヒーローの戦いが始まる頃、ヒーローは迅速に超常解放戦線の戦士を捕縛しようと動いていた。

 

 定例会議は地上と地下の二つに分かれて行われてた。地下の方が大規模なものであり、地上の戦士はまだ先鋒もいいところなのだ。

 

 地下の封殺。それを担当しているヒーロー達も動いていた。

 

「地下へ続く通路で残る通路は屋敷内に五本!他の箇所はセメントスが埋める!お願いするでツクヨミ!」

「任せられました」

 

 ファットガム、サンイーター、ツクヨミ。数人程度なら瞬殺できる護衛二人に殲滅能力持ちの学生。能力を遺憾なく発揮し、ツクヨミが通路の一つに辿り着く。

 

「見せてくれや、通路埋められる最強の力ってやつを!」

黒影(ダークシャドウ)終焉(ラグナロク)-!!!」

 

 黒影(ダークシャドウ)終焉(ラグナロク)は暴走状態レベルの力を制御した黒影(ダークシャドウ)。奥でリ・デストロに止められたものの、通路の完全崩壊には至っていた。

 

「オクニヤバイヤツイルゾ」

「安心せい。あいつは動かんらしい、向こうのボスが目覚めん限りはな……他潰れた連絡きたら撤退するで!」

 

 唯一この戦況を一瞬で覆せるギガントマキアは地下にいるも動かない。ギガントマキアを制御できるのはナイトメアの面々か死柄木のみ。どちらもこの場にはいなかった。

 

 

 

 

 通路の封鎖完了、一部幹部の無力化が速報段階だが報告されるなど戦いが激化していく。

 

 それを聞いたファットガムは最前線に投入されていた学生を回収し撤退に動き出す。一度の撤退で複数人を運べ、かつ護衛で頼りになるファットガムが適任と指名されていた。

 

「俺らもう後ろ回っていいんですか?」

「もう十分や!初撃と広範囲対応さえやってくれること期待しとった!

 

 包囲して戦う以上、広域制圧は最初は必須で後半はいらん!むしろ居られる方が困る!」

 

 ドスドスと走り、後衛がいる森近くに入った時────彼女は黒い霧の中から現れた。

 

「黒霧!?誰や!?」

 

 黒い霧はヴィラン連合でもワープのしてくる動作。しかし既に誰も使える人はいないはずであり、居るとすれば……堕とし子の誰かであると示唆されていた。

 

 そして堕とし子は好き勝手に行動はするが、むやみやたらと傷つけることはないともされていた。ファットガムは一度堕とし子と会っているからこそ、そういった情報はきちんと理解していた。

 

 だから分からなかった。こんなタイミングでやってくる堕とし子は間違いなくヤバいやつだ。詳細過ぎる前情報とまるで合わない。

 

 

 そして現れた堕とし子は……予想通りではあったが予想外の姿をした堕とし子だった。

 

 

 

 

「……はぁ、はぁ……見つけた」

 

 

 

 

 黒い霧が晴れて現れたのは……憔悴しきり、もうどこにも現れる筈のない、電花の姿だった。

 

 

 

 ■■■

 

 地下施設。誰にも探知されることはない依光成生が作った研究所にしてアジト。そこに堕とし子は全員が揃っていた。

 

 母親が眠っている横の部屋であり、少しでも覗き込めば聞こえるであろう場所。そこでなければ母親に聞こえないからと、慕っているからこその場所だ。

 

「久しぶりに全員集まったわね。電花姉、体調は大丈夫なの?」

「ありがとね奪姫。大丈夫……ではないかな。活力を渡されても治らないから何もしないでね」

「……それって、もう」

 

 奪姫が手を伸ばそうとするも、自ら止める。活力を注ぎ込んでも治らないということは、活力が流れ出す量の方が上回っているということだ。

 

 考え方として輸血にも等しいが、無くなる速度が電花と奪姫にしか分からない上にどれだけ必要なのか予想もつかない。電花が何もするなというのも納得でき、姉自身がそう言っているのだから尊重しなければと……奪姫は唇を噛み締める。

 

 話が掴めてない他の面々。口を真っ先に開いたのは、大だった。

 

 

 

「でんかねぇ、なんであつめた?」

 

 

 大は単純だ。だが単純だからこそ質問もシンプルなものだ。電花も大のことはよく分かっており、笑みと一緒に言葉を返す。

 

「おかーさん、多分そろそろ起きるでしょ」

「ほんと!?」

 

 純粋に喜ぶ大の姿に微笑む妹や兄。だがそう簡単に喜べない兄弟姉妹もいた。

 

「それが本当ならいいんだが」

「勇也兄ぃの言う通り。おかーさんってその辺何も言わなかったんでしょ?」

「闇の中の光。知識にあるなら……欲しい」

 

 理由もなしに判断したのならただの夢想でしかない。現実を見る勇也や追随する散月、逆に個性で夜ばかり行動する闇子は疑いの目を向ける。

 

 電花も分かっていた。そして根拠を持っている者がここにいることも。

 

「艶羽」

「……」

 

 最後に会ったのは艶羽だ。そして何らかの異常を確認したのだと電花は確信に至っていた。

 

 会って直後に言わなかったのは艶羽が隠していたから。そして確信するまでの違和感を持ち切れなかったから。

 

 ナイトメアが作られた後から艶羽の行動は見るからに変わった。だからこその確信だった。

 

「艶羽姉ぇ、何か知ってるのか?」

「教えてはくれないの?」

「……聞きたくは、ないけど」

 

 崩華や灯火ですら知ろうとするが、仁はそこにストップをかけるように口に出す。

 

「仁?」

 

 電花すら口を挟むのかと少しだけ威圧的に声を出す。できた弟だから、姉には姉の想いがあるから、仁は怖がらずに続けた。

 

 

 

 

「艶羽姉が何も言わないってことはさ、あんまり良くないことなんだろ?」

 

 

 

 

 艶羽以外の全員が静まる。仁の言う通りだったからだ。兄弟姉妹の行動のぶつかり合いはあっても、尊重ができない者は堕とし子にはいなかったのだ。

 

 重苦しい空気になりかけ……破ったのは、艶羽だった。

 

 

「これは、言いたくないことだった」

 

 

 呟くように、声に出す。堕とし子の身体能力はそれだけでも十分に聞こえるものだ。

 

「おかーさんが個性を使ったところを私と電花姉、奪姫姉は知ってる」

「うん」「あの時ね」

 

 よりみつせいとなったあの時、そしてあの後。違いをよく知っているのはこの三人だけだ。そして最も感性が鋭いのは艶羽だった。

 

「あの後、気配が別物とも呼べるくらいに変わってた。接し方は変わってないのに」

「……うん」「……それは」

 

 艶羽への視線を背ける二人。二人も心当たりが無い訳ではなかったのだ、信じたくなかっただけだった。

 

 慕っている母親の力も姿も知っている。知っているから慕っている。だから……慕っている姿()が別物だなんて信じたくなかった。

 

「思ったんだ。おかーさんが、おかーさんじゃなくなってるかもって」

「おかーさんがおかーさんじゃなくなる?」

 

 大がシンプルに疑問をぶつける。艶羽の口から、答えは出た。

 

 

 

 

「そして最後に会ったのは私、それは間違いない。会ったのは……あれは、おかーさんだったけど別人になりかかってた

「「「!!!」」」

 

 

 

 

 慕い尊敬する母親はもういない。そう告げたに等しい艶羽の言葉に、堕とし子の大半が驚き動揺に襲われる。

 

「どうしてそんな大事なこと黙ってたんだ!?」

「勇也兄ぃの言う通りだよ!?」

「嘘」

「え、え……?」

「おかーさんが、そんなこと、あるの?」

 

 勇也、散月、崩華、灯火、闇子。皆々が驚きに包まれる中、艶羽の呟く声が皆の耳に静かに届く。

 

 

「だって……それがおかーさんの願いだったから」

 

「おかーさん、皆無事に生きてって言ってたんだよ。先に好きに生きていいって言ってくれてたんだよ。じゃあさ……何も言えないじゃない」

 

「一番怖いって言ってたのは別人になったおかーさんが私達を傷つけることだって。私だって怖いよ、恐ろしいよ」

 

 

 恐怖に震えポロポロと涙を流す艶羽の姿。見たことのない姉妹の姿に、兄姉は俯き、弟妹は信じられないと口を開きっぱなしにしていた。

 

 

 

「でも……電花姉、ありがとね。今言わなきゃ後悔してた」

 

 

 ただ、電花に向ける艶羽の表情は普段通りのもの。弱みを見せながらも変わることは無い艶羽の姿に、皆はどこか安心を覚えていた。

 

「そっか……ごめんね艶羽、辛いこと言わせちゃって」

「ううん。電花姉の方がきっと……辛いでしょ」

 

 電花は最も母親と長い時間を過ごした堕とし子だ。ショックは人一倍大きいはずであり……しかし弟妹の前だからと態度には出さない。

 

「「「電花姉ぇ……」」」

「……うん」

 

 涙がツーッと電花の頬を伝う。それだけだった。

 

「おかーさんが……そっか」

 

 電花にも驚きはあった。悲しみもあった。けれどそれ以上に、使命を果たすという義務感が勝っていた。

 

 母親の為に作られた自分なのだ、ならば母親の為に命を使うのだと言う使命だ。

 

「奪姫、もうあなたがリーダーのように動いていたけど……これからは、ちゃんとあなたがリーダー。皆をちゃんと見てあげて」

「……分かってるけど……電花姉?何をする気?

 

 今は超常解放戦線とナイトメアの約束上動けない。だから集めたと思ってたんだけど……違うの?」

 

 首を横に振る電花。その後に視線が向けられるのは、転移の使える灯火。

 

「……灯火。全員をどこか地上へ転送してくれる?」

「ん、分かった」

 

 即座に転移の個性により全員が黒い霧に包まれる。かつて灯火が九州のエンデヴァーと脳無の戦いの後から帰った時のように、ワープによって別場所まで移動する。

 

 現れたのは滋賀の京都寄りの山中。超常解放戦線が戦っているところまでそう遠くない場所だった。

 

「ありがと灯火。あそこだとおかーさんっていう別人がいるって話だから」

「なるほどね。流石電花姉ぇ!」

 

 灯火の喜ぶ声を悲し気な表情をして聞く電花。

 その理由はすぐに語られた。

 

 

「辛い話が続くけど……もう私には時間が無い。元々私の命ってとっくに尽きてるものだったから」

「「「!!!」」」

 

 

 電花の命は既に風前の灯火だった。個性を使えるのも片手で数えられる程度しか不可能な領域に入っており、こうやって皆に元気なように見せているのも空元気だ。

 

 奪姫と艶羽、そして勇也は分かっていたが……それ以外の堕とし子は知る由もない。

 

「それって、どういう」

「私は皆のプロトタイプ。皆を長生きさせるために作られた私だけは、寿命がものすごく短いの」

「「「(俺)私たちの、ために……?」」」

 

 姉が自分たちの為に命を投げうっていた。信じたくない事実をさらに付け加えられ、思考を停止させたいとすら思うようになる。

 

 けれど、電花はそれを許さない。

 

 

 

「悲しまないで。ちゃんと色々やりたいことはやったし、おかーさん譲りのことだってやってるんだから」

 

 

 

 母親譲りのことをやってる。母親を慕う堕とし子なら、思考を止めるのを許されない言葉。電花がそう思わせるように、ルールを決めた言葉。

 

 電花という長姉と母親を慕うならば、思考を止めるのを許されない。無理やりにでも向き合わせる言葉だった。

 

「でもね、一度別れる。皆とは会えなくなる」

「「「やだ!」」」

 

 駄々をこね始める弟妹に優しい笑みを浮かべ、個性を使っていないのに染みわたるような声で電花は告げた。

 

 

 

 

 

「大丈夫、また会える。だからその時まで少しだけの我慢。……できるよね?」

 

 

 

 

 また会える。だからそれまで待ってて。それだけの言葉。これまで慕ってきた姉の言葉を、信じない弟妹はいなかった。

 

「……電花姉がそう言うなら信じる」

「分かった」

「電花姉、ホントだよね?」

「早く帰ってこい」

「……うん!」

「奔放なんだから」

「自由の代償……ありがとう。早く戻ってきてよ?」

「早く帰ってきて」

「皆止めれるの電花姉くらいなんだ。助けて」

「存外早く帰ってくるでしょ。だって電花姉だろ?」

 

 奪姫、艶羽、灯火、勇也、大、崩華、闇子、散月、消一、仁。

 弟妹の声を受け、電花は自ら黒い霧を掌から生み出す。

 

 

 

「ありがとね、皆。じゃあ……っ……また会おうね」

 

 

 

 たった一回の個性の行使で息を切らしかけていた姉は、黒い霧の中へ消えていく。最も頼りにしていた小さくも大きい背中は、今だけは大きさ相応のものに見えていた。

 

 

「電花姉。なんか忘れ物でもしたのかな」

「崩華、あんた……」

 

 重い雰囲気を誤魔化そうとする崩華に散月の呆れた目線が向けられる。そう言いたい気持ちは堕とし子の半数は持っていた。

 

 ただ残りの半数は、最期の行動として好きに生きようと動く電花の気持ちも分かるのだった。

 

 

「……きっと、最期に会いたい人がいるんでしょ。私には分かるよ、燈矢お兄ちゃんに会った時思ったもん」

 

 

 灯火。艶羽の次に母親以外の血縁に出会った彼女は気持ちがよく分かる。艶羽が口も出したくない程辛いのだから、代わりにと声に出していた。

 

 

「会えなかったら後悔してたなって」

 

 

 後悔しないように好きに生きる。そうさせてくれたのは母親で、そこから会えたのは堕とし子自身の選択。選択に間違いなんてないと言い切れたのは、血縁に出会った者達だけだった。

 

「うん……そうだね」

「違いない」

「確かに」

「ん、まぁ……そうかも」

 

 艶羽、勇也、仁、崩華。好きに生きたり、縛られながらも到達したりと、父に出会った者達。皆後悔はしておらず、むしろ出会えたことで感情豊かになったとすら言えるような経験だった。

 

 そんな様子を見た奪姫は溜息を一つし、凛とした顔つきになり皆へと身体を向ける。

 

「はぁ……まぁ私はきっと例外でしょうね。話に聞くだけで会いたくも無い……きっと電花姉は帰ってこない。これからの行動を話すわよ」

 

 

 奪姫が堕とし子の指揮を取る。電花が居た時から事実上指揮官となっており変わっていないはずなのに、その声色は……悲し気なものだった。

 

 

 ■■■

 

「何や!?いや見たことあるで嬢ちゃん!確か……堕とし子!電花やな!」

「はぁ……はぁ……そっか、久しぶりだね」

 

 電花とファットガムは面識がある。かつて出会った時にはヴィランとすら思っていなかったファットガムだが、それは今も変わっていなかった。

 

 ただ所属がヴィランであるだけの子供。更生の余地は有り余るほどにあり、母親から引き離せばヒーローにすら成れる人材。それがファットガムが持っている電花の印象だった。

 

 ヴィランに会えば即鎮圧にかかるファットガムが敵対しようとしないのもそれが原因だった。

 

「何や用事なら後で」

「待ったファットさん」

「チャージズマ?」

 

 撤退を続行しようとするファットガムに待ったをかけるチャージズマ……上鳴。聞いたことのある名前が出、無視できる訳も無かった。

 

 

 

「電花っていったっけか」

 

 

 

 にっこり笑う電花。そこにあるのは無垢としか呼べない笑顔であり、上鳴が『もし電花がこんな子だったらいいな』なんてイメージした笑顔そのままだった。

 

「……お前が、あの電花か?」

「はぁ……きっと……っ……その電花だよ。上鳴お兄さん」

 

 息切れしながら肯定を返す電花。そして届いた呼び名も、夜に聞こえていた通りの呼び名。上鳴を『特別』と称した、少女のものだった。

 

「知り合いか?」

「はい。……少し話すだけです、出してもらえません?」

「少しだけやで」

 

 吸着によって腹に雛鳥のように吸い付いていたチャージズマが電花の正面に立つ。真面目な顔な雰囲気を出してこそいるが、心配気なものもあった。

 チャージズマは電花の体調のことは当人から聞いているのだ。ここにいることがどれだけ大変なことなのか容易に想像はついた。

 

「堕とし子、だったのか」

「へへ……ごめんなさい。騙してたつもりは、無くて」

「んなこと分かってる。騙すにしちゃ手が込み過ぎてるし、堕とし子ってのは切島の惚れてる女の関係者って話だ。演技でこんな真似なんてできないだろ」

「はは……言われてるよ、おかーさん……」

 

 呆れと共にごほっとせき込む電花。抑えた手には血がべっとり付いていたが、一瞬で個性によって見えなくする。

 

「ま、それに付き合いも長いし……あれ?初対面だっけ?」

「はぁ……っ!……うん。初対面だよ、アホになって忘れた?」

「うるせぇ!煽り方といい本物か。マジかよ……」

 

 助けたい人が堕とし子だった。ヴィランだった。助けられる余地はあるとはいえ、体調が既にどうしようもない状態ときた。

 

 上鳴の若さでは難しい判断だった。ヴィランでありヒーローにもなれるが病気で倒れそうな人。壊理が近いが既にヴィランの行為に加担している。

 

 捕縛して指導・更生が無難なのだが、時間が無いのだ。チャージズマに判断はできなかった。

 

「上鳴、時間が」

「分かってるっつの。置いていってもいいぜ、本当のことを言えば話したいことは山ほどある」

「──っ!分かったわ!君ら全員こっから歩いていき!時間余裕はちっとはあるはずや!」

 

 ファットガムが『吸着』していた他の学生を放り出す。放り出されたマッドマン、シーメイジ、ツクヨミの三人は一度だけ戦場を振り返り、走り出す。

 

 ツクヨミ以外は。

 

「おいツクヨミ行くぞ!」

「……あれは……すまない皆、俺は向こうへ行く」

 

 ツクヨミが見たのはほんの一瞬だけ見えたホークスの姿。羽が炎に燃えながら戦っている姿。

 

 ツクヨミはかつて師であるホークスから弱点を聞いている。炎、だと。

 

 黒の堕天使。ダークシャドウによって空を飛ぶ技によってツクヨミは飛んでいく。師の身を案じて。

 

「ツクヨミ!?」

「あーもう!俺はツクヨミを追う!電花の嬢ちゃんも何かやるつもりないやろ!?」

「うん」

「素直か!?そういや素直やったな!」

 

 ドスドスドスと音を立ててツクヨミを追うファットガム。十数秒足らずでいなくなった仲間たちに、チャージズマは笑みを浮かべた。

 

 勝手に行動した訳でもなく、身の安全を確保した上での行動だ。ならば問題は無く……そこから二人っきりにしてくれたのだ。あるのは感謝だけだった。

 

「……っ……ホントに、……はぁ……置いていかれ、ちゃったね」

「それが目的だろ?今はアホじゃねぇから少しは考えられるのさ」

「はは……はぁ……っ……それは、良かったか……な」

「お、おいっ!?」

 

 前向きに力無くドサリと倒れる電花。咄嗟に受け止め、電花を抱きかかえる上鳴。

 

 マトモに立つこともできない身体だというのに会いに来てくれた。嬉しさと悔しさが上鳴の胸中に渦巻く。

 

「しっかりしろ!」

「ここが……終着点……っ……か……ぁ……」

 

 電花は分かっていた。二回の個性の行使、それが限界だった。耐え切れず身体が崩壊しないだけ良かったとすら考えていた。

 

 十分だったのだ。血縁であり、ヒーローである上鳴に会えた、それだけで胸に上がってくる想いは余りにも多くあった。

 

 会えた嬉しさ、会えなかった悲しさ、この人の子である誇り、他にも多くのものがあり……表すことなどできはしない。ただそれらを一言で告げるならば、というものはあった。

 

 が、上鳴は事情などほぼ知らない。電花の体調が死にそうである、それだけだった。

 

「病気のやつか!?」

「びょう……き……?そんなの、じゃ……ない」

「じゃあ」

「これは、じゅみょ、う」

「んな馬鹿な!?見たとこ小学生にもなってないだろ!?」

「そういう、の、なの」

 

 電花の体調が悪いのは昔から聞いていた。だから上鳴は病気か何かだと思っていたが、寿命であれば助からない。

 

 見た目と年齢が合わない。個性社会だ、そんなこともあり得ると上鳴は分かっていたが、行動しない理由にもならない。

 

「待ってろ今助けを」

 

 ガシリと上鳴の手が掴まれる。行かないでと、掴んでいる手が言っていた。

 

「伝えな、きゃ、って」

「……俺に、か?」

 

 もう時間が無い。上鳴は電花を助ける時間が、電花は上鳴に言いたいことを話す時間が。

 

 上鳴がヒーローだから、案じている隙に電花の言葉が先に届いた。

 

 

 

 

 

「会えて、嬉し、かった」

 

 

 

 

 

「話せて、楽し、かった」

 

 

 

 

 

 

「幸せ、は、ここにも、あった」

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()

 

 上鳴は電花が苦しい中で過ごしてきたことを直接聞いて知っている。それでも、幸せかどうかなど聞いたことも無かった。

 

 けれど電花は幸せだったと言った。ここに来る前までも、そしてここに来てからも。ここに来た理由は、一つだけ。

 

 上鳴に会いにきてくれたのだ。会いに来れた、ただそれだけで電花には幸せだった。

 

 

「なに、いって」

「私は、私で、幸せ、だったよ」

 

 

 上鳴の目からは涙が流れていた。余りにも自然に流れていたために、上鳴自身気づくことも無い。

 

 

「馬鹿言うな!まだこれから未来はあるだろ!話し足りてねぇ!

 

 ……俺はヒーローなのに……助けを求める子供一人救えねぇんだ……!」

「救け、ら、れた、よ?」

 

 

 電花の言葉に上鳴は心当たりがない。答えは、電花の力の無い言葉で告げられた。

 

 

 

 

 

 

 

「だって……今の……私、幸せ……もの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 会えて幸せだった。それだけで十分だった。だから救われた。

 上鳴に電花は救われた、だからもう大丈夫だと……電花は笑っていた。

 

 

 そして、そんな人()はもう一人いる。電花にはそこにいることは分かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ……おかー……さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 木々の陰から姿を現すMs.ダークライ。ヴィランの圧力を隠し、母親としての姿を見せようとしていた。

 

「電花……お勤めご苦労様」

「──っ!」

 

 しかし出てくる言葉はヴィランのもの。上鳴とは違う、会えて幸せだと言える人物とは到底言えない者だった。

 

 電花は、笑う。先程上鳴に見せた笑顔ではない、悪戯をするような、無邪気な笑顔だった。

 

「一つ……聞か……せて…………」

「最期に?させると思う?」

 

 Ms.ダークライ(依光成生)の力は強大だ。電花の延命など容易く……そして捨てる気も無い。使える駒を捨てるようなヴィランではなかった。

 だから駒を侮る、油断する。

 

 

 電花は、母親に向けて一言だけ告げた────最悪の未来への言葉を。

 

 

 

「今の……おかーさんは…………幸……せ…………?」

「何を言って……幸せに決まって……。……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「幸せって、何?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 電花はニヤリと笑う。呼吸も遅くなっていき、心拍数も小さくなっていく。

 

「お、おい電花!?死ぬな!まだ、まだ俺は」

「また……会え……る……よ……」

 

 最早声も小さく、耳を近づけなければ聞こえない。放心しているMs.ダークライには聞こえず、チャージズマだけに届く。

 

 

 

 

「その……とき…………ま……で…………また…………ね…………」

 

 

 

 

 電花の身体が、力無く崩れ落ちた。目も閉じられ、身体の温度も完全に死人のそれとなる。

 

 

 

 息も、心も、個性でさえも、そこには無くなっていた。

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 信じたくない。チャージズマが思ったのはそれだけだった。

 

「電花!おい!?」

 

 電花の身体を揺らし呼びかけるも、返事はない。抱いている身体も完全に人の体温を失っており、早く病院に連れていかねばと心臓がバクバクと鳴っていた。

 

 しかし、そのためには途轍もなく大きな障害が目の前にそびえ立っている。

 

「Ms.……ダークライ……!。…………?」

 

 動かない。Ms.ダークライはまるで心が放れたかのように動かず……圧力もヴィランとしてのモノは無かった。

 

「電花が死んだ。ええ、ええ、哀しいわ、悲しいわ。

 

 おかげで見つけた残った核も見つけられた……のに」

 

 表情が変わってない。チャージズマは相対していたが、まるで人形が喋っているかのような違和感を覚えていた。

 

「「どうして?なんで?何でそんな言葉を遺して逝くの?」

 

 どこかおかしいと聞いただけで分かる声。その声の持ち主の視線が電花へと向けられる。

 

 

「──っ!」

 

 

 電花を抱きかかえているチャージズマにも視線は近い。ヴィランとして圧倒的なまでの格を持ち、あらゆるヒーローを倒すことが可能な『最強のヴィラン』。

 その気になれば視線だけでチャージズマを真っ二つに出来ただろう。

 

 けれど電花を抱えているために出来ず……恐怖にガチガチと歯が鳴りながらも、震える声でチャージズマは、口に出した。

 

 

 それだけは、譲れない言葉だったからだ。

 

 

 

「電花は、幸せ者だった。って、そう、言って、たぞ」

 

 

 

 会えて幸せだった。そう言われて嬉しい訳が無いのだ。上鳴でさえそうであり、最も身近であったであろう依光成生ならば……と、上鳴が思うのも当然。

 

 確かに、かつての依光成生(普通の少女)であれば泣いて喜んだことだろう。逝かないでと手を伸ばしただろう。

 

 

 だがここにいるのはMs.ダークライだった。

 

 

「「止めて、考えないで、それは駄目、ダメなの」

 

 

 一人のはずなのに二人の声が出ているようだった。しかしそれは独り言であり、自らの個性が使われているだけのもの。

 

 隠れていた依光成生の核を手に入れ、Ms.ダークライとして完成する瀬戸際。しかして電花の言葉で打ち抜かれた今際の時。

 

 最後の力を使い、依光成生はMs.ダークライに個性を使った。

 

 

「「『思考加速』……止めろ、ふざけるな、それは使うな……使うな!」

 

 

 ピシリと、依光成生の動きが止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(Ms.ダークライ)の幸せって、ナニ?」((依光成生)の幸せって、ナニ?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「分からない」」

 

 

 

 

「「知らない、分からない、考えられない、考えたことすら無い。

 

 

 

 今の私は『なりたい自分』なのに、なんで『なりたい自分の幸せ』が分からない?」」

 

 

 

「「あり得ない。それは私の個性が『なりたい自分になる』そのものの否定だ。私は私なんだからそれはあり得ない」」

 

 

 

 

 

 

「「なのになんで……?なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「『なりたい自分』が!『分からない』!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Ms.ダークライに依光成生が囚われ、一つになりかけた瞬間に発生した悲鳴と慟哭の叫び。余りの衝撃に上鳴は電花もろとも吹き飛ばされ、周囲の木々はへし折れていく。

 

 

『なりたい自分になる』個性。その最大の弱点を電花は突いた。その一点さえ突けば勝手に自壊していく程の弱点であり、同時にそれだけ重要に隠されていたものだ。

 

『なりたい自分になる』個性……正しく表すのなら、『強制的になりたい自分にさせる』個性。『なりたい自分』であれば、『なりたい自分』のあらゆる感情が分かるのは当然のことだ。

 

 だが『なりたい自分になる元の自分』がある以上、変化するタイミングがある。そしてそのタイミングだけは、『元の自分』が『なりたい自分』のことを理解していなければならない。

 

 

 

 理解できなければ……こうなるのだ。

 

 

 

 

 

「何で!?どうして!?」

 

 

 

 

 

 Ms.ダークライの足が幽霊のように消えていく。姿形さえ傍目からは『分からない』姿へ変わっていく。『なりたい自分』が『分からない』以上、誰にも『分からない』姿へ異形を変えていく。

 

 『なりたい自分になる』個性は自らを異形に変え、周囲に影響を及ぼし『なりたい自分』として成立させる。『なりたい自分』が『不明そのもの』であれば……。

 

 

 

 

 世界が、歪んだ。

 

 

 

 

 

 






Ms.ダークライと依光成生は融合ギリギリで電花にぶっ刺されました。



以下、解説。()内は描写でやったとこ。


成生の持つ本来の個性について

異形型個性『なりたい自分になる』個性
自らを『なりたい自分』へと強制的に変貌させる異形型個性。何にでもなれるため、オールマイトやエンデヴァーのようにもなれる。
力や能力でさえも同質のものになることができ、もしもこの個性に不可逆性が無ければ変幻自在性はあらゆる個性を抜いて頂点に君臨する。
(なりたい自分にな()る個性ではない)

しかしこの個性は不可逆性を持つ。『なりたい自分に【なる】』個性なのだから当然である。元の姿を前提に成長するため、『元の自分を維持し『なりたい自分』になる』という性質を帯びている。
(普通の少女がMs.ダークライを縛っていた鎖がこれ)

故に『元の自分を維持したまま『なりたい自分』のことを理解する』フェーズが挟まる。思考を加速したりと理解能力が高ければこのフェーズはスキップできるが、スキップせずに理解を進める場合にとある危険性が生じる。
(普通の少女が思考加速で親殺し等自分自身の理解を進めていたので可能な限りスキップした。
 が、5歳前までの個性の認識『よりみついせい』を知ってしまい危険に片足突っ込んだ)

アイデンティティの崩壊である。自分自身と『なりたい自分』が同一でないのに同一であるという認識、自我同一性が崩れ落ち、廃人と化す。そうなれば下手しなくても死ぬことになる。

例えば『なりたい自分』の感情が『今の自分は全く分からない』、といったことが起きるのだ。自分が自分の感情を分からないというのは子どもならばよくある話だが、これは個性の話である。在り得ない話だ。

これがこの個性のデメリットであり、これ以外にこの個性のデメリットは存在しない。
(今回)

この危険性は本来在って無いようなものである。なぜならこの個性は前提として『元の自分が理解できる自分』が地続きの『なりたい自分』であるはずだからである。

仮にこの危険性が発揮されるような事態があるとするならば、一足飛びに『元の自分が理解できない自分』が『なりたい自分』であった場合だけである。超常的な特性……例えば、個性を幾ら持っても壊れることは無いといった特性でも持っていれば在り得るだろう。
(成生の体質はマスターピース)
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