普通少女のヴィランアカデミア   作:火ノ鷹

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壊れた天秤

 蛇腔病院跡地。死柄木は目覚めに崩壊を一度放った後、通信機でマキアを呼んだ。

 その後アジトに残っているものを確認し、次の行動へ移ろうとしていた。

 

「マキアを呼んだはいいが待つのはな……さて、次は【ワンフォーオールを手に入れるんだ弔】っ!?」

 

 死柄木の脳に走る()()()()()()()()()()()()()。融合する改造だったのだ、こうなるのも当然。

 ただそれは完全に融合したらの話。60%の改造段階だったのに意識が共有できるレベルまで到達できているのは異常もいいところだった。

 

 そしてそれを成したのは一人の少女の個性。

 

「先生か、あんたの手に余ってた力なら欲しいのも分かる。ただまぁあいつ」

「死柄木!」

 

 死柄木がそれを確認しようと動こうとした瞬間、空からエンデヴァーが襲撃する。

 

「寝起きにNo.1かよ」

ヘルカーテイン!

 

 灼熱業火の膜だ!逃げられんぞ!」

 

 棒立ちのまま死柄木はヘルカーテインを受ける。それだけでも灼熱地獄に落とされ、人体は動けなくなるほどの致命的破壊をもたらす技だ。

 

 エンデヴァーは分かっていた。この程度で倒れるヴィランではない……倒れる様子が一切ないのがその証拠。故に、追撃する。

 

「……」

「ジェットバーン!」

 

 拳に炎を乗せた、圧縮された業火の拳が直撃する。炭化して崩れ落ちるのが妥当であり死なない方がおかしい破壊。

 

 

 

 それを……受け止めていた。

 

 

 

「効いてない!?」 

「やっぱりか。疑似的だが最強のヴィラン()()の力だ、ふざけた耐性してるな」

 

 最強のヴィラン()()の力。その言葉にエンデヴァーは何が行われていたのかを悟る。

 

 

「全体通信こちらエンデヴァー!病院跡地にて死柄木と交戦中!

 

 地に触れずとも動ける者は包囲網を!超遠距離攻撃は常に行え!」

 

 

 その声にタイムラグがほぼ無く到着するヒーロー。速度の余りの速さに死柄木は驚く。

 

 エンデヴァーの声が届く前からヒーロー達は動いていた。Ms.ダークライの弟弟子となれば、討伐した時のヴィランの士気が下がるのは明白。そしてMs.ダークライを止める予行演習にもなる。

 

 以前よりも必死さのレベルが軽く一段階は上がっていたのだ。この戦いに負けたらヒーローを辞める程の意気込みだった。

 

 

 

 

 その決意を死柄木の力は、嘲笑う。

 

 

 

 

「わらわらと邪魔だな。個性の使い方は……なりたいイメージが大事なんだっけ?じゃあ……こうか」

 

 

 

 

 超が付く程の反応速度。そして反応速度に追いつく身体能力。放たれるのは拳だが、固められた空気によって放たれる空圧。

 

『サーチ』による人数と位置の判定、『思考加速』+『指先発光』による『光速反応』、『空気土流』から空気を土のように固め、物理的に見えない拳を作る使い方。

 

 包囲して襲うヒーローの全員にピンポイントで、劣化オールマイトクラスの身体能力を持つ拳が襲う。

 

 

「「「な!?」」」

 

 

 まごうことなく、かつて神野で見た光景と同じ反応。そして身体能力。

 

 死柄木が手にした個性は……複製である依光成生が持っていた個性のさらに複製個性である『なりたい自分になる』個性。二段階は格落ちしている個性だが、性質は同じ。

 むしろ格落ちしたからこそ死柄木が扱えるギリギリの範疇に収まり、融通が利くようになっていた。

 

「こんなもんだろ。かなり弱めだがあいつの力が手に入ってるならできなきゃおかしいくらいだ。

 それじゃあ……まずは先生の要望には応えておくか。

 

 ワンフォーオールを手に入れる」

 

 『サーチ』で見た人の位置から居場所を特定。

 

 死柄木は、跳んだ。

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 跳躍する死柄木。方向は南────避難民が居る場所。狙いも口にしていたため、エンデヴァーから伝えられていた。

 

「ワンフォーオール?そんな名前の個性がある?」

 

 避難の陣頭指揮をとっていたのはエンデヴァー事務所のバーニン。伝えられた情報は曖昧だった箇所もあったため指揮を執るヒーローには伝えられる程度に収まっていた。

 

 エンデヴァー事務所には、インターンとしてデク、爆豪、ショートの三人がいた。避難誘導にも参加しバーニンから指示を受けていたのだが……デクには聞こえていた。

 

 

 狙いが、ワンフォーオール(自分自身)のことだと。

 

 

 であるならば行動しなければならない。強迫観念にも似たデクの救う意志は、何をどう足掻いてもその選択肢を選んでしまう。そして、それを良く知る友も。

 

「行くんだろ」

「かっちゃんには分かるよね」

「たりめぇだ馬ぁ鹿!

 

 おいショート!避難誘導終わったらこっち来いよ!」

「お前らどこに」

 

 駆け出し、空へ飛ぶ二人(緑谷と爆豪)。向かうは西、既に崩壊された場所の方向でありながら死柄木が向かわないはずの方角。狙いは一つ、誘導だ。

 

 

『デクです!個別通信失礼します!

 

 死柄木は僕を狙っている可能性があります!人のいない方向へ誘導します!』

『何を言って』

『訳は後で!進行方向を変えた素振りがあったら教えてください!』

 

 

 デクがワンフォーオールを持っていることをエンデヴァーは知らない。説明する時間も無い。である以上、現実から証拠を説明するしかない。

 

『南西に進路を変えた!』

「やっぱり!」

『狙いはお前か!?危険だ!』

「向こうは待っちゃくれません。一旦切ります」

『おい!?』

 

 通信を切り、空を駆け続ける。その速度はいつもよりも速めなそれでありながら、まるでいつも通りと言わんばかりの感覚でいた。

 

「……かっちゃん、不思議な感じがするんだ」

「ああ゛!?」

「依光成生が、助けてくれてる。そんな感じ」

「……あいつが?」

 

 依光成生は物理的にトラウマを植え付けられた爆豪からすれば仇敵にも等しいヴィランだ。助けられるなど想像の埒外もいいところであり、デクの言葉も感情的には理解できていなかった。

 

 それでも、才能は別。把握するという能力は動き、役割を果たしていた。

 

「切島くんに聞いたんだけど、依光成生は……特別になりたいって言ってたって」

「それがどうした」

「今さ、どう見たって特別そのものだと思う。なりたい姿になったって……言うなれば将来の自分の姿になってるって言ってもいい」

「ああ、まぁ、そうだな」

 

 珍しくデクの言葉に相槌を合わせる爆豪。野生の勘なのかはたまた才能が聞けと叫んだのか、結論を急げなどとは言わなかった。

 

「じゃあさ、それ自体が彼女の個性だったりしないか?って」

「……それお前の考えか?」

「ううん。聞こえたんだ、前に聞いた声……継承者の声だった」

 

 爆豪はワンフォーオールを知っている。継承者の話も。だからかつて生きた人たちが考えている事実を認識できる。

 

 デクは話を続ける。継承者の予想と、自身の立てた予想を合わせた形で。

 

「仮にそれが真実だとしたら。今の彼女は正しくヴィランになってる」

「ずっと前からそうだろうがよ」

()()()()()()()()()()()()()()()()としたら?

 

 市民がヒーローを倒すことは無いけど逃げる時に邪魔だったら突き飛ばす。ヴィランが襲ってきたら自衛する。当たり前のことだけど……もしその延長だったら。

 

 そして今ヴィランであるなら、彼女は」

 

 無個性であり一市民だったからこそ予想できることだった。そしてデク達の予想は、『なりたい自分になる』個性の影響範囲を明確にしていた。

 

 なりたい自分が『普通の少女』であれば、予想通りの結末だ。だから神野でヒーローもヴィランも負けた。それが『なりたい自分』だったから。『ヴィランになりかけている普通の少女』だから負けたのだ。

 

 普通の少女だからヴィランに対し自衛として片付け、しかしヴィランになりかけているからヒーローに邪魔されれば倒す。『なりたい自分になる』個性としてそう使われていたからこその神野だった。

 

 だが今は違う。彼女は今、ヴィランなのだ。そして普通の少女だったものがヴィランになった時に持つヴィランへのイメージもまた……周囲に影響する。

 

「ヒーローに倒されたがってるってか?だからお前に力が湧いてくるって?」

「そうだったらいいなって」

 

 ()()O()F()A()4()5()%()()()()()()で空を蹴り飛び、()()()()()()()()飛ぶ。

 爆豪はその事実から何となく察していた、何せOFAはオールマイトの力だ。成長が圧倒的なはずのデクに、追いつけてしまっている。であれば何か別の力が働いているのだろうと、そしてそれはデクの予想通りだろうと。

 デクは継承者という第三者がいたから気づけた。デクの成長曲線は途中から分かりやすく加速していた。具体的には林間合宿の後……つまりはヴィランになりかけている依光成生と相対した後からだ。USJ、神野ではデクは相対していないのだ。故にそこだろうと継承者は予想していた。

 

 しかし、今は好都合でもある。より強くなっているのなら、死柄木と戦える。

 

 

 

 

 そしてもう一つ。デクはオールマイトではないのだ。

 

 

 

 

「だとしても今は死柄木だ!あいつAFO手に入れてんだぞ!?どうすんだ!?」

「……頼るだけだよ。それが今はできる。

 

 個別通信お願いします────キセルマイト」

 

 今はもうオールマイトの時代ではない。デクの声は分かりやすくそう言っていた。

 

 

 ■■■

 

 

 超常解放戦線との前線戦場から少し離れた場所……認識災害と化した存在(Ms.ダークライ)がいた。個性の暴走により周囲にエネルギーの暴風が吹き荒れ地形が変わり、もはや爆心地と呼ぶ他無い場所。最早大地に足を付けることすら必要ないと言うように、浮遊しながら彼女は頭を抱え泣いていた。

 

 何も分からない。自分自身が分からない。覚えていなければならない感情も分からなくなっていく感覚。泣きついてでも手放したくなかったのだ。

 

「逃げろ!あれに近づくな!もっと離れろ!」

「Ms.ダークライが暴れてる!離れろ!構成員は捕まえろ!」

 

 余りの力の大きさに周囲にいた超常解放戦線の面々はマキアを追うように逃げ出し、ヒーローが捕まえる。そしてヒーローも爆心地からは離れていっていた。

 

 前線にいた者たちですら場所を変えようと動いている程だ。とにかくこの場にいてはならない。いたら死ぬ、そういう世界の最前線に……彼らはいた。

 

「散開!」

 

 10人にも満たない彼らだが小国なら落とせるだけの戦力。それが、一人の少女に向けられる。

 

 

「活力吸収全開!

 

 崩華!散月!消一!アレがいる空間ごと崩してでも止めろ!」

「もうやってる!」

「効いてよね!」

「っ!」

 

 

 爆心地の中心に『活力吸収』『停止』『凝固』『咲華』の個性を合わせ、さらに複数の個性を持つ奪姫の個性の一つ『空間固定』により即死空間が形成される。生きる力を奪われ、動きは止まり、身体は動かなくなり、分子レベルで崩壊させる空間だ。

 今の死柄木(オールフォーワン)ですら抗うのが精一杯の殺戮空間。堕とし子ですら対策無しでは即死する空間だ。

 

 

 それでも、認識災害が朽ち果てる様子は全くない。足止めでしかなかった。

 

 

「大!お願い!」

「わかった!」

 

 次なる一手を奪姫が打つ。よりみつせいと戦った奪姫には、目の前の存在はこの程度で倒れるはずが無いという確信があった。

 

 大が電花の個性『広範囲電波』を使い電波塔と化す。電波塔と化すことで堕とし子が使える広範囲電波の速度が跳ね上がり、思考速度やテレパシーの速度も上昇する。

 本来なら電花本人がやるべき役割を、代わりに大が果たす。理由は簡単、倒れないからだ。

 

(仁!)

(分かってる!)

 

 仁が『増殖』により消一と散月を増やす。個性因子の動きそのものを止めるため、大人数で『停止』を仕掛ける。

 

「個性を止められれば勝ち目は」

 

 ゾクリと奪姫の背筋がざわめく。念のためと持っていた『危険感知』が警鐘を鳴らす。

 

 奪姫がテレパシーを送るよりも前に、その声は響く。

 

 

 

 

 

 

 

 「分からない」

 

 

 

 

 

 

 

 認識災害が、光った。ただそれだけだった。

 

 

 それだけで、堕とし子の増殖体は全て消し飛び、奪姫たち全員に裂傷が数か所走っていた。

 

 ホワイトホールにレーザーの雨嵐。そうとしか思えない結果であり、何をされたのか『分からない』過程だった。

 

「な」

(一瞬で空間の9割が吹き飛んだ!?個性は使えないんじゃ!?)

(私と散月、消一は全開で止めてる!効いてるのこれ!?)

 

 全く止められていない。思わず舌打ちする奪姫だが、次の一手を打つよりも前に動く妹がいた。

 

「範囲同士でぶつかったらダメね。私が注意を引きつける」

「私が援護するから。奪姫姉ぇ、全員に活力強化してね」

「私も行く。艶羽姉ぇ、闇を使って」

 

 艶羽、灯火、闇子の三人が空を駆ける。戦いに慣れ、接近戦においては最も連携が取れている三人だ、遠距離でケリが付けれると思ってなかった三人でもあった。

 

 

「あっ!?……このバカ妹共がぁー!!!

 

 

 奪姫は叫びながらも活力を譲渡することにより三人の身体強化へ繋ぐ。文句を言っても姉だ、それも電花に託された立場なのだ。電花に誇れるように奪姫は動く。

 

 再び即死空間を展開、それも三人が動けるように……かつ、認識災害が動けなくなるように。

 

(穴だらけになって逆に見極めづらくなった即死空間をギリギリ回避してビームみたいな炎と超高速の斬撃……すげぇ!)

 

 仁のテレパシーに三人は微笑む。

 

「おかーさんだって速度なら私を捕まえられない!個性を綺麗に使えてたら話は変わるけど、今は違う!」

「家族愛……憎悪?を知った。だから私の炎は繋がりすら燃やせる。分からなくなった認識そのものを燃やしておかーさんを取り戻す!」

「いい加減私も混ぜろぉー!闇を統べても逃げ出すなんて嫌!分からないなら()色に染めてやる!」

 

 超高速の斬撃、炎熱を点に集中させたビーム、影一つできればそこから槍のような形状をした物質的性質を持った闇が突き出し、闇が身体を侵食する。

 

 超高速で移動し、多方向から光が放たれ影ができ、そこからさらに侵食し身体を動かなくさせる。膨大な力のせいで侵食速度は遅いものの、数十秒もあれば沈黙する速度だ。

 

(っ!援護する!)

 

 仁も灯火を増やすことで遠距離攻撃を増加、大を増やすことで連携速度をさらに上昇させる。

 

 認識災害が負う傷がどんどん増えていく。超再生ですら追いつかない程の連続ダメージ、灯火の炎も焼き尽くす攻撃であり、両足は炭化まで進めていた。

 

 仁の援護により一瞬の溜めを作り、艶羽が右腕を切り灯火の方へ飛ばす。

 

「そこだ!」(灯火!)

「全力で!打ち抜く!」(ありがと艶羽姉!)

 

 四肢が左腕だけになり、超再生による再生も即死空間と増殖している灯火が止めている。

 

 いくら力があろうとここから逆転されることはない()()。艶羽と灯火は再び力を溜め、残る左腕を切り燃やす。身体の浸食も半分以上進み、動くこともできなくなる。

 

「これで」

「終わって」

「やったか!?」

(止まるな離れろ!)

「「!?」」

 

 認識災害から白と黒の光が同時に溢れ、灰色の世界が三人の目に広がる。

 

 ホワイトホールとダークホールの同時発動。同時には一色しか使えないはずであり、あり得ない(分からない)現象が発生していた。

 

 四肢を落とされ身体が動けなくなろうと、認識災害には関係ない。髪の一本でもあれば復活し、災いをまき散らす。それが今の依光成生なのだ。

 

 

 

 三人に、浸食すら吹き飛ばす暴力そのものが吹き荒れ……間に、一人の姿が挟まる。

 

 

「「「奪姫姉!?」」」

 

「この……馬鹿妹達が……あのおかーさんが、こんな程度で倒れる訳が無いだろう!」

 

 奪姫だけはどんな姿になろうと母親が死なないことは分かっていた。『活力吸収』によって戦闘中常に吸収しているのだ、死んでいるかどうかは吸収出来なくなるかで判断できる。

 

 そして母親の生命力(活力)の限界はまるで見えていない。気を抜けば『超再生』で全快に戻る、故にどれだけ動きを止めようと無駄なのだ。

 

 つまり髪の毛一本残さず消滅させるか、母親自身の意思で止まるかの選択しかない。であれば電花の意志を継いで……等ということはなく、単純に奪姫は母親が好きだから前者は選べない。勇也を除く堕とし子全員が同じ考えである以上、どうしても油断が発生してしまう。

 

 

 分かっていたからカバーするために身を挺した奪姫。『超再生』で受けたダメージを再生していく中、吸収していた活力を伝ったのか、声が届く。

 

 

 

「さ……すが……だ……きね」

 

 

 

 その声色はかつて聞いていた声と同じものだった。

 

 

 

「……そこに、いるの?」

「ひと……つ」

 

 今すぐに伝えないとマズいことを伝えようとしている。集まった時に話した艶羽にも似た雰囲気が、奪姫と艶羽、仁に伝わる。

 

 

 

「にげ、て」

 

 

 

(全員離れなさい!集まって防御!仁は周囲を助けに!)

(分かった!)

 

 即死空間は展開したままに一気に堕とし子全員が距離をとる。仁は自らを無限『増殖』させ、周囲にいるヒーローや超常解放戦線構成員を無理やり遠くへ連れていく。

 

仁義を通す軍団(ライチャスネス・レギオン)』!

 

 無限増殖による増殖の勢いは通常の増殖とは桁が違う。黒い津波と形容する他ない増殖はヒーローもヴィランも一般人も関係なしに流していく。

 

 母親から距離をとる。たったそれだけのために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アンノウンホール・オーバーロード』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数秒の後に放たれたそれは、さっきまでとは桁が違うものと……奪姫には見なくても分かっていた。

 

(全員全開防御!)

(奪姫姉!それじゃあ)

(やらなきゃみんな死ぬ!)

 

 周囲を守るために展開するべき防御すらかなぐり捨てて堕とし子を守るためだけに防御する。それしか選択肢は無かった。

 

「活力全開!個性『盾』全方位!」

「『天翼』『超再生』『巨大化』!」

「っ赫灼熱拳ヘルファイヤーウォール!」

「防御陣地以外全部崩壊しろ!全方位『咲華』!」

「みんなおれの傍に!」

「周囲の空間よ止まれ!」

「せめて俺だけでもおかーさんを見てないと」

「肉壁大量に!あと俺を大量『増殖』して周囲の人を逃がす!」

 

 

 

 

 

 

 天よりの災いが、地に落ちる。

 

 

 

 

 

 

 余りの衝撃に地が揺れて波を打つ。誰でもない存在が持つ『ただそこにあるだけの力』。ただその力の総量だけは膨大であり、止められる存在は現代において存在しない。

 

 全盛期のオールマイトやオールフォーワンなら抵抗できただろう。相殺しようと動くことはできただろう……堕とし子のように。

 

 だがそれも相殺できるかどうかまで、自分自身の身を守ることまで。余波を込めれば半径30kmを超える範囲攻撃の爆心地だ、死なないことが最優先だった。

 

 

 

 

 しかし、あまりの大技に認識災害は疲弊する。

 

 

 ────(個性)に呑まれて消えかけていた意識が、返ってくる程度には。

 

 

 

「誰か……教えて……?わたしは……何なの……?」

 

 

 

 答える声は、あった。

 

 

 

「わたしたちの……家族!お母さんだよ!」

 

 

 子供たちは、諦めない。

 

 

 けれど声は届かない。子供たちはあくまで「子供」でしかなく、ヴィランでも、普通の少女でもない。

 

 成生に届くのは成生の全てを知る者の声だけ。理解できる者の声は届いても理解できない者の声は届かない。

 

 自分の信念を通す、好きなことを好きなようにやる。ヴィランとして在るべき姿そのもの。それがヴィラン、Ms.ダークライだ。

 

 言い換えれば理解できる者が止めてくれと希えば止まる。……ヴィランを止めるという意味では簡単だ。簡単だが、肝心の理解できる者が()()()()のだ。

 

 堕とし子の母・依光成生を知るだけでも

 普通の少女・依光成生を知るだけでも

 ヴィラン・依光成生(Ms.ダークライ)を知るだけでも

 なりたい自分になる(個性を使った)少女・依光成生を知るだけでも

 

 どれか()()では、声は届かない……彼女には届かない。止められない。

 

 そして彼女が縋るのは、自身が最も理解されていた時期の記憶。

 

 

 

 

「あなたなら教えてくれる……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────オールフォーワン」

 

 

 

 

 

 

 目を向けるのは初めてヴィランになりたいと打ち明けた人がいる方角……死柄木(オールフォーワン)がいる方角だった。

 

 

 オールフォーワンが理解していたのは普通の少女でありながらヴィランとしての牙を隠し持っていた時期であり、今とは比べるべくもない。が、確かに理解はされていた。

 

 自分自身が分からないという異常事態。止めれる可能性があるならば誰なのかを教えられる者であり、自分自身に理解を示されたことがある者。

 

 

 オールフォーワンは確かに該当してしまっていた。

 

 

「物凄いゆっくりだけど動き始めた!方角は……マズい!」

「動き自体があれなら!皆行くよ!」

 

 艶羽と奪姫の声が飛ぶ。認識災害が消耗したと言っても堕とし子の消耗も相応のものがあった。

 

 しかし奪姫の『活力吸収』と、堕とし子()()が持つ『超再生』がそれを無かったことにする。敵対者の力尽きるまで活力を吸収し、無制限に復活するのが奪姫の戦い方なのだ。

 

 それでも精神は消耗する。堕とし子は子供なのだ、精神性がそこまで育っているものはまだ少なかった。

 

「奪姫姉ぇ、何度もこれやられるとしんどくなるよ」

「それでもやらないといけないのは分かってるでしょ艶羽姉ぇ」

「おれなら、まだまだやれる」

「目が覚めたら戦い方が一気に変わるんだよ、温存できないけど警戒はしないと」

「俺が皆を複製して先行させる!囮にもできるはずだ!」

 

 艶羽、灯火、大、崩華、仁と崩れていない面子は口々に声をあげる。けれど、静かになっている面子もいた。

 

「あんなレベルなんだ……私たちのおかーさん」

「信じたくない、なぁ」

 

 散月、消一。たった一撃で心が折れかけていた。戦局どころか、地形すら一撃で変えられるというのはそれ程恐ろしいものなのだ、死ぬことは無いが……終わりがないとも言える。

 

 ただ一名、奮起するものもいた。

 

 

「我が母なれば当然の威力!いずれ届く頂きとしては十分!」

 

 

 いつも雰囲気を良くも悪くもぶち壊す闇子だが、今だけは皆助かっていた。

 

「闇子の言う通りだ!止めるよ!」

 

 奪姫が闇子の頭を撫で、再び全員で相対する。ただ……相対するヴィランの目には、子供たちは映っていなかった。

 

「……オールフォーワン」

 

 かくしてヴィランの女王は子どもたちを無視し支配者へ歩みを進める。

 

 そこに待つ結末がどんなものであれ、何も分からない少女には進む以外に選択肢は無かった。

 

 

 

 




オールフォーワン「計画通り」



更新できないのは仕事忙しくてね……原作終わりくらいに間に合いたかったけど全然ダメだったな


30kmなのはツァーリボンバの殺傷範囲が上空で爆発すれば23km、三度火傷が100kmなんで地表面で爆発したら……くらいの目安

ようするに核爆弾が地表面で爆発したみたいな破壊力




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