普通少女のヴィランアカデミア   作:火ノ鷹

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最終巻買えてない……(´・ω・`)

更新しよ




彼らに依る戦場

 死柄木の移動速度は速い。何せワンフォーオールの60%以上が常時出ている上、『空気土流』の応用で空も走れるようになっている。デクの下に辿り着くのもすぐだった。

 

「ワンフォーオールを寄越せ緑谷」

「断る!」

 デクは瞬間的にOFA60%まで引き上げ、カウンターで踵落としで地上へ落とす。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と同時に迎撃態勢を整えていたのだ。

 

 神野で味わったオールフォーワンのような死の気配は無い。あるのは圧倒的なまでの力と意志であり、ワンフォーオールの理念にも近いものだった。

 

「まさか迎撃するとはなぁ……光速反応を防御と索敵に使ってたのはこういう訳か」

「何を言って」

 

 地上に叩き落とした死柄木は土煙の中から首をコキリと鳴らしながら現れる。何のダメージも無い余裕の表情だった。

 

 ただデクはそんなことよりも死柄木の言葉が気にかかっていた。光速の反応ができる個性等聞いたことが無い。あり得るとすれば……該当するヴィランが一人だけいた。

 答えは死柄木の口から出てきた。

 

「依光成生の個性だよ。知らないだろ?」

「奪った……いや、複製か」

「当たり前だ。あんなん奪えるか」

 

 複製個性があるかもしれないとは既にヒーローネットワークで共有されている。ハイエンド脳無の量産という『共通した個性を持っている』こと。いくら個性が数えきれない程存在するとは言っても、狙った偶然をヴィランが行うことは難しい。

 

 研究施設があるという情報があるなら、複製ができる可能性はあった。艶羽・ホークスによって情報は確定していたが、まさかMs.ダークライの個性を複製するとは考えられなかったことだった。

 

 何故ならMs.ダークライの個性は数人を除くヒーローからすれば『不明(指先発光)』。秘匿情報であるために個性をバラまくような真似はしないはずという固定観念があった。

 

 それが死柄木だけは例外だった。デクはさらに気を引き締め……増援が駆け付ける。

 

「グラントリノ!」

「お前ら!……やり合えてるのか!?」

 

 真っ先に駆け付けたのはグラントリノ。ワンフォーオールの全盛期や神野を経験している彼だ。同等の力を持っているとされる死柄木と真っ向に戦えているデクに驚いていた。

 

「じきに轟も来る!それまではヒーローの数で」

「さっきので押しきれないのは知っただろ。……ついでだ、ダメ押しもしてやるよ」

 

 死柄木から『広範囲電波』が放たれる。ほんの一瞬の間の後、地中から黒い脳無が十数体、姿を現す。

 

「久しブリの外」「アあ」「いイ」「悪くナイ」

 

 それも言葉を話す脳無。それらから繋がる脳無の正体は一つだ。

 

「ハイエンド……!?まだこんなに!?」

「備蓄ってやつさ。ドクターが調整終わったやつらは置いといてくれたんだよ。

 

 強いぜ?何せ……依光成生の素材を使ってるからなぁ」

 

 かつて普通の少女だった成生の身体の一部、髪や爪程度の素材を使った脳無だった。だがそれだけで安定性が上昇、製造難易度も下がるという特別製になる。

 代わりに攻撃的なヴィランを選別しても精神が安定してしまうために攻撃性が落ちる欠点こそあった。だがその程度ならn死柄木の『広範囲電波』でどうとでもなる。

 

 ニタリと笑う死柄木。成生から貰った力だ、なんだかんだ頼りにしている成生を自慢するのは嫌いではなかった。

 

「兄妹弟子のシナジーってやつだな」

 

 死柄木は一瞬だけだが油断した。ハイエンド脳無が展開され、味方が大量に増えたのだ。気が緩むのも仕方のないことではある。

 

 けれどそれを見逃すヒーローではない。

 

 

 

 

 透明化したヒーローと、炎熱ヒーローが死柄木の背後にいた。

 

 

 

 

「バニシング・フィストォ!」

「っ!?」

 

 余りにも唐突な衝撃と炎熱に燃やされ吹き飛ばされる。油断していたところにNo.1ヒーローの必殺拳が刺さったのだ、ネームドのヴィランですら沈黙する一撃だった。

 

 吹き飛ばされた死柄木は傷こそ負っていたが、ムクリと立ち上がる。

 

「キセルマイト!エンデヴァー!」

「連絡助かった!」

「まさかこう連携をとるとは思わなんだ」

 

 キセルマイトが持つ『透明化』は当人とエンデヴァー二人を透明にしていた。

 キセルマイトとは初対面のエンデヴァーには意外な助けでもあった。が、デクの支援だと聞いていたこと、予想以上の一撃を叩き込めたことで信頼するには十分と即座に判断を下していた。

 

「ハイエンドは集まってくるヒーローが対処する!死柄木に対処するぞ!デク!爆豪!キセルマイト!グラントリノ!」

「はい!」「分かってんだよ!」「おう!」「ああ!」

 

 エンデヴァーの一声で二人に遅れて駆け付けた周囲のプロヒーローがハイエンド脳無と戦闘を始める。少しずつ5人から距離をとっていっており、戦場を分断しようと動いていた。

 

 死柄木が気になったのは、そこではない。味方と思っていた一人が、向こうにいる事実だ。

 

「……『キセルマイト』?お前何言ってんだ」

「お前を倒すヒーローの名前だが。どうかしたか?」

 

 ()()()()()()()()()。電波を扱う死柄木には心音といったところから嘘も見破れる。AFOなら個性だけで見破れるが、未だ死柄木は慣れていない部分もあった。

 

 だが見破れる事実に変わりはない。キセルマイトが言った言葉は────全て真実であり彼自身の言葉だった。

 

 

「ハハハ!こいつは傑作だ!お前俺達を裏切ったのか!」

 

 

 死柄木はキセルマイトが依光成生の堕とし子、その長男であることを知っている。長男だ、本来なら最もしっかりすべきものであり……それが裏切る。長姉の電花を知っているからそっちがしっかり者になっているのだが、死柄木からすれば些事に過ぎない。

 

 大事なのは、堕とし子の中でも最上位にいる者が裏切っている事実。堕とし子達からすれば……本来なら全員で殺しに来る件だ。

 

 

「裏切った?キセルマイト……いや、動揺させるためか、死柄木」

 

 

 何も知らないデク達からすれば分断工作にしか聞こえない。知っている死柄木は、煽るように真実を口にする。

 

 

 

 

「何も知らないってのは楽でいいな!

 

 なぁ!依光成生の堕とし子、それも長男!依光優也!」

 

 

 

 依光成生の堕とし子。艶羽と同じであり、基本的にはヴィランに属する。その長男ともなれば最上位に位置するヴィランだ。

 

 それがヒーロー側にいる。スパイとしか考えられないムーブだ。

 

 

「……ふふ」

 

 

 キセルマイトは人差し指を立て、死柄木に押し出すように放つ────一点集中型のスマッシュ。スマッシュ・ピアーズだ。

 

 死柄木は吹き飛ばされ、再びムクリと立ち上がる。

 

「裏切る?当たり前だ!ヴィランの子なら必ずヴィランか?違うだろ!何よりおかーさんだって初めは違かった!

 

 そして偉大な父ヒーローを持つ僕は!ヒーローなんだよ!

 

 勇也の叫びに頷くヒーロー達。対して死柄木は苛立ちが勝り、一足飛びで襲い掛かる。

 

「灯火辺りが聞いたらキレそうなことだな!」

 

 No.1ヒーロー・エンデヴァー、元No.1ヒーローオールマイトの力を継ぐデク、元No.1ヒーローオールマイトの血を継ぐキセルマイト。サポートする爆豪とグラントリノ。

 

 彼らが最凶のヴィラン死柄木と激突した。

 

■■■

 

 時は少しだけ巻き戻る。マキアが移動を始め認識災害が誕生した頃の超常解放戦線とヒーローが激突する最前線。そこではまだ戦っているヴィランとヒーローが数多くいた。何せ主戦場の一つだ、撤退しようにもどちらかがが撤退を決めなければならない。そしてどちらも撤退の判断を下していなかった。

 

 判断を下せるのは超常解放戦線では外典、リ・デストロ。ヒーローではエッジショットとセメントス。制圧されかけていたところで戦線を押し広げるために出てきたヴィランと、マキアの余波と二人の猛攻から身を守るために前に出たヒーローだった。

 

 戦況はヒーローが圧倒的な有利。超常解放戦線の雑兵は刈られていき、主力も止められている。だが双方共に表情は焦りが浮かんでいた。

 

 それも当然。この場所はMs.ダークライの戦場に近い。数km程度しか距離が無く、いつ神野の斬撃が飛んでくるかも分からない。しかもMs.ダークライが使うのはレーザーである以上、超々遠距離狙撃を行ってくる可能性も否定できないのだ。

 

 それを裏付けるかのように、生存本能が危険信号を鳴らし続けていた。

 

 今すぐ撤退の判断を下さなければ、離れなければ死ぬ。四人とも分かっていた。だがリ・デストロが離れない以上外典が離れる選択は無く、セメントスとエッジショットも離れられない。

 

 リ・デストロが離れない理由は簡単だった。

 

(Ms.ダークライに何か起きているのは分かっている。さらには死柄木が不完全な起床もしている。

 

 どちらもおかしい状態なら……死柄木にはマキアが向かった。ならば私は残るだけだ。

 

 死ぬかもしれんな。だが────デストロの遺志に殉ずるのみ!)

 

 超常解放戦線となっても根本的理念が同じになった訳ではない。後継者として死柄木を選んだが、妹弟子にMs.ダークライがいるからというのが大きい。

 

 どちらも同盟対象であれば、どちらかを選ぶときにリ・デストロが選ぶのはMs.ダークライだった。

 

 何故ならデストロの思想に近いから。死柄木も体現者だが、Ms.ダークライも同等以上だ。

 

「早く離れたいのは山々だがな」

「デストロ。早く離れましょう」

 

 リ・デストロが一度エッジショットを吹き飛ばし、外典と合流した一瞬。範囲攻撃はあっても遠距離攻撃が無いと油断した外典の腹を一筋の紙が貫く。

 

「そこだ!」

 

 忍法千枚通し・遠。吹き飛ばされ離れていたが、エッジショットは身体を通常よりも薄くすることで更なる距離を獲得していた。神野の経験から、距離をとって戦う能力が必要と手にした技だった。

 

「かはっ!?」

「外典!」

 

 内臓を貫かれた外典が吐血する。広範囲攻撃持ちの外典が脱落すればヒーローへの対処が難しくなる。ヴィラン側がさらに劣勢になり……更なる絶望が押し寄せる。

 

「な、なんだ!?」「爆発!?」「光!?誰の個性だ!?」

 

 認識災害が放った『アンノウンホール・オーバーロード』の余波。爆心地からは離れている為直撃はしなかったものの、余波の範囲には十分入っていた。

 

 余波であるため威力は減衰しているものの、戦場全域を範囲とする超々広範囲攻撃など見逃せるわけがない。何より、負傷者に止めを刺す・一般人に重傷を負わせる破壊力は十分にあった。

 

 そして今、ヴィラン・ヒーロー共に負傷していない者の方が少ない。双方共に壊滅する破壊を齎すと四人が判断していた。

 

 

 

「「「マズい!」」」

 

 

 

 ヒーローとヴィランが同じ方向を向いて壁を作る。セメントスの壁も、リ・デストロの負荷塊も弱める。だが余りの広範囲故に、一部しか守りきれない。

 

「これでは」

「エッジショット!他のヒーローにも」

 

 セメントスが助けを呼ぼうとしたとき、リ・デストロが抱えていた外典が声を溢す。

 

 

 

「リ・デストロ……あなたを

 

 死なせは、しない

 

 

 

 セメントスが何重にも作られた壁が次々と破壊されていく。リ・デストロが前に立ち盾になろうとし────氷の竜がいくつも現れる。

 

「外典!」

「限界など、超えるだけです」

 

 余波にぶつかるのではない。グルグルと周囲を回り気温を下げ、さらに氷の竜が増えていく。明らかに限界を超えた操作量に、外典の吐血量が更に増える。

 

 気流が変わり竜巻のように変わっていく。中心が戦場そのものであり、命を燃やさなければ出来ない程の広範囲だった。

 

「氷の竜を嵐のように……!?」

「これは爆発の余波。なら風と衝撃、そして熱を遮断すれば安全です」

 

 氷の嵐。限界を明らかに超えた広範囲の防御に、余波の方向には更にセメントスが壁を作りきっていた。

 

 だがそれだけの範囲をカバーすればどうなるかなど分かり切っている。外典は大きく血を吐き、地に伏す。

 

 

「その傷で……!」

「……あなたに、助けられた命。惜しくは……ない

 

 

 致命傷を受けた状態で限界を遥かに超えた力の行使。衰弱死しない方がおかしい状態であり、命のカウントダウンが始まろうとしていた。

 

「外典!」 

 

 外典を抱きかかえるリ・デストロ。殉ずるつもりでこそあったが、こんな形で助けられたのならば外典を見捨てることなどできはしない。

 

 助けなければ────リ・デストロが表を上げた瞬間、外典の身体を紙が貫く。

 

「何をする!……?」

 

 少しずつ。微かにほんの少しずつだが、外典の息が整っていく。身体は貫かれたままだというのに、快調の方向に向かっているのは違いない。

 

「傷を与えたのは俺だ……治し方も分かる。図らずも助けられた形だ。何より……殺すつもりは無い。俺達は、ヒーローだからな」

 

 災害が引き起こした爆発の余波。ヴィランとヒーローは垣根を超えて立ち向かう。そこにあるのは生存本能だけ、敵も味方もないものだった。

 

 

■■■

 

「主よ!向かっているぞぉぉ!!!」

 

 蛇腔病院跡地、定例会の会場、残る二つの戦場の一つ、定例会の会場と蛇腔病院跡地のルート上。ギガントマキアは背中に幹部の面々を乗せ、ヒーローの妨害を無視し走っていた。

 

 散発的な妨害であるために無視していたが、如何せん数が多い。マキアに傷ができる威力のものすらあった。

 

「ヒーローの妨害が多くないです?」

「確かにな。マキアは止まらねぇけど」

 

 マキアは止まらない。痛覚遮断や頑強といった個性が、大きな妨害が無ければ止めることはできない特性をマキアに与えている。

 30mという巨体が物理的に止めることすら困難にしており、ヒーローも止められる手段は少なかった。

 

 ギガントマキア起動というヒーロー側の不幸。だが不幸中の幸いもあった。

 

「……これ最短ルートじゃないな。Ms.ダークライの戦場を警戒してる」

「まぁさっさと逃げないとマズい。大規模攻撃得意だからねぇ」

 

 マキアは最短ルートを通っていない。市街地がルート上にあったのだが、そこを外れているのだ。被害は出かねない程度の距離だが、ど真ん中を直進する訳ではないルートだった。

 

 マキアすら警戒するほどの異常事態。流石に親友は黙っていられなかった。

 

「成生ちゃん……」

「何心配してんだ。あいつだぞ?」

「一度確認してみるです」

 

 スピナーの呆れを無視し、成生に変身するトガ。それだけで成生と電波が繋がるように個性が使えるようになる……はずだった。

 

 トガの頭に届いたのは、頭を一瞬で沸騰させる音波が如き悲鳴。成生への変身に慣れているトガですら、数秒と耐えられず個性が解けていた。

 

「っ!頭がっ!」

「トガちゃん!?」

 

 Mr.コンプレスが膝から崩れ落ちるトガを支える。トガはすぐに立ち上がるも、息が上がっていた。

 

「はぁ……はぁ……これ、異常事態です。成生ちゃん力が制御できてない」

「暴走してんのか!?」

「でも今近付けない。生身でマグマの中に突っ込むような真似になるです」

「……ヒーローも近付けない。だからこっちに増援する形で来てるのか、面倒なことになってんな」

 

 状況を把握した荼毘が舌打ちを一つすると同時、急ブレーキを踏んだが如くマキアの動きが減速する。

 

「行かせない!」

 

 Mt.レディがマキアと手四つの態勢で真向から止めていた。20mとマキアに比べれば小さいものの、大きさという形で真向から止められるヒーローは彼女だけだ。

 

「蝿……いや、油断はしない。Ms.ダークライの成長を見てる」

 

 マキアが腕を合わせ力を込めようとしたところで、Mt.レディの髪に隠れていたシンリンカムイのツルが伸びる。腕同士を絡み合わせ、絶対に外れないように固定化していた。

 

「絶対に放すな!」

「分かってる!」

 

 Mt.レディとシンリンカムイの固定。特に何も思わない戦闘ならマキアでも止められるものだったが、今は主がおりその命令に従っている最中という、マキアが最も高揚するシチュエーションだ。

 

 『高揚』の個性があるマキアは気分が高まれば力も高まる。振り払えるだけの力が十分にあった。

 

「邪魔」

 

 振り払おうとし……ズズという音と共に踏ん張りがきかないことに気づく。

 

 Mt.レディの足元、そこにいたのはサンドマン。地面を『柔化』され、足をとられる。

 

「こっちに合流できてよかった。すぐ向こうに向かいます」

「十分!危険なとこに来てくれてありがと!」

 

 上半身を固定化され、踏ん張りも効かないとなれば沈むだけ。マキアの危機に助けを出したのは荼毘。

 

 マキアの腕ごと燃やすことでシンリンカムイの固定化を解いていた。放っておけば背中まで伝っていた『樹木』だ、止めるついでと言わんばかりだった。

 

「熱っ!」

「……同志よ、助かった」

「こいつお礼なんて言うんだな」

「実際に危なかったからな。俺もこいつを拘束できるなんて思ってなかった、マキアの強さ知ってるからこそヒーローを甘く見てたな」

 

 スピナーの言葉にMr.コンプレスも頷く。

 

 今度こそとマキアがMt.レディを振り払い、柔化された地面から片足ずつ抜けていく。

 

 落ちそうになっていた背中の面々を確認し、再び走る方向へマキアは顔を向ける。

 

 その真正面に、十数人の仮免ヒーローの姿があった。

 

「Mt.レディ!そいつの口を開けるように!」

「雄英生!?何でここに!」

 

 散らばって動いてこそいるものの、そこにいたのは紛れもなく雄英高校A・B組の生徒だった。轟や飯田といった病院側の面子はいないが、こちら側のバックアップの人員は()()()()()()全員が参加していた。

 

「私の指示よ!文句は言わせない!」

 

 ミッドナイトが眠り香を扇に乗せ、マキアの顔と背中に届くよう投げようとし……突如現れた瓦礫に止められる。

 

「アンタは止めさせてもらおうかな」

 

 Mr.コンプレスの圧縮された玉が飛んできていたのだった。ミッドナイトは舌打ちを一つし、クリエティにパチンと指を鳴らし合図する。

 

「ミッドナイト、どうして」

「プロと言えど数人では止められない!なら助けるのが私たちの役目です!」

「そういうことよ。即興だけど罠もいくつか準備してる。死柄木に合流されたら私達の負けよ」

 

 Mt.レディの疑問にクリエティが、ミッドナイトが答える。

 

 既にヒーローもヴィランも全戦力を投じている。相性も考えられたものであり。これ以上の駒はどこかの戦場で決着が着かない限り動き得ない。

 

 あるとすれば、数はヒーローの方が有利と言うだけ。

 

「まだまだ増援も来る!あっちは来ない!ここが正念場よ!」

「「「はい!」」」

 

 雄英生徒から声が上がる。分かりやすく戦意も向上しており、マキアが埋まった足を上げる隙に動き出す。マキアの背中にいる面子は30mという距離のために粗い攻撃しかできない、当たるヒーローはいなかった。

 

 さらにその間に、シンリンカムイからミッドナイトに通信が入る。最重要人物がいなかったからだ。

 

『……烈怒頼雄斗は?』

『烈怒頼雄斗だけは別働隊です』

 

 この場にいないたった一人。彼が向かったのはこの戦場ではなかった。

 

 

 

 

 最後に残る、もう一つの戦場。最も過酷であり、プロヒーローですら生半可な覚悟では行ってはいけない地点。

 

 依光成生と呼ばれた存在が動く、ルート上に彼はいた。

 

「分からない……」

「仁!ルート上に誰か……っ!?どうして!?」

 

 奪姫の言葉に堕とし子どころか認識災害でさえも目を向ける。まるで『目立つ』ことが彼がもつ個性であるかのように、この場の全員が注目していた。

 

 

 

「見てらんねぇ姿になってんな。

 

 

 惚れた女一人守れなくて……(おとこ)名乗れるかよ」

 

 

 

 烈怒頼雄斗(切島鋭児郎)。普通の少女である依光成生の理解者、当時のヴィランとしても理解はしていた。個性だけは分かっていないが、理解しようとはしていた。

 

 

 「っ!俺にも影響出るのか……漢が好きな女忘れるかよ。それは俺が俺らしくないってことだろ」

 

 

 普通の少女の始めの頃の理解者はオールフォーワンだった。だがその後の完全な理解者はいない。いるのは不完全な理解者だけだ。烈怒頼雄斗も例外ではない。

 

 一人だけでは足りない。堕とし子だけでは足りない。少女の理解者だけでもヴィランの理解者だけでも不完全だ。

 

 

 

 彼らが揃っても未だ……足りない。

 

 

 

 けれどここには、最も理解している者達が揃いつつあった。

 

 

「なぁ、オールフォーワンに逢う前に俺と逢っていけよ。成生」

 

「きり……し……」

 

 

 

 認識災害が焦点の定まらない目は、一瞬だけ碧色をしていた。

 

 

 

 

 

 

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