蛇腔病院跡地。死柄木弔とエンデヴァー達ヒーローの戦いは互角だった……が、個性を抹消されている死柄木側が劣勢。
弔は膝を突く程に消耗しながらも、眼光はヒーロー達に向けていた。戦意はまだまだ衰えてはいなかった。
「死柄木弔。いくら力を得ようとも……!信念無き破壊に我らが屈することはない!」
エンデヴァーの言葉に弔は立ち上がる。
弔は何もかもを破壊する。けれどそこには何の感情も無い訳ではない。
スピナーという友、成生という妹弟子にして肩を並べられる戦友、ヴィラン連合という居場所。
ヒーロー達が市民を守るために戦うのなら、
「ぐぅ……!流石に、強いな。信念?無いとでも思ってんのか……!
ヒーローってのは他人を助けるために、家族を傷つける。あいつは確か……
彼女はまさしくヴィラン。自分が第一であり、そのためなら何を犠牲にしても構わないという覚悟を持っている。
だからこそ弔は……実のところ成生が自身よりもヴィランとして格が上だと思っていた。自分がやったのは事故に近いが、彼女は自覚して行ったのだから。
しかもその後先生に拾われるまでは彷徨っていた。成生はその時期すらない。
自分よりも上のヴィラン。その力と意志はここにある、だからこそ……ヒーロー達と渡り合える。
「
過去……何世代も、守れなかったものを見ないフリして、傷んだ上から蓋をして、浅ましくも築き上げてきた」『消えてしまえ』
弔の声が一部だけ二重に響く。個性に彼女自身を所持しているのだ、弔が意志を表に出せば現れるのも必然だった。
「小さな、『小さな積み重ねだ』」
「守られることに慣れ切った市民ども、『反吐が出る』」
「その市民どもを生み出し庇護する、マッチポンプ……『見たくもない』」
「『故に自らの姿をさらし出せば、その先の結末が見える。だから
「『理解できなくていい。所詮俺達は、ヒーローとヴィランだ』」
自分達の為に戦うヴィランと、皆の為に戦うヒーロー。理解できなくて当然。
弔の言葉をヒーロー達も理解できてしまうが故に、一瞬が命取りになる戦いが再開する。
「インターバルをどうも!まだまだ続きそうだな!沈んでいいぞ!」
「笑わせんな」
一瞬で距離を詰めエンデヴァーのバニシング・フィストが放たれるも、弔は最小限の動作で避ける。戦いの中の成長により、一つ一つの動作が研ぎ澄まされていた。
そのまま左手でエンデヴァーの炎を払い、自らを隠すように振るう。
姿が一瞬だけ見えなくなる。それだけで十分。
エンデヴァーの追撃になるよう動いていたグラントリノが目の前にいたのだから。
「しまっ」
「グラントリノ!」
グラントリノの足を掴み地面に叩きつける。そして拳を固め振り下ろそうとし、キセルマイトの右腕に弾かれる。
「またお前か」
「いい言葉だな、俺がヒーローでお前はヴィラン。シンプルでいい」
「裏切り者のヒーローがよく言うぜ」
続くキセルマイトの左拳にカウンターで上空へ蹴り飛ばすも、そのまま降りてこない。
それも当然、空には陣取っているヒーローがいるのだ。もっとも厄介な
「浮遊がうざったいな」
「お前が相手なら全力だ」
『浮遊』はデクが触れられれば発動できる。『黒鞭』によって遠距離からでも触れるデクなら、空に避難させることも容易い。
ただ空は安全圏ではない。デクと同等以上の身体能力を持つ死柄木ならエアフォースと同じ動きが可能に、つまりは空も身体能力で跳べる。
一時避難程度。しかし時間が稼げればダメージを蓄積させ続けることができる。長期戦になれば勝利が確定していた。
ただそれは弔が長期戦で個性を使いこなすことが出来なければ、の頭文字がついた話だ。
「そうか、なら俺もぶつけるか」
デクの戦略を嘲笑い弔は右腕を引き絞る。パンプアップしていく右腕には
これまでにない力の使い方。『なりたい自分になる』個性は複数の個性を持つ場合において爆発的な速度で個性を使い
長期戦になれば、どんどん圧倒するのは弔の方だった。
「?何を」
「こうやるんだろ?溜めて────放つ!」
込められた力はワンフォーオールの100%と同等かそれ以上。拡散されない使い方もされており、風圧だが当たれば間違いなく超長距離吹き飛ばされる。
戦線復帰が不可能になる程の距離を、だ。
「赫灼熱拳、バカな」
当たる訳にはいかない、ヒーロー達は全員回避に専念する。
そして当然エンデヴァーは気づく。ここまでの戦闘で赫灼熱拳は何度も使ったのだ、模倣される可能性は0ではない。
だが限りなく0のはずだった。なにせ余りにも短時間が過ぎた、数十分と経っていないのだ。
爆豪やショートですら一週間といった単位で試行錯誤して到達したというのに、比較することすら馬鹿らしい速度だ。
「俺の前で技を使い過ぎたな。教科書には丁度よかったぜ」
弔は何のことは跳躍し接近しながら何でも無いという言葉を告げる。
瞬きする程の時間で到達した目標は────イレイザーヘッド。
「これでまず一人だ」
「浮遊解除!」「デク!落とせ!」「間に合えっ」「くっ」「機動力を削ぐ!」
デクの『浮遊』が解除、『黒鞭』で浮遊していた面子が地面に落とされつつ、グラントリノとキセルマイトがイレイザーヘッドと弔の間に入る。
エンデヴァーは弔の足を焼き機動力を削ぐ。
一瞬の攻防。瞬きすら許されない超速戦闘が行われる。
「ぐ……ぅ!」
「くそっ」
結果、キセルマイトの右腕とグラントリノの左腕、二人の腕が手刀で切り落とされていた。が、イレイザーヘッドは守られていた。
「外したか、だがこれで二人脱落だ」
「グラントリノ!キセルマイト!」
自らは浮遊しつつ黒鞭で迎撃していたデクが二人を黒鞭で支え、弔には弾いて地面に叩きつけるように黒鞭を振るう。
「馬鹿言ってんじゃねぇ」「この程度なら」
グラントリノとキセルマイトが傷跡を抑えつつ声高に戦意を示す。
二人の高揚させようとする声に、否定を返す言葉が叩きつけられた地面の粉塵の中から届く。
「いいや脱落さ、俺が切り込んだ時にべったり傷跡についただろ?」
「「な」」
二人の身体が硬直する。浮遊が無ければそのまま地面に墜落していったであろう姿に、デクは二人に向けていた視線を死柄木へ向ける。
「今の俺の身体はあいつとほぼ同じ特性だ。あいつほど独善的じゃないが……拒絶反応を引き起こす。数時間は動けないだろうさ」
成生と同じ特性、個性があまりにも独善的過ぎるが故に他人が入ることを許容しないこと。これにAFOが加われば、自らの一部がほんの僅かでも相手に侵入すれば機能不全に陥らせることができる。
堕とし子であるキセルマイトは時間さえあれば復帰できるが、グラントリノは確実に行動できなくなっていた。
「さて」
「隙だらけだ!」
立ち上がり力を再び込めようとする死柄木に爆豪による爆撃が襲う。
持ち前のセンスと、死柄木からは執着もされず狙われていないために牽制としての攻撃が綺麗に決まる。
続くのは親友による追撃。完璧な連携だった。
「邪魔だな……っ!?」
「黒鞭による加速──ワイオミングスマッシュ!」
両手を振りかぶり叩きつけるスマッシュ、それをあらかじめ地面に伸ばし固定していた黒鞭をバネのようにして加速し放つ。100%の威力にこそ届かないものの、死柄木に致命傷を与えるだけのパワーは込められている。
「今の俺は、
「嘘だろ!?」
だが、死柄木は耐えた。頭から叩き潰すように放たれたスマッシュでも、倒れることは無かった。
力を溜め込んでいた死柄木の妨害が出来なかった以上、回避しなければならない攻撃が再び放たれる────イレイザーヘッドへ。
「溜めて、一点に打ち抜く────そこだ」
「っ!せんせぇ!」
デクが黒鞭を伸ばしイレイザーヘッドを浮遊から地面へと逃がす。さっきの一撃が再び放たれ、デク以外は空で避けられないのであれば当然の行動。
気づいたのは、狙われていない爆豪だけだった。
「違う!そっちじゃねぇ!」
ニヤリと死柄木が笑う。右腕で放った一撃に隠し、左手で投げていたのだ。手の平で放る程度であったが、死柄木の身体能力があれば銃弾並の加速を起こす。
────個性消失弾。かつてそう言われた弾がイレイザーヘッドの左腕に突き刺さる。
「っ!」
捕縛布でイレイザーヘッドの口元は見えない。本人だけがその表情を理解できる。
イレイザーヘッドは、笑っていた。これ程の強敵を相手に、ヒーローとして自らを捧げられることの喜び。自己犠牲の極致。
右手に握るナイフの切っ先を自らの左上に向けた。
「死柄木お前が相手なら────迷わず、切り捨てられる」
直撃した後、数瞬の時間。イレイザーヘッドは即断で自らの左腕を斬り捨てた。着弾点が切り離されたことで個性破壊弾は効果を失くし、再び抹消の個性が動き始める。
だが数瞬の時間だけ効果は途切れた。それが意味することは一つ。
「十分」
火傷や打撃の傷跡が勢いよく再生していき死柄木は万全の状態に戻りながら走り、イレイザーヘッドの下へ辿り着く。
「これでクソゲーは終わりだ」
イレイザーヘッドに手がかかる。『崩壊』も復活した掌だ、五指が触れられれば即死だった。ひたりひたりとイレイザーヘッドの目に指がかかる。
しかし、そこで死柄木は引きはがされた。
「終わらせん!」
「キセルマイト!?」
死柄木の足がキセルマイトに捕まれ引っ張られ、死柄木はそのまま投げ飛ばされる。
ギリギリのタイミング。ギリギリで……
「一歩、届かなかった……!」
イレイザーヘッドの眼球は傷ついていた。抉られてこそいないものの、視力は皆無。至近距離なら見えなくもない程まで低下しており、抹消も効果を失ってしまう。
「先生!」
爆豪がイレイザーヘッドの容態を確認し、キセルマイトは死柄木の方へ視線を向ける。
キセルマイトが死柄木を投げ飛ばした先、空からデクが黒鞭で身体を縛っていた。即興の連携だったが、黒鞭すら崩壊させる死柄木には一時しのぎにしかならない。
「黒鞭でもっダメかっ!」
「ワンアクション程度だな緑谷!」
黒鞭を振り払い、そのまま着地する。死柄木の目はキセルマイトに向けられていた。
「そうか、お前は堕とし子だったな。血も効かなければ……俺と同じ、『超再生』を」
「腕一本は時間かかったがな!」
死柄木の血そのものは独善的なものではない。『成生の個性が使える』死柄木の血が独善的なのだ。
言い換えれば成生の血に耐性がある者であれば動きは止まるもののすぐに復帰できる。キセルマイト……依光勇也の半分はそれであり、耐性が無い訳が無かった。
「だが個性が使えるようになった今」
何もかもが終わる。そう告げようとした死柄木に────ブシュ、という音が鳴り身体へ亀裂が入る。
「────あ?俺にも『超再生』と成生のやつが…………反動か。完全起動じゃなかったからか」
「身体が、ついてきてない」
デクは死柄木の現象に即座に気づく。デクのワンフォーオールもまた同じ特性を持つ個性、強大過ぎる身体には相応の身体が無ければ操作が追い付かない、全力を出せない。
操作が追い付かず全力を出せば、身体が壊れる。デクは
「ま、時間おけば治る。今は」
「『煙幕』」
本来使えないはずの6th『煙』の個性。『なりたい自分になる』個性の他人への影響力により、成長している今のデクであれば使える個性。
死柄木だけが成長するのではない。成生の個性は他人にも影響を及ぼす。だからこそ、ワンフォーオールの最大の特徴────複数個性による爆発力を実現可能にする。
「なんだこ」
「デトロイトスマッシュ!」
「待てデク!」
爆豪が止めるもデクは止まらない。煙幕の中を突っ切り、右拳を死柄木のどてっぱらに叩き込む。
「『黒鞭』『浮遊』」「デク!」
「おまえっ!」
黒鞭により捕縛され、そのまま浮遊で空へとばされる。死柄木は焦りが表情に出ていた。
傷跡を狙われていたからだ。『超再生』が効いていない傷を狙われれば死柄木といえど傷が残る。
が、デクの表情を見てその考えを捨てた。
死柄木どころではない必死さ。デクはここで止めなければならないという使命を感じ取り戦い方を変えた。死柄木もそれを感じ取ったから受けて立つと覚悟を示したのだった。
「100%テキサススマッシュ!」
「っ!」
が、どこまでいっても死柄木はヴィラン、デクはヒーローだった。その明確な違いは……援護が確約されているかどうか。
「カロライナスマッシュ!」
「てめぇっ!」
死柄木のタイマンを予期した覚悟に水を差す。キセルマイトがデクに連携して全力をぶつけてきていた。
小手先のパワーではない、オールマイトにも近い全力だ。その破壊力はデクの100%とほぼ同じ威力だった。
「100%セントルイススマッシュ!」
「ぐっ猛攻だな緑谷ぁ!!!」
決死の猛攻。ただ死柄木には少しだけ余裕があった。
黒鞭で縛られているため、引き寄せられるタイミングと拳や足の予備動作から狙いの部位は分かっている。ならばそこに破壊的な威力が来ると覚悟し、事前に空気を固めたり身体を硬化させるといった対策が可能だった。
故にまだ問題ない。その考えをヒーローは打ち砕く。
「合わせる!」「はい!」
「っ!!!」
キセルマイトとデクの狙いが重なる。前後から挟む形で彼らの拳は放たれた。
「がっ!!!」
二人の全力。しかもそれを傷跡に叩き込まれ、死柄木に明確なダメージが入る。
「っ!マズいな」
黒鞭を崩壊で振り払い、再び捕縛しようと飛んでくる黒鞭を警戒する死柄木。考えることは打開の手。
ダメージは直撃してる。だが防御できているから耐えられていた。
けれどキセルマイトが入ると防御が難しくなりダメージがそのまま直撃コースになる。超回復による回復も間に合わない。
形としては真正面から戦えばどっちが死ぬかのチキンレースだ。それも面白いが、相手にキセルマイトが居る以上分が悪い。
手は色々とあるがキセルマイトなら突破しかねない。であれば、使うべきは最大火力かつ最適な手段だ。
「なら、これだ」
黒鞭が何もない空中でバチンと弾かれる。空中に壁が作られたかのような現象に二人は一瞬だけ戸惑う。
「こいつはっ!?」
「空気が、地面みたいに!」
だが戸惑いも一瞬、その視線は死柄木に向けられていた。正確には死柄木の────掌だ。
地面という固定化した存在と化した空中。地面を『崩壊』させることで大規模破壊を齎したなら、空中も地面として扱えるなら、見えない『崩壊』の伝播を空中に走らせることが可能になる。
『崩壊』という個性を最も信ずるからこその手段。その思考は成生の『指先を光らせる』個性を最も信ずるからこその手段という考えと同じだった。
だが、ヒーローは怯まない。
「……デク!援護する、突っ込め!」
「はい!」
キセルマイトを少しだけ後ろにした配置で、二人は死柄木へ突っ込む。
間には『崩れた空』。触れれば即死の壁に二人は挑む。死柄木は迎撃の態勢をとるも、突破などできないと油断していた。
「バカが」
「バカはお前だ死柄木!技を借りるぞデク──デトロイト・デラウェア・スマッシュ!」
両手を拳から開くように放たれる、破壊的な威力をもった風圧。かつて緑谷がマスキュラ―に放ったそれだが、同じ身体能力を持つキセルマイトも当然使える。
余りにも広範囲過ぎる威力であるために使わなかっただけであり、空という空間であれば気にせず使用できる。
そしてキセルマイトには十分な技量がある。デクを巻き込まずに『崩れた空』だけを吹き飛ばせる技量が。
「なっ」
「100%ワイオミングスマッシュ!」
再び空から叩き落すように放つスマッシュ。先程は死柄木に耐えられたが、今度はダメージが目的ではない。
デクは使命感に呑まれていた。それは間違いではない。だが同時に冷静でもあった。
怒るのはいい、だがそれを制御しろ。5thから『黒鞭』と共に受け取ったアドバイス。怒りだけではない感情の制御、デクはそれが出来つつあった。
だからこそ────誰かを頼る。それが今のヒーローなのだから。
「そこだ!エンデヴァー!」
当然、最もデクが信頼する
叩き落されている死柄木を全身でエンデヴァーが受け止める。
「何を」
そして、ヒーローが持つ最大火力が放たれた。
全身が焼かれていく。超回復すら間に合わない、全身が炭化すら程の獄炎。
反射も、『なりたい自分になる』個性も意味をなさない。既に焼かれている以上、全て手遅れだ。
どんどん意識が遠のいていく死柄木に、精神の内側から声がかけられた。
【油断したね弔。成生に教わらなかったかい?油断したらダメだと】
「せん、せい」
【身体を貸してごらん。成生と共に力の使い方ってものを見せてあげよう】
死柄木の意識がAFOに呑まれていく。二人を興味深そうに見つめる一人の少女を精神内に宿し、AFOは死柄木の身体を以て現実世界に顕現させる。
エンデヴァーのプロミネンスバーンが放たれ終わる。そこに残っていたのは、炭化したような人の身体。
そして、エンデヴァーだけは分かってしまっていた。
「なぜ、死なん」
これでは、終わらないと。
「『【お返しだ】』」
三重に聞こえる声と共に放つ『鋲突』の個性。脊髄から生やし伸ばし、無数に枝分かれする個性だ。
その先は尖っており、光速には届かないが高速で貫く槍と化す。
エンデヴァーを狙うと思われたそれは……不意を打つようにデクの真後ろから放たれた。
気づけたのは、一人だけだった。
「っ!」
「────か、っちゃん」
デクをどかすように体当たりし、デクの身代わりとなった爆豪。そのまま空から墜落し、浮遊によってゆったりと着地する。
致命傷ではないにせよ、戦線復帰は困難な傷。デクが唇を噛み締めるのも必然だった。
「『【役に立たない者による肉壁か。ヒーローらしからぬ戦い方……いや、ヒーローとはかけ離れた者だから当然】』」
AFOらしからぬ発言。成生による思考回路が混じっており、爆豪への私怨が入っていた。
だが、今のデクにはこれ以上ない侮辱だった。
「取り消せ!」
「待てデク!」
キセルマイトの引き止めもむなしく、デクはAFOへ突っ込む。考え無しではない、キセルマイトの援護があると確信しての行動でもあった。
対応してキセルマイトもデクの後ろを行き、拳を振りかぶっていた。どんな攻撃でもキセルマイトのパワーなら弾ける、そう確信しての選択だ。
今のAFO相手でなければ、それでよかった。しかし今のAFOには、普通の少女が宿っているのだ。
次の瞬間、デクとキセルマイトの二人が捕捉していたAFOが、一瞬でその姿を消した。
「な」
「っ!転移かっ!?」
キセルマイトの読みは正解。AFOは一瞬で上空に転移したのだ。かつてMs.ダークライと呼ばれたヴィランの戦法だった。
そして、AFOは触れば『個性を奪える』。一瞬見失った二人の目の前に、再び姿を現す。完全な不意打ちだった。
「『【捕まえた】』」
デクの顔に触るAFO。『オールフォーワン』、『個性を奪う個性』が動き、『ワンフォーオール』を奪うよう発動した。
「やっと触れた。貰うよワンフォーオー……?」
発動と同時に
蛇腔病院跡地の戦場ではない、ただそこにあるのは真っ暗闇と地面だけ。地面には罅が入っており、死柄木が暴れればすぐに崩れそうな世界だ。
「ここは……」
この世界では未だ口は暗闇に覆われ声はほぼ出せない状態だが緑谷は知っている。以前5th『黒鞭』を教えてくれた時と同じ場所、すなわち────ワンフォーオールに宿る精神世界だ。
あの時と違うのは……ここにいるのが自分やワンフォーオールに連なる者
「死柄木!」
倒れ伏すデクの視線の先、死柄木がそこにいた。弔の左半身はAFOに侵され、その背後には背中合わせに一人の少女が立っている。
「依光成生まで」
「クソがっ……出て来るな……!」
死柄木は侵されている側だからか、はたまた不本意だからかAFOを受け入れる気は無いようだった。
少女はただ立っているだけ。けれどどこか、死柄木を支えているようにもデクには見えていた。
【そうは言っても弔、僕が居なきゃ炭と化して死んでたか、成生が代わりに動いてただけだぜ?】
「黙ってろ!そっちの方がまだマシだっ……!俺の夢を、意志を理解してるあいつなら……!」
『……嬉しいこと言うんだね』
死柄木はAFOに抗いながらデクの方へ
歩くことが出来る。それだけでデクとはこの場における力の差は歴然。立つことすらままならないデクには、どうすることもできない。
どうにかしないと。そう歯を食いしばるデク────を、撫でる一人の女性がいつの間にか現れていた。
「君はまだこの世界ではマトモに動けない。
私達が、何とかする」
ワンフォーオールの前任者、志村菜々がそこにいた。
長くなったので一旦ここまで