普通少女のヴィランアカデミア   作:火ノ鷹

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仕事がバチクソ忙し過ぎて執筆時間が取れない……

誤字報告ありがとうございます


合流

「このままでは合流されます……!」

「っ!それでもいい!せめて体力を削れるだけ削る!」

 

 本気となったギガントマキア。その力は絶大であり、邪魔なヒーローを全て排除できるだけの力を秘めていた。

 

 不幸中の幸いは、ギガントマキアの進行ルートに市街地は()()()()()()()()こと。であるが故に、ヒーローは距離をとった。ヒーローは守らなければならないのだ。

 

「マキアの被害から市民を守ることを優先!妨害できるものだけマキアの方へ!」

 

 そこまで多くないということは、無視できない程の市民が居るということ。

 

 そして……マキアを止められないということは、市民側に協力を要請しなければ被害を止められないということ。ヒーローにとっては屈辱そのものと言っていいものだ。

 

 

 心が折れても、なんらおかしくない程に。

 

 

「先生……これでは………私たちの、負」

「それ以上はダメ」

 

 クリエティの言葉をミッドナイトが遮る。クリエティが見たミッドナイトの横顔はヒーローらしいもの……なのだが、どこか忌々しいと言わんばかりのものでもあった。

 

 

「まだ終わってない。例え敵が強大でも、被害が出ても……諦めたらダメ」

 

 

 諦めてはいけない。ヒーローにとっては当たり前のことだが、目の前の光景には耐え切れない者も多いだろう。クリエティですらそう思ってしまうのだ、分かっていても感情として対処が難しいものだった。

 

 だがミッドナイトの認識はそこだけではない。むしろそこだけならミッドナイトも理解できるのだ、まだ高校生の生徒に見せるには刺激が強過ぎる……諦めてもおかしくないだろうと。

 問題は目の前の被害ではない、その先の話だ。

 

 

「諦めるようでは、Ms.ダークライの被害者になってしまうわ」

「───!!!」

 

 

 ヒーローが諦めるだけならまだいい。その先に、ヴィジランテまで堕ちる可能性が十分以上にあり得る。それこそが問題だった。

 

「ヒーローが諦めるということは突出した善側から0に近づくこと。それを見逃すMs.ダークライだとは思えない」

「でも、今は暴走してると」

「それが真実であるかなんて『分からない』でしょ?」

 

 Ms.ダークライが倒れない限りヒーローは諦める選択肢が無い。諦めればヒーローがどうなるかはヒーロー自身が分かっている。

 暴走も……()()Ms.ダークライなのだ、簡単に倒れるヴィランではない。希望的観測にも程があると、信じる価値もないと断じていた。

 

 

「彼女は思想や思考が『分からない』。だからどんなことがあってもその存在をヒーローも、ヴィランも、市民も忘れることは無いでしょう。極限状態なら尚更ね。

 

 『分からない』ものほど恐ろしいものはないのだから」

 

 

 ミッドナイトの言葉は正しい。その証左もあった。

 

 Ms.ダークライに推された者は、形はどうあれ『自分を助けてくれた人』としてしか見ていない。故に依光成生が自身を分からなくなっても、その影響が他人に及んでも、誰かに助けられた事実は残る。

 

 逆に何もされていない者には『何も分からないヴィラン』とは『恐怖』そのもの。幽霊が暴れているようなものなのだ。

 

 仮に依光成生が『分からない』ままの状態に、認識できなくなっても『恐怖』は誰しも持っている感情だ。恐れているものが天災でもヴィランでも、『恐怖』すればそれだけで依光成生はフラッシュバックするようになってしまうのだ。

 

 

 

 故に、依光成生が忘れさせようとしても、忘れられない。『恐怖』そのものなのだから。

 

 

 

最悪マキアは止めなくていい!被害を減らせ!」

 

 

 

 

 前線に立つヒーローが叫ぶ。他のヒーローも言われずとも分かっており、皆が動いていた。

 

 ヒーローは粘る。最優先は市民を助けるために動き、マキアの足を止める者達は動けるだけ動く。Mt.レディ、シンリンカムイ、Mr.スケプティック、動けるヒーローは決死の覚悟で動き

 

 

 ───マキアの体力は、もう数アクション程度まで減らされていっていた。

 

 

 ■■■

 

「やっぱ……止められないな……!」

「流石は成生ちゃんなのです……!」

 

 烈怒頼雄斗、トガ、堕とし子たちという全盛期のオールマイトですら止められる戦力が真正面から立ち塞がり、なお止まらない依光成生(分からない)

 

 けれど全員が分かっていた。止められないことなど承知の上だった。その上で、成生にはこれだけの止められる意志が揃っているのだと示したかったのだ。

 

 示さなければ成生はAFOの手に落ちる可能性があったからだ。勘で察している奪姫と……()()()()()()()艶羽だけは死に物狂いだった。

 

「……」

 

 成生は声すら出さない。それだけのエネルギーを消費していることもあるが……個性の影響だ。代わりに表情には、成生の感情が現れていた。

 

「泣いて……笑ってる……?」

 

 個性によって身体は勝手に動いているような状態なのだ。止めてくれる人が居るというは何よりも嬉しく……止まらない自分が嫌だった。

 

 灯火の言葉に、目の前すら正しく認識できない程に死に物狂いだった二人の思考に一つの考えが浮かぶ。

 

 

「……そう」

 

 

 判断を下せるのはリーダーである奪姫だけ。ほんの一瞬の逡巡の後、奪姫は行動指針を変えるように考えをシフトする。

 

「奪姫姉」

「艶羽……いえ、分かっているわ」

 

 艶羽も判断は一足遅れて奪姫に届く。艶羽は余りにも情報を抱え過ぎることが多いため、判断速度は奪姫よりも遅いのだった。

 

 奪姫は艶羽と灯火を近くへ呼ぶ。一瞬で現れる二人に電波を切り、言葉で話す。

 

「……灯火、艶羽。よく聞きなさい」

「ん」「聞くよ」

「あなた達二人以外でおかーさんの余波を抑える。私の個性なら『奪う』ことができるはず」

「……奪姫、ねえさん?」

 

 困惑する灯火。止めると決めたにもかかわらず主戦力二人がいなくなるなどあってはならない。そんなことをすれば今は足を遅くしているだけにしかできていないが……止めることなど()()()()()()

 

 奪姫と艶羽の表情は変わらない。二人にはもう分かっていた。

 

 

 

 どう足掻こうと今のおかーさんは止められないのだ、と。

 

 

 

 故に、次の策へ移る。奪姫だけが判断を下せる、次の策へと。

 

「直接的には切島お兄さんとトガさんが止める。二人は……ヒーローとヴィランの人たちに合流しなさい

「「!!!」」

 

 文字通りの言葉。二人にとっても第一は堕とし子と母親なのだ、それを諦めろと言っているようにしか聞こえなかった。

 

 二人は奪姫を睨み───気づく。一番辛いのは一番上の姉、奪姫なのだ。もっとも大切なものを一番先に投げ出した、だからこそ伝わる意志がそこにはあった。

 

「私達はどちらにも深入りしてない。あなた達の声なら聞こえるでしょ」

「でも」

「……本当に、それでいいの?」

 

 灯火が判断を伸ばしかけ、艶羽がそれを潰す。灯火にとっては、まだ判断が吞み込みきれていないのだ。不安がぬぐい切れていなかった。

 

 そんな灯火()を安心させるのは、姉の仕事だ。

 

「もちろん死ぬ気なんてサラサラ無いから安心なさい。待ってる人がいるのは、何もあなた達二人だけじゃない」

「……?それって」

 

 三人の会話の間に成生の抑えが効かず成生の傍から熱が噴出する。成生の持つエネルギーが熱として周囲に流れる……余波に過ぎない。

 奪姫がいれば抑えきれるが、数瞬の話している間だけで抑えられないのだ。

 

 話す時間も、もう無くなっていた。

 

「行きなさい!」

「っ!!!」

「ありがと奪姫姉」

 

 灯火は転移、艶羽は天翼で一瞬で戦域を離れる。ただ灯火はどこに移動するか一瞬悩み、距離をとってから判断するという離れ方だった。

 艶羽は悩むことなく飛んでいく。行く場所は既に決まっていた。

 

「さて、闇子も艶羽についていったみたいだけど……まぁいいわ。今は、あの状態のおかーさんを誰にでも見られる程度にしないと。

 

 大はボディガード、仁は私を増やしなさい。消一と散月は私と同じようにおかーさんを抑えて」

 

 二人を見届けた奪姫は決意を固める。これは誰かがやらねばならない……半ば捨て石。

 

 それを堕とし子全員がやらねばならない羽目になることだけは避けた。なら後は全力で走るだけ。

 

 

「全員で、全力で個性を行使し続ける!

 

 大は私達を守りながら広範囲電波で捕捉し続けなさい!捕捉したおかーさんから私の個性で余波を奪う!消一と散月は奪った私の力を消して抑えて!」

「でもそれは」

「溢れたプールの水を風呂桶ですくうようなもの……でも!溢れる水の量は少なく、すくう速度は爆速!

 

 すくった水は捨てられるなら───それなら、間に合う!」

 

 

 それでも余波を抑えられるだけ。母親に触れられるようになるだけ。それで何が救われるわけでもなく、そのためだけに寿命すら削りかねない行為に及ぶ。

 

 成生が正気なら止めろと声を大にして言っただろう───奪姫は、それをやると告げた。

 

 

「奪姫姉、頑張れ」

「ありがと、大」

 

 大の励ましに奪姫は奮い立つ。個性を全て集中させ、あらゆる余波を『活力』として認識、『吸収』して自らの力へ変換する。

 そして一瞬でキャパに届き……散月に沈静化させられ、消一に消される。

 

 それらを何度も何度も繰り返す。一瞬が数秒にも感じる感覚、それが時間がどれだけかかるかも分からない程に続ける。

 

 

「ホント、裏方は辛いわね……電花姉」

 

 

 個性の連打に、鼻血を垂らしながら奪姫は呟く。次女が思い出すのは今は亡き姉の姿。

 

 ずっと支え続けられてきた。それなら今だけはせめてその小さな背中を……見ずに、横に並べるように、奪姫は個性を行使し続ける。

 

 すぐにこの均衡は崩れると知っていても、戦わない理由が無かった。

 

 何せ相手は、母親なのだから。

 

 

 慕っている、母親なのだから。

 

 

 

■■■

 

 マキア達の戦い、成生たちの戦いから少しだけの時間が経ち、弔とデク達の時間に辿り着く。

 

(奪われなかった……!)

(奪えなかったか……)

 

 (AFO)によってOFAは奪われなかった。AFOが煽ったことによりデクの意志力が増大、成生の力ですら突然膨れ上がる意志には対応できず、無理やり押し出されたのだ。

 

 成生の個性はあくまで徐々に変化するのが本来の使い方、学習速度がけた違いというものに近い。数瞬で状況が変わる対応には対応できないのだ。

 

 ただ弔が次に考えるべきはワンフォーオールのことではない。ここまでたどり着くのに払った代償が余りにも大き過ぎた。

 

『弔、今は身体を休める方を優先しないと』

「分かってる……!」

 

 キセルマイトとエンデヴァーの不意打ち、ヒーロー達の連携攻撃、デクとキセルマイトの全力連携殴打、エンデヴァーの最大奥義。どれ一つとっても確実にヴィランを鎮圧できる破壊力があった。

 

 それら全てを完全起動ではない状態で受けた。いくら弔でも身体の限界があったのだった。

 

 しかしそれらを一笑に付する声が弔の中に響く。

 

 

【ダメだよ。もうすぐフィナーレなんだから】

 

 

 AFOの声。それが何を意味するのか、真っ先に察したのは弔の中の成生だった。

 

 それも当然。見つかったら彼女の個性の独善性から文字通り消されるからだ。

 

『っ!ごめん、弔。少しだけ眠るから……!』

「なにが」

 

 ヒーローが優勢だった戦域の雰囲気が弔を倒せなかったことで一気に不穏なものに変わっていく。

 

 ヒーローはここで弔を倒すこと、弔を目覚めさせる前に制圧することを前提にこの作戦を立てた。ヒーローの全力で実行できると信じてこの作戦を立てたのだ。

 

 ()()()()一気に制圧する作戦を、だ。何故短時間でなくてはならなかったのか、それは偏にこのタイミングを()()()()()()ためだった。

 

 

 

【援軍が着いたようだね】

 

 

 

 ズズンという地鳴りが鳴る、近づいてくる音だ。歩く災害ギガントマキア。ハァハァと息切れしながらも、全力疾走で主の下へ辿り着く。

 

 物理的な巨大さ。それだけで圧力は十分以上に備える。足止めしていたヒーロー達も合流するが、マキア同様に体力が限界の者ばかりだ。

 

 

 だがAFOも一つだけ忘れているものがあった。マキアとの戦闘が始まる際に先行して移動を始めた、マキアが止められないと真っ先に判断し移動を開始した(ショートとネジレチャン)がいた。

 

 

 彼らなら、体力は十分以上に残っている。マキアを推し切れる程に。

 

「同時に相手どれるくらいの消耗なら、赫灼熱拳───奔流熾炎!!!

「出力120%───ねじれる洪水(グリングフロッド)!!!

 

 AFOに向かうという行動が分かりやすいため、カウンター気味に放てば確実にマキアに直撃する。限界を超えた二人の全力が向けられる。

 

「っ!あ、主……!」

 

 AFOに手を伸ばすマキアの体力は最早風前の灯。そしてマキアを打倒できる二人に対処できるヴィランは、ここにいるのはAFOだけ。ハイエンドたちはヒーロー達と互角を続けている。

 

 さらにここにはもう一人、AFOに対抗できるヒーローは残っていた。

 

「グランドスマッシュ!」

「ぐっ!」

 

 乾坤一擲。デクのデトロイトスマッシュに相当する破壊力がAFOに直撃し、左腕を粉砕する。

 

 勢いも完全に無くしたため二発目を入れる───ことは出来ず、威力のままにAFOは吹き飛ばされていく。

 

「やられた」

 

 マキアの手の方に飛ばされてくAFO。それを受け取ったマキアは背中にいるスピナーへ渡す。

 

 キセルマイトが感じた衝撃の方向は明確におかしかった。感覚的にあと一撃で落ちるまで追い込んだものはあったが、マキアがいては届かない。

 

 ショート、ネジレチャン、倒れているが立ち上がる雰囲気を見せている爆豪さえいればあと一押しも可能。そんなキセルマイトの考えは現実的なものではあった。ほんの少しの時間さえあれば届くのだ。

 

 まだ時間はある。マキアの到着はヒーローの制限時間の限界ではない。最悪のバッドエンドを翳す存在は、まだここには到着していない。

 

 

 

 だがその予兆は、遠くから吹き飛ばされてきたヒーローとヴィランという形で目の前に現れる。

 

 

 

「俺は……!まだ!倒れてねぇぞ……成生!」

「成生ちゃん……!」

 

 

 

 烈怒頼雄斗とトガが数百メートルは吹き飛ばされて飛んできていた。動けてはいるものの、二人共消耗は激しく、身体を動かすのも痛みが走る程。

 

 何より、止めていたヴィランから距離をとらされた。それが何よりの問題だった。ただそれはヒーローとして、成生の友達としての問題であり今目の前の問題ではなかった。

 

 目の前は、立ち上がれないどころか二人共乱戦の真っ只中に飛び入り参戦したというもの。敵味方入り乱れる乱戦では判断が困難、二人が状況を掴むよりも速く二人に声が届く。

 

「おいトガ!無事か!?」

「切島!こっちに!」

 

 Mr.コンプレスが、ショートが、それぞれに声をかける。状況がつかめない二人は声に従い、マキアの背中へと、ショートの近くへと走っていく。

 

 膝を突くマキアの背中にヴィラン連合は勢揃いし、ヒーローはショート・ネジレチャン・キセルマイトの周りに集まる。ヴィラン側はマトモに立てるのがMr.コンプレスとスピナーともう一人、ヒーローはまだ元気一杯なのが二人と疲労困憊ながら強大な戦力である一人の、計三人は立っている。

 しかしてこういった状況において最も危険なのは既に負傷しているもの、現界ギリギリの者達だ。何せ現界は、超えるためにあるのだから。

 

 だがそれでも、ヴィランとヒーローの一人ずつだけは、どれだけ疲労困憊であろうと視線が明確に合っていた。

 

 

「───馬鹿な」

 

 

 それも当然。彼らは───父子なのだから。

 

 

「久しぶりだな、親父。……これだけで分かるんだな、灯火には感謝だ」

 

 

 エンデヴァーと荼毘───否、轟燈矢の二人だ。荼毘の顔はつぎはぎだらけのものから、生前に近い顔へと変わっていた。

 

 

■■■

 

 マキアがAFOの下に辿り着く十数秒前、灯火はマキアに合流していた。身体はズタボロ、息も息切れしており満身創痍に近いレベルだ。

 

 Ms.ダークライという強大なヴィランと戦っていたという実感がようやく湧いてきていたのだ。母親相手なのか、ヴィランなのか、相対する者への認識で相対する時の圧力は変わる。

 直接相対していたときは母親だった、だから相対できていた。が、外から見たら災害が如きヴィランにしか見えないのだ、足がガクガクと震えていた。

 

「灯火!?随分ボロボロだな」

「……もしかして成生とやりあったのか。むしろよく無事ですんだな」

 

 息を落ち着け、灯火は荼毘、Mr.コンプレス、スピナーに顔を向ける。三人は現状が分かっていないはずと頭を一瞬で整理して声に出す。

 

「今、全力でおかーさんを抑えてる。マキアかオールフォーワンが居ればひとまず身の安全は大丈夫だけど……一人であれと相対しちゃダメ」

「トガちゃんが暴走って言ってたっけか。まさしくって感じだねぇ」

「まぁ俺らは弔の方に向かってる。マキアもいるから大丈夫だろ」

「あと」

 

 これは、今伝えないといけない。灯火の直感がそう囁いた。

 それは母親側からの直感ではない、父側の血を持つ兄へ……憎悪を抱く兄へ向けた妹の直感だった。

 

「あと、なんだ」

「今私の傷から出てる血、荼毘のお兄さんの顔に塗りたくって」

「は?」

「何言ってんの灯火ちゃん」

 

 スピナーとMr.コンプレスの困惑を他所に、灯火は言葉をつづける。

 

 

 

「私の個性には、『超回復』がある。血の繋がった兄弟なら、共鳴するように回復できる……はず」

 

 

 

 成生との戦闘で堕とし子が気づき、戦法として確立していたもの。堕とし子が一撃確殺の成生の攻撃にどうやって耐えきれていたのか。

 

 何のことは無い、()()()()()()()。傷を全て全員で共有して回復していたのだ。血が流れれば堕とし子同士なら回復アイテムと化す。

 

 そして灯火にとっては、荼毘もまた血の繋がった一人。

 

 

「そりゃいい話だ」

 

 

 邪悪な笑みを荼毘は浮かべる。

 荼毘とはかつて燈矢と呼ばれた者の成れの果て。回復できなかったから縫い留めるような姿になっていった……それが、元に戻る。

 

 

 

 成れの果てから回帰した顔が今という現実に、エンデヴァーの瞳に映っていた。

 

 

 

「偽物、いや、その炎は、その力は」

「忘れる訳ないよな!何せあんたが育てた炎だ!力だ!

 

 その証拠は今から見せてやるよ!」

 

 炎熱が溜められ一瞬で引き絞るような感覚、そして視認できる炎の陽炎。溜める技術が未熟が故に、誰にでも視えてしまう炎の姿。

 

 エンデヴァーにだけはよく分かる。何せその光景は、自らが未熟だった時に嫌になるほど見た光景なのだ。

 そしてその光景だけで、顔を見なくとも相対しているのが誰なのかが分かってしまう。

 

 

 何せその技術を使えるのは……否、教えたのはショートを除けば唯一人、轟燈矢だけだ。

 

 

赫灼熱拳───ジェットバー」

 

 

 炎熱の奥義が燈矢から放たれる瞬間、突如真上から跳んできたロープによって腕がとられ、射線が逸らされる。

 

 

「な!?」

 

 

 その場にいる全員が呆気にとられる。上空という範囲はデク・キセルマイトとAFOの戦いの後は誰も届かない場所になっていた。

 個性を使ってもそこまで行けないのだ。ヘリコプターが来ていたなど、知る由もなかった。

 

 

「ベストジーニスト!只今より参戦する!」

 

 

 ベストジーニストはトッププロでも最高峰。ホークスにやられた訳でもないのに何故参戦していなかったのか。

 

 単純な話であり、最後も最後の防波堤だ。これを突破されたら被害は考える範囲を超えるという意味であり、その出動も全体指揮であるエンデヴァーレベルでしか指示し得ない。

 

 エンデヴァーが動けないのに何故ベストジーニストが動いたのか。独断で動いた訳ではない、それほど完璧なタイミングだった。

 

 それも簡単なアンサー、指示が出たからだ。

 

「ハァ…………ハァ…………間に、合った」

 

 ヘリコプターには息を切らす艶羽の姿があった。灯火がマキアの下に辿り着けたのなら、堕とし子の中でも最速の艶羽はもっと速く行動できる。先んじて戦場に辿り着くのも簡単だった。

 

 しかし艶羽はこの戦場には()()()()()()()。向かったのは別の場所、何かあったらとヒーローと……全体指揮がとれるレベルのヒーローとの合流地点。

 

 艶羽はヒーローらしく、信じた。その人がそこにいることを、戦場に現れていないため負傷しているだけだと。

 

 

 そして、艶羽は賭けに勝った。

 

 

 荼毘が灯火の『血の繋がった親族』への『超回復』によって回復したのなら───艶羽もまた、同じことができる。

 

 

 

 

「ホークス!負傷から復帰した!」

 

 

 

 マキアの背中からヴィラン連合の面子を蹴り飛ばし、ホークスが現れる。『速過ぎるヒーロー』の娘は、当然『速過ぎる』。灯火よりも速く───父親の下へ向かったのだった。

 

 

「マズっ!」

 

 Mr.コンプレスが蹴飛ばされながら悲鳴をあげる。ホークスとベストジーニスト、速過ぎるヒーローと確実に拘束できるヒーロー。ヴィランからすれば最悪極まりないコンビが最悪に近いタイミングで現れたのだ。

 

 AFOもマキアもほぼ動けない。せいぜいできて一人に向けたワンアクション程度。それではこの場にいるヒーローに鎮圧されてしまう。

 

 光明が見えたヒーローはここだと全員が動き出す。ショートとエンデヴァーが燈矢に、キセルマイトとネジレチャンがマキアに向かい、空中で動けないスピナーとMr.コンプレスはホークスとベストジーニストが仕留める。

 

 判断は一瞬、これで戦いは終わる。ヒーローがほんの少しだけ口角を上げる。

 

 

 

 

 

 

 


 光線(レーザー)が、マキアとヒーロー達の間の地面に走る。

 

 

 

 

 

 そのまま空に消えていったレーザーだが、地面は融解しマグマのように溶けていく。

 

 

 超長距離レーザー。それを放てるヴィランはこの世界に一人しかいない。

 

 

 

 文字通りヒーローのタイムリミットは視認可能な範囲に迫ってきていた。まだ離れてこそいるが、もう一方からゆったりとやってきたそれは、絶望を齎す。

 

 

 

 「……オールフォー、ワン?……弔?」

 

 

 

 物理的な大きさでは小柄。しかし内包するエネルギーはギガントマキアを優に超える災害……否、天災。歩くだけで被害が出るマキアとは違い、まるで熱が奪われるように彼女の周囲には何も起きない。

 

 しかして彼女の指から一直線にレーザーが放たれる。狙いは外れたものの地面を融解させ、地表が熱でマグマの如く変わっていく。その直線上を少しだけ浮いて進む────天災が如きヴィラン、Ms.ダークライ。

 

 

 

 精神が崩壊しつつある……それでも、強さという一点においてはヒーローが止められるものではない。

 

 

 

「諦めねぇ!俺は立ってんだぞ成生!」

 

 

 萎縮しかけたヒーローに烈怒頼雄斗が叫ぶ。依光成生相手に戦っていたのは烈怒頼雄斗だ、一番戦い方を熟知している。

 

 対依光成生において最も重要なことは、諦めない意志を伝えること。諦めたら成生の手にかかり、いつの間にかヴィランになってもおかしくない。

 

 故に諦めない。そして成生が成生(普通の少女)であれば、倒すことはしても殺すことは躊躇う。

 

 分かっているから切島は叫ぶ。真っ先に殺すのは俺にしろ、と。

 

 

「オール……フォー……弔……切し……ま」

 

 

 無表情のまま依光成生は動く。浮遊して動く速度は、少しだけ速くなっていた。

 

 

 

 成生との距離は500m。ヒーローとヴィラン双方共に全てを決めるには……余りにも心もとない距離だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




灯火の転移は転移先決めないといけないけど艶羽は悩まず移動するから艶羽の方が移動そのものは速い

灯火は転移したけど場所ズレてたとかあったりする。ちょい天然入ってるから。なのでマキア到着のかなりギリギリになった。

艶羽は一直線移動→ホークス合流&回復→即移動開始、ホークスはベストジーニスト出動要請。最適解移動だから灯火よりアクションが多い
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