お盆で出来た分投稿する
成生ちゃんはちょっと狂気に戻った。正気に戻るのはプラスウルトラ
「燈矢……」
エンデヴァーは動かない。否、動けなかった。
「親父!こっちはキセルマイトと俺が…………!」
ショートの叫びに、エンデヴァーは反応しなかった。茫然自失という言葉がそのまま体現したように、目の前の現実が信じられない。
自らの野望を託すに十分たる才を持つ実子であり、最も手をかけた
エンデヴァーは、数瞬では立ち上がれなかった。
(捜したんだ、俺は……ずっと、生きてると信じて)
「動けよ!頼むから!時間も無いんだ!後にしてくれ!」
ショートの声に反応したのはホークス。スピナーとMr.コンプレスならベストジーニストが居れば何とかなると判断だった。
「俺がやります」
「ホークス!」
燈矢にホークスとショート、マキアと死柄木にキセルマイトとネジレチャンが向かい、スピナー・Mr.コンプレス・トガはベストジーニストが向かう。
エンデヴァーが動けない以上、仕方ない布陣だった。
「第2ラウンドってか?」
「場所が開けたもんでね」
ホークスと荼毘は空中戦を、一度だけショートが氷を放つが援護はそこまで。
「ぐぅ!」
「やられた」
「二人共!」
「トガヒミコ、お前だけは変に拘束すると危険だからな。相対するだけにしておこう」
ベストジーニストはスピナーとMr.コンプレスをワイヤーで即捕縛。トガと相対する。
トガの奥の手、依光成生への変身。現状においては自爆覚悟になるとはいえ、確実にヒーローを全滅させる爆弾。その札を切らせないために、追い詰め過ぎない必要があった。
「死柄木!マキアに!命令を!」
だがスピナーは捕縛される前に声を上げていた。
「……」
「死柄、木……ぃ!」
瀕死の死柄木と動けないマキア。スピナーの声も届かず、ネジレチャンの全力が届く。
「出力150%!ねじれる大洪水!」
波動が届く直前、死柄木の口が僅かに動く。
「こわ……せ……ま…き……あ」
「おおおおおおおおお!!!」
マキアが立ち上がる。死柄木を狙った波動はマキアに直撃し、攻撃は届かない。ワイヤーで拘束され動けないはずのマキアだ、限界を超えて立ち上がったのだった。
ただネジレチャンの全力を受けマキアはグラついていた。もはや押せば倒れるダメージ量だ。
マキアさえ倒せばヴィラン達は力押しで逃げる術が消える。ヒーローの勝利が見える。
「もう少し……!」
だが、悪夢という絶望は近づいてきていた。
「みんな避けろぉぉぉぉ!」
「マキアの拘束を解いた……!?烈怒頼雄斗!情報が違うぞ!」
「暴走が少しだけ解けてるみたいです!多分、一割にも届かない程度で」
「それだけで判断したのか。恐ろしいな」
烈怒頼雄斗の声でヒーロー側はギリギリ回避できた。ならば状況は変わっていない。ワンアクションの差だけだ。
ヒーローがそう考えるのも無理はない。勝利がすぐそばに近づいていたのだ、目も曇る。
──速すぎる男の声が聞こえていないことにも気づかない。
「まだ俺がいる!マキアは俺がやる!ネジレチャンはもう一度AFOを」
「ジェットバーン!」「ぎゃっ!?」
キセルマイトの指示と同時、荼毘のの炎がネジレチャンを襲う。
「荼毘!?ホークスは」
ベストジーニストはホークスの方へ視線を向け、翼を手で抑えるホークスを視界に収める。
片翼が、半分になっていた。ワンアクションで墜落から滞空へ保っていけたが、荼毘を逃したのだった。
「……片翼を半分やられた!さっきのレーザーの狙いはこっちだ!」
「クソッ!親父さっさと目を覚ませよ!」
ショートがエンデヴァーから離れ、荼毘へ向けて跳び氷を放つ。
荼毘も相殺する炎を向けていた。勢いは荼毘が勝る。
「ははっエンデヴァー!お前の炎で
「やらせねぇよクソ兄貴!」
燃やされながらも奮い立つショート。荼毘は熱くなりながらもどこか冷ややかな目で戦場をみていた。
「もう決着はつく。あいつは随分と遅かったが全員集合できそうだからなぁ!」
最も強いヴィランが合流すればヒーロー側に勝ち目は無い。灯火を通してその強大さを知る荼毘はそうなることをよく知っている。
そして、よく知るヴィランはもう一人残っている。
「ねぇスピナー、今必要なのは弔君の声だよね?」
レーザーによってワイヤーから解放されたスピナーの横に居るトガ。
成生を止めたいトガだが、全部無くなるくらいならばと……使いたくない手段を選ぶ。
「けほっ!ああ!こいつが起きれば」
「じゃあこうしよ」
弔の血を飲むトガ。弔だけでなくAFOや成生すら混じる血のためにノイズの声がいくつも脳内に走るが、トガは精神力で無理やり抑えつける。
「うるっさいなぁ。あーでも、これなら一ついいのが使えそうです」
弔の姿に変身したトガは個性も使える。が、マスターピースでないために崩壊は使えない。
しかし今の弔は個性を複数所持している。トガが使いたいのはそっちだ。
その一手を使う前に、確認からトガは進めた。
「まずは、起きろマキア」
「主……じゃ、ない……!」
マキアは反応しない。マキアはトガを主と認めていない……変身しても同じだった。
「ダメですか。じゃあ……来い」
弔が持つ個性だが、成生も使う個性である『広範囲電波』。トガは『変身』した人の個性が使えるようになっている……それが成生も使うとなれば扱えない方がおかしい。
数に圧されて負けそうなら、数を増やせばいい。丁度いい戦力はすぐそこに居た。
「ハイエンドの動きが変わった!」
「死柄木たちの方に向かってる!止めろ!」
死柄木達からは離れているが戦場としては同一の病院跡地。ハイエンドとヒーロー達の戦いが起きていた場所で変化は起きていた。
ニアハイエンドではなくハイエンド。さらに数は10体以上と多く、ヒーロー側も苦戦していた。
キセルマイトの到着の時、キセルマイトは他にもヒーローを連れて来ていたのだ。
「瓦礫があってよかった」
ハイエンドが移動したのなら、戦っていたヒーローも死柄木達に向かえる。キセルマイトが連れて来た、二人のヒーローも。
「今の声は───」
二人のヒーローの内一人。ルミリオンが援護に入り、ハイエンドを超高速で翻弄する。
だがあくまでルミリオンは翻弄できるくらいであり、ハイエンドを一撃で屠るほどのパワーは持たない。
パワーを持つのは、相棒であるキセルマイトだ。
「ルミリオン!今なら間に合う!全員避けさせろ!」
「無茶過ぎるよ!?」
キセルマイトの無茶ぶりにルミリオンは可能な限りヒーローを退避させる。
全力攻撃の範囲など当然知っている。だからこそルミリオンはヴィランを攻撃範囲に放り込み、ヒーローを逃がす。
「身体が弾けてもいい全力全開──────
透過の個性を全開に使い、キセルマイトの近くに居たネジレチャン達、空を飛べない面子を抱えて跳ぶルミリオン。ホークスがベストジーニストやショート、エンデヴァー達を連れて飛び攻撃範囲から離れる。
マキアを中心に、オールマイト全盛期の全力攻撃に等しい破壊力がヴィランを襲う。
「な」「主を」「やば」「やべ」「死柄木!」
荼毘、マキア、トガ、Mr.コンプレス、スピナー。ヴィラン達全員が覚悟を決める一撃。
──ここまで隠れ続けていた者が居なければ、全員行動不能になる一撃だった。
「勇也兄らしい一手だけど、手遅れだよ」
「灯火……!」
荼毘とトガを庇うように間に灯火が立っていた。そしてMr.コンプレスがスピナーを庇い、なんとかスピナーは意識を保っていた。
立っているのは荼毘、トガ、スピナーの三人。
それで十分だった。
「ダメだ間に合わねぇ……!」
三人の背後には、悪夢が居るのだから。
「……ダー……」
「せい……ちゃん……」
彼女はゆらりとマキアに守られていた弔に近づく。スピナーやトガを見向きもせずに。
「弔……オールフォーワン?、あなたなら教えてくれる?」
気絶したマキア、息も絶え絶えな弔、弔への変身は解けたトガ、興奮冷めやらぬ荼毘、足を震わせながらも立ち上がるスピナー。
満身創痍。最早マトモに戦える者の方が少ないヴィラン達。戦力が削れに削れ、ヒーローという希望に立ち向かうには心許ない戦力。
それら全てを超える絶望が、現れた。
■■■
「Ms.ダークライ……!間に合わなかったか」
「だが荼毘とトガ以外は倒した!あとは灯火?と……。……!!!」
ベストジーニストが見たのは弔を蹴る成生の姿。止めを刺しているようにも見え、動揺を隠せなかった。
「起きて」
「がっ!?」
「私の個性、使えるんでしょ?それならこの場所で気絶なんかできる訳が無い」
「さ、すが……だね」
しかしてそれだけで全てが覆る。弔が意識を取り戻し、戦線には即復帰できないものの一分もあれば復活するカウントダウンが始まる。
だがそんな戦場がひっくり返る事実すら彼女にとっては塵芥でしかない。知りたいことが知れるかどうか、それだけが全てだった。
「ねぇ、教えて」
「な、にを?」
知りたいのはたった一つのこと。それさえ確定できれば、彼女の力は全開まで復帰する。暴走状態も解け、完全なヴィランMs.ダークライが現れる。
「私は、誰?」
一瞬の静寂。状況を掴めていないオールフォーワンは何を言っているのかという口調で答えた。
「面白いことを、聞くね。君は、ヴィラン。Ms.ダークライ、ヴィランの女王、じゃないのかい?」
「……」
期待していた答えかどうか?、その問いに対する答えは彼女の表情に現れていた。
「───そう」
まるで興味も無さそうな、おおよそ人に向ける視線ではない目を向ける姿。かつての成生であれば絶対に起き得ない姿だった。
期待外れ。それがMs.ダークライのアンサーだった。
「そうなのね、答えがまるで霧の中。よくもまぁ隠したものね依光成生は」
しかしそれはそれ。この場ではヴィラン側の味方であり、暴走状態も少しずつ収まりつつある。
『分からない』は『分からない』まま。だが分かる部分もある、例えば
それだけで十分。この場でやることは一つだ。
「なら今だけはあなたに手を貸しましょう──────オールフォーワン」
ヴィランならヴィランらしく……ヒーローを倒す。それだけだ。
負傷している面子を背後に、Ms.ダークライはヒーローの前へと歩み出る。
「マキアは……ダメね、ごめんなさい。灯火はそのまま皆を守りなさい。ハイエンドは損害を無視してこっちに来なさい」
「は。はい」
背後にいる灯火に目もくれず指示を出す。
対するヒーローは光速で反応する攻勢防壁とも呼べるMs.ダークライへ攻撃を仕掛けるのは悪手だと知ってしまっていた。
半端な攻撃を仕掛ければ致命を受けるのはヒーロー側。それも反撃は広範囲に及ぶ以上、戦い方を選ばなければならない。
「ホークス」
「分かってます」
同時に連携しなければならないという確信、数瞬の躊躇い。それら全てを無視して声を出したヒーローがいた。
「おい!成生!」
烈怒頼雄斗。対依光成生において最重要にして最大戦力であるヒーローはここにいるのだ。
烈怒頼雄斗が何故対依光成生において最大戦力として扱われるか?答えは簡単、烈怒頼雄斗はヒーローとして対一人の戦闘において最も優れるからだ。
『硬化』の個性は自分を硬くするだけ。ヒーローとしての行動は自らの身体のみで行うことになる。オールマイトのようなパワーも無いため同時に何百人も救うことなどできず、数の暴力にも負ける。
範囲攻撃は無い、特殊な攻撃方法も無い。あるのは自らの拳だけ。
だがただ一人だけが余りにも強い場合においてだけは、相手側からの攻撃が一人
「……いい加減に邪魔ね、あなた」
「それがお前のヒーローだからなぁ!」
つまり、馬鹿げた強さを誇る個人でありながら、必殺といえる力を持ちながらもヒーロー殺しを実のところ躊躇う、普通のヴィラン少女依光成生には真正面からぶつかる場合において特攻とも言えるのだ。
そして今、ルミリオンの連れて来たもう一人のヒーローによって、ヒーローのみで対抗するために練っていた策が一つ完成する。
「烈怒頼雄斗!ちゃんと連れてきたよ!」
「先輩!あざっす!」
キセルマイトが連れて来たもう一人のヒーロー、ブラックホール。
かつて雄英高校を襲撃した際に個性『ブラックホール』を貫通され、今ここに居てもMs.ダークライには
だからこそ必要なヒーローだった。
「私が打倒の鍵なら参戦は当然です!」
そして雄英高校の先生ともなれば当然プロとしての覚悟は持っている。必要とあらば戦うのがヒーローだ。
ブラックホールの参戦により烈怒頼雄斗は笑う。雄英高校の生徒と先生の関係でもあるのだ、そう考えればここはこれ以上ない、結果を見せられる場所。
ただ、ヴィランは待ってはくれない。
「この場で全てにケリをつけましょう」
右の五指に光を収束。手刀を振るうように振りかぶり、Ms.ダークライの左後方に光の柱が放たれる。
柱は少しずつ縮みながら、刃の如く鋭くなっていく。
「全員纏めて
レーザーソード。超々射程距離を横薙ぎに切り裂く斬撃。かつて神野で放たれたものよりも射程は短いが戦場全域に届き、短いが故に集束性は上がり確実に殺す威力まで増大する。
振るい切られればヒーローの過半数が死傷を負う。即ち────ヒーローの負けだ。烈怒頼雄斗もデクも爆豪もショート、エンデヴァーも死ぬ、一閃の範囲には彼ら全員が居た。
「ブラックホール!」
「無駄」
成生の周囲にブラックホールを展開、吸い込もうとするが成生は空中に自分を縫い留めるような浮き方で飛ぶ。さらにレーザーは貫通するため障害にはならない。
成生のレーザーソードはダークマター的特性を持った質量と光と熱の三重要素で成り立つ。後ろ二つが消されても、一つ残れば防ぐことはできない。であるが故に万物を切り裂く刃だ。
「今のお前なら!俺が止める!」
だが、後ろ二つの要素は生物の頑強性を無視し、前一つだけは頑強性を無視できない特性を持つ。もしも、後ろ二つを無効化できるのなら──────
──────純粋な力勝負に持ち込むことができる。
「「止めた!?」」
レーザーソードを両腕をクロスして止める烈怒頼雄斗。少しずつ押されてこそいたが、確実に刃は烈怒頼雄斗が止めていた。
驚く荼毘とトガ。ヒーロー側は可能性を相談していたため動揺はない。あるのは本当に止めることができたという喜びだけだ。
「ぐぐぐ……!!!」
「止める、か」
冷たい目で烈怒頼雄斗を見るMs.ダークライ。止められたことに驚きはあるものの、
冷静。な、はずだった。
そう、心臓の音が鳴る。Ms.ダークライの目の色が変わる。燃えるような涙を流す、碧色の瞳へ。
「あり得ていい訳が無いでしょうが!!!」
「ぐっ!?」
刃を圧す力が増す。止めた時は振るう勢いもあったが、そこからは膂力勝負だったはずだった。
硬度では烈怒頼雄斗が勝り、膂力では成生が勝る。しかし膂力そのものには差が余りないためにほぼ拮抗していた。
それが圧されていた。さっきまでの力が、まるで嘘だったかのような強さだ。
「これは私が唯一全力を出せる個性。それを止められることなんて
刃がさらに鋭くなり、烈怒頼雄斗の硬い皮膚すら切り込みが入る。膂力で圧されており、硬度が超えられれば斬り裂かれるだけだ。
だが、烈怒頼雄斗の目は変わらない。
「今だけは、止められる」
圧されていた勢いが、止まった。さっきまでの少しずつ圧されていた勢いも無くなり、完全に拮抗する。そしてほぼ同じタイミングで、碧色の瞳は少しずつ濁り始める。
「な、なんで……?なんで拮抗して」
「今の成生は成生じゃないからだ」
烈怒頼雄斗が成生に届けるように声を出す。どこか諭すような、優しい声だった。
「精神的に限界どころか限界を超えてようやく少しだけ話せる状態だってんなら……今の成生は怖くない。
成生がヴィランとして一番怖いのは普段通りの姿をそのままヴィランとして出してきたときだ」
「普段の延長戦でしかない。それは成生の『普通』のことでしかないってことだからな。
その状態を持ってこられちゃ勝ち目なんてない。勝っても負けても成生の勝ち、みたいなルール使ってるんだから当たり前だ」
「ヴィランとして姿も形も変わってしまったなら、倒せば勝ちってルールになれる。
なら後は成生がどう思っているかだけ。勝ちたいかどうかは個性に現れる……そういう個性なんだろ?
『想い』の力が個性を強くする。それが顕著な個性なら、今目の前にいる成生が答えそのものだ。
俺の知ってる『普通』の成生が一番強い。
だから──────成生が成生じゃない今だけは、勝てる」
烈怒頼雄斗の両腕、Ms.ダークライのレーザーソード。盾と刃の激突。数秒の拮抗の末────
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