灰被りー元ウマ娘、現競走馬だけど質問ある? 作:パンダコパンダ
23/04/11 加筆修正しました。
桜花賞勝ちましたか?
私は3連複にペリファーニャを入れ忘れていましたが、
コナコーストの複勝にも1000円ぶちこんでいたのでどうにかなりました。
私が走って来た地方のレースは、メイクデビュー……。じゃなくて、新馬戦の800メートルが最短。最長はオグリキャップ記念の2500だけど、馬鹿みたいに周回させられてブチギレたら大差勝ちだった。
安田記念で2着になり、大手の競馬関係のメディアが私に取材を申し込み、それを調教師や、笠松の職員が追われるように対応していた。
安田記念の敗因から、今後のローテーション。私の状態。
競馬関係者なら気になるものの、質問のほとんどはどのメディアも似たり寄ったりだったらしくて、繰り返し作業になってしまっていたのを辛そうにしていた。
秋の大きな目標は、中央G1である天皇賞・秋。
その秋天へ出走するため、ステップ競争への優先出走権が得られる名古谷1900の名港盃が秋初戦。
そこに向けて体を整えている最中、朗報が届いた。
まず、ストリートキャップがG3のラジオNIKKEI賞にて三着の好走。前走の500下で勝ってるから、この調子でオープン入りにまで漕ぎ着けて欲しい。
もう一つはカツゲキキトキトだ。しっかりと新馬戦を勝ち切って二戦目がもうすぐ。
私が頑張らないと、みんなのモチベーションも変わってくる。だから頑張らないと。とにかく強くならないと。
中央で好きなレースに出てればよかったウマ娘時代とは違う。
私は笠松を背負ってる。
私が勝たないと、笠松はダメなんだ。
私が証明しないと、笠松はダメなんだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ああ、夢だ。
見たことのある天井、壁ごとに違う色の部屋。
そして、私を覗き込む元気いっぱいの女の子。
「大丈夫? サンドリヨン。なんか魘されてる感じだったけど……」
「うん。大丈夫」
布団を退かし体を起こした私は、頭を掻く。
確かに寝汗がすごい。パジャマがわりのTシャツは濡れてるし、尻尾もベタベタしている気がする。
「何時?」
「まだ8時だよー?」
「もう、でしょ」
カレンダーに目をやると、今日は日曜日。
おそらくここにいるということは、レースもないオフ日なんだろう。
「ご飯」
「どんな夢だった? そうだん乗るよ?」
「五月蝿い。それ以上構うなら今度のダート並走行かないから」
「ウググっ……。わかったよもう何も聞かない」
服を着替えた私は、もう一度カレンダーを見る。
「11月1日……」
丸がついた1週間後の日付を見て、ポツリと呟くと、リッキーが羨ましそうな声を出す。
「秋天だねぇ。またモーリスちゃんと走るんでしょう? 良いなー。私とは走ってくれないのに……」
「私の闘う場所は芝だよ。笠松がダートだったから、そのまま走るけど、メインは芝」
トレセン指定のジャージに身を包むと、カフェテリアで朝食を取るために、部屋を出た。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「集中できてないですね」
「安田記念からずっとこんな感じで……」
おいおい、秋天だぞ? なんていう厩務員の言葉が聞こえていないのか、サンドリヨンはただ歩かされているだけの状態でパドックを歩く。
名港盃に毎日王冠。前哨戦となる2レースをまともにできなかった。正直な話、今回のレースで痛い目に合わせるのが良いのか、無理にでと勝ちに行くのが正しいのか。陣営の中でも意見が分かれていた。
厩務員や調教助手は休ませるべきだと主張した。
サンドリヨンは今周りが見えていないからこそ、レースから距離を置かせるべきだと。
主戦のアンカツは痛い目を見させるべきだと主張した。
暴走のまま走らせて、怪我しないようにだけ気をつけて笠松へ送り届ける。なんでG1で負けるのか、ここにきて現れた気性難を治すためには、徹底的に負けさせるべきだという判断。
そして、調教師とオーナーは勝ちに行くべきだと主張する。勝ちにこだわりすぎている以上、G1を勝てば一回リセットができるはずだと考えた。
どれが正解とかはない。ただ、あまりにも今のサンドリヨンは見ていられなかった。
芦毛で見難いもののイレ込んでいる上に、心ここに在らず。ただ促されるまま歩き、止まり、背中にアンカツを乗せる。
「シャンとせんかいアホ娘……」
思わず背に股がった瞬間アンカツがこぼしてしまうほどである。
最終的に、今日の人気は2番目。1番人気は宝塚記念を含む重賞三連勝でやってきたラブリーデイであり、毎日王冠で勝ったものの、陣営のネガティヴキャンペーン的コメントによって1番人気にはなっていない。
それでもかつてオグリに夢を見た者たちは、子供であるサンドリヨンにタマモクロスによって阻まれた秋の盾を望まれる。
本場日入場をしてもパッとせず、ゲート入り。
2枠4番に入ったサンドリヨンは、ゲートの開く音にせかされるようにスタートダッシュを決めた。
「さあスタートを決めたのはサンドリヨン。芦毛の馬体がずっと前に出ます。エイシンヒカリも出るがハナを握るのはサンドリヨン! サンドリヨンです! 場内どよめきます。
ぐっと手綱を引いて鞍上が抑えようとしますがこれはかなり難しい展開になった」
2馬身ほど離れて後続。そして1番人気のラプリーデイが4番手。周りを見たアンカツは、手綱を握りながらもうダメだと首を振った。
「さあ1000メーター59.8秒のペースで先頭は変わらずサンドリヨン。おおっと!? サンドリヨン失速か? 外によれながらずるずると下がりクラレントが前に出てきます! どうしたんだ!?」
◆◇◆◇◆◇◆◇
ああ、夢だ。
夢のはずなのに、なぜ私は動いている?
走りながら場所がどこか探れば、見慣れたスタンドが左手側にある。
もうすぐ目の前がカーブだから、そうすれば右手。
「東京? 大けやき?」
「あれ? サンちゃんは余裕って感じなの?」
後ろから聞こえて来た声は、シニア二年目に秋の盾をかけて戦ったモーリスの声。位置的には私より外。1バ身くらい後ろ。
「そんなに余裕綽々って感じなら、私が勝ってやる! 安田記念の時見たくね」
安田記念。私が焦りすぎて勝てなかったレース。
ウマ娘時代では、姉さんや多くの笠松関係者が来てくれたレース。
競走馬としては、笠松の旗印になるために挑んだレース。
「ふざけんな!」
外側にいたはずのモーリスが、コーナーの角度を使って内側から上がってくる。そのまま4コーナーを抜け直線に入ると、私が加速しにくくなるよう、斜行とと取られないように外側に膨らむ。
私は入れ替わるようにして内側へと入り脚を使う。
低い姿勢。抉られ、舞い上がる芝の破片。
『モーリスが外から抜け出した! 春の天皇賞バ、サンドリヨンは届くのか! モーリスと入れ替わるように内を攻める! 昨年覇者ラブリーデイは厳しい!
さあモーリスか! サンドリヨンか!
マイル王が中距離を制すのか!
それともサンドリヨンの春秋連覇なのか!
残り200! 200! 二人だけが抜け出した!
内か外か! 僅かに内のサンドリヨンが抜け出したか!
サンドリヨン1着! サンドリヨン1着でゴールです!』
ゴール板を通過してスタンドを指差す。
そこには二人の芦毛。オグリキャップとタマモクロスの姿があった。
ウイニングランを終えた私は、急いで二人の元へと駆け寄り、拍手で迎えてくれたオグリ姉さんへ抱きつく。
「姉さん! 勝ったよ!」
「おめでとうサンドリヨン」
「ちゃんと見とったでサンドリヨン! 最ッ高な走りやったわ!」
二人ににも感謝を伝えた私に、それにしてもやな。とタマモ姉さんが呟く。
「オグリから、妹分がいるって聞いた時はどうしよかと思ったけど、さっさと中央来れるように説得させてよかったわ」
「ああ。タマモの言う通りだ。笠松の設備より、中央の方が質もいい。それにレベルも高いからな。素質だけなら私よりも
私は思わず、オグリ姉さんから離れた。半ば突き飛ばすような形で遠ざかった。そんな私に、オグリ姉さんは呆けた顔をしているし、周りの観客たちはざわざわと騒ぎ始める。
だけど、それ以上私は、なんとも言えない怖さを感じた。
「どないしたんやサンドリヨン」
「大丈夫か? もしかして体調が悪いのか?」
「なんで、なんで姉さんがそんなことを言うの?」
「と言うと、どう言うことだ?」
「どうしたんやサンドリヨン。あんたらしくないで? いつものバチバチな感じは何処やったんや」
顎に手を当てた上で首を傾げるオグリ姉さんと、両手を上げてやれやれと首を振るタマモ姉さん。
「なんで? 私は笠松のウマ娘だよ? オグリ姉さんに憧れて、タイムにガールにヒーロに。みんなと一緒に頑張ってきたから、笠松のみんなに誇ってもらえるように中央に来たのに……。ねぇ、姉さん……。私、笠松のウマ娘だよね、みんなのサンドリヨンだよね!」
「何を言ってるサンドリヨン」
私の肩にポンっと手を置いたオグリ姉さんは、続けて言う。
私が一番聞きたく無かったことを。言葉を紡いで。
「お前は中央だろ?」
「そうそう。サンドリヨンみたいな地方バが居ってたまるかいな」
「違う! 私は笠松の! 笠松のサンドリヨンでっ
ならなんで笠松のみんなに耳を傾けない?」
そう言われて、私は俯いていた視線を上げ、オグリ姉さんの目を見る。
「競争はお前一人でやってる訳じゃない。全てお前の考えで事は進まない。お前にできるのは、二つしかない。
ジョッキーが頭となり、周りを確認し最適解を導く。
調教師が能力を考え、出来ることと幅を増やして強くする。
厩務員が体調を崩さないように支え、整える。
そして馬主が、みんなの事を信じて、背中を押す。
それぞれの役割がある中でお前にできる二つは、走ることと、応える事。お前は何をしている? サンドリヨン。笠松を背負うと言うだけで、お前はみんなに対して何ができている?」
景色が映る。
目の前は緑一色で、どんどんと目の前にあったものが遥か後方へと消えていく。左の視界には白いラチと、スタンド。
口元の痛みに気づくと、手綱が力一杯引かれている事実を知る。
眼前に他はない。ウイニングランか? そう思えば、後ろには必死になって走ってくる競走馬。
『舞台は東京競馬場。芝2000メートルの天皇賞・秋』
『ウチとオグリがやり合った、最ッ高に痺れる舞台やで』
『一番人気。オッズは2.2倍で、2番人気のラブリーデイは3倍台』
『2枠4番の良いとこからやったのに、スタート出遅れて殿。そのまま行こうとジョッキーがやってんのに、アンタはドンドン前に行ってもうて手がつけられん』
『向正面の急坂で先頭に立ち、そこで留まろうとした安堂さんをの手綱を無視して暴走。2番手のクラレントとは4馬身差をキープ』
『流石に体力お化けのアンタでもキツくなって、3コーナーの中間あたりで失速。ズルズルと落ちてって今は12番手くらいか?』
『どうするサンドリヨン。誰もここで諦めても文句は言わない。所詮その程度の器だった。所詮地方の、オグリキャップがすごいだけの笠松に生まれた突然変異』
『どない頑張ったところで中央には太刀打ちできん。たまたま早熟で、オークスと菊花賞とチャンピオンズカップに勝っただけのマグレの馬』
『もしお前が本当に
中央と言う力に胡座をかく奴らを殺して見せろ。
『私は成し遂げた。この脚で、常識も、ルールも壊して奇跡を起こした』
『何言うとんねんオグリ。流石のこいつでもここからじゃ無理やで。無理無理。諦めるしかしゃーないわ。でもまあ? ハープスターならここからでも届くやろうし? トーホウジャッカルならしっかりスタミナ使って後ろの奴ら擦り潰すやろうし? ヌーヴォレコルトならそもそもスタミナ計算してしっかり最後勝ち切るやろうし? でもサンドリヨンには無理かぁ。甘々な甘えん坊で、ホームシックになりやすくて、オグリとクリークに泣きついてるようなお転婆には無理やろうなぁ』
感覚が蘇る。
ターフを蹴る足の感覚が。空気を取り込む呼吸の感覚が。走るために動かす首の感覚が。あまりにも言うことを聞かない私に対しての怒りの篭った鞭を受けたトモの感覚が。
『でもなぁサンドリヨン。芦毛の馬は走るんや』
『ああ、誇りと想いの力でな』
なら、やるしかない。
走るしかない。
前にいるのは11頭。こいつら全部を抜き去って、ゴール板の所で1センチでも鼻先が出ていれば私の勝ち。単純シンプルで、最高の勝負だ。
みんな、私が落ちたと思ってるんだろう。きっとスタンドじゃあ紙吹雪が舞ってるだろう。一番人気が暴走して、そのまま沈んだ。きっとここからじゃ勝てない。そう思ってるんだろう。
いいさ。そう思いたいなら思っとけ。
ならば実力で覆す。常識もルールも……、この脚で!
「お前ら全部、
「おいアホタレ!!」
鞭と共にアンカツの声が背中から聞こえた。
「笠松魂見せんかい!」
五月蝿い。言われなくてもやるに決まってるでしょ!
ズルズルと落ちたことで、私は4コーナーの大外を回って通過する。多分先頭とは10バ身ないものの、それでもだいぶ差がある。
鞭が入る。芝を踏み込む。体が飛ぶ。
鞭が入る。芝を踏み込む。体が飛ぶ。
『外から4番……。4番サンドリヨンが飛んできた!? 一度落ちたサンドリヨン上がってくるがどうだ!?
先頭はラブリーデイに代わる!
ステファノスが2番手追い縋る!
イスラボニータもやってくる!
大外は4番サンドリヨン!
さあ4頭広がって残り200!
まさか届くのかサンドリヨン!
ラブリーデイか! ラブリーデイか!
イスラボニータも食らいつく!
僅かにイスラボニータかっ!!』
4頭がもつれ込んだ大戦線。5着のショウナンパンドラが確定する中、4着までは決勝写真での確認となり、ターフビジョンにゴールシーンが映し出される。
長い時間を経て、掲示板の一番上に出た数字は、16番。皐月賞以来のG1勝利となる、イスラボニータの馬番。
続く2着には8番のラブリーデイ。3着に14番ステファノスと続き、私の4番は、4着。全てハナ差。4頭全てのタイム1分58秒3での決着となった。
4コーナーからの覚醒。それで届かなかった事実。
「焦ったな」
うん。
「見えてなかったな」
うん。
「信じれなかったな」
うん。
「一歩ずつ行こう。サンドリヨン」
アンカツの重い言葉を受け止めた私の眼から、涙が溢れた。
『まだまだ青いなぁ』
『だが、確実に強くなる』
疲れた体を引き摺るように、私はターフを後にした。
イマジナリーオグタマ出現で柴山雄一。
頑張って描き溜めしてます。