灰被りー元ウマ娘、現競走馬だけど質問ある? 作:パンダコパンダ
私の同期にすごいウマ娘は多くない。
それは、クラシック組が成績を残せなかったことが理由であり、同じ世代の存在としてまず最初に名前が上がるのはモーリスだ。続いてオジュウチョウサン。
まあ、オジュウチョウサンが化けたという事実を知ったのは、競走馬として転生してスレで話題になってからだが、年で2回しかない障害G1で5連覇含む9勝もあげてたらそらそうなるわ。って感覚。
モーリスに関しては同期で一番の化け物であるのは明白。クラッシック組で唯一対抗できるのは、メイショウパンドラくらい。
スレッドの人たちの世界線における、私たちの世代のみのG1レースで勝利したウマ娘の中で、G1を複数回勝っているのはショウナンパンドラだけ。私を含めたとしても二人だけ。上の世代にはゴルシとか、下の世代にはキタとか化け物もいるのに。
メインどころが弱く、マイルのモーリスと障害のオジュウだったらそりゃ目がそっち向くわ。
のんびりと、スレに暇だと打ち込んでみれば、暇人どもが話しかけてくる。
なんで暇なの? と聞かれれば、体調不良で名古屋記念パス。と返す。
最初は釣りだなんだ言ってたのに、今じゃ体調を心配してくれる人たちが多いけど、すぐにこっちを煽ってくるから良くない。油断してるとすぐにだ。
笠松グランプリから時間を空けて、年明けすぐにレースを考えていたものの、2週間前の時点で体が思うように動かないことが続いていた。自分の頭でできている動きが出来ていなくて、なんで? ってなって空回りして。
結果、しがらきに来てめちゃくちゃマッサージされてる。
「良くこの疲労具合で怪我しませんでしたね」
「同月に2戦とかは、地方馬としては少ないもののやってますけどねぇ」
しがらきの厩務員達がブラシで毛並みを整えたりしてる最中、私は伸脚して前脚を伸ばす。
「おおー。やらけぇー」
「柔軟性は二重丸だな。柔らかさと言えばテイオーだけど、おんなじ柔らかさでも頑丈なのは地方でダートが多いからか? 前来た時に色々データ取ったけど、あの時まだ普通の範疇だったんだけどなぁ」
休み休みデータを取れば、スタミナはかなり高く、パワーもかなり高いことで加速力がすごい。気がつけば最高速。みたいな現象が起きる。一度強めに走らせてみたものの、ここにいる人はもれなく乗れる人なのにしがみつくだけで精一杯だった。
「こんな素質馬が中央に来ず地方に埋もれる可能性もあったって考えると……」
「何が起こるかわかりませんね」
「ただ、24の東海ステークスまでにはある程度抜いておかないとな。地方最強馬とか扱い怖いわー。気性難じゃなくて本当に助かった」
いや別に怒るとかないし。負けたら全部の私のせいじゃん。
競走馬になってもう5年? 触られることにも慣れたし、色々自由はないものの、走ること以外興味がない以上困らない。
ウマホがないことくらい? まあ、娯楽はスレで解消できるから無問題。
ただ、一つ気になってることがある。
ウマ娘時代の最後の記憶のこと。
あの時私はリッキーと、チャンピオンズカップで勝負しててゴールしたかしてないかの状態。ただ、チャンピオンズカップは3歳で取ったからずれてる可能性がある。
とすればだ。
「サンドリヨンの馬主さん、天皇賞行くって言ってたけど、春天かな?」
「いくら菊花賞勝ってたと言えども無理だろ。あれこそ奇跡だと思うぞ? 2400までじゃないか? 安田記念と秋天。個人的にはグランプリも出て欲しいんだけどな」
「キタサンブラックと戦って欲しいですよね。あとはゴルシとか。芦毛対決」
速報。
しがらきの厩務員にグランプリ出走を願われる変則二冠馬がいるらしい。
ノリと勢いでスレに打ち込めば、皆んなもグランプリ未出走ネタを楽しんでるのかノリに付き合う。
そういえば、無敗の三冠馬なのにグランプリでなかった奴もいるらしいね。未来の話らしいけど。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
水沢でラブバレットが勝利した。着差は3馬身だったらしい。
ストレートキャップが2連勝した。オープン入りしたらしい。
カツゲキキトキトが出走予定だったレースが雪で延期したらしい。
中京でサンドリヨンが東海ステークスに勝てなかったらしい。
『さあ、期待高まる中京11レース。G2東海ステークスです。
昨年は最強の地方馬が制し、フェブラリーステークスへと駒を進めることとなりましたが、今年はいったいどうなるのか。
連覇確実と報道されておりますが……』
「まさか病院で自分の馬のレース見るとは思ってなかったですよ」
「まあまあ、笠松のヒーローが出るんですから、患者と一緒にみてもバチあたらんでしょう。それで、どうなんです? 勝てそうなんですか?」
病室で健診をする中、パソコンから流れる競馬中継を見る。
こんなんで大丈夫か? と言われたらダメなんだが、患者が喜んでるなら仕方ない。と思う。
「正直よくないらしいです。アンカツさんやみんなが言うには」
「そうなんですか? 見た感じわからないですけど」
まあ、素人からすれば、汗かいてるとかじゃない限りわからないもんだけど、プロが言うにはよくないらしい。それでも人気は一番でオッズは1.5とか。まあ、G1勝ってて地方無敗、連対率が化け物状態の馬が負けるとは思わないよな。って思う。
「まあ、正直に言うと、フェブラリーステークスの出走権は頂いてるんで、調整的に使うって言ってました」
まあ、格下相手になるG2競走。調整といえども馬券に絡むはず。そう思いながら椅子に座り、二人でパソコンの画面に目を向けた。
各馬がゲートに入る。
サンドリヨンは1枠1番。
芦毛の馬体が飛び出した。
外側の馬がどんどんスピードを上げていく中、サンドリヨンと安堂さんは位置を変えず、前寄りではあるものの、しっかりと中団に入った。
「大丈夫に見えますね。いつも通りというか」
「前かかりにもなってないし。いいじゃないですか先生! 行けますよ! これ」
12頭次第に列を作っていく中、しっかりと走っていくサンドリヨン。内側で被されているため動けないようだが、それでも内側でゆっくり足を貯めているのだろう。ここ最近の焦りは見えない。
『さあ向正面に入りました。馬群が少し広がります。一番人気サンドリヨンは位置を下げて後方から5番手ほど。前に壁ができている。先頭はモンドクラッセ。2番手は6番アスカノマロンです。さあ3コーナーに入ります12頭』
「あれは動かないんですかね? 動けないんですかね?」
前横後ろと囲われてるサンドリヨンに不安になったのか、患者が口にしたものの、俺は無言のまま見つめる。
『馬群が縮んで行きます。さあ、4コーナーを抜けて中京の直線!
アスカノロマンが前に出る! アスカノロマン先頭!』
「サンドリヨン?」
画面の中のサンドリヨンは、まだ前に壁がある状態でまだ出てこない。
「大丈夫ですかね。これ」
「大丈夫ですよ」
『アスカノロマンが逃げる! 逃げる! サンドリヨンがようやく顔を出すが届きそうにない!』
壁に捕まっている間に先頭との差は広がり4馬身ほど。
「抜けますか?」
「んー。無理そう?」
壁から抜け出し安堂さんが鞭を振る。
残り100メートルでのスパートとなりサンドリヨンが一気に飛び出す。
それでも見た感じ全力と言った感じではなく、無理のないスパート。
2番手のモンドクラッセに対し、アタマ差まで迫ったままゴール板を通過するサンドリヨン。
『東海ステークス、制したのはアスカノロマンっ!! なんとアスカノロマンが1着です! モンドクラッセが2着! 昨年制したサンドリヨンはまさかの3着! 3着です!』
「ま、負けましたよ先生」
「そりゃあ常勝てるわけじゃないですからね。ただ、最後の方まで無理させてる感じとかないように見えましたし、そういう判断だったと思いますよ?」
こんこん。とノックされて部屋に看護師が入ってくる。
「村瀬先生」
「すみません。呼ばれたので私はこれで。あ、今度の検診お昼からでしたね。よろしくお願いします」
「ああ、はい。お願いします」
少し気の抜けている患者に挨拶して病室から出た俺は歩き出す。
「長かったですが、何されてたんですか?」
「ああ、サンドリヨンのレースを見てて」
そういうと、看護師の彼女は笑みを浮かべる。
「白くて可愛くていいですよね。サンドリヨンちゃん」
「少し前まですごい我儘でしたけどね。まあ、今度はやると思います」
「できるなら、サンドリヨンちゃん連れてきて、子供達とふれあいみたいなのできればいいですね」
「どうだろうねぇ。できたらいいですね」