灰被りー元ウマ娘、現競走馬だけど質問ある? 作:パンダコパンダ
東海ステークスで流して負けたらめちゃくちゃネットの記事になっていたことをスレッドで知った。
たしかに、G1級の子が負けると記事になっていたのはウマ娘時代でもそうだったから考えればそうなんだけど、少しばかり不服である。
本当はちゃんと勝ちに行きたかった。だけど、そもそも受けていた指示が、しっかりと足を残した状態で中京のコースを確認すること。だった。
馬主である先生も、調教師も、勝ちたいのはG1。それも地方馬にとって大きな意味を持つフェブラリーステークス。私自身としても、そろそろリッキーとケリをつけたい。だから、我慢しでギリギリまで足を使わず、余力で走ることを認めた。
たぶん秋天までの私だったら、何も考えずただ1着になるための走りをしてたと思う。それが悪いこととは今も思ってないし、そうしないと私の価値がないとも思っている。
でも、それだけじゃなくて、ちゃんと目標に向かって整えてくれているみんなのことを考える余裕もできたから。
ただ、2着の馬抜けそうだったのに抜けなかったから若干悔しさは残ってるけどね。
そんなこんなでスレッド世界のみんなが拾ってきた私の記事を見ていたのだが、大体は私が早熟という話。オグリ姉さんはそうでも無かったけど、オグリ姉さんの妹らしいオグリローマンも、ライデン姉さんも3歳が全盛期と言われてるらしく、3歳で三つ取れたのが限界という意見が出ているらしい。
それならなんで2着とか、ハナ差4着になるんでしょうね? と思ってたらするが、結果が出ていない以上文句は言えないか。
フェブラリーステークスでコパノリッキーに半バ身差。
安田記念でモーリスにハナ差。
そして秋天でイスラボニータにハナ差。
惜敗の三連敗とは言え負けは負け。
「サンドリヨン。調子いいですね」
競馬新聞の記者さんが私と中央からの移籍馬の坂路併走を見ながら呟く。
「世間じゃコパノリッキーとライバル対決って言われてますけど、やっぱり意識しますか?」
「まあ気にするでしょう。彼方さんからすれば目の上のたんこぶじゃないですか? コパノリッキーはダート専門なのに対し、こっちの脚質自体は芝寄り。それでチャンピオンズカップも取って。ダートが芝に負けてる。って捉えられてもおかしくないじゃないですか」
「チャンピオンズカップ、東海ステークス、フェブラリーステークス名古屋大賞典。2勝2敗な訳ですもんね」
「まあ、やってくれますよあの馬なら。動きより何より、今までで一番気持ちが乗ってますから」
「もうすぐ主戦の安堂さんも引退ですし、彼女も環境が変わりそうですが、楽しみに追いかけますね」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
栄華か、叛逆か。
奇跡か、実力か。
主人公は3連覇のかかるコパノリッキー。
対するライバルは、一年振りのG1勝利を狙うサンドリヨン。
2頭の対戦成績は2勝2敗。
砂の王者として君臨するコパノリッキーと、地方からやってきて互角の戦いを見せるサンドリヨンに、ファンの多くはライバルだと二人の仲を称する。
ただそれは嘘偽りなく事実であり、コパノリッキーはサンドリヨンを意識し、サンドリヨンもコパノリッキーを意識している。
それは、こいつだけには負けられないというライバル心なのか、それとも執着に似た何かなのかは二頭にしかわからない。
だがそこに忍び寄る影。根岸ステークスから上がってきた新星モーニンがいる。絶対的な強さとそれに対抗する強者。そこに新星が割り込めるかどうかを見に来たファンもいる。
『第33回フェブラリーステークスの時間となります。出走まで残りわずかとなりました。3連覇がかかる注目の一番人気コパノリッキーは前々走前走と7着4着と本調子ではない様子。それでも期待を一身に受けます。
対抗の二番人気サンドリヨン。秋天ではタイム差なしの4着。前走の東海ステークスではまさかの3着となりましたが、ここに向けてしっかりと調整できたと陣営からコメントを貰ってます。一年振りのG1勝利へ向けて頑張ってもらいたいです。
三番人気に入ったのは武蔵野ステークスの3着を挟んで6戦5勝のモーニン。ここまでやってきた勢いのまま果たして格上である二頭を押しのけることができるのか見ものです。それでは本馬場入場となります』
「調子は良さそうで安心したよ。今日は村瀬さんも来てるし、がんばろうな」
厩務員が私に言う。
そうなんだ。最近は忙しくて重賞に来れてなかったけど、流石にG1だからか無理いってきてくれたんだ。それは嬉しいことだ。
「頼むでサンドリヨン。暴れんとってくれな」
それはもちろん。パドックから移動する時、スルスルとコパノリッキーがやって来た。何となく近くに来て欲しくなくて前掻きしたのに、「なんでぇ」と気の抜けた声を出すから思わず笑ってしまった。
「何? 用?」
「君に勝つって言いたかったんだ。今日勝つために調子も整えたから。ライバル? ってタケが言うし」
「ふーん? まあ、はじめて会った時アンタ12着だけどね」
「ウグっ」
「今日も外側伸びないらしいよー? 勝てるのかなそんなんで」
「……。勝つよ。僕は」
そう言ってスルスルと先に馬場入りしたコパノリッキー。
他の馬たちもどんどんと先に行く中、私は一鳴きして続いていく。
戦おう。全力で。そのためのあの東海ステークスなんだから。
『各馬ゲートへと入っていきます。狙うは頂点。さあ90秒後王冠を被るのは一体どの馬なのか! さあ第33回フェブラリーステークス!
ゲートが開きました! 並んでのスタートです。12番芦毛の馬体サンドリヨンいいスタートですが、入れ替わるようにコパノリッキー出ていきます』
スタート直後。私の場所は6-12で外側。内側に行くにも微妙だからスタート直後先行争いに加わる振りだけする。そうすると前に行かせたくない馬が頑張ってくれるので、内側のスペースを作れる。
8、11、13番の三頭がハナを主張し先行集団を作る。ちょうどいい具合に前と後ろで別れた感じ。
コパノリッキーの外に着いていい感じに併走する。
脚の疲れ、体の疲れは一切ない。全くもって問題ない。
「ケリつけよう」
「そうだね」
向正面を抜けて3コーナー。6〜7番手に居た私たちが短く言葉を交わし、コーナーを使って前へと迫る中、もう一つ声が聞こえる。
「あれ? 凄いやつが居るって聞いてたけど、こんなもんなら俺が勝ちそうっスね」
「ア゙ァ!?」
「リッキー!?」
突然聞いたこともないような声を上げたコパノリッキーに驚くが、彼は止まることなくモーニンに対して言い放った。
「僕とサンドリヨンちゃんとの勝負に割って入る? 年下が調子のんなよ」
「言うてアンタらそんな強いの? 最近勝ててない奴と芝も走る奴に負けてるアンタ。俺の方が強いっすよ」
「なんか、リッキーに乗せられてるみたいで癪だけど、お呼びじゃないのよモーニン。精々ちぎられないよう頑張りなさい」
まあ、着いて来ても殺すけど。
『第4コーナー回って直線! 残り500メートル!
コーリンベリーから先頭最内コパノリッキーに変わって、さらにサンドリヨン。モーニンと続いてい来ます!
さあ三頭が抜ける抜ける! 400を通過!』
いつでもスパートをかけられるようにと低い体制のまま先頭のリッキーの右を走る。リッキーもリッキーでジョッキーに対してまだなの!? っ叫んでる。対するモーニンは余裕そう。
最初に鞭の音がしたのは私の右側。モーニン。続いてリッキー。そして私。
「ちょっ!?」
「っく!!」
驚いたような声を上げるモーニンを他所に、コパノリッキーと位置を入れ替え先頭に躍り出る。
「置いてくよ。リッキー」
「冗談っ!」
加速するリッキーに合わせて私も残りの200メートルを全力疾走する。
『モーニン! モーニンは厳しいか!
やはりやって来た二頭! 連覇か! 復活か! サンドリヨン粘る! モーニンが追う!』
悪いけどリッキー。今日は勝たないといけないんだよ。私が。
ジョッキーが手を上げた。
勝利のガッツポーズをしたのは、ピンクの勝負服ではなく、黄色の勝負服でもなく、水色の勝負服。
『サンドリヨン1着でゴール!
17年の時を経て、地方馬が、再び二月の冠を被りましたっ!!』
ダラダラと溢れるように汗が出る体を、ウイニングランで浴びる風が冷やす。拍手に歓声に。いろんな音が響く中京の空。
「お疲れサンドリヨン。勝ったな」
ポンポンと首筋を叩いたアンカツ。
私はゆっくりとスピードを落とし、最終的に立ち止まると、綺麗に晴れた青い空を見上げた。
第33回フェブラリーステークス。地方馬によるはじめての中央G1制覇がなされてから17年。再びその冠が地方へと渡った。
主人公は3連覇を狙う砂の王者のはずだった。流石のライバルでも勝てないと思われていた。そんな中冠を奪ったのは、多くいる良家?の娘から王子の横を奪った町娘のようなことを成し遂げたのは、他でもないサンドリヨンであった。
【速報】二月の冠は私のもの。【勝ったよ】
今日立てたスレッドは、きっと、30分くらいで埋まるだろうな。