灰被りー元ウマ娘、現競走馬だけど質問ある?   作:パンダコパンダ

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 お久しぶりです。

 秋天の内容を少しだけ加筆修正してます。
 興味があれば読んでください。


25:ウマ娘時代の話

 ウマ娘だった時の一日はまず、朝練から始まる。

 

 6時半からターフが利用できるようになるので、5時半に起床。歯磨きだったり、身だしなみを整えて6時過ぎには寮を出る。この間はリッキーが起きないように静かに行動。寮の廊下も、寝ているウマ娘だっているので静かに外に出る。

 外に出たらストレッチ。晴れでも小雨でも関係なく外でストレッチをして体を温めると、ターフに向かって人のジョギングレベルのスピードで向かう。

 

 朝早い子たちはこの時間には動き始めているので、顔馴染みたちからの挨拶を受け、私を追い抜いていく背中を見つめる。

 

 練習コースに到着すれば、ダートコースを1000メートル80秒ペースで一周(2400)。止まることなくクールダウンで一周して、2100のスタート位置から走り出す。クールダウンをして、体に違和感がないかどうかを確認すれば、ダートコース最後の1600。芝からスタートするために他の子たちとぶつからないようにタイミングを見計らって始める。

 

 ダートコースでするのは体の力加減の確認がメイン。というか、芝で走る前の調整だから、1600で走ったとしてもタイムは出さない。

 

「あ! サンドリヨンさん!! 朝練一緒にしてもいいですか!!」

 

 気持ちよく風を感じる程度に走った後、芝コースに移ろうと移動していた中聞こえて来た、喧しい声。

 

「嫌」

 

「えー! なんでですか!!」

 

「お前がうるさいからだよキタサンブラック」

 

「そ、そんなぁ……」

 

 黒い髪をした中等部の後輩が悲しそうな顔をしているが、全て無の感情で突き放す。

 

「あーっ! サンドリヨンが芝の子と一緒に居る!!」

 

 続いてやって来たコパノリッキー。お前さっきまで寝てたろうが。あと、無言で芝からダートの方へ引っ張るな。やめろやめろ。

 

「私一人で練習したいんだけど、何? 邪魔するなら戻るけど」

 

「いえいえ、そんなことありませんよ! サンドリヨンさんが朝練をしていましたので、今日こそは一緒に練習をと!」

 

「邪魔なんてしないよ! ただ再来月帝王賞あるからさ、並走してもらおうかなって、あ、帝王賞の受付まだだからサンドリヨンもどう? 永遠のライバル同士戦おうよ!」

 

「いいえコパノリッキーさん! サンドリヨンさんは私が倒すべき相手ですから! 同じ菊花賞ウマ娘として天皇賞春をですね!」

 

「お疲れしたー」

 

 そそくさと逃げるようにコースから出た私だが、かくいう二人も私について来て後ろで言い争いをしている。芝だのダートだのライバルだのなんだの。お前ら練習良いんかい。

 

「私の言ってることが正しいよねサンドリヨン!」

「サンドリヨンさん!! 一言言ってください!」

 

 両方の肩をガシッと掴まれた私は流石に耐えきれず、二人を撃退する呪文を唱える。

 

「超巨大プリンを作るために、容積が1800Lの特殊容器を用意した。プリンの溶液が流れてくる魔法の川から特殊容器にプリン液を移し替えるために、ポンプA,Bを同時に50分間運転し、1000Lたまったところで中断した。そこに、ポンプAを4台追加し運転を再開したところ、10分後に特殊容器はいっぱいになった。このとき、ポンプA,Bが1分間にくみ上げるプリン溶液の量は、それぞれ何Lか求めなさい」

 

「え? サンドリヨン? 大丈夫、わかるから、うん。わかったら一緒にダート走ろうね……。え、1800……」

 

「あっと……。超巨大プリン……。美味しそうですね!」

 

 ワタワタし始める二人を他所に私はもう一度前を向いて歩き始める。

 

「これ中学生の内容だから、分かんなかったら中学生以下だから」

 

 高校生のリッキーは中学生の内容なのにわからなくてワタワタとし始める。ブツブツと1800、1000、50分、ポンプと言葉を繰り返しており、中学生のキタも習っている範囲なのにわからなくて思考が全く違う方向へと飛んでいる。美味しそうってなんだよ。おい。

 

「解けた方と練習するかもしれないね」

 

「絶対解く!」

 

「分かりました!!」

 

 かもしれないだけでするとは言ってない。というかしないのに、二人はピャーッとターフの方へと戻っていった。

 

「あれあれ? いつものやつかい?」

 

「どこから出て来たんですか寮長……」

 

 いつのまにか現れていたフジキセキ先輩と、二人でやれやれと言った表情で言葉を交わす。ちなみに、二人を撃退するために数学の問題を出すようにすれば? とアドバイスをくれたのは寮長だったりする。

 

「まあ、ライバルがいるのは良いことだよ?」

 

「それはその通りなんですけどね。絡まれ方がしんどいですね」

 

 二人で歩きつつ、そのまま栗東寮へ入る。入り口でお別れし、そのまま部屋へと戻ると、シャワーを浴びて汗を流し、学校指定のセーラー服に着替えると、ウマホにメッセージ。カフェテリアで姉さんが待っているらしい。

 

「行くか」

 

 朝食後はそのまま教室へと向かうため、授業カバンも持って寮を出る。

 やっと朝食。すでに疲れが待っている気がするが、オグリ姉さんの食べっぷりを見てれば癒されるだろうし問題ない。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 放課後になれば、やっとこさ本練習に入れるとクラスのウマ娘たちが騒ぎ出す中、私は机から動いていなかった。なんというか、走る気力が起きなくて、ただ上の空といった感じ。

 

「おっと、我らが灰被りの姫はメランコリーな様だが、一体どうしたっていうんだい?」

 

「見た目の良さだけ。フジキセキ先輩には敵わないから0点だよジャッカル」

 

「だってさージャッカル」

 

「うるさいよオンリー」

 

 いや、うるさいのはお前らだよ。なんでお前ら私の周りにいるのさ。練習行けよ。

 

「今日はオフだからねぇ。せっかくだから一人ぼっちの君と遊んであげようかと」

 

「いらないお世話。帰れ」

 

「まあまあ、同期の末っ子を構ってあげたいんだよ」

 

 誰が末っ子だよ。誰が。

 ヌーヴォレコルトの言葉にそんなことを思っていれば、グイッと腕を引っ張られ立ち上がらせられる。

 私の周りには、ヌーヴォレコルト、ワンアンドオンリー、トーホウジャッカル、イスラボニータ。

 

「オジュウ、助けて?」

 

おじゅう()はなんも知らん」

 

 私に味方はいなかった。

 苦肉の策で勉強があると言えども、東大医学部A判定だろ? と言われればどうしようもない。一日くらい息抜きが必要だと言われる。

 

「医者の一家か知らないけど、せっかく女の子なんだからたまにはオシャレして友達と一緒に遊んでる写真でも送ってあげなよ」

 

「興味ないって」

 

 掴まれてた腕を振り解いて、私は図書館へ向かうべく教室を出る。

 タイミングを見てトレーナーには連絡して、練習時間をずらしてもらうことにすれば良い。それに、もうすぐ春天で仕上げないといけない。

 

 なぜかよく顔を出しにくる後輩が鬱陶しいのもある。

 

「あちゃー。相変わらずダメだね。取り付く島もない」

 

「ただ仲良くしたいだけなのにね」

 

 友達が欲しくて中央に来たわけじゃない。勝つために中央に来た。オグリ姉さんのようになりたくて、笠松が誇ってくれる存在なるためにここにいる。

 だから、私は中央のウマ娘が好きじゃない。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ーーさて、もうすぐ春の天皇賞となりますが。

 

『はい! 菊花賞ウマ娘として長距離レースである春天は落とせません!』

 

 ーー気合い乗りが良いですね。キタサンブラックさん。

 

「そ、それほどでも』

 

 ーー今回の春天では、阪神大賞典で1着のシュヴァルグランさんや、先輩菊花賞ウマ娘であるサンドリヨンさんも出走しますが。

 

『長距離レースの経験のあるお二人は確かに要注意ですが、それ以上にサンドリヨンさんですね。樫の誇りと菊の強さ。倒してみたいですよね』

 

 ーー菊花賞から間が空いていないキタサンブラックさんの方が有利という見方もありますが。

 

『そんなことないです。サンドリヨンさんのスタミナやパワーはゴールドシップさんやマックイーンさんと同じかそれ以上。最後の末脚も、有馬記念のテイオーさん以上だというのがチームスピカの共通認識です。足元を気にせず走れるあの人がしっかりと準備を整えてやってくるんです』

 

 ーーでは厳しい戦いになると。

 

『厳しい戦いになるのは確実だと思います。でも、あの菊花賞はスローペースからの末脚勝負。今回の春天は私が先頭で引っ張りますので、展開も変わってきます。流石にスタミナ勝負になれば私にも分があると思うんです!!』

 

 ーーなるほど。スタミナ勝負でねじ伏せに行くということですね。天候の不安はありますか? 当日は雨という予報で重バ場が想定されます。

 

『不安がないと言えば嘘になりますね……。ただでさえ厳しいと予想される上に芝のコンディションの問題がある。ダートに慣れているサンドリヨンさんの方が、私としては有利なんじゃないかって』

 

 このインタビューが載った月刊トゥインクルが発売されてから1週間後。前日から続く大雨でびしょ濡れとなったターフ。盾を求めたウマ娘達の先頭は、青と白の勝負服に身を包んだ少女だった。

 多くのウマ娘達が泥に塗れる中、ドレスタイプの勝負服は汚れることなく、6馬身の差をつけて雨の中輝く。

 

 勝利後のインタビューで少女は答えた。

 

『晴れの方がもう少し歯応えあったかもしれませんね。天候に文句は言えませんけど』

 

 短くそれだけを残した少女は、笠松に贈るものが増えたと喜びながら、レース場を後にした。

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