リン一行にメタ突っ込み常識人枠を足した。支部にも投稿。
パックと名乗る妖精がリンの旅路に加わったのは、薔薇園の会場に向かう道中、何度目かになる盗賊の襲撃の後だった。
女体化し怯える盗賊どもを地面に転がし、「さあこれからFAX(複数形)だ」とシークフリートが舌なめずりしたそこに――小人が樹上から落ちてきた。
ぽてんと地面に落ちた人型のそれをつまみ上げ、胸の前でぶらさげたのはリン。体長は十センチ程度だが成人の体型をしており、背中には半透明の羽根がぷるぷると震えている。
落ちた衝撃で気を失ったのか目を閉じてくったりとしている。
「なんだこれ」
『妖精だな。見たところ、風の吹くまま世界を旅する
「妖精!」
リンは目を輝かせた。リンが本から得た知識には妖精に関するものもあり――妖精や精霊を知覚するには特別な才能がなければならないと書いてあった。自分にはその特別な才能があったのだ!
「うう……」
妖精が微かに呻き声をあげた。目が覚めたのか手で顔を覆い、頭を振る。
「男が……女で……女に……ちん◯……」
妖精が顔から手を離した。ちょうどその目の前には――
「ヒッおばけち◯こォ!!」
「あっ!? あぁぁあぁアぁィお゛あ゛ッ!」
もとはジークフリートのナニである(と思われる)臨戦態勢のナニがスカートからそそり勃っているのを見て、妖精は叫んだ。
妖精を放り出してリンも叫んだ。スカートの裾を押さえしゃがみこむ――背中を丸めれば自然と顔に近づく先端。それから逃げるように顎を跳ね上げた結果リンは背中から地面にころりと倒れて石に頭を勢い良くぶつけ、ブリッジし突き出された腰から青天を衝けとばかりに空を目指す繁殖用キノコ。
――あまりにも、あまりにも酷い絵面だった。
妖精はパックと名乗った。森や平原をふらふらと飛び回っている無職を自称し、リンの頭のてっぺんから爪先まで観察した後こう言った。
「女一人の旅じゃ何かと不便だし、物騒だろう。あんたがそのローゼンメイデンだとかいう祭典の会場に着くまでのあいだ、斥候として着いていってやるよ」
『ローゼンガーテンな』
リンは感動に胸が震える心地がした。これまで――村を出てからこのかた、リンがまともに女扱いされた回数など一度か二度ほどしかなかった。「げへへ男なら奴隷にして女ならFAX(複数形)だァ!――なんか犯す気失せたわ、バイナラ」と盗賊に貶されるわ、ジークフリートが「セーッ
しかし現れたのだ。リンを女として扱う紳士が。
リンは天を仰ぎ一筋涙を流す。同じ人間より妖精の方が優しいという事実が辛かった。
――パックは良い斥候だった。あっちに盗賊が隠れてるとか、あっちは山賊の根城だとか、「風が吹かない場所はないから」と先に潜む危険を教えてくれた。
斥候の対価と言うにはささやかだが、彼は――性別を持たないパックを彼と言って良いのか分からないが――リンに、人の肉体についてあれこれと質問を重ねた。
「なら、ここの人は子を孕むとどこが膨らむんだ?」
「腹だな。子供は腹に宿る」
パックはリンの股から腹にかけてをじろじろと見て「あのデカさだぞ、全部インサートしたら上の壁突き破って胃に到達しそうなのに」と独りごちた。リンはその視線と言葉の意味に気付いて口を閉ざす。
「……人の体って不思議だな」
おっしゃる通り。
人体の神秘については横に置いておこう。パックのお陰でリンの旅はさくさくと軽快に進み、先ず立ち寄った街はベルンだ。アーレ川沿いに発展した大都市で、リンの村にも時々ここから行商が来る。
ベルンに入る城門が近くなると、人混みは苦手なんだと言ってパックは上空へ離れた。リンは「ベルンを出たら合流しような!」と声を張り上げ手を振る。そして意気揚々と中に入り――人の波に押し潰された。
「人がおおおお多いィィィ!? うぐぇっ!」
混雑した場に遠慮などは存在しない。先を急ぐ者にエルボーを食らわせられ、姿勢を崩した者にぺしゃんこにされ……と散々な目に遭いながらどうにか密集地帯を抜けたリンの視界に広がる世界は、溢れんばかりの活気に満ちていた。飯屋や出店から聞こえる威勢の良い呼び込み、人々の活気に溢れた顔や健康的な肉体。村民が百人いるかいないかという小さな村での生活しか知らないリンは「ほわぁ……」と息を吐く。
が。
「くさい……」
大都市とはつまり人口が多いということであり、人が密集しているということだ。どこからか漂う糞尿の臭いや腐った汗のような臭い――草原と森の匂いに包まれて育ったリンには耐え難い環境だった。
「早く用事済ましてこんなとこ出よーぜ」
魔剣グラムに取り憑いたジークフリートと会話――傍目には大きな独り言――しながら大通りを進んでいたリンの耳に、薔薇園の商品について噂する呑兵衛らの話し声が届いた。「クソ王子」や「ざまぁねぇ」と散々にジークフリートを扱き下ろす言葉の中に「国一つ買える」という発言を聞いて、リンはジークフリートを見上げた。
「おまえの財宝ってそんな大金なのか……」
どんだけ溜め込んだんだおまえと言外に匂わせたリンに対し、ジークフリートは刺々しく目を細めて宙を睨んだ。
「金なんかじゃねぇよ」
ジークフリートの話すところによれば、薔薇園の賞品――彼の財宝とはただの宝物や金貨などではない。ジークフリートが世界中から集めた魔道具コレクションであり、その中には死者を蘇らせる奇跡すら起こすものもある。
ジークフリートが魔剣グラムに取り憑いてまで地上にしがみついている理由はそれにあった。魂が死者の国に逝かなければ復活は容易い。
ジークフリートは復活のため薔薇園での勝利を目指している。ではリンが薔薇園に参加する理由は何か――リンの願いは一つだ。勝利を収め、村を救ってくれた女神もといブリュンヒルデに「よくやったわね」と褒められること。
復活したら世界の処女を食い荒らすつもり満々のジークフリート、ブリュンヒルデに褒められる未来の自分を想像しヨダレを垂らすリン。方向性は違えども「欲望に正直」と言う点で二人は似た者同士なのかもしれない。
さてジークフリートとリンの
見た目ももちろん実力はピカイチ、薔薇園で勝利を収めるには欲しい人材であることは確か。しかし、唯一の欠点がそれらのプラスをマイナス渓谷に叩き落とす。
ディエートリーヒはどうしようもないマゾだった。リンを女王様と崇め、「踏んで」「蹴って」「罵って」と身悶える真性の変態――仲間として信頼を置くには困難な人間性の持ち主。リンが彼を仲間として換算しないのは当然のことと言える。
「り、リン……そこの男は何なんだ?」
「変態だ」
「変態なのは見りゃ分かる」
ベルン市街を出て合流したパックは、リンに気色悪いストーカーが憑いたことに顔を青ざめさせた。しかもベルンから憑いてきたストーカーは一組だけではなく。
リンの前に現れたのはジークフリートに個人的な恨みがある双子のドラゴン姉妹、リュングとロヴン。二人にとってジークフリートは大罪人だ――リュングたちの兄ファフニール♂のち◯こを奪い、それに加えてファフニール♀の処女とドラゴンの秘宝まで盗んでいった。
悪人と言おうか、クズと言おうか……「英雄」がすべきではない所業だ。
パックがなんとも表現しがたい微妙な表情で頭を掻く。
「なんてーか、メスで処女なら元男でも異種族でも構わないってのは……守備範囲広いな?」
――その、守備範囲が広いはずの男に「ヤる気が起きない」と言われたリンはどうなる。
表情を消したリンにパックは困惑したようだが、何も聞くことはなかった。
薔薇園に向かう一行の中で一番親切で心遣いが出来るのが木っ端妖精であることを、特にジークフリートは恥じたほうが良い。
薔薇園武闘会が開かれる場所、ブルグント王国が首都リヨン。パックがリンの旅に同行するのはここまで……のはずだった。
「見捨てないでくれ!!」
パックを両手で掴み、悲痛な表情でそう懇願するリン。バックにはリンの気持ちが痛いほど分かる――ドラゴンの双子姉妹を含め、リンの同行者には変態しかいない。
一人目、王子ジークフリート。リンにち◯こを生えさせまでして処女を襲う色情狂。
二人目、王子ディエートリーヒ。リンを理想の女王様(概念)として崇拝するマゾ。
三人目と四人目、双子のドラゴン姉妹リュングとロヴン。二人揃って自分(と相方)の顔が好きなナルシスト。――この二人に関しては、リンに被害がないことはないのが救いと言えば救いか。
風が吹くまま流される、それが風の妖精の生き方だ。パックがリンに同行したのはひとえにパックの親切心がゆえ。
リンはそれを知っていて、パックの特異さを分かったうえで懇願した。紳士で、常識的で、良心の持ち合わせがあって、話が通じて、害がない――得難い仲間だ。手放せるわけがない。
パックがいなくなったら誰に愚痴れば良い? 誰が親身になって慰めてくれる? リンは涙を流し……オマケに鼻水も垂らしながらパックの良心に訴えた。
「おまえがいないと生きていけない……!」
そんな哀の告白に、パックは溜め息を吐いた。
パックは頼まれ事にNOと言えない質だ。頼られれば「うんいいよ」と頷いてしまう損な性分で……頷いた後、たいていの場合、後悔するのだ。
たとえばこのように。
パックは人混みが苦手だ。開会式に参加するリンたちと別れて武闘場の外をふよふよと浮き、外へ漏れ聞こえる武闘場の声に耳を傾けていた。どうやら場内ではKRT13なるアイドルグループがライブを行っているらしい。場外まで漏れる『だ・か・ら・恋せよ、
「やっぱりこの世界――」
パックが俯いたその視界に、剣を鞘から抜いた二人組が写る。浮かれち◯ぽ、もとえ、浮かれポンチになっている民間人らに殺意を向ける二人。パックは「逃げろ!」と声を張り上げた。
そこに現れたのは和装の男だ。日本列島からここブルグント王国(のちのスイス)までは遠い――長い長い旅をしてきたのだろう。
男の少し黄味かかった肌は健康的に焼けており、タヌキのような隈取りをした目が爛々と輝いている。少し、いや、かなり怖い。
「ありゃあタヌキの化け物か?」
民間人を襲おうとしていた二人組の一人はそのタヌキの化け物が殺し、残る一人は石畳を駆けてきた――低く唸る乗り物が遠い空へ弾き飛ばす。
その乗り物の運転手……いや、ここはライダーと呼ぼう。ライダーはポンパドールを長く前方に伸ばした男だ。ターバンから除く黒い揉み上げ、褐色の肌。彼もまた先の和装のタヌキ男と同じく異国から来たのだろう。
「バイクってこの時代にあったっけ?」
パックは額を押さえた。現在の科学技術では部品の製造すら困難なはずの自動二輪が、ポンパドールの男に続いて十台……まだある、二十台以上並ぶ。
「
そしてパックには理解しがたい理由で発生した殺人未遂、市民が近くにいるというのに殺し合いが始まりかけ――二人を割るように飛び込んできた巨体。
その巨体の主が誰か気付いた民衆は沸いた。彼こそ最強の王ベオウルフ。右手に巨人剣、左手に聖剣フルンチング、股間にデカいフルチンを下げるというあまりに酷い公然猥褻に、パックは頭を抱えた。
「いや、まあ、フルンチングをフルチン
三人が円満に――円満に(?)別れた後もパックはその場に留まり、うんうんと唸り悩んだ。
この世界はおかしい。英雄色を好むとは言うが、一国の王子たる者が処女を食い散らすクズなのはどういうことか。旅の同行者♀にち◯こを生やし、盗賊を女体化させまでして処女を食っている。頭が沸いているのか?
もう一人の王子も変だ。攻められるのが好きという性癖は個々人の自由だとはいえ、それを他人に押し付け過ぎだ。許容される範囲を見極められないコミュ障なのならば度が過ぎるのも分からなくはないが、リンやドラゴン姉妹に対してあれやこれやと気遣いが出来ているのを見るにコミュ障ではない。
そして武闘場外に現れた三人の男らを見ろ、王道バトルファンタジーに下ネタを足したような面々ではないか。あんな三刀流があってたまるかマリモ頭みたいに口に咥えてろ。
パックは天を仰いだ。腹が立つくらい青い空が広がっている。
――それから次々に現れる変態。母性に溢れたおっぱい魔神(元男)、おっぱい魔神におぎゃる中年から熟年であろう男の群れ。武闘会が始まれば会場の一角でフルンチングではなくフルチンが伸びたり縮んだり回転したり、三刀流最強の一本にして最初の一本であるち◯こ剣――いや、ち◯こ触手の方が正しいかもしれない――が暴れまわる。
情報収集のため各会場を見て回っていたパックは、木の枝の上にしゃがみこんで目を閉じた。
この世界、生きづらい。
なんでローゼンガーテン・サーガの二次がないんだよ!!!! とキレて書いたので、クオリティはお察しください。
ローゼンガーテン・サーガはいいぞ! 面白いぞ!! 王道ファンタジーだぞ!!!!
ペン勃てください!!!!!!!!!