「はぁ・・・」
今日も今日とて私は夕暮れにいつもの波止場で黄昏ている。吹雪が刺客を送ると言っていたがどうにも来る気配が無い。やっぱり私はどうでも良いと思われてるのだろうか。いや、吹雪のことだからきっと・・・
「はぁ・・・」
そういえば今日もいらない撤退をしてしまった。進退を尋ねられた提督に「風が変だわ・・・」なんてよくわからないことを言って撤退してしまった。ドンマイ私。
「はぁ・・・」
夕暮れの海へ紙飛行機を飛ばし一人、少しお腹が空いてきたかも
「かーがさん!」
「はぁ・・・」
「加賀さん!!」
「はぇ!?」
咄嗟に妙な声が出てしまった。振り向くとそこにいたのは鹿島。鎮守府でも指折りの穏やかな娘だ。何でも遠い有明では女王などと呼ばれているらしいが・・・真相はわからない。
「か、鹿島・・・いったいどうしたの?」
「実は吹雪ちゃんに頼まれまして。加賀さんの話し相手になってあげて欲しいと。」
吹雪は刺客に真っ直ぐ要求したらしい。吹雪らしいが一体全体どうしてそんな変な頼みに乗ってくれるよう交渉したのだろうか。
「はい、加賀さん。夕飯前ですけどちょっとお腹に入れませんか?」
鹿島がそう言って差し出したのは栗饅頭だった。鳳翔さんか誰かが作ったのだろうかまだほんのり温かい。良い匂いもする。隣に座った鹿島が一つ手渡してくれる。
「ありがとう・・・」
「いえ、どうしたしまして!」
栗饅頭を頬張りまた海へと視線を向ける。鹿島はありがたいことに無理に話題を強いてくることはしなかった。隣に座っているだけだ。
「・・・。」
「・・・。」
静かな時間が過ぎていく・・・そして沈黙を破ったのも鹿島だった。
「あの・・・」
「・・・なにかしら。」
「加賀さん、今日もすごかったです。今日の進軍先に敵の集積地があって提督さんが新しく任務を考えてますよ。まるで鷹の目のようです。」
「・・・そう。」
言えない。本当は怖くて早く帰りたかったから適当な事を言っただけなんて・・・でも鹿島は吹雪が送り込んだ刺客だ。ここは本当のことを言うべきだろうか。
「・・・なんてことないわ。」
「すごいです・・・!」
言えんかったではないか。また適当な返事をしてしまった。せっかく吹雪が送り込んだ刺客なのに本当のことを言わんでどうする。私は頭を抱えた。どうする。早く言うべきだろう。これ以上余計な事を言う前に・・・!幻滅されてもそれが本当の私なのだから・・・!
「・・・嘘よ。」
「え?」
「嘘なのよ。風が変に感じるなんて。本当は怖くて早く帰りたかっただけなの・・・」
「加賀さん・・・」
「幻滅したでしょう?・・・鎧袖一触なんて夢のまた夢。私はただの一際臆病な艦娘なのよ。」
「・・・でも、あの先に何かあると感じ取ったから怖かったんですよね?」
「え?」
「自分の感覚に正直に従ったから、今日は私たちは何の準備も無しに敵地に突っ込むことはなかった。そうですよね?」
「え・・・」
「すごいなぁ加賀さん。私、自分の感覚って鋭くないからなぁ・・・」
「え・・・」
「少しでも感じた事を風が変だって表すことでみんなにわかりやすく伝えたんですよね?すごいなぁ・・・」
吹雪・・・寄越す刺客を間違えたんじゃないかしら・・・この娘、ちょっと感覚が・・・
「加賀さん!私ももっと精進あるべき!ですね!」
「え、ええ・・・そうね。」
栗饅頭最後の一口を頬張り、鹿島は立ち上がった。その目にはきらきらと輝きが増しており鼻息も荒い。
「加賀さん!今日はお話し出来て良かったです!よぉーしこれからも頑張るぞぉ!」
「ええ・・・そうね・・・」
ふんすと鼻を鳴らす鹿島を尻目に私は栗饅頭を齧る。小腹が満たされた事で夕食までは空腹を我慢出来そうだ。しかし吹雪よ・・・相談する相手を間違えたんじゃなかろうか。鹿島は変にやる気に満ちた目で帰っていったし。私への勘違いが更に進んだ気がする。どうしたもんかなぁ・・・
「はぁ・・・」
吹雪の送り込んでくる刺客はまだつづくのだろうか。果たしてマトモな人選が行われるのか甚だ疑問ではあるがとりあえずは吹雪に任せたままにしようと思う。私だって渋々だがやると決めたのだからやり通したい。栗饅頭を口に放り込み夕飯の時間までこのまま時間を潰していくことにした。
つづく