今日の私が一味違った。立ち向かおうとしたのだ。恐怖に。それがこんな結果になるなんて・・・
「はぁ・・・」
今私の左手と頭には痛々しい包帯が巻かれてある。恐怖に立ち向かい海域を突破していった結果なんとそこには鬼級深海棲艦がいたのだ。私達はなんの準備も無しに突入する羽目になり轟沈者こそ出なかったものの大損害を出したのだ。
「はぁ・・・」
そして私はまた黄昏る為にいつもの波止場へと向かっていた。いつもの様に撤退を進言していれば・・・なんて思いつつ恐怖に立ち向かう志を見せつけた途端どうしてこうなるんだろう、と考えずにはいられなかった。
「はぁ・・・あら?」
波止場に先客がいる。小さな背中にピンク色の髪が風にたなびいている。
「ぴょん?」
「卯月・・・」
先客は卯月だった。今日の出撃に同行していた駆逐艦だ。その体にはあちこちに痛々しい包帯が巻かれ、ガーゼが貼られている。そして手には大きな紙袋が存在していた。
「ごめんなさい・・・」
「ぴょん?なんで加賀さんが謝るぴょん?」
「だって私がいつもの様に撤退を進言していれば・・・」
「加賀さんが進言しても司令官が進めと言っていれば結果は変わらないぴょん。」
「でも・・・」
「デモもストもないぴょん。今回は運が悪かった。それだけぴょん。」
ああ・・・私は何をしているんだろうこんな小さな子にまで慰められているなんて・・・
「入渠待ちかしら・・・?」
「そうぴょん。あ、加賀さんもドーナツ食べるぴょん?」
「・・・いただくわ。」
紙袋から差し出されたドーナツを受け取り卯月の隣に座る。お茶も欲しいところだが我儘は言ってられない。
「卯月は強いわね・・・」
「ぴょん?」
私は気付けば口を開いていた。吹雪からの刺客ではないにも関わらずぽろぽろと溢れ出していた。怖かったにも関わらず海域突破を優先したことや他のことなど、自然に。臆病者が余計なことをするなと言わんばかりの今日の出撃は流石に堪えた。
「・・・加賀さんは臆病なんかじゃないぴょん。」
「そうかしら・・・」
「考えてもみるぴょん。加賀さんの進言のおかげで回避出来たことがいくつもあるぴょん。そういうのは直感っていうぴょん。」
「そうなのかしら・・・」
「この鎮守府で加賀さんを臆病だなんていう艦娘はいないぴょん。もう少しみんなのことも考えて欲しいぴょん・・・?」
本当だ。私は最近コミュ障だと言われたばかりではないか。もっと仲間に対して理解を深め、仲良くすることが重要ではないか。吹雪にも大和にも言われたことだ。だがどうしようもない。
「どうして加賀さんはそんななっちゃったぴょん?前の加賀さんはそんな風じゃなかったぴょん。」
そういえば・・・どうしてだろうか。いつの間にかこうして波止場で黄昏る様になっていた。いつからこうするのが当たり前でいたのだろうか。もう覚えていない・・・
「そうね・・・いつからこんな風になっちゃったのかしらね。」
「うーちゃんは知らないから何とも言えないぴょん。」
「そうね・・・」
卯月から二個目のドーナツをもらい、頬張る。ドーナツは程よい甘さで口の中で溶けるように広がり、喉を通っていく。ああやっぱりお茶が欲しい。
「うーちゃん喉乾いたからもう行くね。残りはあげるぴょん。」
「そう・・・じゃあ私も戻ろうかしら。」
「あんまり食べすぎると夕飯食べられなくて怒られちゃうからほどほどにしておくぴょん?」
「ええそうね。」
ドーナツの袋を受け取り、立ち上がる。すると心地よい海風が頬を撫でていく。もう夕暮れ時だ。晩御飯までの時間も残り少ない。
「(いったいいつからかしらね・・・黄昏るようになったのは。)」
ちょっとした違和感が残るものの夕飯時の空腹で頭からはすぐ消えていったのだった。
つづく