ジャパンカップに出場する凡才ウマ娘ヨシエは、パドックでガチガチに緊張していた。
このレースに出走するウマ娘は、絶対王者アーモンドアイ、無敗の三冠ウマ娘コントレイル、名勝負製造機キセキなど、ものすごい顔ぶれとなった。・・が、対するヨシエはG2レースはおろかG3レースさえ勝利したことがないので、彼女が緊張するのも無理はない。
スターティングゲートへ向かう途中、不安に押しつぶされそうになるヨシエであったが、岩本トレーナーと親友オジュウチョウサンの激励により、いつもの調子を取り戻す。
ヨシエは頭の赤いハチマキを締め直し、気合を入れる。
岩本トレーナー、親友オジュウチョウサン、ヨシエのファン、そして今は亡き仲川トレーナー、様々な人たちの想いを背負って、ヨシエは今、ジャパンカップを駆けようとしていた。
ファンファーレが東京レース場に響き渡る。
数万人の観客の手拍子がファンファーレと共に東京レース場に鳴り響き、場内の熱気が高まる。
岩本トレーナー、親友オジュウチョウサン、ヨシエのファン、様々な人たちがヨシエのスタートを見守っていた。
観客席の最前列にいるヨシエのファン、小林と岡崎もスタートを見守っている。
「秋のジャパンカップは芝の2400m。国内最大の国際レースだ。広い東京レース場の1周コースで、ウマ娘にとって真の実力が出しやすいと言われている」
小林が唐突に解説する。
「どうした急に」
岡崎がすかさずツッコミを入れる。
「ヨシエは今まで出場したほとんどのレースがダート戦であり、芝コースを走ったのは新バ戦1200mの1回きりだ・・。果たして今回の芝2400mで、G1ウマ娘にどこまで通用するのであろうか・・」
「そうだな、しかもヨシエは走行距離についても、ダート2000mまでしか経験がないからな・・」
小林と岡崎がヨシエの不安要素を次々と挙げていく。たしかに今回、ヨシエは初G1レースということに加えて、数多くの不安要素があるというのが事実である。
小林と岡崎の話を聞いていた、隣りのオジュウチョウサンの耳が反応する。
ウマ娘の耳は様々な感情を表す。例えば、左右にふんわり倒れている時はリラックスして落ち着いている、左右の耳をバラバラに動かしている時は不安で落ち着いていない、耳を後ろに倒している時は不愉快で怒っている、というように。
オジュウチョウサンは、耳を後ろに伏せている。明らかに怒っている。
「勝負は、始まらなきゃ分からないよ!」
オジュウチョウサンが小林と岡崎を一喝する。
「ゴ、ゴメン!!」
小林と岡崎が同時に謝る。
小林の方を見ると、怒られたのに何故か嬉しそうである。
そう、彼は生粋のドM体質なのだ。
実況席には、毎度おなじみ"赤坂"、そして解説は名トレーナー"岡津"が務める。
「さぁ、夢の対決が今、始まろうとしています。真っ先にゲートに入ったのは2年前に3冠を制し、G1タイトルは全部で8つ、絶対王者、アーモンドアイです。そして次にゲートに収まったのは、こちらも3冠ウマ娘、コントレイルとデアリングタクトです。コントレイルは皐月賞・日本ダービー・菊花賞を、デアリングタクトは桜花賞・オークス・秋華賞をいずれも無敗で制しました。直線では3冠ウマ娘3人の攻防となるのか、それとも別のウマ娘が割って入るのか。計15人で争われる、G1レースジャパンカップです。解説はジャパンカップ制覇の味を知る名トレーナー岡津さんです。実況は私、赤坂がお送りします。どうぞよろしくお願いします」
スターティングゲートでは、各ウマ娘が順調にゲートインを完了させていく。
ヨシエもゲートインを完了した。
ヨシエが真剣な眼差しで目の前のコースを見つめる。
今回、ヨシエの作戦は「逃げ」で先行するというものだ。最内を逃げてどこまで粘れるかが、勝負の分かれ目だと考えている。
ここで、今さらだが、ヨシエのレース適正を解説しよう。
今までのレース成績から導き出した適正は下記のとおりである。
コース:ダート/距離:短距離/脚質:逃げ/成長:晩成
出場しているコースはほとんどがダートコースであるため、適正コースはダートで間違いはない。勝利したコース距離は半分以上が1200~1300mであり、短距離が適している。脚質については、「逃げ」となっているが、最近は差し返すこともあり一概に逃げとは言えない。また、ヨシエは高等部に入ってから勝利することが増えてきたため、晩成型だと言える。
スターティングゲートでは、最後の1人、グローリーヴェイズが15番ゲートに収まった。
さぁ、夢のレースのスタートだ!
「全ウマ娘・・ゲートに収まりました。芝2400m、G1ジャパンカップ・・」
ガシャコン!!
ゲートが開いた!
「スタートしました!!」
「各ウマ娘、スタートは出そろいました!アーモンドアイ、いいスタートを切りました!そして、コントレイル、デアリングタクトもいいスタートを切っています!まず先行するのはやはりキセキか!・・いや、ヨシエだ!!えっ!ヨシエ!?14番ヨシエです!これは誰も予想出来なかった展開だ!今年のジャパンカップは何が起きるか分からない!ヨシエがすごい速さで上がっていきます!早くも先頭に躍り出ました!」
赤い勝負服のヨシエがぐんぐんと先行する。
今までのヨシエからは全く想像できなかった速さである。
実況までもが驚く展開だ。G3未勝利ウマ娘が真っ先にG1レースで先頭に躍り出た。
(私が先行できるのはここしかない。もう考えるだけ無駄だ。逃げて逃げて逃げまくるしかない。かつて七夕賞やオールカマーで逃げ切ったツインターボ先輩のように・・)
ヨシエはただただ全速力で逃げていた。あの超逃げウマ娘、キセキさえも引き離した。
キセキをはじめ、他のウマ娘達も驚いている。
キセキ「ハァッ!?なんやアイツ!!ウチより先行するなんて正気か!!」
コントレイル「へぇ・・やるじゃないか、なかなかのスピードだね」
アーモンドアイ「単なる記念参加ではなかったようですわね」
マカヒキ「確かにすごい速さです・・ただ、その速さがいつまで持ちますかね・・」
「いいぞー!ヨシエー!」
オジュウチョウサンがヨシエに声援を送る。
「すごいな、ヨシエが初めからこんなに飛ばすの初めて見たぜ」
「すごいスタートダッシュだ!これ見れただけでも来た甲斐があったな」
小林と岡崎も驚いている。
「どーだ見たか!ヨシエだってやれば出来るんだよ!」
何故かオジュウチョウサンが小林達に対して威張っている。
「ん~飛ばし過ぎだな・・。ま、ここで先行しないといいとこ見せれないしな・・」
トレーナーの岩本は初めからレース展開が分かっているような口ぶりだ。
そんな岩本の足をオジュウチョウサンが蹄鉄の入った靴で踏みつける。
「岩本トレーナー!ブツブツ言ってないでヨシエの応援しましょうよ!」
「ッーーー!!」
岩本はあまりの痛みで声すら出せないでいた。
それもそのはず、ウマ娘の力はヒトの5倍以上、脚力に至っては月とスッポンと言っても差し支えない。しかも蹄鉄入りの靴で踏まれたんだからたまったもんじゃない。レースの後は病院に行った方がいいかもしれない。
(すごい、私はG1レースで先頭を走っている。まるで夢のようだ。先頭の、まだ荒らされていない芝を走るのはとても気持ちがいい。このまま、ジャパンカップを駆け抜けよう――)
ヨシエは先頭に立ち、レースに対してわずかな希望が芽生えた。
しかし、それも束の間。次の瞬間、非情な現実を突きつけられる。
ヨシエの首筋に寒気が走る。そうだ、忘れていた。私以外はほとんど全員がG1を経験し、勝利したウマ娘なのだ。そのウマ娘14人が私の後ろにいる。禍々しいオーラを感じる。後ろを振り返るなんて、恐ろしくて到底出来ない・・
そして、ヨシエの後ろの集団から1人のウマ娘が飛び出してきた。
「舐めるなよ小娘ェ!!今度こそジャパンカップはこのキセキが頂くんじゃあァーー!!」
キセキである。
キセキの脚質は中等部までは脚を溜めて末脚を生かす「差し」であったが、高等部より「逃げ」で持ち味を発揮するようになった。道中ハイラップで飛ばしても最後の直線ではなかなかバテない豊富なスタミナ、スピード持続力が彼女の魅力である。
前年のジャパンカップは、キセキが最高の逃げを演じたレースである。キセキが勝利すると思われたが、2番手で徹底マークしていたアーモンドアイが残り200mでキセキを差し切りゴールした。アーモンドアイの勝ちタイムは2分20秒6という圧巻のワールドレコード。アーモンドアイの実力は日本のみならず世界にも衝撃をもたらしたが、逃げたキセキも2分20秒9と、ワールドレコードより1秒速いタイムを記録していた。結果以外はキセキの完璧な逃走劇であった。
今回のジャパンカップは、打倒アーモンドアイに燃えるキセキにとっても特別なレースなのだ。
キセキがヨシエを抜き去り、どんどん前へ出ていく。
「来たぞ来たぞキセキ!今回も大逃げになりました、4番のキセキです!ご覧のとおり、既に10バ身ほどのリードをとっています!キセキが快調に逃げる!キセキは57秒9で早くも1000mを通過していきました!これは、かなり早いペースです!」
キセキの大逃げにより、実況も熱くなってきた。
キセキが出場するレースは、彼女の勝敗に関係なく非常に盛り上がる。
キセキのような超逃げウマ娘は、昔から人気があるのだ。
キセキは、口調がヤクザのようで気性も荒くゲート難もあるが、根強いファンがいる。
勝ち鞍の菊花賞は台風の接近でとんでもない不良バ場となったが、最後の直線で先行した各ウマ娘が力尽きる中、キセキは外から力強く進出し、2バ身差をつけGⅠレースの座を手にした。泥だらけでボロボロの状態になりながらも、レース後ファンに向けて天高く人差し指を挙げたキセキを見て、涙しない者はいなかったという。
「今宵もキセキの1人旅ィ!頼んだぞキセキ!」
「キセキ!俺にかまわず逃げてくれ!」
「キセキの奇跡!俺は信じてるぞ!」
ファンから声援が飛ぶ。応援席も熱くなってきたようだ。
ヨシエは初めに飛ばしたツケが回り、早くも失速していた。
やはり、G1レースは甘くない・・
そんなヨシエの横を、アーモンドアイが颯爽と駆け抜ける。
「あら?ごめんあそばせ。ヨシエさん、初めからはりきりすぎちゃいましたね」
アーモンドアイはあのシンボリルドルフより格上であり、歴代最強のウマ娘だと言われている。
G1をなんと8勝もしており、数ある勝利の中でも特に凄かったのが前年のジャパンカップである。
最後の直線、残り400mで脚を伸ばし、キセキを捉え先頭に躍り出て突き放し、1バ身3/4差をつけてゴール板を通過。その勝ちタイムは、誰もが目を疑う衝撃の数値「2分20秒6」。レコードタイムを一気に1秒5更新してコースレコード、というか日本レコード、それどころかワールドレコード。これまでのウマ娘とは別次元に強いことが証明された瞬間であった。
「ここでアーモンドアイもインコースを追走してきました!ジャパンカップとの相性はバッチリ、2番のアーモンドアイです!」
「「アーモンドアイさ~ん、頑張って~」」
最強ウマ娘の走りを一目見ようと、ヒトのみならず地方や中央のウマ娘も観戦している。
また、小学生くらいだろうか、幼いウマ娘も声援を送っている。
かつてのトーカイテイオーやキタサンブラックのように、子供の頃に見たレースに憧れを持ち、中央レースで活躍するようになるウマ娘も多い。
さらにヨシエをコントレイルが追い抜く。
「じゃ、お先に、先輩」
コントレイルは、トレセン学園中等部3年であり、同学年では最強との呼び声も高い。
ウマ娘の中では小柄な体格だが、足腰のバネが強靭でありレースではその恐ろしい末脚が武器である。
無敗でクラシック三冠を達成しており、このジャパンカップでは無敗の四冠を目指している。
「6番コントレイルも上がってきました!今回も自慢の末脚を見せつけるのか!コントレイルはこの位置です!」
「コンちゃ~ん!がんばれ~!」
「飛べ!コントレイル!」
「コントレイルたん!いっけぇ~!」
コントレイルの性格は人懐っこく、誰とでも仲良くなれるタイプであり、老若男女様々なファンがいる。
応援席にも家族連れからウマ娘、果てはウマ娘オタクまで、たくさんのファンが応援しているようだ。
そして、デアリングタクト、カレンブーケドール、ワールドプレミア、パフォーマプロミス、ユーキャンスマイル、マカヒキら後続のウマ娘が続々とヨシエを追い抜いていく。あっという間にヨシエは最後尾になってしまった。
「ご覧のように一人旅!強烈な一人旅!白い勝負服のキセキが逃げて、逃げて、逃げまくって最後の直線を迎えます!!」
「ウオラァァー!!絶対ジャパンカップ獲ったるんじゃいィィーー!!」
キセキが咆える。
全ウマ娘が最後の直線500mにさしかかる。先頭のキセキと2番手のグローリーヴェイズの間にはまだ10バ身ほどの距離がある。このままキセキが逃げてしまうのか!?
「アーモンドアイは前から4人目!その背後にはデアリングタクト!そしてその外から!バ場の真ん中から6番のコントレイルだ!まだ粘っている4番のキセキ!2番手とはまだかなり差があるぞ!」
直線残り300m、キセキはまだ粘っている。キセキが本当に奇跡を起こすのか!一部のファンはそう思い始めていた。しかし、このウマ娘を忘れてはいけない。
「頂点を掴むのは、勝利に愛されたこの私ですわ!」
残り200m、アーモンドアイのエンジンが点火した。他を寄せつけない圧倒的なスピードでキセキに猛追する。
「やはり来たぞアーモンドアイ!アーモンドアイ猛追!一気にたたみかける!」
さらにコントレイルとデアリングタクトもアーモンドアイを追撃する。
「絶対王者を倒すのはこのボクだーー!!」
「四冠、頂戴致します!!」
「き、貴様らァーー!グ、チクショウ!!」
キセキがアーモンドアイ達に追い抜かれる。
キセキは失速している訳ではない。アーモンドアイ達が速過ぎるのだ。
「アーモンドアイが先頭に立ちました!さらに外から6番のコントレイル!その内側からはデアリングタクト!三冠ウマ娘の共演!三冠ウマ娘の共演だ!」
東京レース場の熱気は最高潮に達し、ファンの声援が鳴り響く。
アーモンドアイを先頭に、コントレイル、デアリングタクト、カレンブーケドール、グローリーヴェイズが横一列に並走する形となった。
「もう少し・・あと少しなんだ。あと少しで絶対王者アーモンドアイを差し切れるのに・・」
コントレイルが集団から抜け出し、アーモンドアイに迫る。しかし、あと1バ身ほどが届かない。たった1バ身だが、この縮まらない距離がアーモンドアイとコントレイルの実力差を物語っていた。
「コントレイル猛追!コントレイル猛追!しかし、届かない!届かない!1着はアーモンドアイです!1着はアーモンドアイ!!お見事!アーモンドアイ!!」
絶対王者アーモンドアイが見事にジャパンカップを制した。2着はコントレイル、3着はデアリングタクトである。下馬評通り、三冠ウマ娘の共演という、素晴らしいジャパンカップとなった。
・・ヨシエは最後尾からアーモンドアイ達がゴールするのを見ていた。
すごい、次元が違い過ぎる・・
あの化け物のようなキセキでさえ、最後はG1ウマ娘たちに差し切られた・・
対する私は・・ダメだ、最初にスピードを出し過ぎたせいでうまく走れない・・
足がほつれて、今にも倒れそうだ・・
他のウマ娘にも大差をつけられてしまった・・
ヨシエはかなりの大差をつけられ、他のウマ娘がゴールして地下バ道へ向かう中、まだ走っていた。
最初にスピードを出し過ぎたせいでうまく走れていない。今にも倒れそうな走り方である。
観客席では、早くも待ちに待ったウイニングライブの会場へ移動しているファンもいる。
そんな中、一部のファンはじっとヨシエの姿を見ていた。
ダメだ、やっぱりうまく走れない・・
ゴール板はあと少しなんだけど、そのあと少しがすごく遠く感じる・・
いっそのこと、棄権でもしようか・・
ヨシエが、レースを諦めかけていた、その時であった。
「ヨシエーー!!諦めるなーー!!ガンバレーー!!」
ファンの中の1人が叫んだ。
ヨシエの耳が反応する。
「ヨシエーー!無事に走りきってくれー!」
「劣勢ながらよくやった!!いいスタートダッシュだったぞ!」
「昔からのファンなんだ!諦めないでくれ!」
「これからこれから!マイペースに行こうぜヨシエー!」
1人の声援に呼応するように、周りの人もヨシエに声援を送る。
大事なことを忘れるところだった。私にも応援してくれる人がいるんだった。
私を支えてくれる人達を裏切るようなマネだけは出来ないな。
そう思うと、不思議と足の疲れも消えてきた。
残り100m、ヨシエは最後の力を振り絞って、ジャパンカップの直線を駆け抜けた。
ファンからの拍手が沸き起こる。
15着。大差のシンガリ負け。
しかし、ヨシエの気分は晴れやかだった。
「うわぁーーん!ヨシエーー!よくやったよーー!」
レース後、オジュウチョウサンがヨシエに抱き着く。
号泣しており、涙と鼻水で顔がしわくちゃになっている。
「ヨシエ、お疲れさん」
岩本トレーナーもヨシエに声をかけ、タオルを渡す。
何故か足を引きずっている。
「ありがと、岩本トレーナー」
ヨシエが岩本に笑顔で返事を返す。
「ヨシエ、お前、何だか変わったな」
「えっ、そうかな?」
「あぁ、いい感じだよ。ジャパンカップ出て、やっぱり正解だったよ。それじゃあまた、控え室でな」
「うん、わかった」
「ヨ”シ”エ”--!よかったよーー!」
オジュウチョウサンは相変わらず号泣している。
「あぁもうオジュウったら・・こんなキャラだったっけ?」
ヨシエが渡されたタオルでオジュウチョウサンの顔を拭う。
(仲川トレーナー、見てくれましたか?私、ジャパンカップを走ったんだよ)
(ビリッケツだったけどね・・それでも、走ったんだよ)
空は雲ひとつ無い秋晴れ。眩しいくらい晴れている。
ヨシエは青空を見上げた。
青空の中で、仲川トレーナーが笑っているような気がした。
***
ヨシエは控室に向かった。
控室には岩本トレーナーがいる。
(大差負けの15着だったから、さすがに反省会かな・・)
そんなことを考えつつ、控室に入る。
「失礼します」
「おぉ、ヨシエ、あらためてお疲れさん」
「岩本トレーナー、レースの反省会ですか?」
「反省会?それはまた明日にでもやろう。そんなことより、だ」
「そんなことより?」
「単刀直入に言う。ヨシエ、次は"チャンピオンズカップ"に出るぞ!」
「・・・へ?」
"空いた口が塞がらない"とは、まさに今のヨシエのような状態を言うのだろう。
ヨシエにとって、ジャパンカップ以上に衝撃的な発表であった。
チャンピオンズカップとは、ジャパンカップと同じくG1レースであり、中京レース場のダートコース1800mで行われる。ヨシエの適正は上述のとおりダートコースなので、芝2400mのジャパンカップよりチャンピオンズカップの方が有利だと言える。
・・しかし、驚くなかれ、開催がジャパンカップの"翌週"なのである。
大事なことなのでもう一度言う。開催がジャパンカップの"翌週"なのである・・
しかも、岩本はヨシエに何の確認もなく、チャンピオンズカップ出走を登録したということだ。
だんだんと腹が立ってきた。ヨシエの耳が後ろに倒れる。
岩本がハッとした表情をする。ヨシエが怒っているのに気が付く。当たり前だ。さすがにこんなに勝手で過酷なローテを組まれたら、どんなウマ娘でも怒るだろう。
「ヨシエ、これもな、仲川トレーナーの遺言で・・」
「その手にはもう乗るかっ!!」
次の瞬間、ヨシエが岩本トレーナーにドロップキック*1を食らわす。
岩本はとっさにガードしたが、派手に吹っ飛ばされてしまった。
一瞬怒りで切れてしまったヨシエであったが、次第に落ち着きを取り戻す。
「・・分かった。私、チャンピオンズカップに出るよ。私の得意なダートコースだから、良い経験になると思う。けど、こんな連闘はも二度とやりませんからね、聞いていますか、岩本トレーナー」
岩本は気を失っていた。その表情は、心なしか安らかな面持ちであった。
今日はとりあえず病院に直行だ。
かくして、ヨシエの、まさかまさかのチャンピオンズカップ出走が決まった。
がんばれ!負けるな!ヨシエ!
【登場人物】
・ヨシエ
一般女性のような珍しい名のウマ娘。
凡才だが、負けん気と根性は誰にも引けを取らない。
頑丈な身体が取り柄であり、一度も故障をしたことがない。
キツめの性格だと思われがちだが、根は優しく、世話好きである。
何故か熱狂的なファンが多かったりする。
・仲川トレーナー
ヨシエの過去の担当トレーナー。故人。
普段はおとなしめの男性だが、レースや担当のウマ娘には並々ならぬ情熱を注いでおり、学園内でも有名なトレーナー。
ヨシエのG1レース勝利が自身の目標だったが、交通事故によりこの世を去ってしまう。
・岩本トレーナー
ヨシエの現在の担当トレーナー。
一見どこにでもいそうな穏やかな男性だが、一発逆転を狙った大勝負をかけたがる一癖ある人物。
生前の仲川トレーナーとは旧知の仲であった。
もちろん、ギャンブルは大好きな模様。
・オジュウチョウサン
学生寮でのヨシエのルームメイト。
ヨシエと同じく2浪してようやくトレセン学園への入学が叶った苦労人。
中等部の2年間は負け続けていたが、障害レースに転向し自身の才能が開花した。
現在では障害レースでの圧倒的な強さから「障害の絶対王者」と評される。
名前が長いため、ヨシエからは"オジュウ"と呼ばれている。
・小林&岡崎
だいたいのレースに出没する2人組。
ヨシエの大ファンであり、鳥取県立農林水産大学校の学生。
所属する学科はウマ娘トレーナー養成学科であり、小林の卒論テーマは「ウマ娘と人類の共存における歴史的考察」、岡崎の卒論テーマは「ウマ娘関連事業による農林水産業に与える経済効果について」である。
進路は2人とも中央のトレーナーを志望している。
・コントレイル
クラシック三冠を達成したウマ娘。
トレセン学園中等部3年であり、同学年では最強との呼び声も高い。
性格は人懐っこく、誰とでも仲良くなれるタイプ。
学園では皆から「コンちゃん」という愛称で親しまれている。
幼い頃に父親の仕事の関係で鳥取県西伯郡大山町へ行くこととなり、トレセン学園入学前まで大山ヒルズに通っていた。好きな食べ物は、出雲そば。
主な勝ち鞍:クラシック三冠【皐月賞(GⅠ)、東京優駿(GⅠ)、菊花賞(GⅠ)】
・キセキ
コテコテの関西弁を話すウマ娘。トレセン学園高等部1年。
文化祭などの行事を盛り上げるのが大好きであり、「トレセン学園の宴会部長」と呼ばれている。
一方気性が荒い面があり、スタートダッシュが苦手。
勝ち鞍の菊花賞は台風の接近でとんでもない不良バ場となったが、最後の直線で先行した各ウマ娘が力尽きる中、キセキは外から力強く進出し、2バ身差をつけGⅠレースの座を手にした。
死力を尽くして掴んだ一冠、まさに「菊花賞は最も強いウマ娘が勝つ」と言われる所以であろう。
主な勝ち鞍:菊花賞(GⅠ)
・アーモンドアイ
誰もが認める最強のウマ娘。トレセン学園高等部1年。
その輝かしい戦績とは裏腹に、普段はおっとりとした性格である。多少天然な所もある。
しかしターフに立った瞬間、人が変わったように戦闘モードになる。
数ある勝利の中でも特に凄かったのが38回ジャパンカップ。
逃げるキセキを追うアーモンドアイ、しかしキセキはダレるどころかさらに加速。2人はそのまま後続を置き去りに直線に突入。残り400mで待ってましたと言わんばかりに脚を伸ばし、キセキを捉え先頭に躍り出る。あとは思うまま突き放し、1バ身3/4差をつけてゴール板を通過。
そしてその勝ちタイムは、誰もが目を疑う衝撃の時計だった。
「2分20秒6」
レコードタイムを一気に1秒5更新してしまったのである。当然コースレコード、というか日本レコード、それどころかワールドレコード。
これまでのウマ娘とは別次元に強いことが証明された瞬間であった。
主な勝ち鞍:桜花賞、優駿牝馬、秋華賞、ジャパンカップ、ドバイターフ、天皇賞(秋)、ヴィクトリアマイル、天皇賞(秋)(2回目)
【あとがき的なもの】
オジュウチョウサン、中山グランドジャンプV6おめでとう!
11歳での快挙、凄すぎます。号泣しました!
ヨシオも京葉ステークス9着おめでとう!
最後の猛追、良かったよ!