仕事が命がけすぎて死んだふりして逃げたいんだけど………   作:じゃがありこ

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作者も曇らせを書きたい…。だけど、条件がまだ整ってないので…。

いつも評価と感想ありがとうございます。作者の励みになってます。


第11話

デートから4日が経過したある日の午後0時。橋の上に呼び出された夜光は、玲奈を待っていた。

 

月の光もなく少し離れたところにある電灯の光だけが橋を照らしている。空にあるのは曇天だけだった。

 

突然、置手紙で「今夜0時に大事な話がある故、4日前に歩いた橋の上に来るのじゃ」と呼び出されたのだ。しかし、待てども待てども玲奈は現れない。

 

夜光は場所を間違えたかと思ったが、橋の向こうから人影が歩いてくるのが見えた。黒い髪に黒い瞳。まぎれもなく玲奈だった。

 

「デートで買った髪飾りはなしか。告白ではなさそうだけど、何だろうな…」

 

安堵と共に零した夜光の声は、背中から走った衝撃で途切れた。

 

「ほう、僅かに反応して致命傷を避けたか。素晴らしい動きだ」

 

夜行は愕然と首を後ろに回した。彼の背中に、剣を突き立てた状態で一人の男が立っていた。 夜光の持つ未来視をかいくぐって、わずかに生じた隙を逃さずに。声を上げかけた夜光の背中から刃が引き抜かれ、彼はその場に膝から崩れ落ちた。冷静にそれを見下ろす男の剣から鮮血が滴り落ちる。

 

「てめえッ!」

 

夜光が短刀を抜くよりも早く、熱の籠っていない声が彼を仕留めた。

 

「すまぬ、『急急如律令』」

 

その言葉と共に、夜光をめまいが襲った。夜光のポケットに入っている置手紙の裏側に一つの文字が浮かび上がっていた。

 

『毒』と。

 

夜光は今度こそ完全に地面に倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は兄が苦手だった。別に他の使用人のように私に嫌な目は向けてこない。祖父のように憐みの視線を向けてこない。人間としてもサバイバーとしても、優秀な兄だった。一族の中で誰よりも力を扱う才能に愛され、生まれた時から後継者として期待されていた。

対して、私はダメな妹だった。サバイバーとしての才能は希薄、勉強も運動も兄に及ばなかった。お前の価値はその血だけである。使用人にはそんな風に言われていた。祖父も私を嫌うことはなかったが、認めてくれることもなかった。兄と話す度、自分の出来損ない具合と人間としての未熟さを突き付けられているようで、きつかった。辛かった。だけど、使用人も祖父も誰も私を認めてくれない状況で、兄だけは私を認めてくれた。だから、嫌いになれなかった。

 

『本来であれば、この業界から足を洗い一般的な世界で生きることがお前のためだと理解はしておる。じゃが、残念ながらお前は儂の孫じゃ。一族の繁栄のため、この家から逃げることは許されん。『開祖の筆』を継承できれば、話が変わっていたがあれを継承するのは忠成だ。許せとは言わん。だが、諦めてここに縛られてくれ』

 

7歳の時に祖父に言われた言葉だ。この一族は、平安時代にとある存在に呪われこの土地に縛られることになった。外に出れば、その者は必ず人間としての意識を保てなくなるとされていた。呪いの発動条件は、屋敷から佐伯の血を引くものが消えること。つまり、屋敷を含めたこの土地から祖父と兄と私がいなくなれば、呪いは発動する。その条件の唯一の例外が継承者である。呪いが発動しても継承者だけがその影響を弾くことができる。

 

佐伯家に伝わる秘宝。『開祖の筆』。筆を用いて紙に文字を書き記すと、関係する事象を操ることができるようになる。『雷』と書けば雷を起こせるし、『電撃』と書けば電気を操れる。基本的にはあらゆることができる万能の武器だ。しかし、この武器は他の武器よりもはるかに持ち主の才能に影響を受ける。基本的には行き過ぎた事象改変を武器そのものが拒絶するのだが、開祖や兄は常軌を逸した事象の改変を引き起こせた。その最たる例が『式神』の文字から生まれた虚無僧だろう。命の創造という禁を犯せるほどの才能の持ち主。周囲は兄を褒めたたえた。

 

『いずれ開祖に並び世界を変えることができる』

 

そう期待されていた。

 

だけど——————————継承の儀式で

 

『逃げるんだ!玲奈ぁ!』

 

覚えているのは兄の叫び声だけ。気が付けば、周囲は肉塊であふれていた。無傷だったのは私だけ。生きている人間なんて、ほぼいなかった。私は、立ち込める血の匂いに胃の中身を吐き出すことで応えた。落ち着いてから、周囲を見回すと兄だけが僅かに意識を保っていることに気が付いた。四肢は欠損し血まみれだったが、致命傷は避けており止血し安静にしていれば命は助かりそうな状態だった。

 

急いで処置をしないと、体を起こし地上に控える使用人と兄の式神に助けを求めようと走り出した瞬間、それは転がっていた。兄の血で赤く染まっている開祖の筆だった。

 

今でも夢に見る。あの時筆に捕らわれて兄を見殺しにしなければ、こうはなっていなかったのではないかと。

 

未熟者の私が『開祖の筆』を使うなんて発想をせずに、すぐに人を呼びに行っていれば何かが変わっていたのではないかと。使いこなせもしない『開祖の筆』で試行錯誤している暇があるなら、人を呼びに行くべきだった。いや、根本的な問題はそこではない。

 

あの時、私は………「兄が死ねば私が当主となり、継承者の資格を得ることができる」そう考えてしまった。だから………あの葛藤の時間さえなければ………兄の恋人に恨まれることも、兄の式神に失望されることもなかったはずなのに。

 

後悔は人を変えるというが、あれは嘘だ。あの後罪悪感でおかしくなりそうだったし、プレッシャーにも押しつぶされそうだったし、劣等感には全身を焼き焦がされそうだった。だから、虚勢を張って、罪悪感を振り切るために今までよりもはるかに努力した。勉強も、運動も、戦いも。才能の壁には邪魔されたけど、それなりに結果は出た。だけど、意味などなかった。私は変われてなどいない。一人称を変えて、口調を変えて、血反吐を吐きながら努力をしても………結局、自分に好意を向けてくれた人をこうして裏切るのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

701:いっち

うぇxtcfvyghbjんk!?急展開過ぎてついていけない。刺された!?ワイ、刺されたんけど!

 

702:名無しの転生者

お、お、お、落ち着け?

 

703:名無しの転生者

っていうかやばくないか?

 

704:名無しの転生者

スレ開いてる場合じゃねえ

 

705:名無しの転生者

実況はもういいから逃げろ

 

706:名無しの転生者

いや安価だ!安価で打破しろ

 

707:名無しの転生者

イッチ安価取れ!

 

708:名無しの転生者

急げ

 

709:いっち

ここから何とかして体勢を立て直したい>>720

 

710:名無しの転生者

覚醒しろ

 

711:名無しの転生者

覚醒して

 

712:名無しの転生者

不意を突いて逃げろ

 

713:名無しの転生者

川に落ちて逃げろ

 

714:名無しの転生者

何とかして川に落ちて逃げろ

 

715:名無しの転生者

巧みな話術で相手の目的を聞き出して、交渉する

 

716:名無しの転生者

いいから時間を稼げ

 

717:名無しの転生者

流石にふざけられない安価だ

 

718:名無しの転生者

覚醒して

 

719:名無しの転生者

助けを呼ぶ

 

720:名無しの転生者

話術で時間を稼いで虚無僧の救援に期待

 

721:名無しの転生者

覚醒して時間を稼ぐ

 

722:名無しの転生者

転生特典使え

 

723:名無しの転生者

逃げる一択だろ

 

724:名無しの転生者

何故川に落ちないのか?

 

725:名無しの転生者

逃げろよ

 

726:名無しの転生者

救援を期待?イッチを殺したいのか

 

727:いっち

いや、たぶん虚無僧は来てる。なんだかんだ、黒髪ちゃんを気にしてたから。>>720はあり

 

728:名無しの転生者

っていうか、スレ開いてなくてもいいぞ

 

729:名無しの転生者

集中して

 

730:名無しの転生者

何処で黒髪ちゃんの裏切りフラグが経っていたのか?

 

731:名無しの転生者

デートの日じゃないか?

 

732:名無しの転生者

あり得る

 

733:名無しの転生者

最後不穏だったもんな

 

734:名無しの転生者

黒髪ちゃんの闇深いからね

 

735:名無しの転生者

昔の話が重かった

 

736:名無しの転生者

あの使用人、黒髪兄の元恋人とかきついな

 

737:名無しの転生者

イッチを刺したのって何者?

 

738:名無しの転生者

わからん

 

739:名無しの転生者

黒髪ちゃんの式神?

 

740:名無しの転生者

黒髪ちゃんは式神作れないって虚無僧が言ってたぞ

 

741:名無しの転生者

第三勢力っぽいな

 

742:名無しの転生者

ここに来て第三勢力か

 

743:名無しの転生者

イッチの予測眼をスルーしたのやばくないか?

 

744:名無しの転生者

そろそろ動画配信してほしいな

 

745:名無しの転生者

あれは見ている俺らが吐くぞ?

 

746:名無しの転生者

戦闘シーンとか吐かないわけないんだよな

 

747:名無しの転生者

イッチ早く戻ってこい

 

748:名無しの転生者

この掲示板覗くのが最近の日課だから、やすやすと死なれるのはまずいぜ

 

749:名無しの転生者

書き込めているうちは問題ない

 

750:名無しの転生者

男は第三勢力、黒髪ちゃんはその協力者?二重スパイ的な?

 

751:名無しの転生者

わからん

 

752:いっち

黒髪ちゃんはおそらく脅されてるっぽい。敵は、ワイを刺した男。もう一人協力者がいるらしくて、そいつが黒髪ちゃんの武器である『開祖の筆』を盗んでたらしい。それを返してもらうために、ワイを敵に差し出しているっぽい。デートの日に盗まれたから、帰り際に焦ってたんだなぁ。あ、虚無僧が助けに入ってきてくれました。

 

753:名無しの転生者

イッチ!

 

754:名無しの転生者

生きてたか!

 

755:名無しの転生者

どうなってる?

 

756:いっち

男が強すぎて虚無僧が瞬殺されました。ただし、男が黒髪ちゃんに武器を返す気はないらしいことがわかって黒髪ちゃんが毒を解毒してくれました。なので、状況は悪くはなってない。男の目的は黒髪ちゃんの殺害と開祖の筆の奪取、ワイの捕獲らしい。男は第三勢力でよくわからないあの方とか言うのに付き従ってる国際テロリストだな。この世界で国家間移動ができるのマジでやばい。かなりやばい組織だと思うぞ。ちなみに、ワイは黒髪ちゃん連れて逃げ隠れながら、様子見してる。

 

757:名無しの転生者

情報量w

 

758:名無しの転生者

虚無僧ォ!

 

759:名無しの転生者

虚無僧さん

 

760:名無しの転生者

虚無僧

 

761:名無しの転生者

はー、虚無僧マジかよ。イッチのファン止めようかな

 

762:名無しの転生者

ちょっと、珍しくシリアスだからやめろ。

 

763:名無しの転生者

イッチ的に勝てそうなん?

 

764:いっち

丸腰では無理!武器があっても拮抗しそう。

 

765:名無しの転生者

狙撃なら?

 

766:いっち

一番勝ち筋があるのは狙撃だけど、あのタイプは狙撃躱してワイを殺しにくるタイプ

 

767:名無しの転生者

何それ怖い

 

768:いっち

黒髪ちゃんは黒髪ちゃんでメンタル崩壊しているし

 

769:名無しの転生者

 

770:名無しの転生者

 

771:名無しの転生者

愉悦?

 

772:いっち

『開祖の筆』を持っていることがアイデンティティだったんだと思う。あの男にメンタル攻撃されまくって泣きながら蹲ってる。頭抱えて、「ごめんなさい」を連呼してますね。「私のせいで」と「あれがないと」と「私なんて」と「ごめんなさい」しか言ってない。

 

773:名無しの転生者

そそる、かわいそうは抜ける

 

774:名無しの転生者

抜ける

 

775:いっち

ちょっと、安価取るかな。どうにかして武器を手に入れたい、後黒髪ちゃんを落ち着かせたい>>781

 

776:名無しの転生者

>>772画像上げろ

 

777:名無しの転生者

>>774通報した

 

778:名無しの転生者

武器は拾う。黒髪ちゃんは精神分析

 

779:名無しの転生者

拾う。黒髪はビンタ

 

780:名無しの転生者

虚無僧の奴を拝借して武器はおっけー。黒髪ちゃんは………イッチが黒髪ちゃんより取り乱せば冷静になるんじゃないか?

 

781:名無しの転生者

黒髪ちゃんを慰めて当初の武器を手に入れる。黒髪ちゃんにキスして落ち着かせる。

 

782:名無しの転生者

筋肉で解決

 

 

 

 


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