仕事が命がけすぎて死んだふりして逃げたいんだけど……… 作:じゃがありこ
書きたいシーンは多くあるのですが、このペースだといつになることやら。
今年はもう少し投稿頻度を上げます。
最近、昼食を共にしているやつがいる。言わずと知れたちゃんぽん弁の男、頼前である。気温も徐々に下がってきているため、陽射しが当たる屋上を選んだ。吹き込む風が少し寒いが日差しを考えればまだ暖かい。
昼休みの屋上で夜光と頼前はとある男子生徒から恋愛相談を受けていた。
相談を受けていた理由は単純で、あの噂のせいで、女慣れしていると思われていること、あの後輩と仲がいいと知られていることがある。
「夜光。鈴波さんが話しかけてくれたぞ」
嬉しそうに笑う男子生徒と無心で頷く夜光。ニヤニヤと笑う頼前。
「そうだな、大きな一歩と言えるな」
「だろう!乾ききった大地が花畑に変わったかのような気分だ………」
鈴波というのはリナのことだ。彼もまた哀れな犠牲者なのだ。
「そ、そっか」
「これなら告白してもごはぁっ!?」
頼前が笑顔のまま、両わき腹にチョップをかます。
「アホ!リナちゃんやなくてもそれはあかんわ。男の距離感と女の子の距離感は別や」
「まあ、そうだな。たぶんまだ君のことは友達止まりだろうから、もう少し距離を詰めようぜ」
「だ、だけどよぉ、鈴波さん超人気で色んな男が狙ってんだぞ?うかうかしてたら手遅れになっちまうよ」
「安心しろ、それはない」
「ないやろなぁ。玉砕して屍になった男の残骸を見てみい」
焦る気持ちもわかるが、今言っても玉砕するだけだろう。ただ、あの後輩が誰かと付き合うビジョンが見えそうで見ない。玉砕した中にはイケメンもいた。好みの男を聞くべきだろうか。
夜光が悩んでいると頼前が夜光の肩に手を置いた。そして、ニヤリと笑いながら
「男ができそうになってたら夜光が気づくやろ?得意やもんな?」
「黙れちゃんぽん弁不審者。得意じゃない」
「それは無理やて。夜光クラスで何て呼ばれてるか知っとるやろ?女子生徒からは女たらしクソ野郎、もしくは魔性の男で、男子からはスター、童貞詐欺や。諦め?イメージが定着しとる」
「そういうお前はどうなんだ?彼女はいるのか?」
「僕?そうやね、どう思う?」
煙に巻こうとする頼前を逃がさんと夜光は問い詰める。
「いるだろ。女殴ってそうだもん」
「ひどい言われようやな」
ケラケラと笑う頼前。弁明する気はないのか、タイミングよく鐘の音がなりこの場は解散となった。
「先輩方。趣味悪すぎませんかぁ?」
「何のことだ?」
放課後になると教室にリナが入ってきた。最近のルーティーンで、教室でしばらく駄弁っている夜光と頼前の下を彼女が訪れ混ざるのだ。
「人の恋路を何だと思ってるんですか?私でもぉ、どうかと思いますけどぉ」
「恋路って思ってんのお前」
私不満です!と顔に書いてるが思わずそう突っ込んでしまいたくなるほど薄い言葉だ。
「サークルクラッシャーが言っても説得力がないよなぁ」
「結局僕らの忠告はスルーして先走った彼も悪いやけど、リナちゃんもざっくり振りすぎやな」
「え?あいつもう告ったの?」
どうやらあの男子生徒は見事に振られてしまったらしい。頼前はどうやって情報を仕入れているのだろう。妙に情報通だ。
「もう、この際聞くんだけどさなんであんなことしてるんだ」
「あんなこととは?」
「惚けんでええで、僕も聞きたいわ」
リナの態度は思わせぶりだ。「私今彼氏いませんよ?」とか「このアクセ可愛いー。〇〇君みたいな人にアクセ貰える女子は嬉しいでしょうね」など、思春期の女耐性がない男には劇薬だと思う。
眉の間にしわを刻みながら、「うーん」とうなりながらリナは小首をかしげる。そして、教卓の上に座る夜光と黒板に寄り掛かる頼前に言い放った。
「………自分が好意を向けられてる時って生を実感しませんか?」
「………」
「うわー」
「………絶句なんだけど。この話やめるか」
「せやな。想像よりもあかん話題やったわ」
夜光と頼前が話を切り上げたのはリナが怖かったからだ。発言は想定の範囲だったが、目が恐ろしかった。
まったく光がなかったからである。元々、リナは肌が真珠のように白く、なめらかで襟元から覗く首は少し力を入れて握れば折れてしまうのではないかと思えるほどに細いので、時折危うげに見える。今回はハイライトなしの瞳と相まってより不気味に見えた。
「別の何か面白い話ししてくれよ」
「ひどい無茶ぶりやね」
「おー、期待できますね!頼前先輩、関西弁なんだから面白い話できるでしょ?」
「んなアホな。ひどい偏見に震えるわ!」
「いいから捻りだしてくださいよー」
「面白い話………せや、これはどうや。グラマーなお姉さんが出てくるサイトを見てたら架空請求された話、結末はおもろいで」
「エロサイトで架空請求?実質大人の階段登ってるじゃん」
「せやな、少年が男に至る儀式やさかいな」
うんうんと頷く男二人に冷ややかな目線を送るリナ。
「あれ?これひどいセクハラじゃないですか?」
「エッチなお姉さんを見て男になるんだよな」
計正が目を覚ましたのは、戦いから数時間だった。自分が寝ているベットの横に置手紙が置かれており、そこには自分が意識を失ってからの状況説明が書かれていた。
まとめると三点。一点目は計正は魔物との戦闘中に意識を失ってしまったこと。二点目は、命からがら逃げた先で偶々防衛局に助けられたこと。三点目は、逃げる際に竜胆を囮にして波風と計正が逃げたことだった。
計正は自身がいたテントから飛び出した。外に出るとそこには防衛局員の姿が見受けられる。山の麓にベースキャンプを作成したのだろう。周辺にもいくつかテントがあり、それなりに広いことがわかる。
「波風ッ!」
計正は探し人を見つけ掴みかかった。
「何で竜胆を囮にした!!!!!」
サバイバーとして戦っていれば、命の危機を感じることは日常的にあると言える。しかし、絶望的な戦局というものは、ほぼ体験しない。なぜなら、そんな戦局を体験した時点で戦場から逃げ切れる保証がないからだ。
しかし、中にいるのだ。そういった難局を乗り越えて生き残ってしまった者が。そして、大抵の者は仲間の犠牲の元に生き残る。
波風は生き残ってしまった側の人間だ。そして、波風の胸ぐらを掴み怒りと情けなさで激昂している計正も、生き残ってしまった人間だった。
「生存の確立を上げるためっス」
「…ッ、どっちの生存確率を上げるためだ?」
「総合的に見て今後役に立ちそうな人間の生存率を上げるためスよ」
乾ききった声でそう答える波風に計正は何も言えなかった。
計正もわかっているのだ。こういうことは初めてではない。部隊が壊滅した時点で、単独戦闘力の劣る人間は荷物になる。回復役であれば話は別だが、竜胆はそうではなかった。無論、ここに有栖や夜光がいれば竜胆を囮にすることは許さなかっただろう。
「竜胆は自分の武器を戦闘で紛失していたっス。この時点で、竜胆は連絡係としての機能を果たせない状況だったっス」
「気絶した俺も同様のはずだ!」
「だから言ったでしょう。総合的に判断したんスよ。この先、希少な武器を使える防衛役と変えの利く連絡役。どちらが役に立つのかを」
「てめえ!!!!!」
激怒する計正を呆れた目で見つめる波風はどこまでも冷静で冷酷に見える。
「八つ当たりはよせよ。計正、今までだってそうだったっスよね?俺たちは役に立つと先輩やその場の指揮官に判断されて生かされてきたんス。俺たちは夜光や大梛じゃない。今回も同じなんスよ」
「役に立ってねえだろ!!!!!無様に暴走して腕をなくした俺なんておいて行けばよかったんだ!」
「結果は変わらないっスよ」
大声を上げる計正に波風はため息を吐く。
「俺か竜胆。どちらかが囮になるしか逃げきる方法がなかったっス」
「それは………」
「それに死んだと決まっているわけでもないスから、冷静になってください。あんまり大声を出すと——————」
「起きたと思えば速攻で喧嘩かよ………元気だなァ、オレもその若さが欲しいってもんだ」
言い争う二人の前に現れたのは、一人の男だった。無精ひげを生やし軍服と和服を足して二で割ったような防衛局の制服を着崩しているその男は一般人が見たら、だらしのない男だというだろう。しかし、サバイバーである計正から見ればその評価はあまりにも的外れであった。
格が違う。
計正をしてそう思わせる絶対的な差。有栖や夜光をはるかに凌ぐと思わされる絶対的な何かがそこには存在していた。
「大蓮寺啓介………なのか」
「そうっスよ。俺たちは彼に助けてもらったっス。人型の魔物も大蓮寺さんが瞬殺したっスから」
当代最強を謳われる伝説こそが目の前にいるこの男だった。
「おじさんも有名になったもんだなァ。まあ、その辺の話はあとでもいいだろ」
「準備ができたんっスか」
「おうよ。お前さんたちの仲間。その捜索部隊を組んだ。加わりたいなら好きにしろ。医療班は止めるだろうが、オレは止めねえ」
その言葉を聞き終わった瞬間、計正は走り出していた。
煌々と炊かれた懐中電灯の光は幾筋もの細い帯となって闇を切り裂き、起伏に富んだ地形を暴き出す。捜索隊は40人規模で山を探っていた。
「竜胆瀬理奈。いたら至急返事をせよ!」
彼らの懸命の呼びかけにもだが答える声はない。
湿った土がぬかるんで足が僅かに埋まる感覚を足の裏に感じながら、計正も何処にいるとも知れぬ竜胆を呼ぶ。
計正は自身の腕時計を確認して毒づく。午前1時半から捜索を始めて1時間を経過している。正直、生存している確率は高くない。
逃げ切っていてほしい。そう思いつつも竜胆はこの場所にいると、長年の勘が叫んでいる。彼は訳も分からぬまま言い知れぬ焦りと恐怖に駆られほとんど小走りになりながら闇に呼びかけるが、すぐに声は闇に吸い込まれた。
疲労感が嫌にまして脇腹は痛みとは別の不吉な予感に疼いた。
草木をかき分け濡れた山肌の斜面を登っている途中思いがけずずるりと靴が滑った。本来のサバイバーであれば踏みとどまることは容易だったが傷と疲労感と焦りから、彼は半ば滑落するような形で転がっていった。土塊と一緒に落下しながらようやく回転が止まり、痛む体を押し付けて立ち上がる。
そして形成は瞠目した。そこにいたからである。
「竜胆!」
すぐに駆け寄ろうとして様子がおかしいことに気づき足を止める。
「竜、胆………」
霞の向こうに見える彼女は、大木に背を預け座り込んでおり、こちらの声に反応示さない。眠っていると言った表現が一番近いように思えた。
さらにもう一歩進むと、背後が背を預けている木に真っ赤なものが飛散して、付着していることに気づいた。
返答はない。
手足が勝手に震え始めた。
見たくない知りたくないという思いと必死に戦いながら、足だけは別の生き物のように彼女のもとに歩み寄っていく。
そして彼女の前まで来ると足を止めた。
彼は力の限り拳を握り、木の幹に叩きつけ天を仰いだ。
「クソォォォォォォォォォ!」
清寂の中、少年の慟哭を聞くものはその場に居なかった。