仕事が命がけすぎて死んだふりして逃げたいんだけど………   作:じゃがありこ

7 / 17
第7話

金属同士が衝突する甲高くも鈍い音が遊園地内に響く。

 

「アカンなー。僕、綺麗なお姉さんには弱いねん。邪魔せんとくれへん?」

 

「君が回れ右して帰るなら考えてあげてもいいわ」

 

執行局の男はヘラヘラとした笑みを浮かべながら、そう言い放つ。それに対する答えは、鈴の戦闘態勢によって示された。

 

「残念やなぁ」

 

執行局の男…歳は18歳くらいだろう。一般的に見れば若いが、サバイバーにとってはかなり年齢を重ねている方だ。18歳まで生き残り、執行局に引き抜かれるということは驚異的な実力を持っているということである。鈴は、唇を噛みながら刀を構える。

 

執行局の男は、左上からの振り下ろしを見せ技に、鈴から見て死角になる部分の下から掌底を放つ。狙いは横隔膜。うまく決まれば、多少なりとも動きを鈍らせることが可能である。鈴の顔に一瞬よぎった驚愕を確かに執行局の男は見たが、鈴はそれを打ち払いながら身を捻る。

 

「ッ!」

 

結果、男の指は狙いを外し脇腹を浅くかすめるだけになった。男はそれを見た瞬間に、体を半回転させ手のひらを脇下に押し当てる。足を鈴の踵に絡めつつ肩には全力をかけ 投げ飛ばそうとするが、見事な体捌きによってそれをいなされた。

 

再び距離を取り刀をぶつけ合う。噛み合う刃と刃はそのままに、男の大ぶりの右膝が鈴の腰を狙ってくる。鈴は慌てて身を引いて回避。それを狙っていた執行局の男につま先をひっかけられた。

 

「あっ―――――」

 

剣が遂に鈴を捉えた。弾き飛ばされる鈴を油断なく見ながら、執行局の男は薄く笑った。

 

「素直な剣やね。せやけどそれじゃあ、経験豊富な相手には勝たれへんし。研ぎ澄まされとるわけでもなく、素直なだけの模範通りの剣。それ止まりじゃ、全然足りひんわ」

 

「…余裕ね」

 

「実際、余裕やからね………あんまり時間をかけられないし、終わらせんとなぁ」

 

男が笑った瞬間、鈴の身体から鮮血が舞った。

 

「ッ!?」

 

驚きと痛みに呻く鈴を見て、男は笑みを深めた。

 

「何が………」

 

何が起こったのか? 鈴のその疑問に答えたのは、流動する銀閃だった。鈴が蹲っている場所は、執行局の男から見てかなり距離がある。男は一歩も動いておらず、鈴は血を流し蹲っている。

 

その答えは、男の刀から延びる銀色の物質だった。先ほどまで伸びていた刀身は、液体金属のようにドロドロになっている。それでいて、スライムやゴムのようにも見える。ただ、一つ確実なのはそれを鞭のように扱い、男は彼女に傷をつけたのだった。

 

「流刀銀傘っていうらしいで。僕の武器(エンチャンター)は。効果は見ての通り、伸縮自在の鞭のように変化して相手を斬る。単純やろ? 光ったりビーム出したり、空を飛べたりもせえへんよ。ただ、攻撃のレンジを弄れるだけの武器や。大したことないやろ?」

 

大したことあるだろ……。スレ民がいればそんな意見が出たはずだ。近接戦において、攻撃のレンジを変幻自在にできるということは、かなりの脅威だ。それなりに経験を積んだサバイバーであれば、対処はできただろう。しかし、戦場から長く離れているサバイバーにとっては初見で対処するのは困難だったのだ。

 

相手も悪かった。軽薄さと胡散臭さからできているような男ではあるが、執行局員として戦うに足る技量の持ち主だったのだ。

 

「鞭の扱いは難しいというけれど、相手にすると脅威そのものね」

 

「魔物相手には大して使えないんやけどね。人間相手には驚くほど有用やねん」

 

「………気になってたんだけど、君のそのちゃんぽん弁何とかならないのかしら?」

 

時間稼ぎのために鈴はそんなことを口にする。男はポカンとした後、薄く笑った。

 

「元々は標準語で喋ってたんやけど、友人からのプレゼントちゅうやつでな? 無碍にはできんかってん」

 

「あっそ」

 

「………それじゃあ、まあ、おしまいの時間やで」

 

男が流刀を振るった。鞭のような刃が銀閃を描く。鈴は辛うじてそれを迎撃する。それは言い表すのであれば凶刃の嵐。金属のぶつかり合う嫌な音が響き、鈴がバランスを崩したのを見て男が距離を詰め、強烈な斬撃を食らわせる。

 

辛うじて鈴は殺意を受け止めるも、相手の膂力を殺しきれずそのまま吹き飛ばされた。

 

「ぐっ!」

 

すかさず、男は刀を変形させて追撃を仕掛ける。刃が鈴を無残に切り裂く、誰もがそう確信した瞬間――――――赤い閃光が銀閃を撃ち落とした。

 

「え? は!?」

 

驚愕に固まる男の胴体に、赤い閃光が迫りそれを紙一重で躱した男は誘われたことに気が付いた。

 

男の目の前には別の赤い光弾が迫っていたからだ。両足と武器を持っている腕を正確に撃ち抜かれ、バランスを崩した男は痛む体に鞭を打って柱の背後に隠れた。

 

(狙撃やと!? 場所はあのビルやろか? 400ヤード程度しか離れておらへんにしても、ありえへんやろ………。あの距離から高速で動いとる流刀を叩き落したっていうんか? その上、僕の両脚と利き腕を正確に撃ち抜く? 油断しとったとは言うても、ありえへん。そんなアホくさい狙撃ができる奴なんて………)

 

武器を落とし、両足を痛めた焦りから思考が散乱し始めていた男の心理状態を把握したかのように、スナイパーは笑ってスコープを覗き込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

497:いっち

安全圏から相手を一方的に、ボコれる狙撃手気持ちィィィ!最高ですわー

 

498:名無しの転生者

 

499:名無しの転生者

狙撃手に謝れよ

 

500:名無しの転生者

イッチが最低すぎるので、ファン止めますね

 

501:名無しの転生者

というか早く現状報告しろ

 

502:名無しの転生者

い つ も のw

 

503:名無しの転生者

狙撃銃マジで手に入れられたのか(困惑)

 

504:いっち

イケメンボスがワイ用に用意していた武器らしい。もしもの時を考えて、車に積んであった。で、それを持って少し離れた高層マンションに不法侵入。屋上まで駆け上がって、狙撃してる。今、銀白髪ちゃんが追い詰められて、ボロボロだったから相手の男の攻撃を叩き落して、ついでに両脚と腕に弾丸ぶち込んでやった。

 

505:名無しの転生者

狙撃銃が偶々あるって無理あるだろ……。イケメンボスこの状況を読んでた?

 

506:名無しの転生者

イッチの三番目の特典って、人工的にご都合主義を錬成できるのか?

 

507:名無しの転生者

>>506

それな!安価をしたから、狙撃銃が手に入ったのでは?ボブは訝しんだ

 

508:名無しの転生者

だとしたら、チートなんてもんじゃないぞ?

 

509:名無しの転生者

安価実行のための補正扱いで、主人公補正が付くってことか?

 

510:名無しの転生者

勝ったな、風呂入ってくる

 

511:名無しの転生者

それは勝ちだな、風呂入ってくるぜ

 

512:名無しの転生者

流れるような不法侵入、俺でなければ見逃しちゃうね

 

513:名無しの転生者

イッチの今日の罪状

スタッフルームに不法侵入

暴行

監視カメラのデータ改竄

美女とのデート!

 

裁判長判決を!

 

514:名無しの転生者

最後、私怨全開で草

 

515:名無しの転生者

判決! 死刑

 

516:名無しの転生者

美女とのデート羨ましいので

 

517:名無しの転生者

死刑!

 

518:名無しの転生者

なおイッチが関与したのは、最後の二つだけっていうね

 

519:名無しの転生者

イッチの転生特典が、ご都合主義を作り出せるのだとすれば、ライブ配信とかも可能?

 

520:名無しの転生者

ガタッ! 銀白髪ちゃんが見れるってマジ?

 

521:名無しの転生者

イケメンボスが見れるってマジ?

 

522:名無しの転生者

ショタが見れるってマジ?

 

523:名無しの転生者

猫耳が見れるってマジ?

 

524:名無しの転生者

今すぐ、学園に戻って

 

525:名無しの転生者

猫耳を見せるんだよ、あくしろ

 

526:名無しの転生者

猫耳見れる配信ドコ?

 

527:いっち

見れると決まったわけではないんですが………。とりま、実況続けるぞ?

 

528:名無しの転生者

あくしろ

 

529:名無しの転生者

早く、安価取れ

 

530:名無しの転生者

結局どうなったんだ?

 

531:名無しの転生者

銀白髪の回収は終わった。ショタが回収して、撤退している。俺は足止めとして敵を狙撃中。壁抜きもできるとか、持つべきものは転生特典だよなぁ! 予測眼万歳!

 

532:名無しの転生者

当たり転生特典………殺してやりたい

 

533:名無しの転生者

尿意をなくす能力をもらったワイ、イッチを殺したい

 

534:名無しの転生者

 

535:名無しの転生者

転生特典ハズレニキ達は強く生きてw

 

536:名無しの転生者

>>533

尿意をなくすって自分の?

 

537:名無しの転生者

相手の

 

538:名無しの転生者

凶悪な能力で草

 

539:名無しの転生者

投擲したものの軌道を操る能力………新聞、ニュース、人体実験、ウッ、頭が

 

540:名無しの転生者

何か、トラウマ刺激されている奴がいますねぇ

 

541:名無しの転生者

怖いですねぇ

 

542:名無しの転生者

とりあえず、安価しよう

 

543:名無しの転生者

安価!安価!安価!

 

544:名無しの転生者

今日はもうすることなさそう

 

545:名無しの転生者

ショタが銀白髪ちゃん回収したっぽいしな

 

546:名無しの転生者

あれ?当初の目的は?

 

547:名無しの転生者

 

548:名無しの転生者

確かに

 

549:名無しの転生者

その辺どうなん?

 

550:名無しの転生者

当初の目的ってなんだっけ?

 

551:名無しの転生者

サバイバーの可能性がある一般人の調査。サバイバーだった時は、保護だったよな?

 

552:いっち

あってる。そして、心配ご無用。ショタ君が歩くのを補助できるのは銀白髪ちゃんだけ。銀白髪ちゃんは、怪我しているから他の人を背負えない。つまり、気絶している一般人(嘘)は放置されたままなのでした。

 

553:名無しの転生者

 

554:名無しの転生者

早く回収してやれよ

 

555:名無しの転生者

それはまずくないか?

 

556:いっち

敵さんの増援が来ました

 

557:名無しの転生者

草なんだが

 

558:いっち

安価します!増援(1人)がワイのいるビルに向かって全力疾走してくる。たぶん、1分で辿り着かれそう。元からいた敵は、制圧完了している。

逃げてもいいですかね?

>>570

 

559:名無しの転生者

ダメに決まってんだろ

 

560:名無しの転生者

狙撃で撃ち落とせ

 

561:名無しの転生者

1分っておかしくね?

 

562:名無しの転生者

イッチ、屋上にいるんだよな

 

563:名無しの転生者

相手人間じゃないだろ

 

564:名無しの転生者

サバイバーだからなw

 

565:名無しの転生者

狙撃で撃ち落とせ

 

566:名無しの転生者

ぎりぎりまで引き付けろ

 

567:名無しの転生者

狙撃手が近接戦闘できないわけないだろ

 

568:名無しの転生者

狙撃で迎え撃つしかないだろ

 

569:名無しの転生者

狙撃しテロ

 

570:名無しの転生者

逃げてもええんやで

 

571:名無しの転生者

狙撃で撃ち落とせ

 

572:名無しの転生者

近接戦しようぜ

 

573:名無しの転生者

逃げる一択だろ

 

574:名無しの転生者

近接戦で返り討ちだぜ

 

575:いっち

やったぜ!逃げます

 

576:名無しの転生者

それでいいのか!?お前に誉はないんか!?

 

577:名無しの転生者

誉は………浜で死にましたッ!

 

578:名無しの転生者

結局、一般人君の回収は?放置? 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。