盾 作:鍋奉行
ボーダーに入隊してから二ヶ月、正規隊員になってから一月が過ぎた。
今の個人ランク戦はアタッカーにとっては地獄である。
シールドが開発されていないので近づく前に一部の変態を除き、皆蜂の巣になってしまう。
そしてとても悲しいことがあった。
ナタデココが全く上手く割れないのである。特に威力の割り振りが絶望的にできない。
なんでや‼︎三雲でもできてたやん。
最近はアタッカー相手に近接して孤月同士の鍔迫り合いになった時に孤月の威力をオフにしてゼロ距離最大威力でブッパして倒すしかできていない。
最近はそれもバレ始めて鍔迫り合いが全く起きなくなったし、たとえ鍔迫り合いになっても威力をオフにした瞬間に光がなくなるのでゼロ距離も避けられてしまった。
それどころか風間や太刀川、小南などの一部の変態たちには鍔迫り合いの時に孤月ごと切られてしまうことが発生した。この時学んだのは孤月も場合によっては折れるということだった。
アタッカーなら孤月の斬り合いで打ち取れば良いと思うかもしれないが、これが難しい。
自分には守りや受けの才能はあったが攻めに転じる才能というものが全くなかった。
攻めに転じた瞬間、守りが薄くなって首チョンパである。
そのせいで未だにモールモッドを狩るのに20秒ほどかかる。風間なんてついに1秒を切ったらしい。
変態は往々にして変態である。
早くシールドが欲しいがようやく実験段階に入ったばかりらしい。実戦投入にはあと半年はかかるらしい。現状だと威力をオフにした孤月でも割れるほど脆いらしい。なんでも空中に固定するのが難しいらしい。
せめて手持ちで扱える盾があればだいぶ戦いやすくなるのだが…
あ、ならエスクード掘り起こして取っ手をつければいいか。
「小南、この前の昇格試験引き受けてくれてありがとうな。本当は俺がやらなきゃいけなかったのを」
落ち着いた筋肉を携えた男とショートカットの少女が廊下を歩きながら話をしていた。
「風邪なんて誰でもひくし、多分あれ迅、視えてたわよ。じゃなきゃ私をあの日、呼び出してなんかないはず。」
「それでもありがとうな。ところで昇格試験で強いやつとかはいたか?」
「そうね、アタッカーだとまぁまぁなのが3人トリッキーなのが1人ね。」
「まぁまぁなのはなんとなくわかるが、アタッカーでトリッキー?」
「あいつよ、最近孤月使いのくせに近距離でアステロイドぶつけてくるヤツ」
「ログで見たな。アタッカーからポイント巻き上げて、結局対策されて袋叩きにあってポイント的には収支マイナスらしい。」
「ざまぁないわ、私から3本とったからって調子に乗った罰ね。」
ショートカットの少女は少し上機嫌そうに足取りを軽くした。
そうして旧本部に向かうため現本部から外に出るとそこには先程話題になった青年とグラサンを掛けた形容し難い髪型の少年が孤月でエスクードを叩いていた。
本部基地の外でエスクードを手持ち盾に加工していたら防衛任務帰りの迅にあった。
転生者からすると1番の鬼門と呼ばれる存在のため警戒したが、会った瞬間吹き出して腹抱えてわらっていた。
初対面から随分と失礼なヤツだな。確かに木こりみたいに孤月でエスクードを叩いている絵は面白く写るのは同意するが。
「あぁー笑った笑った。ここまで腹抱えて笑ったのは久々だ。はじめましてですね。俺は迅。実力派エリート、迅悠一。よろしく、大野さん。」
驚いた。ネームドに名前を知られているとは。
「名前を知っているとは驚いた。ラーメン二郎の二郎で大野二郎だ。よろしくたのむ」
「流石に俺でなくてもあんな戦い方してたら、アタッカーなら全員知っていますよ。でも今度はエスクードを手持ちの盾にするって…」
確かに特徴的だな、俺の戦い方。
今の個人ランク戦のポイントぱっと見はシューターに見えるからな。アタッカーなのに孤月よりもナタデロイドの方がポイント高いやつなんて今のところ俺以外に知らない。
「そのサイドエフェクトならこの光景も見えてたはずだが…そんなに面白かったか?」
「映像だけ見るのと、実際にやってるの見ると全然違いますよ。音とかは聞こえないですし」
あのサイドエフェクトにそんな弱点があったとは…忘れていた
もし密談するときは顔を隠して体型をトリオン体で誤魔化すことにしよう。リアルだと大きくはなれるがちいさくはなれない。しかしトリオン体ならショタにだってなれる。便利だな、トリオン体。
「手伝いましょうか?孤月でエスクードを切るにしてもそこそこ時間かかるでしょう?」
「ありがたい。マジックで塗り潰しているとこを切り抜いてくれると助かる。」
ボーダーの防衛隊員は大体が年端もいかない子供で、特にアタッカーの人たちには奇人を見るような目で見られているのを薄々感じていて話はするが頼みづらかったのでありがたい。
それからエスクードに孤月を打ちつけながら三門市の美味しい飯屋の話などどうでもいいような雑談をしていると近くの扉が開き、中から落ち着いた筋肉と斧ガールが出てきた。
「え、迅あんた何やってんの?」
斧ガール小南、ドン引きである。露骨に顔に出ている。
「大野さんが今のガンナー環境の個人ランク戦に一石を投じるための秘密兵器を作るの手伝ってる。」
「あんた今ここで作ってもランク戦にどうやって持ち込むのよ。こんなに大きかったら個人ブースの扉通らないじゃない。まあそもそも仮想戦闘空間は転送されて入るからどうやっても持ち込めないわね。」
え、マジ?
「嘘だと言ってくれ、迅くん」
「残念ながら真実だよ、大野さん。仮想戦闘空間の中で作らないとランク戦に使えないよ。」
「嘘だンァァァァ」
「おれのサイドエフェクトがそう言ってる。」
「なら本当だな、しょうがない。」
「あんた切り替え早いわね。ここまで急に変わると逆に怖いわ」
小南さんや、そんな困惑の表情されても…
「じゃあなんで迅は手伝っているんだ?」
落ち着いた筋肉、レイジさんはそう迅に問いかけた。
この人年近いけどどうにもさん付けの方がしっくりくるなぁ。
「ランク戦には使えないけど防衛任務には使えるからな。これ使うと大野さんがそこそこの戦果をあげるのが視えてね。」
「迅くん…」
なんと優しい実力派エリートでしょう。未来も見えるし、実質神では?
「待ってた人も来たし、そろそろ行くね大野さん。次の防衛作戦頑張って」
「ありがとう、迅くん。君はいまエンジニアの次に尊敬すべき人物となった」
そういう時3人は迎えに来たジープに乗って何処かへと去っていった。
「ボス、彼こっちからサイドエフェクトの話してないのに知ってました。」
サングラスをかけた少年は後部座席で外の風景を眺めながら言った。
「なに⁉︎サイドエフェクトは次の集会で一般には話すはずではなかったか?」
ジープを運転していた林藤は驚き後ろを振り向いた。
「ボス、前前。トリオン体で話したんでログにも残ってます。あとで旧本部で見ます?」
「いや、お前が言うなら事実だろう。となると彼もなんらかのサイドエフェクト持ちか?」
「いや入隊時に大雑把に調べたが該当者はいなかった筈だ。そうだろう、迅」
助手席に座ていたレイジは確認するようにそう言った。
「じゃあなに、発見できないような特殊なサイドエフェクトってことになるわけ?あいつがそんなすごい奴には思えないわ、私。」
そんな会話をされているとはつゆ知らず青年はせっせとエスクードを加工していた。
簡易エスクード盾の作り方
①適度な大きさのエスクードを出します
②極太ワイヤーが通るくらいの穴を孤月で開けます
③穴の端からエスクードを出してヒュースのようにワイヤーを両脇から挟み込みます
④地面から剥ぎ取れば完成‼︎
実はもっと簡単な作り方があるが青年はまだ気がついていません。