盾 作:鍋奉行
「」は声に出ている会話。『』は内部通話やスピーカーから出ている音声。()は心の中の声という設定です。
チームランク戦開始のひと月前、つまり風刃適合者たちによる争奪戦が今行われている。
それが行われている裏で適合者を除いたチームランク戦参加者たちが一つの部屋に集められていた。
「全員集まったな。これより合同訓練の概要を説明していく。現在、この裏では風刃適合者たちによる争奪戦が行われている。君たちにはこれから隊ごとにブラックトリガー、風刃と戦ってもらう。諸君は今、個人ランク戦に注力してもらっているが一月後からはチームランク戦が行われる。そこでこの合同訓練では、隊ごとの現場の適応力や個人の力量を見ていく。この結果がシーズンスタート時の順位に影響する。」
前シーズンの順位がない正規のランク戦がどのように始まるかと思っていたが、ここでブラックトリガーとの戦闘になるとは…
「日頃の個人ランク戦はすでに互いの戦法や使用するトリガーがある程度わかっている。しかし本番は違う。未知のトリガーと対峙し、性能などが分からない状態で戦闘が始まる。今回の訓練はそのような状況を想定している。そのため風刃の性能を開示していない。戦いながら性能を探ってもらい戦闘終了後、性能を予想したレポートを提出してもらう。こちらも順位に影響する。またすでに風刃の性能を知っている木崎や小南は今回採点する立場にまわってもらう。何か質問があるものは?」
俺はすでに風刃の性能を知っているので対策は簡単だ。
原作で太刀川さんが言っていた通り風刃は寄ってしまえばただの軽くて硬いブレード。
そしてシールドすらも搭載していないので防御はブレード頼り。
警戒すべきは置き斬撃。しかしそれも光っているので割と見ればわかる。
あと心配があるとすれば簡易盾を一発で切り裂けるほどの切れ味があるかもしれない点だな。
そこだけわからないから最初に盾で受ける時に裏で集中固定シールドを張っておこう。
初見だとおそらく多くのガンナーやシューターが遠距離斬撃の餌食になるだろうが、我らが沢村隊はアタッカー3人の超攻撃スタイル。相性で言えばとても有利だ。
「部隊員が風刃所有者となった場合、その部隊はどうなるのでしょうか?」
そう質問したのは嵐山隊の柿崎。
確かにあの部隊から嵐山が抜けてしまっては隊としての動きがそもそも変わってくる。
「その場合、15日の補充要員募集期間を空けて風刃とは別のブラックトリガーと戦闘してもらう。」
うっわ、それ天羽が持ってたやつではないか。どう考えてもあれはやばい。
どうやったらあんだけの広さを更地に出るんだよ。
お願いだから迅さん、あなたが風刃を手に入れてくれ。
「他にはないな?では各自作戦室で待機していてくれ。準備ができ次第、順々に行なっていく。」
「風間が所有者になった場合、補充要員どうします?雷蔵を無理矢理にでも引き戻しますか?」
「あそこまでの目をした雷蔵くんは引き戻せないわよ。それに風間くん、手に入れても辞退するって言ってたし。」
そうなだったのか風間…なぜ俺には話してくれなかったんだ…
まあどうせ迅が風刃の所有者になるからあんまり考えなくてもいいか。
「それよりも風刃の性能よ。全く情報がないからある程度パターンを想定しておかないと…」
「風刃の性能は遠距離斬撃ですよ、たぶん」
「何?不正でもしたの?それなら容赦なく本部長に引き渡すから。」
「違いますよ、そんなんじゃなくて名前ですよ名前。風の刃で風刃ですよ。どう考えても鎌鼬じゃないですか?」
言い訳を考えておいてよかった。
もしかしたら上層部の会議にかけられていたかもしれないと思うと少し肝が冷える。
こういう原作知識を使うのも控えねば…
近界民に殺されるんじゃなくてスパイ容疑で記憶消されて一生幽閉コースになるやもしれぬ。おそロシア。
「でも名前だけでそこまで決まる?そもそも名前と性能に関連性があるなんて仮説、聞いたことないわよ。」
「最近自分が体験したんですが、トリガーってのはイメージの世界なんですよ。自分はアステロイドがうまく割れなかったんですが声に出してイメージをより具体化することで割るスピードを早めることができました。スコーピオンってどことなく尖っていることを連想しません?これが丸くてふわふわしたものを連想するような名前だったらブレードは出てこないような気が自分はします。」
これは本当に実感した。
アステロイドを出すときにトコロテンを押し出すようなイメージでやると、もうすでにトコロテン状態になって出てくる。
「あの奇声にはそんな意味があったのね…知らなかったし知りたくなかったわ。でも実際にアステロイドを素早く割れるようになってるし一理あるわね。風刃は遠距離斬撃ができるブレードとして対策を考えていきましょう。」
知りたくなかったのか…なぜだ…そこまで俺は変人として捉えられているのか…
そのようなことを考えていると作戦室の扉が開き、成長期が終わった男が入ってきた。
「どうだった風間くん、勝った?」
「迅の圧勝です。想定以上の強さでした……。普段太刀川とやり合ってる時よりも動きのキレが数段良かったです。」
やっぱり迅さんか。よかった、情報ゼロの天羽のトリガーとやる羽目にならなくて。
「そうなると厄介ね。迅と遠距離斬撃の組み合わせは…」
風間はそう聞くと不思議そうな顔をした。
「どうして遠距離斬撃なんですか?大野が不正して何処かから情報盗んできましたか?」
「おい待て風間。俺はお前の中でそんなことをするやつなのか。流石に凹むぞ。」
ショックである。チームメイト2人にこのように思われているとは。
「違うわ風間くん。遠距離斬撃って言い出したのは確かに大野くんだけど別に情報を盗んできたわけじゃないわ。ただ名前から連想しただけよ。」
それから沢村さんは先程俺と話したことを風間に説明した。
「相手を油断させるための奇策だと思っていたがあれはそういう意味があったのか。しかしその仮説は興味深いな。」
「でしょ?大野くんの口から出たとは思えないもの。」
「え、俺もしかして相当馬鹿だと思われてる?」
「頭は悪くないが、アホだな。」
それから風刃の対策を話し合っていった。
「最後にもう一度作戦を確認するわ。転送直後、私と風間くんはバックワームを起動。レーダーに迅くんが映っているようならバレないように接近。大野くんは簡易盾を作ってからバックワームは使わず迅くんのところに例の急加速で接近。ブレードの性能を測る。数回打ち合ったら死角から私と風間くんが強襲。その直前に大野くんは後ろに引いてアステロイドを起動して遠距離斬撃を誘う。いいわね?」
「「了解」」
転送した先は閑静な住宅街だった。
迅は交差点の真ん中にいるようだ。レーダーにはそう映っている。
『迅くんがレーダーに映っているから当初の予定通りに行くわよ。大野くん、盾はもう準備できた?』
小佐野が提案した新型盾。これになってから本当に素早く盾を作れるようになった。
「完成しました。これから強襲をかけます。」
迅の遠距離斬撃は物体を伝わって向かってくる。そしてそれ以外に遠距離の攻撃手段はない。
(空中から突撃します。遠距離のシールド支援お願いします)
「エスクード」
上空から接近すれば近づく前に足や腕を削られる心配はない‼︎
『ちょっと大野くん⁉︎そんなことしたら遠距離斬撃が‼︎』
『せめて事前に相談してからやれ‼︎沢村さん、迅から見えないところから遠距離シールドで支援しましょう。もうあいつは飛んでしまっているのでこれしかやれることはない。』
大野はアステロイドを割れないほど不器用だ。そのため声に出さずに内部通話を使うことにたまに失敗する。
なぜかわからないが風間と沢村さんが怒っている。しかし咄嗟に言っても対応してくれるなんて2人は優秀だなぁ…。
そう思いながら空中から突撃し遠距離斬撃を受けることなく迅に斬りかかることができた。
孤月と風刃が激しい音をたててぶつかり合った。
「やっぱり大野さんはそうくるよね。」
迅はそう言うと俺の孤月を振り払い、左側から首を斬るような起動で風刃を振るった。
そっちには簡易盾がある。
風刃の切れ味が現状わからないので簡易盾の裏の軌道上に集中シールドを2枚張っておこう。
これでも貫通してきたら近距離で斬り合うのはスコーピオンしか装備していない風間には不利だ。
それを見極める必要がある。
「はい、予測確定」
迅はそういうと、風刃を躊躇いもなく盾に斬りつけた。
『戦闘体活動限界、緊急脱出』
俺は盾の裏側から出てきたブレードに上下真っ二つにされていた。
俺が緊急脱出してから沢村隊は風刃の撃破を断念。
徹底したヒットアンドアウェイで風刃の最大性能を探っていった。
『『戦闘体活動限界、緊急脱出』』
しかしそれも長くは続かず、2人もすぐに緊急脱出してしまった。
そしてその後に提出された沢村隊の報告書にはトリガーと名前の関連性に関する仮説は書かれていなかった。
大野は2人にこっぴどく叱られ、アステロイドを割れるようになった大野の次なる課題は声を出さずに内部通話をしっかりできるようになるというものになった。
大野はこれを初めに『ファ○チキください。』と頭で考えることで声に出さずに内部通話をする技術を会得した。
2人は本格的に大野を変人認定した。
大野は戦闘員には弾アホと呼ばれ、オペレーターにはファミ○キさんと呼ばれるようになった。
大野がエスクードは物体化していることを忘れるというアホさをイメージ仮説によってある程度マイルドにできたつもりでいます。
でも最後のチキンで台無しな気がします。