新人サンタクロースの夏油傑は知らなかった。
残穢について、知らなかった。
知らなかったのだ。
知らなかったが故に。
今、入学早々壁ドンされていた。
「お前、名前は」
「夏油 傑だけど? 人に名前を聞くときは、自分から名乗るものだよ」
「知ってるだろ。五条 悟」
勿論知ってるさ。
「初めまして。よろしく、五条くん」
鋭い視線で刺して見据えられる。
「……よろしく」
一体なんなんだろう。本当、好戦的である。
まあ、4年間だけの辛抱だ。
早く卒業して、先輩達の所に戻りたい。
「夏油 傑か。初任務は特級になる。いけるか」
「正気ですか」
特級って一番強い奴じゃないか。クリスマス以外にそんなの相手できるはずがない。クリスマスならなんとかなるが。
「無理か」
「無理です。普通に4級からさせてください」
「悟は一級だぞ」
「それ、私の評価に関係あります?」
「そうか。傑がそう言うなら、まずは4級からとしよう」
「お願いします」
それにしても、視線が痛い。
そんなにじろじろ見ることはないじゃないか。
「傑、一緒に訓練しようぜ! 今度は絶対に勝つ!」
「今度も何も、戦うの初めてだよね?」
というわけで、負けた。くそっ クリスマスじゃないし戦い方も変えてるとはいえ、悔しいな……。
「本気でしろよ!」
「嫌味かい? やってるよ!」
ああもう、上手くやっていけるかなぁ。
そう心配になるのだが、結論から言って心配は杞憂だった。
悟も硝子も割とベタベタしてくるぞ。
そして、11月に入った。
「悟と硝子は、そろそろサンタさんに手紙書かないのかい?」
「意味あんの、あれ?」
「微妙に反映されるよ。微妙に。でも時期的に早くないか?」
「そんな事は全然ないよ」
「そうだ、サンタさんのプレゼントって何歳まで貰えんの?」
「ええ? 個人差あるんじゃないかなぁ? 少なくとも手紙のある子が優先されるんじゃないかな? 私は書くよ」
「「書く」」
そして、サンタさんへの手紙を書いて、燃やした。
「これで届くの?」
「勿論、届くよ。だってサンタさんだからね」
そうしてサンタの魔法で手紙を見たのだが。
『親友』ってデカデカと書いてあるのは、どう受け止めればいいのかな……?
12月に入った。
一緒にサンタを捕まえよう! なんて言われたら困ったが、悟は声を掛けて来なかった。この日は御三家でお泊まり会をするのだという。
また要らないことを……。
私は寒くなって体調を崩した事にして、クリスマスの三日前にお休みを頂いた。
この日ばかりは、サンタとして手伝いをしないわけにはいかない。
妖精さんも、トナカイ部隊も、サンタさんもやる気十分だ。
「傑君は、勿論御三家お泊まり会に行ってもらうわ」
「はい!」
この世界にサンタの妖精が株分けしてきて、活動をしてきた結果、サンタを信じる心は加速度的に増えている。
この季節、この期間、サンタは強大な力を得る。
最も厄介なこの案件に、ベテランのトナカイさんをつけてもらっている。
いざ、御三家に殴り込みにGO!
「まるで要塞じゃないか……」
「逃げるか? サンタ」
「まさか。真正面から行ってやりますよ!」
「それでこそ、サンタだ」
そうして、私達は壁を透過して中へと侵入した。
警報音が高らかに鳴る。
「来たぞ!! サンタだ!!」
「今日こそ、捕まえたるからな!」
「間違って殺すなよ、直哉」
「わかっとるで、パパ!」
「昨年の雪辱を晴らす!」
「依頼料をもらったんでな。悪く思うなよ」
わー……。
今年も凄いな。一人でも厄介なのに。
ハンドサインで手分けして各個撃破を指示する。
トナカイさん達がプレゼントマシンガンを撃って撃って撃ちまくる。
撃たれた人の胸の辺りからプレゼントが出現し、眠ってしまう。
だが、素直に撃たれてくれる術師達ではない。
私はプレゼント短剣を持って走る。
それにしても、非術師には術を使っちゃいけないんじゃなかったのかな!?
トナカイさん達、非術者だよ!?
厄介なのは直哉、悟。
だが、狙いは小さい子供達だ。
御三家子沢山なんだよね。
「プレゼントちょうだーい!!」
バタバタとやってくる短剣を持った子供らを刺して優しく寝かせる。
刺した場所からは血ではなくプレゼントが出現する。
相変わらず、気合の入った子達である。
あらゆる世界を流れて発達してきたサンタ流剣術が冴え渡る。
2時間ほど頑張って、残りは悟だけとなった。
ハンドサインで進言が出される。
撤退か。どうしようかな。
「えっ もしかして帰ろうとしてる!? 俺のプレゼントは!?」
断腸の思いでプラカードを出す。
『大人にはなしです』
「ヤダヤダ、絶対プレゼントもらう! 手紙書いたじゃん!」
じゃあ抵抗をするな。他にもプレゼントを配らないといけない相手は山ほどいるのである。
悟は自ら無下限を解く。最初からそうすればいいんだよ。
私はさっくりと刺して、プレゼントを出現させ、次の任地へと向かった。
クリスマスの後は常にへとへとである。
へとへとなのだが、生真面目な傑は学校を休めないでいた。
仕事の為に仮病で学校を休むのは良くても、休むために休むのはできない傑である。
夜蛾と、なぜか悟と硝子もいた。
「傑。お前がやっているサンタクロースのバイトだが」
「サンタクロース? 私は風邪で休んでましたが」
「傑。呪力は個々に違い、悟はそれを判別できるんだ」
「え」
「つまり、お前の事はいくら姿を変えても丸っとお見通しってこと!」
「ええー!? そ、そんな。仕事が首になったら誰が呪術師にプレゼント配るんですか!」
「む、首になってしまうのか」
「なんとか黙っていてもらう事はできませんか?」
「いやすでにみんな知ってる」
「うわあああああ」
「それで、サンタについて聞きたくてな」
「え。無理です守秘義務あります」
「御三家に乗り込んでおいてそれは無理だな。最悪は秘匿死刑だぞ」
「諦めて全部話せよ、傑!」
「えっと。でも、被害は特にありませんよね?」
「メンツという大きな被害がある」
「うわあ……と言っても、サンタはプレゼントを配る以外ないですけど」
「近年までいなかっただろう、サンタ」
「近年できた組織なので」
「……利益は?」
「子供の笑顔です」
「真面目に言っている」
「真面目に答えているのですが」
じっと見つめ合う。
「資金は」
「色々事業をして、なんとかお給料ぶんは捻出しているようです。プレゼントは魔法で出すし」
「そうか。トナカイ達は」
「自衛隊とかから、スカウトしたりしてます」
「その魔法はどこから出たんだ」
「子供達の祈りから?」
「真面目に聞いている」
「真面目に答えてます」
「隠された子供にもプレゼントが来ていたが」
「サンタが子供を見逃さないのは当たり前ですが」
「サンタ宛の手紙も読めるのだから、そうか」
「そうです」
「あっ 俺親友って手紙に書いたのに、変なネックレスってどういうこと!」
「ああ、あれ、魔法が籠っててさ。対になってて、そのネックレスをプレゼントしてくれた人と縁を繋げてくれるんだ」
「つまり、傑に渡せばずっと親友ってこと?」
「そうなりやすくなるね。返品するかい?」
「絶対嫌だ! お前それしろよな!」
「ありがとう、悟」
そうして、その場でネックレスを二つにして二人でつける。
「ということで、これで失礼しますね」
「待て。話は終わってないぞ」
「ちっ」
「舌打ちするな。プレゼントに説明書がないのは不親切だと思うが?」
「魔法効果はあくまでおまけですし、いつもつくわけではないですし」
「普段弱いのは」
「クリスマスに強いだけです」
「子供のリストがわかるなら、術師のリストもわからないか?」
「それは……! それこそ個人情報ですよ。流出させたら親分に殺されます」
「親分……だが、術師は幼い頃、悩んでいることが多い。一般出なら特にだ」
「それは……」
「せめて、そういった子達にその子が望むなら手を差し伸べるという事はしたい」
「……報告はあげておきます」
「頼むぞ、傑」
「あと、サンタというのは誰でもなれるのか」
「怒りますよ。妖精の才能のある人は少ないんです」
「俺にはあるか」
「それは……ありますけど」
「あるのか!?」
「ありますね」
「なら、なおさら紹介してくれるか。世界中の子供達にプレゼントを配るなら、人数が必要だろう」
「親分が頷くかは分かりませんけど」
「構わない。話せる機会があるだけでもありがたい」
ということで、どんな話し合いがあったかはわからないが、サンタと呪術界で提携が結ばれる事となったのだった。
五条と夏油のネックレスが夏油が離反しそうな時に仕事をする事とか。
天内へのプレゼントが同化を必要なくするとか。
夜蛾のプレゼントがぬいぐるみオンリーになって物議を醸すとか。
直哉へのプレゼントが甚爾を救うとか。
クリスマスに合同呪霊討伐をやらされるとか。
それはまた、別の話。