無駄に強い六腕   作:ベルゼバビデブ

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殲滅!凄惨!"千殺"のマルムヴィスト!

 

「おやおやおや、俺はレディに剣を振るう趣味は無いんだがな。」

「ユリ姉、いくっすよ」

「わかってるわ。ルプー、油断しないようにね」

 レイピアを持つ着飾った男、マルムヴィストの相手はルプスレギナとユリの二人、階層守護者やプレイヤーであるモモンガなどと比べるとややレベルは足りないと思われる戦闘メイドであったが、モモンガ達の都合上それは仕方のないことであった。

「その華麗な顔に傷を付けるのは少々心苦しいが覚悟してもらおう。…"多重"」

 マルムヴィストの用いた魔法は多重…その名の通り、振るう武器に多重の武器の影を生成する。その数なんと8つ。元々は"二重"と呼ばれる魔法であったが、彼はこの魔法のみを突き詰めて極めた結果、ここまでの極地に至った。こうしてマルムヴィストは一突きで9回分の刺突が可能であり、彼の突きを浴びれば身体中が蜂の巣のように穴だらけになってしまうのである。そして一対他でも難なくこなす彼の戦闘はその無数に開いたレイピアの刺突痕から彼は一度の戦闘で相手を千回は殺せる男、"千殺"のマルムヴィストと呼ばれるに至ったのだ。

「さぁ、可憐なる華達よ…この私が彩って"刺し"あげよう!」

 マルムヴィストは一気に踏み込むと並の戦士では見切れぬ神速の突きを放つ。更に遅れて8回、武器の影が刺突を放つ…が、ユリはそれを両腕のガントレットで防ぎ切った。

「…ほう?私の技を全て防ぐとは中々やりますね」

「…中々?…ふっ」

 この時、ユリは勝利を確信していた。会話に気を取られているマルムヴィストの背後には獲物を振り被り、今まさに振り下ろさんとしているルプスレギナの姿が見えたからだ。

 だが、マルムヴィストは死角から襲い来るルプスレギナの獲物に刺突をかますと更に遅れて放たれる刺突を合わせた9回もの刺突に獲物を弾き飛ばし、さらにはレイピアで斬りつけて見せる。とは言え、9度の斬撃は確かにルプスレギナを傷つけるに至ったがいずれも軽傷である。

「…なるほど、刺突以外は並以下ね」

「…並以下?確かにな…」

 ユリはここに勝機を見出した。目の前の男は刺突こそ自分達と同等以上の鋭さを持つものの斬撃は大したことは無いと断じたのだ。確かにマルムヴィストは"多重"の魔法の研鑽と神速の突きの会得にその肉体の持ち得る鍛錬の全てを注ぎ込んできた。魔法と武術の両方を会得せんとしたが為に彼はペシュリアンの「空間斬」ほどの極技は会得できなかった。そして彼はそんなペシュリアンと共に六腕に所属していたのだ。自らに足りないものなど彼自身が最もよく知っている。そこでようやくユリはルプスレギナの異変に気が付いた。喉元を抑え、口をパクパクと動かし、首を傾げるルプスレギナを。

「まさか…毒!?」

「少し違うが…正解…最も私の毒は相手の動きを封じたり死に至らしめたりするものでは無い。強者になればなるほどそう言った効果の強い毒には対策をするものだからね」

 実際、守護者の多くは即死や毒などに耐性を持つ。そしてその耐性を突き破るほどの強力なものなどこの世界には存在しない。しかし、ユグドラシル時代でさえすべての属性に耐性を持つことなどできない。この世界ではもっとそれが露骨だ。多くのものは即死やダメージ、麻痺など喰らえば致命的な物に対策を講じる。故にマルムヴィストは考えた。効果的な状態異常を。

「私のレイピア『シニーニクチャーシ』には傷をつけた物に"沈黙"を与える…!信仰系マジックキャスターらしき彼女に傷を負わさられたのは実に幸運だったよ。」

 シニーニクチャーシ…ユグドラシル時代に存在した「死人に口なし」という沈黙付与のクナイ…それをレイピアの先端に加工したのが彼のレイピアだった。戦闘中に突然マジックキャスターが魔法を使えなくなったらどうなるか、そんなことは言うまでも無い。圧倒的にレベル差が無ければただのお荷物である。この場合で言えばほぼ同一レベル同士のマルムヴィストとルプスレギナにおいて魔法を失ったルプスレギナなど…

「そらッ!」

 9度の刺突、ルプスレギナは手にする獲物を使った防御でなんとか致命傷を防ぐが、マルムヴィストもプロである。最初からそんなことはわかりきっているというように右脚に集中した刺突を放ってまずはルプスレギナの機動力を削いだ。

「      ッ!」

 玩具だと、下等種族と見下していた人間に逆に生殺与奪を奪われ、思わず睨むルプスレギナは彼の後ろに拳を引き絞る姉を見た。敢えて更に絶望した顔で相手に油断させようと演技をするが、それを見たマルムヴィストは瞬時に横に跳びのいてユリによる拳の振り下ろしを交わした。

「   !」

「躱した!?…この人間、背中にも目があるというの!?」

「危ない危ない…その威力…避けていなければ死んでいましたね。可憐な華には棘があるとはよく言った物ですね」

 そうしてレイピアを構えるマルムヴィストに対し、ユリは大きく跳躍してのアームハンマーで地面を叩き割ってからの間を詰めての攻撃を仕掛ける。

「当たりませんよ、そんな攻…なっ!?」

 驚きながらも的確な回避、しかし動物としての本能がそうさせたのか、マルムヴィストは反撃の余地がありながらバックステップを踏んでしまった。しかし、仕方のないことだろう。目の前の女は首から上がないにも関わらず平然と動いているのだから。そしてそれが彼の敗因となる。

 バックステップを踏んで逃げようとするマルムヴィストだったが、背後から何者かにタックルされ逃げられない。この場でそれができるのは沈黙のマジックキャスター、ルプスレギナだ。

「馬鹿な…あの怪我で動けるはずが…!」

 マルムヴィストに計算違いがあるとするならば、ユリもルプスレギナも人間ではないということだ。ユリはデュラハン。首などなくともなんともないし、ルプスレギナは人狼である。人間ならば動けないほどの深手でも人狼ならば多少は動けるのだ。

「それに…連携だと…!?片方は声も出せず、もう一方だって…!」

 怪しいハンドシグナルも無ければ会話だってなかった。指示もしていない。なのに何故、とマルムヴィストは困惑する。そもそもが目の前の女の状態を見て困惑しているのだ。何せ、頭がないのに動いている。

「貴方は舐め過ぎたッ!私と…ルプスレギナ…プレアデスという姉妹のッ絆をォッ!!」

 聞こえた声にマルムヴィストが上を向くと、生首が激昂した顔で今まさにこちらに向けて落下しつつある。そう、ユリは自身やルプスレギナの瞳の反射を見て背後からの攻撃が対応されていると判断した。実際にこれはマルムヴィストが実戦の中で培った対多数戦術、突きという一点集中の攻撃に沈黙という連携こそ潰せるが致命的な威力のない彼の身につけた戦闘技術であったのだ。それを潰す為、ユリは大きく跳躍した時に自らの首を空中で更に上へと放り投げた。そこからのアームハンマーで地面を崩しつつ踏み込んで攻撃に出たのだ。そして首のないユリを見たルプスレギナは瞬時に理解した。姉が無意味に首を外すはずがない。今なら倒す術があるのだと信じ、タックルで動きを止めたのだ。

「この…私がッ!」

「鉄 拳 制 裁 ッ!!」

 振り抜かれた拳は的確にマルムヴィストの顔面を捉える。さらにその勢いのままルプスレギナはマルムヴィストをジャーマンスープレックスして地面に頭を捻じ込んだ。

 こうして辛くもユリとルプスレギナのコンビは千殺のマルムヴィストを撃破したのだった。




〜捏造設定〜
多重…四武器の人が使ってたドッペルの超絶強化版。一度に8つまでの武器の影を形成して攻撃できる。一度の神速の突きで乱れ突きが可能である。弱連打ではなく、渾身の一突きを連射できる為非常に強力。

状態異常云々…でも実際はマジックキャスター系には沈黙対策してそうだよね。まぁ、アインズ様とかの無詠唱には効果が無い=重要度が低いってことでさ。

死人に口なし…沈黙効果のクナイ。多分ガチャ産のハズレアイテム。加工してレイピアに仕立て上げた。
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