「お前が俺の相手か」
「そうですとも」
幻魔の異名を持つサキュロントの相手は漆黒のフルプレートの騎士、その正体はたっち・みーに変身してフルプレートを装備したパンドラズアクターである。因みにこのフルプレートはモモンガ自らが作成したものであり、パンドラズアクターは大変気に入っている。自らの親が自らの為にお手製の鎧を贈ったのだ、当然である。因みに冒険者として活動するにあたりキャラ付けがされており、「〜ですとも」が口癖の無口な騎士、と言うことになっていた。
瞬間、パンドラは背後から何者かに背中を斬られてしまう。
「おっと、思ったよりも硬いな…フフフ…」
「なっ!?」
すぐさま振り返りつつ剣で胴体を横一文字に薙ぎ払うが手応えは無かった。
『卑怯とは言うまいな…』
次の瞬間、パンドラズアクターの目の前にいたはずのサキュロントは消えていた。すぐに音や気配を感じようにも周りではコキュートスやシャルティアがド派手に闘っており思うようには行かない。熱による探知もモモンガの相手…デイバーノックがその身を焦がしつつも暴れ回っているため不可能である。
「一体何が…!」
宝物殿の領域守護者として、何より至高なる御方々の一人であるたっち・みー様の姿をお借りしている以上、無様な戦いなどできないとパンドラズアクターは焦るのだが、サキュロントの不気味な笑い声がこだまするだけであった。
彼の名はサキュロント。幻魔の異名を持つ六腕の一人。
彼は技師であり、純粋な戦闘能力を言えば1対1ならば六腕の誰にでも負けてしまうと言える。だが、それは正しくもあり間違いとも言えた。六腕の中にはこんな言葉がある。
1対1のサキュロントは六腕最弱だが、サキュロント対六腕の一人ならばサキュロントは六腕最強だ。
パンドラズアクターは驚異的動体視力で地面に立った土埃を確認し、グレートソードを盾のように構えた。するとその瞬間グレートソードと剣がぶつかる甲高い金属音が鳴り響いた。
「ほう?」
現れたのは両手で剣を構えたサキュロント。彼の渾身の一振りでは戦士職に返信したパンドラズアクターに対しては当然力負けする。
「…!?」
しかし、それは気を張って面と向かって対峙すればの話、完全に意識外からの一撃がグレートソードにぶつかり、パンドラズアクターは思わず後ろに体制を崩した。だが、崩れた姿勢からグレートソードを振り抜く事で重心移動したパンドラズアクターは背後から迫る攻撃を回避することに成功した。
「敵ながら見事…何故分かった?」
「…それは…音ですとも」
パンドラズアクターがギリギリ躱せた…というか気付けたのは高速回転から生じたであろう風切り音、見れば円状に刃付いた武器が高速回転しつつ宙を舞っている。数は二つと少なかったが、直撃すれば鎧を容易く切断するだろうとパンドラズアクターは予想していた。続けて音と土煙に反応してグレートソードを振り下ろすと、再度金属音が鳴り響いた。パンドラズアクターには姿が見えなかったものの、振り下ろさんとされているグレートソードが何かに防がれているのが感じ取れる。筋力に任せてグレートソードを片手で引き続き振り下ろしつつ、腰のショートソードを引き抜き、見えないがそこにいるはずの存在にパンドラズアクターはショートソードを突き刺さんと振るった。
「"結晶防壁"」
「むっ!?」
ショートソードを防いだのは突如現れた結晶の壁、パンドラズアクターによるグレートソードの渾身の一振りならば兎も角、ショートソードでは貫くことは叶わず弾かれてしまった。この時のパンドラズアクターは追撃ではなく、背後に跳び退いたのは正解と言える判断であった。
「"結晶散弾"」
「無駄ですとも!」
パンドラズアクターは再びグレートソードを盾のように構えてサキュロントの攻撃を防いだ。
「結晶による防御と防御に使った結晶を攻撃に転用することで魔力を節約…手口が堅実ですとも」
「お褒めに預かり光栄だな」
背後から聞こえた声にパンドラズアクターは正面への振り下ろしを敢行する。
「なっ!?」
聞こえてきたのは何かが砕ける音と肉体を切り裂く音、血飛沫が舞い地面を濡らすと不可視のサキュロントが姿を表し地面に伏した。
「背後からと思わせて正面から、その程度の小細工、見抜くのは簡単ですと…」
瞬間、パンドラズアクターは風切り音に気が付き回避行動を取った。視界の端には確かに地面に伏したサキュロントが映っている。
「何故…!」
「武技"斬撃"」
たっち・みーの肉体で無理矢理空中で更なる回避行動を取ることで右腕を切り飛ばされるに止めたパンドラズアクターだが、続けての風切り音に両足の膝裏を切断されてしまう。辛うじて動く事は出来るものの、先ほどまでのように飛んだら跳ねたり出来るかと言われれば答えはノーであった。
「種は…割れました。しかし、まずいですとも…」
「…確かに、血が出過ぎたな」
不可視化を解いたと同時に現れたのは3人のサキュロント。先ほど地に伏したサキュロントとパンドラズアクターの血によって地面には血溜まりが出来ており、返り血などで不可視化は意味をなさなくなっていたのだ。
「驚きましたとも。」
彼にはペシュリアンほどの剣技の才能は無かった。故にペシュリアンの様な全てを切り裂く一撃など会得できなかった。
彼にはマルムヴィストほど一つの魔法を極める才能はなかった。故にマルムヴィストの様な特別な魔法は会得できなかった。
彼にはエドストレームほどの空間認識能力はなかった。故にエドストレームほどの数の舞踊を操る事はできなかった。
彼にはデイバーノックのように悠久の時間はなかった。故に彼に覚えられた魔法は僅かだった。
彼にはゼロほど逞しく強靭な肉体はなかった。
そう、1対1ではサキュロントは弱い。しかし、サキュロント対六腕の一人ならばサキュロントの圧勝である。
「まさか一人ではないとは…!」
「「「御名答。」」」
パンドラズアクターの言葉に三人のサキュロントが同時に答えた。
彼が六腕最弱であり最強である、その理由がサキュロントを幻魔たらしめるその実態。彼は五つ子であったのだ。そして5人のサキュロントはそれぞれ別の六腕の仲間から別々の技を習得し、5人で一人のサキュロントとして活動していた。二重を扱う者、舞踊を扱う者、武技を扱う者、攻撃魔法を扱う者、格闘術を学んだ者。彼『サキュロント』は特化した一芸ではなく数の暴力で戦う事を選択したのだ。彼がたびたび不可視化を解くのは自身が一人だと錯覚させる為、1人の時も複数人の時も見える時も見えざる時も変幻自在に場をコントロールし、敵を翻弄する。これが彼を幻魔たらしめるのである。
「「「とどめだ!」」」
昔任務で一人を失い、今また一人を失った。だが、彼ら『サキュロント』はその程度で戦う事をやめたりはしない。『サキュロント』が死ぬのは最後の一人が死んだ時だけなのだから。
「見事ですとも」
パンドラズアクターはサキュロントの技を褒め、兜の下でふっと笑った。そして次の瞬間、彼は切り取られたはずの腕を翳すと差し向けられた武器を喰らった。
そう、正しく武器を喰らったのである。
「「「何!?」」」
三人の『サキュロント』が動揺する。それもそのはず、武器で切り付けたと思ったら武器がドロドロとした腕に引き摺り込まれ破壊されたのだから。さらに次の瞬間、拳を引き絞ったパンドラズアクターによりサキュロントのうちの一人が吹き飛ばされる。悲しいことに今吹き飛ばされたのは武技のサキュロント、唯一武器なしでもなんとか戦闘が可能と思われるサキュロントであった。
「おや、反撃してこないところを見ると当たりを引いたようですね。それとも油断を?まぁ良いでしょう、殴れば…分かることです!」
「こいつ一体…!」「余計なことは考えるな!一先ず距離を…」
「そういえば忘れていましたね」
舞踏と二重のサキュロントが目にしたのは弓を引き絞っているパンドラズアクター。その弓が狙っている先には…。サキュロントが視線を送ると当時に、肩に矢を受け、不可視化を維持できないほどに吹き飛ばし魔法を覚えたサキュロントであった。
「私も実は純粋な剣士では無くて…気が合いますねぇ」
そして残った二人のサキュロントは何かの魔法をくらい意識を失った。
「人間にしては見事な連携…不可視化を使いまるで一人かのような巧みな偽装、更に幻惑の魔法を使うことで本当に複数人いるという可能性を考えさせないとは…なかなか面白い。…あ、ですとも。」
『サキュロント』は元々5人で一人。不可視化と幻惑(実体の無いもの)をうまく組み合わせて5(今は1人欠けて4人)で相手を様々な手段で攻撃して戦う技師です。彼には他の六腕メンバーほどの特化した才能はありませんでしたが、特別な合図もなく5つ子で連携するという才能はあった。みたいな感じですかね。