続けられる気がしないけど頑張りたい。
最初はありきたりな展開だけれど架空馬転生系テンプレと思って優しい目で見てほしい。
ここから先は全然違う(はず)。
2011年
真っ赤な毛色と小さな体で、鮮烈なメイクデビューを飾った馬がいた
平地と障害の両方を走り、戦友が次々と引退していくなかひとり走り続けた
二刀流と言うには危なっかしく、器用貧乏と言うには功績があり過ぎる
数々の名馬の歴史の中にぽつんと一つ、赤い輝き一閃残した
その名はーー
『来た!ようやく仕掛けた赤い宝石!最終コーナー、馬群の隙から一気に駆け登り、登り、…先頭集団に並んだっ!』
『上り坂を更に加速しているか⁉︎そのまま後続を突き放し一人ハナを抜ける!誰にも譲らぬ先頭、今っ、今!鮮やかな赤がゴール板を駆け抜けるーー!』
ーーグラナトラピート
これは、平地と障害のレースを駆け抜けた赤毛の馬のお話。
◆◆◆
2008年12月25日
真冬の牧場。ある厩舎のなか、馬房の中の一頭の牝馬に人が集まっていた。
作業着の男達は役割を確認しあれこれと用意をしながら、横たわって苦しむ彼女を心配している。
「予定より1ヶ月以上早い…大丈夫なんすかこれ。先生は?」
「もう来るってよ。弱音吐くな、大丈夫にするのが俺らの仕事だろ」
「がんばれよ、コーパル。一緒にこの子を育てていくんだからな」
通常、競争馬の出産シーズンは1月から6月。春にピークを迎える。
季節繁殖性で春に交繁殖する馬本来の性質に合わせることが多い。
しかし、ジュニア時代から好成績を出せる強い馬体に仕上げられるようにと、より早い時期の交配と出産を望まれることもままある。
この牝馬、コーパルフラウもそのなかの一頭だった。
コーパルフラウは肌馬として今年春先に交配し受胎、2月に出産する予定であった。
しかし彼女はこの冬12月厳寒のなか未明に破水してしまった。
厩務員がすぐに気付けたのは不幸中の幸いだった。
獣医は勤務を終えて帰る寸前で、知らせを聞いて大慌てで来た道を戻り厩舎に駆け込んできた。
それでも彼女が破水してから30分近くが経っていた。
「先生!」
「すまん、遅くなった。……まだ出てきてないのか」
「はい…、産道には見えるんですけど…。羊膜の色も良いし膜内の出血もなくて、触った限りでは胎勢も異常なさそうなんですが……」
「今は見守るしかできんか……。……うん、確かに、異常はないが……問題は時間だな……」
馬の出産にかかる時間は非常に短い。兆候として不穏な行動が1〜2時間続き破水、それから子馬の排出までがおおよそ30分。
それ以上かかり分娩が進まない場合は、人による介助、子馬の牽引が必要なことを示している。
しかし、コーパルフラウの場合はまだ仔馬が産道の途中で止まっており、手を出すことが困難だった。
コーパルフラウは呻き転がり、なんとかしようと藻掻いているが、次第に疲労の色が濃くなってきている。
「このままじゃ母も子もダメかもしれんな……」
獣医が絞るような声で呟く。
男達はコーパルフラウに向けていた視線をあげ、顔を見合わせる。
誰もがその顔に心配の表情を乗せていた。
今まで何度となく馬の出産は見てきたし、助産もしてきた。流産も、死産も、妊娠中のトラブルや難産のあまり死んでしまう母馬だって見てきた。
経験として慣れてはいる。けれど、今ここにある馬への愛情と心配はどうしたって誤魔化せない本物だ。
「もう少し…、もう少しだけ頑張ってくれコーパル。明日はうんと良い人参出してやるから」
「お前ならできる、大丈夫、大丈夫……」
「俺らも手伝うから。心配ないからな」
震える馬の体に男の荒れた手が触れる。
それに応えるかのように、横たわったままのコーパルフラウが嘶き脚をびくびくと痙攣させた。
「きたっ!きたぞ、脚が出てきた!」
「がんばれ!もう少し……。うん、いいぞ、その調子だ……!」
「コーパルに合わせて引くぞ、ゆっくり、ゆっくり」
男達は逸る気持ちを抑えるように、深く深呼吸しながらタイミングを計る。
コーパルフラウがいきむ瞬間瞬間、僅かに出てきた子馬の前脚を掴み交互に牽引していく。
力を入れ過ぎないよう優しく、ゆっくり、ゆっくりと。
ポトン、と軽い音で母体から完全に生み出されたのはそれからすぐのことだった。
そこからは皆おのおの用意していた物を手に取り、子馬の呼吸を確認し、臍の緒の処理を行い、身体をくまなく綺麗に拭いていく。
その間にマスクをあてがい準備していた酸素ボンベから十分な酸素を吸わせる。
「ちっ………さいなあ……」
「40kgもないんじゃないか。でも、ちゃんとうまれてきた……」
「ついてる…牡馬だな」
「ほら、コーパル、お前が産んだ子だぞ、男の子だぞ」
もぞもぞと動く小さな子馬をそっと抱き上げて、コーパルフラウの口元に持っていく。
コーパルフラウは疲れた表情を浮かべながらもゆっくりと立ち上がり、落ち着いた様子で子馬の体をベロリと舐めて愛撫した。
子馬はそれに抗えずコロコロと転がされる。舐め転がされながらしきりに四肢を動かしている。
本能的に立とうとしているようだった。
通常、子馬は生まれた瞬間から本能的に立とうとし、おおよそ1時間で歩けるようになる。
この子馬は今まで自分達が見てきた子馬と比べると随分と難儀しているように見えた。
単純に体が未熟で時間がかかっているだけかもしれないが、なんらかの障害があってもおかしくはない。
厩務員は再度子馬を抱え、今度はコーパルフラウの下腹部に運ぶ。
胴体を支え、自立を促しながら子馬の口元を乳房に誘導する。
「とりあえず立つのは手伝ってやるから、ほれ、乳だぞ。吸えるか……?」
訳もわからず下手くそに動いてむずがる体を固定して、マズルを向ける。
「……どうですか。シリンジと哺乳瓶あるんで、無理そうならそっちでも……」
「う〜ん……、あ、吸った!」
じたじたしていた体がとまる。ふらふらと重心が揺れてはいるが、支えを頼りに自立し、母乳を吸い始めた。
こちらもやはり下手くそなのか、飲み切れず零した母乳で身体中べたべたにしてしまってはいるが。
体を汚して一心不乱に乳房に吸い付くその姿は、小さい体ながらも強い生命力を感じさせた。
「はは……、良かった、良かったなあ……」
「あああ…マジ心臓に悪かった……。つっかれたぁ」
「まだ心配は尽きんが、でも、これならとりあえずは大丈夫そうだな…」
はーーーー、と男達はずっと詰めていた息をようやく吐き出し、地面にへたり込む。
これから母馬の後産の始末がある。この出産による母体への影響や異常も気にかかる。
子馬も、無事に生まれはしたけれどもしかしたらどこかに障害があるかもしれない。長く生きられないかもしれない。
それでも、今こうして元気そうに動いている姿を見るとどうしても喜ばずにはいられなかった。
「しっかし……、なーんで今日生まれるかなあ……?クリスマスプレゼントのつもりかよ…」
「ほんとにな。来週年明けりゃ1歳になっちまうしな」
「は⁉︎マジすか⁉︎え、これ元旦生まれとかにしちゃ駄目なんですかね……?」
「駄目だよ。…してやりたいけど、いや……う〜ん…?」
「ダメに決まってんだろ。悩まんでくれ、頼むから」
「…まあ、なんでもいいさ。元気に育ってくれれば。お前が楽しそうに走るところが早く見たいよ」
◆◆◆
なんかデュルンって出たー!
いやなんか出たっていうか俺が出たんだが?なに⁉︎ここどこ⁉︎
足ガクガクで力入んないし目も見えにくいし身体中デロンデロンなんじゃが???
あ、拭き取ってくれるんすねありがとありがと……って人?人デッカくね?馬もおんで⁉︎ナンデ?
お馬ちゃんも手伝ってくれてる?のはいいけど、舐めてくる舌の圧が凄いんよ。
ちょ待って頭揺れる酔う酔う。お願いステイステイ、あっ転がっちゃうって。
え、なに、俺の顔に何押しつけてんの?なんか生暖かい……馬の腹?えっ、これ……えっ、乳首?ドアップの迫力やべえな。
もしかしてこれ飲めって?牛乳?いや馬だから
……………え、おれ、馬?
たしか人だっはず……いや自信ないけどなんとなく。人間だった頃の記憶あるもん。
男で、ちょっと体弱かったような気はするけどふつーの家庭で、ふつーに学校卒業してふつーに就職して働いてて………えぇと……?
ちょ、何ひとの口勝手に開けんの、やめて!あ、馬か?馬の口勝手に……っていやええわい今そんな細かいこと。
ひとが考えごとしてる最中に邪魔を…じゃまを………。なにこれうめえ!
「しっかし、やたら赤っぽい鹿毛だなあ……鹿毛かあ?」
「早産の影響かね……。まあ産毛が抜けてきたら分かるでしょう」
「あ、クリスマスだからサンタ服着てきたんじゃないすか?」
ドッ!
いやわろとる場合か!人が馬になってんねんぞ!
知ったこっちゃないってか。しかしおかげでちょっと落ち着いたわ。
この馬乳うまいっすわ。ゴチでした。
俺が子馬?ってことは……あなたがお母ちゃん?
生まれたばっかだからかよく見えないけど、真っ黒ツヤツヤの美人……美馬?さんですね。
こんなに馬と顔が近いの初めてだ。迫力すごい。
俺もお母ちゃんと同じ色かなあ。同じだといいな。強そうだし。
いやさっき赤っぽいとかなんとか言ってたな。かげ?ってのがなんなのかよく分からんけど。
こっから黒くなるの?馬って成長過程で色変わるっけ?
……まあいっか、なんか眠くなってきたし、とりあえず寝てから考えるね……おやすみぃ……。
◆◆◆
202×年
休日。だらだらと惰眠を貪っていると、枕元の携帯からポコンと間の抜ける通知音が鳴った。
わざわざ通知するように設定しているものはそう多くない。
どれだろうと思いながら画面を開くと、それは今ハマっているウマ娘アプリの公式ツイートの通知だった。
『新育成ウマ娘実装!』
久しぶりに見る文字に思わず目が覚める。
ガバッと起きてポップアップ通知をタップ、そわそわしながら読み込みを待つ。
どんな子だろう、適性は何だろう、ウチに来てもらえたらどんな風に育成しよう。
ウマ娘から初めて競馬に触れて、史実の面白エピソードを漁る程度しか知らない自分だが、そこが少しずつ広がっていくのも楽しい。
読み込みが終わり、画像とともに説明文が表示される。
「うわすげえ赤」
燃えるように真っ赤な髪と勝負服のウマ娘だ。
凄く派手な色味だけれど、黒いレースのベールと大人しそうな表情が相まって薄幸そうな印象になっている。
騎手の服やメンコがモチーフになったんだろうか。
下に表示されてい名前を見る。
「グラナ…トラ、ピート?」
グラナト ラピート、かな。
知らない馬だな。有名な馬なんだろうか。
見る間に増えていくリプライをスクロールしてみる。
『これにはゴルシもにっこり』
『オペラオーもやぞ』
『気性難ならぬ輸送難w』
『北海道行ける?体力消費やばそう』
『うれピョンがうれぴょいになるんですね分かります』
『障害実装クルー?』
『黒ベールはメンコか?それとも…』
『イルミネーションJS…』
『おいトレーナー曇らせんな』
「障害…?イルミネーションじぇーえす…?」
よく分からんが、ゴルシとオペラオーに関係する馬なことは分かった。
検索バーに名前を入れてみる。
出てきたのはnetakeibaとwikiと…あった、大百科!
俺は迷わず大百科を選んだ。ネタに走ってて面白いし、話が掴みやすいからな。
……………。
…………………。
俺は大百科読んだあと、結局netakeibaもwikiも読んで。
所持ジュエルを確認して溜め息をついた。
主人公は2011年デビューの架空馬で赤毛の牡馬です。
芝、長距離の平地と障害を走ります。
母のコーパルフラウは架空馬で、アンバーシャダイの全妹という設定です。
ウイポはやったのことがないので分かりません。
詳しい話は次回で。