Errors:World Connected   作:御代川辰

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No.00-2 日が月を覆うが如し

《アマナス北方 ヴィルソー(Whirrsorw)藩邦 クーングオン(Qoongwaun)湖 ハポラ(Hapora)島》

[[統一暦302年 7月32日]]

 

 統一帝国には「臣民よ国祖との誓約を果たせ」を共通のスローガンとして活動する愛国主義抵抗組織(パトリオット・レジタンス)という勢力が多数存在している。

 そのレジスタンス組織の一つ、通称〈大いなる医の父(アスクレピオス)〉によって築かれたハポラ島の大規模地下要塞。その一角にある指令室には不穏な空気が漂っていた。

 

朝廷(ダクトゥルム)(つい)におっ(ぱじ)めやがったか!」

 

 事の発端は聖帝都(アマデウス・エメ)を拠点とするレジスタンス組織が帝国全土のレジスタンスに()()()()を広めたことにある。

 神聖皇帝が開戦宣言と総軍出立の大軍令を発した直後ということもあり、面々の緊張は最高潮(ピーク)に達していた。

 

無線機(ラジオ)放送で皇帝が宣言した通り、朝廷(ダクトゥルム)教会(エクレイスト)どもが言う聖戦の開戦まで四ヶ月を切った。ここヴィルソー藩邦の第一軍、第四軍はすでに帝国の第七方面軍とともに都に集結しつつある。だが今最も重要な問題はこの()()()()だ」

 

 首魁と(おぼ)しき小肥(こぶと)りの男が目を見やると、妖靈族(Elf)の少女が二枚の紙を長机に置く。

 

「送付された暗号から彼女が描き出したこれらの絵が、全てを物語っている」

 

 紙に書かれた絵を見た組織の幹部たちは思わず絶句した。

 

「バカな…………既にかっ!?」

「こんなことが…………」

「神を生け贄にしてもこれほどの数はあり得ん!」

「早い…………早すぎる!」

「何かの間違いではないのか…………!?」

「…………同時か…………」

 

 戦慄が場を支配する。

 

「そうだ。元の文はヒ・ツキ・オオウ。つまり太陽が月を覆い隠すのと同じくらいあり得ない事態が、この最悪の時期(大規模軍拡)と重なって発生したということだ」

 

 写真のように精巧に描画された二枚の絵。片方には()()()()()()()が円を描くように配置されている様が、もう片方には()()()()()()()()()()()()()()()()()()(えが)かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《アマナス東方 カルネアデス(Carneades)藩国 セウルドナ(Seuldna)公爵領 アプトゥ(Aptu)

 

 

 時は遡り、同年7月24日。地方都市アプトゥの中央、セウルドナ公爵の(やかた)の一室にその男は居た。

 

大師匠(だいししょう)様!お(しら)せがあります!」

 

 大きな丸眼鏡を掛けた魔術士(Wicth)、【オルミーヌ(Olmine)】が勢いよく部屋の扉を開ける。その部屋の中は何百冊もの本、何百本もの巻物が溢れんばかりに散乱し、足の踏み場もなかったが、その奥には色白の男が一人、椅子に座して本を読み漁っていた。

 

「戻ったかオルミーヌ」

 

 蝋燭の灯を吹き消しながら入り口に振り向く男の名は、陰陽師(おんみょうじ)安倍晴明(あべのはるあきら)】。魔導師(Warlock)たちによる民間防衛結社、〈十月機関(OctSystem)〉の長である。

 

「はい。南西のツァダンカ(Zaddancha)平原で発見した漂流者(ドリフターズ)を三人、全員保護しました」

 

 オルミーヌが言い終わるや否や、晴明(せいめい)は勢いよく椅子から立ち上がり歓声をあげ部屋を出ようとする。

 

「でかしたぞ!その三人の名は!?何と名乗っていた!?」

「落ち着いてください大師匠様!」

 

 オルミーヌは喜びのあまり暴走する晴明(せいめい)を引き留めようと羽交い締めにし、心を落ち着けるように言った。

 

「……ああ、すまん。思わず取り乱してしまった」

 

 晴明(せいめい)は正気を取り戻し、皺ができた服を整え、帽子を被り直す。

 落ち着きを取り戻した彼の様子を見てオルミーヌは溜め息を吐いた。

 

「その漂流物(ドリフ)たちは何者だ?」

「馬に乗った弓使いは【テムジン】、大きな羽扇(うせん)を携えた人は【諸葛孔明(しょかつこうめい)】、最後の若い人は【廏戸豐聰耳(うまやとのとよとみみ)】と名乗っていました」

 

 最後の一人の名に晴明は聞き覚えがあった。

 

厩戸(うまやと)……もしや聖徳太子(しょうとくたいし)か!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[[同年7月24日]]

 

 一方(くだん)の三人の漂流者(ドリフ)たちはというと。

 

「不思議なこともあるものですね。私が考案した戦略と似たものが、どの世界のどの場所にも…………」

「パ~ク~リ~じゃ~!またパクリ野郎が出て来おったあああぁぁぁ!」

「ちったぁ落ち着けよこのボケ野郎が!」

 

 諸葛亮(しょかつりょう)は【ハンニバル(Hannibal)バルカ(Barca)】から博防坡の戦い*1で使った戦略が、ハンニバル(みずか)らが指揮を取ったトラシメヌス湖畔の戦い*2においてローマ軍を撃破した戦略に類似していることについて言いがかりを付けられ、それを【スキピオ(Scipio)アフリカヌス(Africanus)】が何とか抑えつけていた。

 

「これは……火薬を使う武器か?」

「ああ。銃って言って、引き金を引けばどこからでも敵を殺せる代物だ」

「ふむ。華人が使う火槍(かそう)よりも精度と威力があるのが見るだけで分かるな」

 

 テムジンはワイルドバンチのメンバー、【サンダンス(Sundance)キッド(Kid)】と【ブッチ(Butch)キャシディ(Cassidy)】の二人が公爵の館に持ち込んでいる銃器に興味津々であった。

 

 そして、厩戸(うまやと)は。

 

(なんだ、この不快な“音”は……遥か西に“悪意と殺意と怨恨の(かたまり)”が一ヶ所に集まって暴れているかのような……………)

 

 世界を揺るがす大乱の(きざ)しにいち早く気付いていた。

*1
西暦203年、現在の河南省南陽市で行われた劉備軍と曹操指揮下夏侯惇軍との戦闘

*2
紀元前217年、トラシメヌス湖畔で行われたカルタゴ軍とローマ軍との戦闘




テムジン(チンギス・ハーン)\西暦1162年?-1227年?
統一モンゴル族長、モンゴル帝国初代皇帝、元国太祖。
実在が疑われ、源義経と同一人物だと噂された時期があるため漂流物(ドリフ)として登場させた。
史実では興慶攻略における和平の直前に陣中で逝去したとされているが、今作では意識不明の重体に陥った際に紫の元に飛ばされ、そのまま漂流者(ドリフターズ)となった。

諸葛孔明(諸葛亮)\西暦181年?-西暦234年?
劉玄徳軍参謀、蜀漢国丞相。
実在が疑われるため漂流物(ドリフ)として登場させた。
史実では五丈原の戦いの末期、陣中にありながら政務も平行して続けたことによる過労によって病死したとされているが、今作では蜀漢が公式に喪を発した直後に紫のいる通路に投げ出され、そのまま漂流者(ドリフ)となる。

聖徳太子(廏戸豊聡耳命)\西暦574年?-622年?
橘豊日天皇第二皇子、大和朝廷摂政。
実在が疑われるため漂流物(ドリフ)として登場させた。
伝承では病死とされているが、今作では病床に伏せていた所を紫に呼び出され、そのまま漂流者(ドリフ)となった。
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