Errors:World Connected   作:御代川辰

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No.00-3 白日(はくじつ)の昼の(まばゆ)しこと

《アマナス南西 メルロマルク(Merlomalk)藩邦 ルロロナ(Rulolona)

[[統一暦302年 7月32日]]

 

『ここに聖戦の開戦を宣言する!我らは帝国始まって以来の大業(たいぎょう)を成す足掛かりとしてまず全土の精兵(せいへい)聖帝都(アマデウス・エメ)に集結させ、三月(みつき)の時をかけて更なる強兵(きょうへい)へと生まれ変わらせる!その間の四方の諸蛮族平定は教会聖官軍(エクレイス・プレガーヌス)に、国内の劣等亜人種(ロウ・デミス)の粛清・殲滅は諸国諸侯の兵に一任する!同胞よ…………』

 

 神聖皇帝の玉音演説が一分ほど経過し、特に前触れもなく無線機(ラジオ)の電源が落とされた。

 

「全く、大義名文もなく何が聖戦だよ」

 

 ラジオの電源を切った張本人である定食屋の店主に、かなりの都会から来たと思われる若い冒険者がぼやく。

 

「その通りさ。ここ(メルロマルク)の教会は聖戦に参加させるためとか抜かしてまた勇者召喚を企ててやがる」

 

 店主はかなりイラついた様子で冒険者に答え、盛りけられた料理が溢れるほどの勢いで皿をテーブルに叩きつけた。冒険者も勢いよく酒を煽り、舌打ちをする。

 

「チッ。いい御身分だよなあ教会の連中は。自分は関係ねえとか抜かすくせに他人(ひと)様の迷惑も省みずに好き勝手ばかりしやがる」

 

 言い切ったところで定食屋の戸口が開かれ、備え付けのベルが鳴った。

 

「ようおっちゃん、いつものあるか?」

 

 そう言って店内に入って来るのは、宝玉が嵌め込まれた小さな盾を背負った癖毛の目立つ若い男。店主を“おっちゃん”呼びすることから常連客であることが分かる。

 

「おお尚坊(なおぼう)じゃないか。ついさっき開戦宣言があったぞ」

 

 店主は男の声が聞こえるが否や手際よく野菜と肉を刻みはじめ、当たり前のように世間話を振った。

 

「また?嫌だねぇ。戦争はフィクションだけでやって欲しいよ」

 

 顔を見た冒険者は思わず目を開き、店主と話す男を指差す。

 

「まさか、あんたが岩谷(いわや)尚文(なおふみ)かっ!?」

 

 指を差された男、【岩谷(いわたに)尚文(なおふみ)】は冒険者にこのような知り合いなど居ただろうかと首を傾げながら答えた。

 

「誰だお前?何で俺のこと知ってんの?(て言うか漢字読み間違えてるし…………)」

「知ってるも何もあんたを捜せって頼まれてここに来たんだよ!」

 

 冒険者は興奮しきっているのかかなり乱暴に手元の鞄を開いて依頼状を尚文(なおふみ)に見せる。

 

「ほらこれだ!依頼者の名前も書いてある!」

 

 保管方法が悪かったのかかなりシワが寄っている紙を受け取ると、その紙には確かに複数の言語で依頼文と自分の人相描きが書いてあった。

 しかし尚文が特に驚いたのは、

 

安倍(あべ)の…………晴明(せいめい)…………!?」

 

 依頼人の名前が、実在すら疑われる日本史上の大人物の物であったことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖帝都(アマデウス・エメ) オードミグス(Audmiegs)地区 教会聖官軍(エクレイス・プレガーヌス)総本部》

[[同年同日]]

 

 〈教会聖官軍(Eccleiss Pregurnus)〉はアマナスにおける宗教組織が寄り集まって作られた思想協同体、通称“教会(Eccleist)”が抱える巨大な私兵集団*1である。

 そしてその聖官軍の総司令部はオードミグス地区に設置されている。

 

十月機関(オクト)の代表者はまだ現れんのか!」

 

 総司令部の会議室。聖官軍の幕僚もとい司教を兼ねる将軍たち数名が集合している中、牛のように(ふと)りきった司教将軍がイライラした様子で貧乏揺すりをしながら大声で叫ぶ。

 

「組織主宰のハルアキ(晴明)殿は今カルネアデスの“北壁”に向かう準備をしていると…………」

「たわけ!ここに来るまでに散々(さんざん)聞いたわ!」

 

 その将は晴明(せいめい)の現状を説明しようとする長髪の若い司教将を怒鳴りつけて黙らせ、テーブルの上に置かれた紙を一瞥すると更に不機嫌な表情になった。

 

「それにしてもメルロマルクとハイリヒのバカどもは何をしておるか!開戦まで三ヶ月とわずかしかないと言うのに人質代わりの異界亜人種(エネ・デミス)すら未だ用意できておらんとは!」

 

 と、デブ司教将は溢し、

 

「三勇教もエヒト教も堕ちたものですな。やはり漂流物(ドリフターズ)を組織に取り込んだのがいけなかった。とりわけ非白色人種(ニオス・コーカソイド)……じゃなかった有色亜人種(セミ・デミス)どもは信用も信頼もできかねる」

 

 丸メガネの司教将はカイゼル髭を指で整えながらぼやいた。

 

「ともかく、教皇聖下は自ら十月機関(オクト)の代表者を聖官軍総本部(ここ)に通すことをお許しになられた。ここに来るまで待とう」

 

 眼帯代わりの包帯を着けた司教将が紅茶を飲みながら呟いたその時、扉をノックする音が会議室に響く。

 

「言ったそばからとは…………」

 

 蝶番が(きし)む音とともに扉が開き、白一色の制服に身を包む女性機関員が入室した。その場の幕僚たちは皆入り口の女を注視し、場の気配は一気に張り詰めたものに変化する。

 

(この女、手強いな……)

「十月機関総帥安倍晴明(あべのはるあきら)様より命を受け参りました、セト(Seth)と申します」

 

 機関員セトは短く自己紹介を終えた。

 

「お前たちの都合も分かるがこちらにも時間がないのだ!さっさと要件を話さんか!」

 

 自分たちへの敬意の欠片もないセトの態度が気に入らなかったのかデブ司教将がまたも突っかかるが、当の彼女は然も関係ないと言う風な態度で報告を始めた。

 

「現状、カルネアデス藩国の北方から怪異の群れが近づいて来ております」

 

 会議室にどよめきが広がる。セトはそれを気にせずに説明を続ける。

 

「数にして一個軍団。近日中に晴明(はるあきら)様は()()()()()()()漂流者(ドリフ)(ともな)って“北壁”に向かう予定であることは承知しておられるはずです」

 

 淡々と説明するセトに、カイゼル髭の司教将が疑問を投げ掛けた。

 

「新たな漂流者(ドリフターズ)だと?最近流れ着いたとはどういうことかね?」

「今月の24日、三人の漂流者(ドリフターズ)をカルネアデスのツァダンカで発見、同日に保護しました」

 

 重大事項を声色(こわいろ)を変えることなく返答するが、デブ司教将はなおも詰め寄ろうとする。

 

「ふんっ!有色亜人種(セミ・デミス)などを当てにしてどうする……」

「失礼致します!緊急でございます!」

 

 デブが言い終わる前に大声が響き、声の主である一人の神官が扉を壊すほどの勢いで走り来んで来た。この会議室に到着するまで相当な距離を全力で移動していたらしく、息は()()えで脚も震えきっていた。

 

「何事だ!属領で反乱でも起こったのか!」

 

 包帯の司教将は神官に問いただす。

 

「い、いえ!突然ファルマート藩邦の皇帝【モルト(Mort)ソル(Sol)アウグスタス(Augustas)】陛下と皇太子【ゾルザル(Zolzal)エル(El)カエサル(Caesar)】殿下が聖帝都(ここ)御参勤(おみえ)になられました!」

「な、何だと!?(よりにもよってあの大馬鹿者どもがっ…………!)」

(あの馬鹿父子(バカおやこ)戦争前(こんなとき)に何を考えてるの!?)

*1
総兵力は七個軍集団=約70万人で、帝国軍の総兵力の四分の一に匹敵する。

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