Errors:World Connected   作:御代川辰

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No.01-1 漂流者(ドリフターズ)

《セレステラ大陸西方 アーヴェイト藩邦 カフドゥ(Kphdu)ラッサーバ(Lctsurb)山 毛獸人族(Therianthrope)の隠れ里》

[[統一暦302年 8月9日]]

 

 大陸の西側を縦断するように盛り上がったアクスト(Haigste)山脈を構成する台地状の山、カフドゥラー山の奥地にある毛獸人(セリアンスロープ)の集落。

 

「二人してすげぇ食いっぷりじゃねぇか!気に入ったぜ!」

 

 集落にある建物の一つで、何枚もの皿に盛り付けられた料理を凄まじい勢いで掻き込む数人の男女がいる。その中の一人がナイフとフォークを食卓(テーブル)に置いた。

 

「《Danke, Dass Sie uns nicht nur aus diner(行き倒れで動けなくなっていたところを) Sackgasse gerettet haben, sondern(救けて頂いただけでなく) uns auch eine Mahlzeit(お食事まで振る舞ってくださり) serviert haben(ありがとうございます)!》」

 

 長々と謝意を述べた後、再び大量の料理を口に運びだす少年。名を【カスパー(Kaspar)ハウザー(Hauser)】。

 

むぃいかっほむな(無理に掻っ込むな)のおにつばふお(喉に詰まるぞ)!」

 

 大量のパンを頬張りながら荒い口調でカスパーに怒鳴る男は【ウィリアム(William)テル(Tell)】。

 

貴方(あなた)が言えたことですか行儀の悪い!」

 

 大量のパンと共に麦酒(ウイスキー)を腹に注ぎ込むウィリアムに対し、十月機関員の女性が軽快な突っ込みを入れる。

 

「まあまあ!二人とも飢えてんだから大目に見てやってくれよ【ミヤズ(宮簀)】のお嬢さん!」

 

 が、犬の獣人が笑いながら宮簀比売(みやずひめ)の頭をひっ(ぱた)き、二人の咎め立てを妨げた。

 

(もうイヤ……死ぬかも……)

 

 呆れに呆れた宮簀(みやず)はおもむろに立ち上がって家を出ると、とぼとぼと集落の入り口まで移動し、

 

妃妾(あね)さま方あああ!(たける)様あああ!愛しておりまあああす!」

 

 と、大声で叫んだ。

 その様子を老いた羊の獣人と人馬(Centaurus)が見ていたが。

 

漂流物(ドリフ)のお姫さんは何をしとるんじゃ?」

「さあ?」

 

 

 

《セレステラ大陸南端部 ロウリア(Rowlia)藩国 都ジン・ハーク(Jinc Hoarqie) カレット(Karrecto)監獄》

[[同年8月14日]]

 

 ロウリア藩国の都にして最大の都市、ジン・ハーク。人口約50万のこの都市の郊外には、かつてこの地がロデニウス(Rodeanosce)と呼ばれていた名残として亜人(デミ)と呼ばれる人種を幽閉する大監獄がある。

 この監獄は実に12平方里*1に渡る広大な敷地を有し、穀物を栽培するための畑、兵器を建造するための工場、軍用生物(生体兵器)を養育するための牧場・訓練場までが(しつらえ)えられた非常に規模が大きなものである。

 そして、その監獄を視察する男が二人。

 

国王(Raix)陛下、摂政様。予定されていた投石機(Catapult)攻城塔(Siege Tower)の量産体制は整いました」

 

 将校の一人がその二人に報告する。摂政と呼ばれた髭面にローブを纏う男は腰の剣の位置を整えて立ち上がる。

 

「いくら穢畜亜人種(デリ・デミス)と言っても数は無限ではない。無駄な死人を増やしてくれるなよ?生産ノルマをきちんと管理しておかなければ過労や事故で労働力が減るからな」

 

 蛇の目のような鋭い眼光を警備兵に向け、(こた)えを促す。

 

「ご安心ください。工場内には工藝妖精(Dwarf)錬鍛妖精(Leprechaun)単目巨人(Cyclops)小茶妖精(Brawny)を1万人程度収容しておりますので、定時交代制を取れば今後は一日1000台規模のペースで生産できます」

 

 報告を聞いた王と呼ばれた青年は腰の鞄からきれいに丸められた羊皮紙…………三ヶ月後の聖戦に備える予備役兵徴用(軍備拡張)計画書*2を取り出し、将校らに渡す。しかし自信のある顔の摂政とは違い、表情は優れない。

 

「予備役の兵らはまだ待機させていてもよかったはずですが…………」

「そうもいかないんだ。オルテからまた増援要請を出されている」

 

 王は力無く言い放つ。

 

「しかし先月の東洋派兵で動員した騎竜母艦(Dragoon Career)だけでもすでに5隻、竜騎兵(Wyvern Soldier)も200人近いですよ?充分すぎると思いますが」

 

答える将校に、ロウリア王は答えた

 

オーゼ(Ouse)半島がラユース(Rajuse)国に宣戦布告してしまった…………」

 

 

 

《セレステラ大陸極東 オルテ(Orte)藩邦 都ヴェルリナ(Verlina)郊外 ジュクトー(Jukkto)監獄》

[[同年8月15日]]

 

 オルテ藩邦最大の都市ヴェルリナの西側、西門から速馬を使って四半日程度かかる野菜畑が広がる郊外に、その砦はある。

 ここジュクトー監獄は統一暦以前、世襲王政時代の末期の頃に建設され、国父()()による禅譲帝政が完成した(のち)に凶悪犯罪者を幽閉する大規模な牢獄として改築されたものが現在でも運用されているのだ。

 その大監獄の入口に、女性的で派手な装飾が施された馬車が一輛停められている。

 

「ごめんくださいなあぁ~!」

 

 監獄全体に響かんばかりの威勢のいい声が、顔に女化粧を施した男から放たれる。

 声を聞いた入り口を警備する番兵の一人が慌てて男に走り寄った。

 

「さっ……【サンジェルミ(Saint Germain)】伯!」

 

 自らの名を呼ばれた男、サンジェルマンは勢い良く右手を掲げて敬礼のようなポーズを取る。

 

「この(たび)はどういったご用件で……?」

 

 サンジェルマンの態度を見た番兵は、思わず萎縮しながら彼に問い質した。

 

「所長のクロウリー(Crowley)さんいらっしゃる?面会の約束してたんだけどさぁ」

 

 悪巧みをしている、という態度を全く隠さず答える。番兵は不気味にさえ感じる表情(かお)を注視してしまい、反射的に応答した。

 

「はっ、はっ……はい!()ぐにお呼び致しますので、しばしのお時間を!」

 

 

 

 

 

 

「ごめんあっさっせー」

「サンジェルマン伯爵か。久しいな」

 

気さくに話しかけるサンジェルマンに応答する男、十月機関(オクトシステム)幹部【アレイスター(Aleister)クロウリー(Crowley)】。暗号名(コードネーム)ロト(Lotto)

 

「いきなりで悪いけど最近の面白いニュースある?」

 

アレイスターの様子を見て何かを察したサンジェルマンは、窓の外に大量に広がる窓のない牢獄塔を眺めながら問いかける。

 

「長いことオーゼ半島を支援しながらグ=ビンネンと戦ってたんだが、オーゼ諸国のバカ国王どもが日辰(にっしん)に戦争吹っ掛けていよいよ泥沼臭(やば)くなってな」

 

ぼやきながら忌々しげに投げ渡すのは、オルテ国内における極一部の人物、つまり十月機関(オクト)に所属する漂流物(ドリフターズ)を対象に()()()()が発行している新聞。新聞の第一面には[オーゼ二国、西海道北部《十葉坂濱(すはつざかのはま)》に侵攻。]とある。

 

「これを受けてやっと予備役兵の徴兵法案が可決されたんだ*3

「それは結構。あんた自身の気分はどうなのよ?」

「いつもと同じだ。まだ地獄にいるような気分さ」

 

嘘偽りなく答えるアレイスターの顔が一瞬だけ物悲(ものがな)しげな表情(かお)になったのを、サンジェルミは見逃さない。

 

「この国で人間(Human)を称する連中は、俺が地獄で見てきた悪魔とか、光明結社(イルミナティ)のクズ共と全く同じだ」

 

と、力無く、静かに呟く。

 

「そうねぇ、行き過ぎた選民思想教育の弊害とでも言うべきかしら」

 

心中を察したサンジェルマンは静かに答えた。

*1
1里=約3.901km

*2
ロウリア藩国正規軍の総兵力は一個軍(約2万人)。予備役兵の徴兵で一個軍集団(約10万人)に増員予定。

*3
オルテ藩邦正規軍の総兵力は約3万人(一個軍+二個軍団)。予備役兵の徴兵で二個軍集団+二個軍(約24万人)増員の予定。




オーゼ半島(Ouse)
セレステラ大陸極東、オルテの東側に存在する半島。
面積約74万km²、総人口約3519万人。
北部の壌傀(じょうかい)、南部の桓檀(かんだん)の二つの王朝からなる。
どちらも廃棄物(エンズ)が建国に関わっているため、国民は異常と言えるほどに苦辛な生活を強いられている。

カスパー・ハウザー(Kaspar Hauser)\西暦1812?~1833?
出生不明の孤児。
実在が疑われていることに加えて産みの親が不明なため、漂流者として登場させた。
史実では1833年12月17日に幼くして暗殺されたが、劇中では死亡する直前に紫のいる白い廊下に引きずり込まれ、そのまま漂流者となる。
なお、同時期に漂流者となったウィリアム・テルに保護され、現在は友人以上の関係となっている。

アレイスター・クロウリー(Aleister Crowley)\西暦1875~1947
登山家、オカルティスト、魔術師、著述家、黄金の夜明け団団長。
本人の戸籍・墓・遺体も残っているが超常的な逸話が多数あるため、漂流者として登場させた。
一度地獄に落ちてルシファーの化身であるルチフェロに食われては吐き出されを繰り返す拷問を受けていたが、ルシファーに「面白い世界があるから憂さ晴らしついでに遊んでこい(意訳)」と漂流者として異世界に飛ばされる。
同時期に漂流者となった安倍晴明ら五名と共に十月機関を立ち上げた幹部メンバーの一人。
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