Errors:World Connected   作:御代川辰

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No.01-2 十五夜(フルムーン)

《カルネアデス藩国 国境北端 北壁》

[[統一暦302年 8月8日]]

 

「モーセ、ソロモン(Solomon)アブラハム(Abraham)、ロト、ヤコブ(Jacob)!全員応答しろ!」

 

 また時間を(さかのぼ)り8月8日の夜、大量の本が散乱した小さな暗い部屋の中で、安倍晴明(あべのはるあきら)が青白く輝く六つの水晶に向かって声をかける。

 彼が呼び掛けているのは十月機関の幹部たち、当然ながら彼らの呼び名は全て暗号名(コードネーム)だ。

 

「こちらノアだ、報告がある」

 

 自らの暗号名(コードネーム)を名乗り、幹部たちの応答を待つ。しばらく待つと、五つある水晶玉がきらきらと輝きはじめた。

 

『ソロモンだ。どうした?』

 

 最初に晴明に応答したソロモンと名乗る機関幹部の声は、老年一歩手前の壮年の男の特徴を持っていた。

 

『はいよう!モーセだ!』

 

 次に返答したモーセ、もといミシェルはハイテンションな口調で、何か喜ばしいことがあった後のようだ。

 

『こちらはアブラハム。聞こえている』

 

 ミシェルの後に応答するのは、少年のような高い声調をした人物、アブラハム。

 

『ロト…………とサンジェルマンだ』

 

 暗号名(コードネーム)ロトを名乗るアレイスターは、まだ自身が居る監獄の執務室に居座っているサンジェルマン伯の名を出した。

 

『こちらヤコブ。通信状態良し』

 

 ヤコブの暗号名(コードネーム)を名乗るのは、若々しい張りのある声を持つ女性。最後の女が応答したことで、十月機関の幹部である魔導師たちは全員揃ったことになる。

 確認を終えた晴明は、カフェト(暗号名(コードネーム)ハム)から事前に受け取っていた報告書を片手に、目の前の水晶に向かって話し始める。

 

黒王(こくおう)の軍勢に(くみ)する、新たな廃棄物(エンズ)の詳細がわかった」

 

 晴明の放った一言に幹部一同は一瞬押し黙るが、間髪入れずにソロモンが問う。

 

『何人だ?』

「昨日まで確認できていた廃棄物(エンズ)六人に加え……さらに四人……!」

 

 ただでさえ強大な力を持つ廃棄物(エンズ)に、新たに四人の猛将が加わったという返答に十月機関幹部たちは思わず戦慄する。廃棄物たちは妖術(あやかし)の力や神通力(じんづうりき)を与えられ、人類を、ひいては世界を廃滅するために行動している。

 それらが利害の一致や目的の一致によるものでなくとも、一ヶ所に集まっているという事実があれば早急に対処しなければならない。

 

「一人目は鹿毛の髪を長く伸ばし、鎧、太刀、陣羽織、そして筒状の武器…………おそらく銃だ。ブッチたちの言う“蒸気機関”に近い動力を使っている様だった」

『超小型の蒸気機関か……厄介な相手だな』

 

 アブラハムが呟いた通り、装備一式の情報だけでも、かなり家格の高い武家の生まれであることは容易に想像できる。当然ながらその戦闘能力も常人の比ではないだろう。

 

「二人目は唐人(からびと)だ。特徴は短い髭に結った髪」

 

 と、ここで一度言葉を区切る。

 

「…………それから(りょう)殿が強く反応を示していた」

『その(りょう)って男と関係がある人物である可能性が高いわけか』

 

 ソロモンはどこか感慨深そうに呟く。二人目の廃棄物(エンズ)は、おそらく直接戦闘よりも後方支援、それも大規模な戦略や長期戦の兵站構成に長けた参謀タイプの人間であろう。局地的戦術を実行する現場指揮官よりも重要になる相手だ。

 

「三人目。黒い髭をぼうぼうに生やした西胡人の大男」

『心あたりがあるな。そいつ、かなり有名な海賊だ』

 

 アレイスターは晴明が告げた容姿の特徴から、かつて実在した一人の大海賊を想起する。確認できている漂流者(ドリフターズ)のみでは対処が困難な廃棄物(エンズ)であると察したのだろう。

 

「最後の一人は武士のような風貌の少年だ。服装は洋装で、恐らくモーセたちの言うクリスチャンだろう」

『……厄介な相手ばかりですね』

『北壁の陥落は目に見えてんなー』

 

 ヤコブとミシェルは呟くように吐き捨てた。彼女とミシェルにはある程度未来の出来事を見通す力があるが、やはり結果は芳しくないようだ。しかし、晴明はふっと笑みを浮かべると報告を続ける。

 

「だが朗報もある。先日また三人漂流者(ドリフ)を味方に引き入れることができた」

 

 晴明のからもたらされた希望とも言える言葉に、十月機関の幹部一同は思わず歓喜の声を挙げる。すぐ未来に起こる出来事の結果は変えられないが、それでも味方が増えるのは幸運としか言い表し様がない。

 

「彼らの名は…………」

 

 と、晴明が言いかけたところで場面は変わり、新聞を眺める【(むらさき)】の机の書類には、上から【レオナルド(Leonardo)(da)ヴィンチ(Vinci)】、【アルキメデス(Archimedes)】、そして【ピョートル(Петр) ・“ヴェリーキィ(Великий)”・ロマノヴ(Романов)】の名前が記されている。

 紫は自らが管理する通路に現れた三人の反応を思い出しながら、煙草を燻らせて新聞に描かれた記事を眺めている。一面には[統一帝国、軍備拡張を本格化も東方の脅威に躓く]とあり、統一帝国内の問題が詳細に書き出されていることが見てとれる。

 

「…………」

 

 しばらくすると新聞の記事の内容が[【井尻(いじり)由俊(よしとし)】、凶弾に倒れ散る]という記事に変わり、紫が新聞を折り立たんで机の角に置くと同時に一人の武将が通路に現れた。

 

「三途の川ではない…………古事記(こじき)黄泉津比良坂(よもつひらさか)か!?」

 

 しかし、驚いて辺りを見回す由俊には目もくれず、ただ静かに、そして大きく、

 

「────────次」

 

 と、万年筆を片手に一言呟いた。




井尻又兵衛由俊(いじりまたべえよしとし)
出展:クレヨンしんちゃん アッパレ!戦国大合戦
この作品では“実在した”戦国武将であり、原作で何者かに撃ち殺されたことにより漂流者(ドリフ)として異世界に降り立つ。
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