術師名家の世間知らずなお嬢様が寝取られる話   作:三流木青二斎

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既に完結している作品のリメイク。



第1話

夜の公園に一人すすり泣く少女の姿。

高級な着物を着込む彼女はブランコに乗ってボロボロと涙を零していた。

 

ただ漠然とその場に座り続ける、その光景を傍目から見るのは一人の男だった。

安い染髪剤で染た様な金髪、真夏故かその服装は軽く今にでも床に就く様な寝巻姿。

そして肌には包帯が巻かれている。

その体は傷だらけだった。

少女が何も言わずブランコに座りながら泣いている、傍から見れば不気味な光景だろうが。

 

「何泣いてんだよ」

 

金髪の男はそう言って彼女に近づいた。

遠目から見れば分からなかったが。近くに寄れば中々の美人だ。

着物姿の女性がブランコに乗り涙を流す、横顔は絵にもなる美麗。

女性はブランコを漕ぐ事無く、ただ地面を見ながらブランコに座っていた。

 

「悲しみを、味わって、います」

 

か細く彼の質問に答えるが彼女の答えは状況を見ればすぐにでも分かる事で、男が聞いたのは泣いている理由だった。

 

「……なんで泣いてんだよ」

 

すぐに言い方を変えて聞くと、女は答えた。

 

「私は、一年もせぬ内に」

「殿方の元へ、嫁ぐ事に、なっています」

「家系の為に、自らを犠牲にする」

「それは、良いのです」

 

けれど。

そう前置きを置いて息を吐く様に言葉を続ける。

 

「ですが」

「私は」

「まだ、一度も」

「恋」

「という、ものを」

「した、事が無い、のです」

「それを知らずに」

「誰かの元へ嫁ぐ、事が」

「悔しくて、悲しくて」

「知らぬまま、生涯を終える」

「そう、想うと」

「涙が、出てしまうのです」

 

余程の名家の女性なのだろう。

自由に恋愛をする事も出来ず。

家族の為に自らを売るのだと。

男はその話を聞いて。

 

「うっわ」

「気まず」

 

聞くんじゃ無かったと後悔した。

普通ならば共感する素振りをするだろう。

何か掛ける様な言葉があるだろう。

だが男は聞いて損をしたと言いたげに。

「気まずい」と言ったのだ。

 

「……申し訳、ありません」

 

 女は男に対して謝った。

 気分を害してしまった事に対する謝罪。

 それを聞いた男は良心が痛んだのか。

 

「やめろよ」

「俺が悪いみたいじゃねぇか」

「……その、なんだ」

「愚痴くらいは聞いてやるよ」 

 

男はブランコから離れると。

自販機から適当なジュースを購入し。

それを女に渡した。

 

「ほら」

「ドリンク」

 

彼女に渡した飲み物は。

自販機なら何処にでも目にする炭酸飲料。

それを手にした彼女は少し赤くなった目で不思議そうにドリンクを見詰める。

 

「んっ……ん?」

 

男性は黒の珈琲缶を煽り。

そして彼女が飲み物を飲んでいない事を知ると。

 

「なんだよ」

「炭酸ダメなのか?」

 

男性はそう聞いた。

彼女は赤缶の炭酸飲料を眺めながら。

「いえ……私は」

「こういった、類の飲み物を」

「飲んだ事は、無いので」

 

と衝撃的な発言をする。

それを聞いた男は。

 

「はぁん」

「じゃあ人生初体験ってワケだ」

「飲んでみろよ」

「不味かったら捨てりゃ良いしよ」

 

そう言いながら珈琲を飲む。

男に言われるがままに女はプルタブを開けた。

 

ぷしゅぅと炭酸が抜ける音がする。

しゅわしゅわと缶の中から聞こえる音を聞いて。

薄桜色の唇を、赤缶に付けて一口飲んでいく。

 

「んっ……っ~~~ッ」

 

炭酸の刺激が彼女を襲い。

ケホケホと咳き込んでしまう。

 

「おいおい」

「大丈夫か?」

 

「は、い……」

「大丈、ぶ……ん、んんっ」

 

咳き込みながらもジュースを零す事無く、一気に飲み干す女はその味を舌で味わい。

 

「不思議な、味、です」

 

そして再びドリンクを口にした。

喉を鳴らして、ジュースを流し込んでいくと。

 

「口の中が、しゅわしゅわと、します」

「………けふっ」

「――――っ」

 

ふと油断したのか。 

口から噯が出てしまう、彼女は口元を抑えて、はしたない事をしたと赤面をする。

 

「なんだよ」

「意外と人間臭い顔すんだな」

 

 男はそう言って彼女の失態を笑うと、ジト目で男の顔を見る。

 

「……いけずな、人です」

 

頬を膨らませて女は怒りを表す。

けれどすぐに怒りは静まり、代わりに彼女は笑みを浮かべるのだった。

 

そこから二人は蟠りが消えたのか旧友であるかの様に会話をして、彼女の迎えが来るまで愉しんだ。

暗闇の向こうから。

 

「久遠さま」

「そろそろ、お時間す」

 

女性らしき声色が響いて、彼女は飲み掛けの炭酸飲料を男に渡す。

 

「今日は」

「良き日、でした」

 

「あ?あぁ」

「まあ俺も」

「気分転換にはなった」

 

ブランコを軽く揺らしながら言う、女は男の顔をジィと見つめながら。

 

「あの」

「お名前、は?」

 

そこで彼女は男の名前を伺う。

男は名前を聞かれてふと考える素振りをすると。

 

「八峡だ」

「八峡義弥」

 

自らの本名を口にする。

彼女は反復する様に。

 

「やかい……八峡、さま」

「……はい、覚えました」

「八峡様」

「私の名前は」

「九重花、久遠と、申します」

 

八峡義弥はその名前を聞いて、九重花久遠と一言だけ呟いた。

 

「なあ」

「九重花と久遠」

「どっち呼びが良い?」

 

何方の名前を読んだら良いか、八峡義弥は伺う。

少し悩む素振りをして、彼女は八峡義弥に言う。

 

「でしたら、久遠、と」

「お呼び、下さい」

 

にこやかに笑い、九重花は頭を下げる。

 

「では」

「これで」

 

そう告げると八峡も。

 

「あぁ」

「じゃあな」

 

そう言って、二人は別れる。

彼女は付き人の元に戻り、八峡義弥は暫くブランコに揺られる。

 

八峡義弥は残る彼女のジュース缶を揺らしながら。

星空の見える夜空を眺めた。

 

「……あの」

 

「うぉ」

 

急に声を掛けられて八峡義弥は驚きの声を挙げる。

声のする方に顔を向けると、九重花久遠が其処に居る。

 

「どうした?」

 

彼女は何か言いたそうだった。

だから八峡義弥は彼女に聞いた。

 

彼女は言うべきかどうか困り。

しかし、決意を固めて口を開く。

 

「……八峡さま」

「もし、宜しければ」

 

自らの胸に手を添えて。

八峡義弥に自らの意志を、言葉を伝える。

 

「―――私に」

「恋を―――」

「教えて――くれませんか?」

 

決して聞き間違える事の無い言葉。

それが、二人の始まりであった。

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