術師名家の世間知らずなお嬢様が寝取られる話 作:三流木青二斎
真夜中。
厭穢討伐の為に集う八峡と東院、その後ろには花天と九重花が居た。
「(いや一緒に居て良いって言ったけどよ、危険な場所まで付いてくるか普通)」
八峡義弥は九重花久遠を見る。
彼女は八峡の視線に気が付いて、少し恥ずかしそうに手を振った。
「(ハナイノよォ、お目付け役なんだから普通は止めろよ)」
八峡義弥は花天禱を睨む。
花天禱は八峡の視線に気が付くと舌先を出してあっかんべーをした。
「チッ」
花天の行動にイラつきを覚えた八峡はつい舌打ちを打ってしまう。
「五月蠅いぞ凡人」
隣に立つ狩衣姿の男が言う。
白髪に赤き瞳。時代にそぐわぬまろ眉が特徴的な男。
名を東院《とい》一《ながらく》。
「あ?」
「なんだよ東院ちゃんよ」
「急に突っかかって来やがって」
八峡義弥は目線を下に向けて東院一に対して舐めた態度を取る。
「俺を見下ろすな」
「見上げて欲しいのなら別だがな」
東院が指を一本立てた。
それ以上舐めた口を聞くと身長差が変わる事になるぞ、と警告している。
「んだよ」
「術式で俺の足でも削ろうってか?」
東院一の術式は空間に虚を発生させる。
虚は穴埋めの為に周囲の物質を削り取り最終的に零にする。
それが減滅術式。東院一の持つ術式だった。
「本来ならば」
「この任務は俺とお前だけの筈だ」
「だが何を思ったか」
「あの女らが入って来た」
「一年は最低でも二人一組での任務が鉄則」
「雑魚のお前ならまだしも」
「あの二人は強い」
「俺の取り分が無くなるだろうが」
東院一はある種の戦闘狂であり、自らの術式を試す様に戦う。
攻撃としても防御としても上位に当る彼の術式は如何なる相手の術式を削り取る事で無効化し如何なる相手の防御を無視して削り殺す事が出来る。
無敵の術式と言っても過言ではない。
「心配すんな」
「俺は対象区域前で待ってるからよ」
「少なくとも久遠は」
「俺の傍から離れないから」
「お前の邪魔になる事は無ぇよ」
八峡義弥の言葉に違和感を覚えた東院は。
「久遠?」
「お前、名を呼べる仲なのか?」
そう不思議そうに言った。
八峡義弥の様な一般家系から排出された祓ヰ師が名家中の名家である九重花久遠と関係がある事すら可笑しい事ではあるが。
「なんだよ」
「気になんのか?」
「……フン、興味などない」
「ただ見る目が無いと思っただけだ」
そう憎まれ口を叩いて東院は一人で、討伐区域へと足を踏み込んだ。
「助けて欲しかったら」
「懇切丁寧に頼めよ」
「神が死んでも」
「俺が誰かに助けは乞わない」
そう東院一が捨て台詞を吐くと同時に。
結界師の側へと向かい出す。
厭穢。
人類の敵。
世界の意思によって誕生する人鏖疑似生命体。
自然・動物・はては人間。
意志あるモノの憎悪や憤慨によって厭穢は誕生するのだ。
そして、今回の討伐対象は魚の厭穢だった。
流れる川付近に魚の厭穢がキャンプをする一般人を襲ったらしい。
そして現在は厭穢が持つ特有の能力、幽世が下流付近で展開されていた。
空間の間に作る異空間、それは厭穢の領域であり中に侵入すれば厭穢は手に取る様に分かるのだと言う。
謂わば幽世は。厭穢の胎の中なのだ。
本来幽世と言うものは空間に亀裂が走る様に穴が出来ているワケではない。
結界師と呼ばれる空間能力に優れた術師が。
〈彼の世と此の世を繋ぐ門〉
〈顕世より常世への黄泉路を開き〉
〈稀人を今世に帰し給え〉
この呪文と共に現世と幽世を繋ぐ門を作るのだ。
結界師は討伐内容に幽世があれば必ず共に行動する様になっている。
厭穢にとって優位的な空間。
東院一はそんな危険な場所へと足を踏み入れており。
そして八峡義弥は川の畔で焚火をしていた。
川で適当に捕まえた魚を木で刺して火に当てて焼き魚を作っている。
アウトドアを満喫しつつあった。
「ちょっと八峡」
「あんた何してんすか」
流石の花天もこの能天気な男に苛立ちを隠せないでいる。
「別に良いだろ」
「幽世だから厭穢が来る様子も無し」
「俺が中に入っても」
「アイツの邪魔になるだけだしよ」
「私が言いたいのは」
「なんで寛いでんのかって話すよ」
「仮にも仕事中なんすから」
「ふざけた真似はするんじゃないすよ」
「お、出来た出来た」
「ほら、久遠」
八峡義弥は出来立ての焼き魚をバッグの中に入れていた塩を振り掛けて九重花久遠に渡す。
「美味し、そうで、す」
「いただき、ます」
八峡から焼き魚を受け取った九重花は小さな口を開いて、魚の身を噛んでいく。
「ほろ、ほろ、と」
「身が、崩れ」
「とても、美味し、いです」
そう言って笑みを浮かべる九重花。
花天は八峡義弥の耳を引っ張る。
「やーかーい!」
「久遠様を巻き込むんじゃ無いすよ!」
「(仮にも主なんすから)」
「(変なもん食わせて怒られんの私なんすからねッ)」
「イデデッ! お、おらッ」
八峡義弥は出来立ての焼き魚を。花天に渡すが。
「要らんすよ!」
そうキレられた。
「まあ、花天さん」
「八峡、さまは、自分が、出来る、ことを」
「している、だけ、です」
「めくじらを、たてては、いけ、ません」
優しく嗜める九重花。
花天はそう主に言われて仕方なく矛を収める。
「ったく」
「何考えてんすかこの男は」
そう言う花天を後目に八峡義弥は焼き魚を貪ばる。
来たるもしもに備えての行動だった。