術師名家の世間知らずなお嬢様が寝取られる話   作:三流木青二斎

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第11話

焼き魚を堪能していた八峡義弥であったが。

その表情は時間が経過をすると共に憂い出す。

 

「ヤベェな」

 

東院が幽世に侵入して三十分が経過した。

もしも幽世に侵入する場合三十分以上経過しても誰も出てこなければ。

 

別の祓ヰ師が幽世に突入する事になっている。

東院一の実力ならば幽世も十分もせぬ内に攻略出来るだろうが。

 

これ程時間が経過しているのは八峡義弥も初めてであった。

 

「……なあ花天」

 

「なんすか?」

 

花天も東院が出てこない事に違和感を覚えている様子だ。

 

「ちょっと中、見に行ってくんね?」

 

八峡義弥はそう言った。

八峡義弥の中で、恐らく能力が一番であるのは花天禱だからだ。

下手に能力の低い八峡が様子を見に行っても死ぬ可能性が高いのだが。

 

「は? なんで私が」

 

花天禱には九重花久遠を守る役目がある。

お役目から離れる事は出来ない。

 

「だよな」

「なら……」

 

仕方ないと八峡義弥は覚悟を決めて魚の内臓を取り出す為に使った士柄武物の刃物を振るう。

 

「八峡、さま?」

 

「幽世に入るわ」

「三十分経っても出てこなかったら」

「応援呼んどいてくれ」

 

そう九重花たちに向けて言って八峡義弥は形成された門へと向かい出す。

士柄武物の刃物を握り締めて感覚を確かめる。

確かめたからと言って、八峡義弥が厭穢を倒せる実力があるワケでも無い、例え向かった所で無駄死にしかないだろう。

 

「あ、すんません」

「さっき言った様に」

「三十分経っても来なかったら」

「お願いします」

 

 

幽世の前に立つ結界師に向けて八峡義弥は言う。

白スーツの結界師は焼き魚を食べながら、親指を立てた。

 

「……はぁ」

「(あぁ、クソ怖ェな…けどな)」

「(これが俺の役目だ)」

「(クソみてぇな命の張り所なんだよ)」

 

 

一度、揺らいだ死の恐怖を己の意志と意地によって戒める。

覚悟を再度固めて、八峡義弥が幽世へと侵入する。

その瞬間。

 

「危険、です、八峡、さま」

 

九重花久遠が、八峡義弥を心配していった。

 

「八峡さまが、向かうので、あれば」

「私も、八峡、さまの、お共に……」

 

九重花久遠も共にすると言って来る。

 

「(あー、まあ、言うだろうな)」

 

八峡義弥はそれを見越していた。

だから、予め用意していた言葉を吐く。

 

「心配すんな」

「俺、脚だけは早いから」

「東院の安否が確認出来たら」

「敵と戦闘せず一直線に逃げるからよ」

「人が多いと、逆に死ぬかもしれねぇからさ」

 

そう言って八峡義弥は彼女に此処に居る様に伝えると。

 

「……です、が」

 

それでも、九重花久遠は食い下がろうとする。

そんな彼女に八峡義弥は苦々しい笑みを浮かべると。

 

「帰ってくるからよ」

「待っててくれよ」

 

そう言って。八峡義弥は幽世の前に立つと。

 

「し、──―はッ」

「行くかッ!」

 

そう声を荒げて八峡義弥は、幽世へと入って行く。

 

 

ずずず、と体が門を通る。

数秒程、灰色の光に満ちた経路を落下していく。

次に視界が晴れると、其処は微かな青い光に包まれていた。

 

「お、ぐぉッ」

 

そして八峡義弥は滑って地面に尻を突く。

地面には濁った灰色のの水が流れており、八峡義弥の下半身が水浸しになった。

 

「くそッ」

 

そう言い放ち、舌打ちを加えながら八峡義弥は周囲を見渡す。

其処は透き通る青色の結晶に包まれた洞窟だ。

広場では無く、人が通れる程に細い通路。

それを確認した八峡義弥は思考を巡らせる。

 

「(路って事は)」

「(迷宮型か、面倒臭ェ)」

 

幽世は一つの大広間の様にただ広く途方も無い空間な広場型。

また人間を逃さぬ様に、絶望させる為に入り組んだ迷路の様な迷宮型が存在する。

この空間は、後者の方であるらしい。

 

「(こりゃ探すのも大変だわ)」

「(厭穢に到達する前にこの迷宮で迷ってる)」

「(そんな可能性も出て来るな)」

 

八峡義弥は腰に触れる。

携えた士柄武物があるかどうか確認すると。

 

「(走るか)

「(こういう迷宮型は厭穢の残滓がうろついてる)」

「(一本道で挟まれたら生き残れる自信がねぇ)」

 

厭穢の残滓。

幽世から発生する厭穢の一部である。

能力値は通常の厭穢よりも劣るが数に勝る。

囲まれたら一溜りも無い。

八峡義弥が走り出そうとした。

その最中。

 

「……?」

「なんだこの、音」

 

荒々しい音。

嵐の様に轟々としてそれは、路の奥から聞こえて来る。

淡い青色に発光する壁が迫り来るそれを現した。

 

「ッ」

「(濁流ッ!?)」

 

怒りに触れた龍の如く、濁りのある水が崩壊したダムから噴出する水の様に激しく荒れ狂いながら八峡義弥へと向かって来た。

 

「逃げッ」

「(れるワケねぇだろッこりゃッ!)」

 

一目散で逃げる八峡だがすぐに濁流に飲まれて体が水流と共に流されていく。

 

決して飲み込んではならぬ様。

口を手で抑えて濁水を飲まぬ様に流され続ける。

数十秒、八峡は流され続けて、路から大広間へと流れ出た。

ずさぁ、と広い空間に出た八峡は深く息を吸って、体を起こす。

 

脹脛まで溜まる水と壁中に展開されたライブロック。

空中には宙を泳ぐ魚群その光景は水族館の展示物に近い。

八峡は顔を上げたまま口を開いた。

 

「あ」

 

空中に浮かぶ狩衣の男。

東院一が、其処に居たのだ。

 

「東院ッ」

 

八峡が名を叫ぶと、東院一は青筋を浮かべた状態で。

 

「五月蠅いッ!」

「馴れ馴れしく叫ぶなッ!」

 

そうキレていた。

気性が荒い彼を見るのは初めてで八峡義弥は驚いたが、東院が健在である事にほっと息を付くのだった。

 

 

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