術師名家の世間知らずなお嬢様が寝取られる話   作:三流木青二斎

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第13話

「は、ぁ」

 

九重花久遠はショックを受けていた。

削れた体。八峡義弥の肉体は衰弱している。

あの八峡義弥を此処まで無惨に晒せる存在が居るのか、彼女は木の橋から降りて濁りのある汚れた水に浸かる。

 

「八峡、さま」

 

彼の体を支えて、傷だらけの顔に手を添える。

八峡義弥は何とか意識を保ちながらも。

 

「なんで、来ィ」

「ッた……はッ」

 

この様な危険な場所に何故足を踏み入れたのかを責める。

九重花久遠は八峡義弥に哀しそうな表情を浮かべて。

 

「八峡さま、お許し、下さい」

「例え、命の危機に、瀕する、場所」

「それでも、八峡さまを、一人で、向かわせる、など」

「私には、出来ま、せん」

 

つぅ、と。

彼女の瞳から一筋の涙が零れた。

八峡義弥の傷付く姿を見て痛ましそうに悩ましそうに涙を流していた、その涙が、八峡義弥へと落ちていく。

 

「もっと、早く」

「八峡さまの、言い伝を、破って、いれば」

「この、様な痛ましい、姿を」

「見なくても、良かった、のに」

 

申し訳御座いませんと彼女は八峡義弥に謝り、木の枝が八峡義弥の体を支えていく。

彼女の涙を受けた八峡義弥は。

 

「(…………逢って間もねぇ、だろ)」

「(けど、俺ん為に、涙……流してくれんのか)

 

種を撒く。

地面から木の根が生えると、八峡義弥を橋の上に上げた。

久遠も共に、端の上に上ると。空を舞う厭穢を睨み付ける。

 

「厭穢」

「八峡さまを、傷つ、けたの、ですね」

 

彼女の内心から湧き上がる怒り、その琥珀色の瞳が魚の厭穢を睨む。

 

「八峡ッ」

 

通路の奥からそんな声が聞こえ出して、花天禱が八峡義弥の元へと向かい出す。

 

「花天さん、八峡、さまを」

「外へ、現世へ、移動して、下さい」

 

花天はその命令を二つ返事で聞き入れると。

 

「八峡、行きますよ」

 

花天が八峡義弥の肩を背負い、引き摺る様に広間から出ようとして。

 

「馬ッ、か……ッ」

「守るん、なら」

「、手前の主人だろうが」

 

「バカなのはそっちすよ」

「アンタは何時まで久遠様を下に見てるんすか」

 

引き摺りながら、八峡義弥に向けて暴言を吐く。

 

「んだ、そ、意味、は?」

 

「なんで陰陽師から術式を与えられた」

「祓ヰ師の中で」

「上位に値する九重花家のお嬢様を」

「私一人が護衛してるか」

「分かりますか?」

 

確かに九重花久遠は希少な存在。

その希少さ故に、命や金を求める外化師も居る。

ならもう少し厳重な警備であったも可笑しくない。

だが彼女は、花天禱一人だけしか付いていない。

 

「仮にも九重花家の家督を受け継ぐ人」

「弱いワケ、無いじゃないすか」

 

簡単な話。

九重花久遠は家系の中で一番位が高く。

その術式の性能も、一番に値する。

つまりは、一番強い祓ヰ師なのだ。

 

洞窟の奥を見詰める九重花久遠。

八峡義弥は外へ出ていけたのだろうかと心配してゆっくりと空を見上げ出す。

 

魚の厭穢を視認すると、九重花久遠は怒りに満ちた。

そして、九重花久遠は宙に浮かぶ東院に伺う。

 

「東院、さん」

「情報の、共有、を」

 

彼女が魚の厭穢に対して東院一に聞くが。

 

「俺が得た情報だ」

「教えると思うか?」

 

東院一は東院一として一貫とした態度で喋る。

 

九重花もそれを聞いて静かに頷くと共に。

 

「では、私が」

「あれを、斃しても」

「何も、言いません、か?」

 

獲物を奪われる事を毛嫌いする。

東院一の性格を見抜いてか彼女は東院に確認を取ると。

 

「……」

「好きにしろ」

 

 

どうやら東院一は今回の討伐を傍観する事に決めたらしい。

現状の東院一では、この魚の厭穢を倒す事は出来ない事を悟ったからだ。

 

「では、私が……」

「あれら、を、祓い、ます」

 

九重花は懐から何かを取り出す石ころの様な硬く皺のある物。

それは種だが、ただの種ではない。

 

陰陽五行大系、木統咒術式。

九重花家が神胤による品種改良した術式が刻まれた種。

九重花久遠が種に神胤を流す事で種は急速に成長し、植物や木々に変わる。

 

「始め、ます」

 

臨核より神胤を放出洞孔を通り穴径から神胤が迸る。

掌に握る種に神胤が流れ込み十分に発芽出来る程の神胤を注入すると九重花久遠はそれを投げる。

 

種は濁る水にポトンと音を立てて落ちていく。

数秒の間を持って巨大な木々が生えて来る。

 

「〈天穿《てんせん》・藪龍《やぶりゅう》〉」

 

術式の名を口遊むと鋭い樹木の幹は幾百の針が如く。

空中を泳ぐ魚群を一匹ずつ貫いていく、魚は苦しそうに痙攣すると、渾身の力を振り絞り。

 

ぽつぽつと乳白色の卵を捻り出していく。

地面に落ちていく卵は濁った水へポツン、と音を立てて沈んでいく。

 

そして数秒もせずに薄い白布で覆われた様な柔肌をした小魚が浮かぶ。

すいすいと濁った水を泳ぎ出すと数秒もしない内に成長していき、先程の魚と同じ様な大きさになって空を浮かび出した。

 

「……なる、ほど」

 

 

九重花久遠は即座に厭穢の特有性を理解する。

魚を攻撃すれば、卵を産み落として更に増殖する。

殺せば殺す程に魚が増え出す為に下手に攻撃をしてしまえば危険が及ぶ。

 

「殺しても、卵を、産み」

「卵から、還り、また」

「魚群と、成る」

 

成程と頷いて、納得した。

納得した以上は後は攻略するのみだった。

 

「東院、さん」

「申し、訳ありま、せんが」

「これ、より」

「無差別、攻撃を、行い、ます」

「ご注意、くださ、い」

 

彼女はそう忠告すると同時、新たな種を取り出すのだった。

 

 

 

 

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