術師名家の世間知らずなお嬢様が寝取られる話   作:三流木青二斎

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第15話

気絶から目覚めた八峡。

既に其処は外では無く病室であった。

八峡義弥が気絶して、病院で簡単な治療をした末に八十枉津学園へ移送、本格的な治療を受けていた。

 

体中包帯を巻かれている八峡。

一日安静にするようにと滑栄教師からの判断と診断。

皮膚を剥かれたがそれでも全治一日であるらしい。

洞孔の少ない八峡だからこそ、これ程早く治るのだと言う。

 

他の人間であれば洞孔を誤って直さぬように細心の注意をして手術をするのだと。

つまりは弱者であるからこそ救われる命があると言う事らしい。

 

「……うっめ」

 

見舞いのバナナを貪る八峡。

彼の容態を見に来たのは彼の隣の部屋に住む永犬丸統志郎。

そして友人である猿鳴形と遠賀秀翼たちだった。

 

「無事でなによりだよ」

 

永犬丸統志郎は半裸の状態で言う。

何故半裸なのか? それは彼が露出狂だからである。

祓ヰ師には必ずと言って良い程に精神的な異常性を抱えている事がある。

永犬丸統志郎にとっては、肌を露出させることが異常性であった。

八峡義弥は彼の趣味に対して何も言う事無く。

 

「無事に見えるかこれ?」

 

そう言った。

全身は包帯だらけで特に左腕はまだ皮膚が再生していない。

左腕は洞孔が通っている為に薬を塗って自然治癒に任せる様子だ。

 

「う~ん、芳醇、何とも甘露(スウィーティ)な味」

 

もぐもぐとバナナを貪る遠賀秀翼。

永犬丸統志郎が持ってきてくれた見舞い品を我が物顔で貪っている。

 

「怪我人のだぞそれ」

 

そう八峡義弥はツッコミを入れた。

そして暫く会話をする四人、時間が来たのか永犬丸統志郎が立ち上がる。

 

「では、そろそろお暇しよう」

 

「じゃあな、やかい」

 

「またバナナを食いに来る」

 

「そん時にゃ俺は居ねぇよ」

 

言いながらバナナの束を遠賀に投げた。

騒がしい見舞い人が居なくなり静寂が病室に流れていた。

ベッドに横たわり八峡義弥は昨夜の事を考える。

 

「(……再三思うがやっぱ弱ェわ、俺)」

 

自らの力を嘆く。

弱ければ誰かの為の犠牲にもなれないと、今回の討伐で思い知らされた。

 

「(贄波先生んとこ真面目にやるか?)」

「(……いや、無理だな、あの人の訓練じゃなくて憂さ晴らしだし)」

 

基本的に贄波荒教師は八峡義弥を強くしようとは思っていない。

暇潰し感覚で相手をして、適当に遊ぶだけである。

 

「(まるっきり強くなれる気がしねぇかんな)」

「(でも、そう簡単に強くなれるワケがねぇ)」

「(それは理解してる、強くなる為にゃ努力をする)」

「(その通りだと思う)」

「(けどな、結果の伴わない努力に意味があるか?)」

 

贄波教師のやり方はその実訓練では無く贄波教師による生徒の狩猟、ただの遊びに過ぎない。

その遊びで強くなった者も無論存在する。

だが、意固地にでもならなければ贄波教師と同じ力を手にするのは至難。

何よりも、死なぬとは言え何度も殺される経験をしなければならない。

肉体よりも、精神が参ってしまう。

 

「(それこそ、無駄な努力だっての)」

 

贄波教師との訓練は実用的では無いと八峡義弥は思い、そして「強さ」の議論は振り出しに戻る。

 

「あー……」

「強くなりてぇなぁ……」

 

少なくともあの魚の厭穢と接戦出来るまでにあの死地にて、不要と判断されぬ程に強くなりたいと願いつつあった。

八峡義弥の呟きと同時に、がらりと扉が開かれると。

 

「八峡、さま」

「ご容態は、如何、でしょうか?」

 

フルーツの盛り合わせを持った九重花久遠が訪ねて来た。

 

 

「……」

 

「……」

 

しゃりしゃりと林檎を剥く九重花。

何も一言も交わさずただ林檎を八峡が食べやすい様に切ってくれている。

八峡義弥は何も言わず呆然と時間を浪費する。

 

お見舞いに来てくれた彼女に何か会話でもしようと思うのだが何を話せば良いのか分からない。

彼女の秘めていた実力を認識してから途端に彼女が遠くの存在になったとそう思ってしまうのだ。

 

「(……これが実力の差か)」

「(否が応でも思い知ったわ)」

「(実力も血筋も価値観も住む世界すら俺とは違う)」

「(相容れちゃいけねぇ存在なんだ、俺は)」

「(久遠の事を考えるのなら、あいつの為を思うのなら……)」

 

彼女の顔をマジマジと見つめる。

真剣に林檎を剥く彼女の表情は美しくはあるが、それを見るのも烏滸がましい何かを八峡は感じ取っていた。

 

「(……ここらが、引き際か)」

 

目を瞑り、八峡義弥は自分の矮小さを見つめ直して……。

 

「(なんて考えるかぁッ!)」

「(この俺がッ!!)」

 

先程の深刻な考えをまるでドブに棄てるかの様に開き直る。

 

「(実力? 血筋? 価値観? 知るかそんなもん、住む世界が違う? どうでもいいわそんな事)」

「(久遠が傍に居たいって言ってんだ、ならそれで良いだろォが)」

「(……なんだかんだ俺も久遠と居るのは悪くねぇしな)」

 

八峡義弥は体を起こす。

九重花久遠は急に動く八峡義弥に驚いた。

 

「あ、八峡、さま」

「急に動かれ、ては、お怪我、が」

 

彼女は八峡義弥の体を心配するが。

 

「あ? 平気だこんなん」

「もう左腕以外は治ってる様なもんだ」

「んな事より久遠さ」

 

「あ、はい、八峡、さま」

 

彼女が八峡義弥の顔を見る林檎を剥く手を止めた。

 

「今回の討伐」

「色々と世話んになったわ」

 

彼女が助けに来なければ八峡義弥は今頃魚の厭穢に殺されていた。

 

「いえ、その様な、こと」

「むし、ろ、八峡さまを、早く」

「お力添え、出来ぬ、事が」

「口惜しく、てなりま、せん」

 

八峡義弥の力になれなかった事、八峡義弥を傷つけてしまった事、それに対して悔いて、嘆いていた。

 

「でも生きてる」

「それで十分だ」

「そんでこの恩は」

「俺が力を付けたら返すからよ」

 

それを聞いて九重花は狼狽する。

 

「い、え」

「私は、八峡、さまが居れば」

「それで、十分、で、御座います」

「恩など、思う程の、様な、ものでは……」

 

謙遜し既に充足していると九重花は言うが。

 

「あ? そうか?」

「なら良いけどよ」

「でもさ」

「何かして欲しい事とか」

「困った事があったら言えよ?」

「出来る限りの範囲でなんとかしてやるから」

 

八峡義弥の出来る範疇と言えば精々肉体労働か臓器提供ぐらいしかない。

金も実力も無い八峡義弥に求められるのは精々それくらいだった。

けれど九重花は八峡義弥の提案に少し考える素振りをする。

それを見逃さなかった八峡義弥は。

 

「なんか考えたか?」

「言ってみ?」

 

彼女にそれを聞くと九重花久遠は爪楊枝で切り分けられた林檎を指すと八峡義弥の方へ向けて。

 

「あ、あーん」

 

と恥ずかしそうにそう言った。

八峡義弥は口を開けて彼女の林檎を喰うと、九重花久遠はその咀嚼する様を見て笑みを浮かべた。

 

「ん……んぐ」

「で、やりたい事ってなんだよ」

 

聞くと、再び彼女が林檎を八峡に突き出す。

 

「あーん……」

 

彼女のされるがままに林檎を喰らって再び咀嚼した。

 

「(……あー)」

「(久遠がやりたい事ってこれか)」

 

親鳥が餌をひな鳥に与える様に恋人が求愛行動を見せびらかす様に九重花久遠は、恋愛小説から学んだこの行為を八峡で実践したかったらしい。

 

 

 

 

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