術師名家の世間知らずなお嬢様が寝取られる話   作:三流木青二斎

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第18話

 

「だぁあ!クソがッ!」

 

本来は校舎昇りは十本で終わる筈が八峡義弥と東院一だけは連続して七本昇っていた。

そして最後の一本、八峡義弥は遂に敗北する。

 

「フッ、フッ……」

「どうだ、凡人めがっ」

 

息を切らしながら東院が屋上に寝転ぶ。

八峡義弥は既に限界を迎えて、階段辺りで寝込んでいた。

 

「ハァ……ハァ……」

「いや……本数で言ったら」

「俺の勝ちだし……」

 

負けず嫌いな二人は何方が上かを決めたがっていた。

すっかりお疲れ気分な八峡義弥は、階段を這い蹲りながら屋上を目指す。

 

「意地張るのも良いけど」

「水分補給してからしてくれ」

 

そう言って思川が八峡義弥にドリンクを渡した。

それを受け取った八峡義弥は、寝転がったままドリンクを飲んだ。

 

「が、はっ……ひぃッ」

「あー、生き返らぁ……」

 

寝転がったまま休憩する八峡義弥。

 

「ねー八峡」

「そろそろ場所移るけどさ」

 

葦北静月がバケツを持ってそう言った。

八峡義弥は手をヒラヒラとして合図する。

自分は此処で休むから気にせず行ってこい、そんな合図だった。

 

八峡義弥は疲れ切った表情を浮かべて。

数十分、太陽に焦がされながら体力を回復する。

そして、漸く動けるなった頃には、減らず口も回復しつつあった。

 

「クッソあの野郎」

「無駄に突っかかって来やがって」

「しかも俺に勝ったの一回だけなのによ」

「なーんか勝ち誇りやがって、納得いかねーっての」

 

ブツブツと文句を言いながら。

八峡義弥は教室に戻ると昼飯を食べる為にバッグを漁る。

 

今日の食事は菓子パンだった。

ぼちぼち、菓子パンを食べようとすると。

教室が開き丁度良く、九重花久遠が訪れる。

八峡義弥の姿を確認して喜びの表情を浮かべる。

 

「八峡、さま」

 

彼女は八峡義弥に近づくと八峡はそれに気が付いて。

 

「おぅ、久遠」

 

言いながら菓子パンを食べていた。

九重花久遠は八峡義弥がもう昼食を食べている。

それを知ると、その手に持つ弁当を少し眺めて。

それを自らの背に隠すのだった。

 

「八峡、さま」

「少し、お痩せ、に」

「なられま、した、か?」

 

九重花はそう伺う、八峡義弥は首を縦に振った。

 

「おー、訓練でよ」

「死ぬ気で走ったから」

「大分体が絞られてるわ」

 

菓子パンを貪り一気に食して手を合わせるが。

 

「……あー」

「もう一個買っときゃ良かったわ」

「動き過ぎてよ」

「やっぱ足んねえや」

 

そう笑う八峡義弥にぱっと表情を明るくして、九重花はその手に持つ弁当箱を八峡の前に出す。

 

「でしたら、これ、を」

「八峡、さまの、ために」

「お弁当を、拵えま、した」

 

そう言って八峡に差し出す弁当。

それを受け取って八峡義弥は。

 

「マジ?あんがとな」

 

そう感謝するのだった。

 

「おぉ美味そうじゃん」

「何、手作り?」

 

彼女から弁当を受け取った八峡義弥は弁当の蓋を開けて中身を確認する。

 

「おぉ、なんか」

「家庭的だな」

「(家庭なんて知らねぇけど)」

 

八峡義弥の過去は悲惨だった。

どれくらい悲惨であるかと言えば家族が家族として機能していないくらいそれくらいに悲惨であった。

 

「いいのか食って?」

 

豪勢な弁当箱、本当に食べて良いのか再度確認する。

 

「はい、これ、は」

「八峡、さまの、為、に」

「お作り、しました、ので」

「食べ、て下され、るのなら」

「それは、至上の、喜、びです」

 

其処まで言われて八峡義弥が料理を食べない理由はない。

手を合わせていただきますと言うと、八峡義弥は箸を動かした。

 

「あー……旨ェな」

「なんつーの?」

「俺の舌に良く馴染む」

「そんで体に染み込む」

「そんな感じだわな」

 

食べながら八峡義弥が料理の感想を言う。

九重花久遠は八峡義弥の隣に座り、マジマジと八峡義弥の顔を眺めていた。

 

「…………あ」

「俺からあげ好きなんだよ」

「何か弁当にこれ入ってると」

「テンション上がるよな」

 

「…………」

 

九重花久遠は期待を胸に抱きながら八峡義弥の顔を眺め続ける。

 

「(…………)」

「(えぇ……なんで顔見てんの?)」

「(何か付いてんの?)」

 

今はまだついていない。

だが九重花久遠は、八峡の頬に米粒が付くのを待っている。

 

「(愛読す、る、小説に、は)」

「(恋、人の頬に、付着した米、を取って、あげ、て、食べる)」

「(その、様な求愛、行動が、あり、ます)」

「(私も、ぜひ、それを、体験、してみたいで、す)」

 

モグモグと八峡義弥が弁当を食べるが。

特に頬に弁当を付ける事無く普通に食事が終了する。

 

「……あ、ご馳走様、な?」

「(なんでそんな落ち込んでんだ?)」

 

「(……米粒を、取る事が出来、ません、でした)」

 

ずぅんと落ち込む九重花久遠。

 

「(あー、もしかして)」

「(恋人らしい事がしたかったとかか?)」

「(弁当でのイベントと言えば食べさせ合いとか……それは前にやったから頬に付いたお弁当を取りたかったとかそんな所か……)」

「(それしようにも。今やりゃあわざとらし過ぎるし何よりも弁当が空だしな)」

「(なら、変わりになる様な事させてやるか)」

 

八峡義弥は立ち上がり、適当に椅子を並べていく。

 

「?八峡、さま」

 

「悪いけどよ」

「枕代わりになってくんね?」

 

八峡義弥の言葉の意図が分からず九重花久遠は首を傾げる。

椅子で簡易的な眠る場所を作ると八峡は椅子のベッドに横になる。

 

すると。

彼女が座る場所が彼の頭が乗っかり九重花久遠が膝枕をしている状態にさせる。

 

「(八峡、さまが、私の、体に)」

「(そんな、少し、大胆、過ぎ、ます)」

「(恥ずか、しく、けれど、少し、嬉しく、感じ、ます)」

 

「大丈夫か?」

 

八峡義弥が心配する様な声を出すと。

 

「いえ、少し」

「狼狽しまし、たが」

「今は、愛おしく、見えます」

 

まるで子供をあやす様に九重花久遠は太腿に眠る八峡義弥に種で生成した木製扇子で煽ぐ。

心地良い風が送られる八峡義弥は安らかな表情を浮かべる。

 

「(…………あー)」

「(少し、休む、だけだったけど……)」

「(眠たくなって、来た……ゎ……)」

 

彼女の風を感じながら。

八峡義弥は眠りに落ちるのだった。

 

 

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