術師名家の世間知らずなお嬢様が寝取られる話   作:三流木青二斎

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第20話

 

早々と速足で駆ける。

そして彼女の姿が現れると同時九重花久遠を抱き締める男に牙を剥いた。

 

「何してんすか」

 

花天が言うと同時に、掌で八峡義弥の頭を叩く。

 

「いてっ」

「なんだよハナイノ」

 

八峡義弥が頭を抑えながら言う。

 

「なんだよ」

「じゃないんす、よっ!」

 

今度は花天禱の握り拳が八峡義弥の頬を打ち抜く。

 

「ぐぼぁッ!」

 

そのまま地面に伏せる八峡。

綺麗に決まった拳が、八峡義弥の意識を刈り取る。

 

「あ、八峡、さまっ」

 

彼女が倒れる八峡義弥に近づこうとすると。

 

「久遠様」

 

花天禱がその行動を制止させる為に九重花久遠を抱き締める。

そして耳元で。

 

「許婚が居るのに」

「他の男に現を抜かしちゃダメすよ」

「……相手は大物なんすから」

「八峡なんて簡単に消されちまいます」

「今ならまだフォローが効きますんで」

「今日のところは許婚さんと」

「一緒に帰って下さい」

 

そこでようやく、九重花久遠は夢見心地から目覚め現実へと引き戻される。

 

「……そう、です、ね」

「花天、さん、後の事、は」

 

八峡義弥を見て、花天禱は頷く。

 

「分かってますよ」

「あのバカは」

「私が何とかしますんで」

 

花天禱は八峡義弥の元へ向かい。

九重花久遠は重たい足取りで許婚の元へと向かう。

八峡と距離が離れる度に彼女は後ろを振り向いて。

 

八峡義弥の様子を伺う。

それを何度も、何度も行って、校門から出た時。

 

後ろを振り向くと、其処にはもう二人の姿は無かった。

 

「(……八峡、さま)」

 

九重花久遠は八峡義弥を夢想しながら許婚と共に送迎用の車の中へと乗り込む。

 

そして退屈な車内にて。

 

「まったく、なんだ、今の男は」

 

珍しく間人胤護は八峡義弥に苛立ちを覚えていた。

自らの想定していた自体を曲げられ、酷くご立腹であるらしい。

 

「見るからに低学歴、頭が悪そうな男だ」

「久遠、遊ぶのは構わないが、ああいった程度の低い輩とだけは止めて欲しい」

「俺は構わないが、お前の質も落ちてしまうからなぁ」

 

八峡義弥に対する罵倒を行う。

けれど今回は珍しく、九重花久遠は感情的だった。

 

「その、様な、言葉は」

「聞きたく、ありま、せん」

 

間人胤護の会話を一方的に打ち切る。

 

「(申し、訳、ありま、せん)」

「(八峡、さま、傍に、お付きに、なれず……)」

 

心の内で八峡義弥に謝り続ける九重花。

そんな彼女の携帯電話に一通のメールが届く。

 

着信音を聞き、隣の間人を見る。

無論彼は、自分の善い人である自分を好む。

メール一つくらい許さない事はない。

内容を確認するとそれは、やはり、八峡義弥からだった。

 

「(八峡、さま)」

 

そのメールの内容を確認して…九重花久遠は絶句する。

 

『花天から話は聞いたわ』

『お前の許婚、陰陽師の末裔だって?』

『俺が恋人なの知られたら』

『マジでヤベェじゃんかよ』

『あのさ、もう会うの止めようぜ?』

 

ただそれだけ。

それは一方的な恋愛教授の打ち切りを示す内容だ。

彼女はそのメールの内容を首を振って拒む。

 

「(嘘、です……八峡、さまが)」

「(そんな、この様な、メールを……)」

 

微かな絶望を感じるのだった。

 

少し時間が巻き戻る。

 

花天禱は八峡義弥を保健室に運ぶとベッドの上に寝かせ、ズボンの中から携帯電話を取り出す。

そしてメール機能を使い、九重花久遠へとメールを製作する。

 

「会う、の……やめる……わ、と」

 

ぴぴぴ、とメールを打つ花天。

その携帯電話は八峡義弥のもので、送信ボタンを押すと彼女は良し、と頷く。

 

「くっ、痛ェ……」

 

体を起こして八峡義弥は呻く。

頭を抑えて、痛みに耐えつつあった。

 

「八峡」

「返しますよ」

 

頭を抑える八峡義弥に、彼女は八峡義弥の携帯電話を投げ返す。

 

「あ、てめぇ……」

「殴りやがって、いや」

「携帯電話勝手に何使ってんだ」

 

八峡義弥が怒りが籠る声色で花天禱にそう言い放つと。

 

「久遠様と」

「別れのメールを書きやした」

 

淡々と語る花天禱に対して。

 

「……は?」

「何してんだ、テメェ」

 

睨みながら八峡義弥は凄みの効いた表情を浮かべたが、花天禱は眉一つ動かさない。

 

「これ以上、久遠様に近づかない方が良いすよ」

「これは、久遠様の為じゃなくて、あんたの為に言ってるんすから」

 

花天禱は八峡義弥に忠告をする。

 

「なんでだよ」

 

当然ながら八峡義弥はその言葉を訊き返した。

 

「久遠様の許婚は」

「八峡も知ってますよね」

 

九重花久遠の許婚。

間人胤護。

陰陽師の末裔である。

 

「あぁ、それで?」

 

「多分、目ェ付けられましたよ」

 

「はぁん、それで?」

 

八峡義弥は分からない筈が無いだろうに、それでも自分がどうなるかを花天禱に伺うた。

 

 

「死にますよ」

 

「死なねぇよ」

 

そう八峡義弥は突き返す。

何処からその様な自信が溢れるのか。

 

「アイツから離れんのは」

「俺の意志じゃねえし」

「俺の元から離れんのも」

「アイツの意志じゃねぇだろ」

 

九重花久遠は八峡義弥を慕っている。

八峡義弥も九重花久遠の事を悪く無いと思っている。

 

互いに傍に居たいと言う願い、それを目の前の女が邪魔しているのだ。

 

「……ま」

「久遠様が八峡の事」

「大切だからこそ」

「私は久遠様の意志を尊重して」

「あんたに忠告してるだけなんで」

「勝手にすれば良いすよ」

 

忠告はしたが、それ以上は保証は出来ない。

 

「勝手にするっつーの」

 

そう言って八峡義弥が携帯電話を操作しようとして。

花天禱がその携帯電話を奪うとバキリ、と折った。

 

「あぁああ?!俺のケータイィ!!」

 

「あーすんません、後で弁償しますんで」

 

今電話すれば。

九重花久遠が先程のメールは嘘だと分かる。

携帯電話を破壊する事で、九重花久遠の連絡手段を断ったのだ。

 

「あぁあチクショウ!最悪だぁ!!」

 

携帯電話の亡骸を持ちながら八峡義弥は嘆いている。

その様子を後目に呑気な奴だと溜息を吐けて彼女はある情報を彼に伝える。

 

「……八峡がどう動こうが勝手ですが」

「恐らくは、もう分家が動き出しますよ」

「九重花家から分けられた六つの家系」

六弁花(ろくべんか)が」

 

花天禱が更に忠告するが八峡義弥は携帯電話に夢中でそんな話はあまり聞いていなかった。

 

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