術師名家の世間知らずなお嬢様が寝取られる話 作:三流木青二斎
校舎へと入り、三階へと向かって行く。
学園長室に入ると、其処に待ち構えるのは一人の老婆であった。
学園長・命苫姫路。
年齢は不詳ではあるが、年老いている。
桃色の着物を着込み、頭部の団子頭が特徴的な背が曲がっている老婆だった。
「おめでとうよ、八峡義弥」
歯抜けの老婆はそう言って八峡義弥を祝福する。
なんのことだかさっぱり分からない八峡は首を傾げて疑問符を浮かべる事しか出来ない。
「努力が実ったと言うワケさ」
命苫学園長は机の上に置かれた一枚の資料を八峡義弥に渡す。
その内容を見て八峡義弥は文字の羅列を見る。
「評議会直々の依頼?」
評議会。
この咒界にて審議を計る組織だ。
例えばルールを破った祓ヰ師の処分を決めるのが彼ら評議会であるし。
厭穢の任務に難易度を定めたり転生者や救世主の存在を認識し処罰か残留かを決めるのも彼ら。
その評議会から八峡義弥は直属の任務を与えられる。
良く言えば咒界社会的地位の向上が約束される。
悪く言えばその任務を断る事は絶対に出来ない。
「すんません学園長」
「評議会ってのは馬鹿が多いんすか?」
八峡義弥は学園長に向けてそう言った。
当たり前だ、八峡義弥の実力は通常の祓ヰ師以下。
術式も洞孔も拡張されていない一般人より強いだけの雑魚なのだ。
そんな八峡義弥に任務を頼む事などあり得ない事である筈なのに。
「
「で、だからどうしたと言う話さね」
「出された任務を断る事は出来ないよ」
「もう決まっちまったのさ」
「八峡義弥、あんたの討伐任務がね」
八峡義弥は肩を竦める。
「(これ、あれか)」
「(陰陽師が評議会に話して)」
「(俺に任務を渡したってわけか)」
「(つまりは……)」
任務にて八峡義弥が死亡する事が狙い。
陰陽師関係が、早速手を回して来たらしい。
「……まあ良いっすよ」
「断る事、出来ないっすよね」
「取り敢えず」
「これ、何時からっすか?」
八峡義弥はせめて携帯電話を修理する時間くらい欲しいと思っていたが。
「今夜さ」
「つまり今から発つと言う事だよ」
学園長は義務的に説明をして、八峡義弥は準備する暇すらないのかと鼻で笑う。
「せめて準備くらい」
「させてくださいよ」
「外に出れるくらいの時間を」
「駄目だね」
「もう送迎用の車を用意してるよ」
「鬼籠、後は頼むよ」
そう言われて鬼籠深禪は再び八峡義弥を見えない力で引っ張っていく。
「ちょっ!」
「せめてこれ止めて下さいよ!」
そう嘆くが八峡義弥の願いが叶う事は無かった。
「悪ぃな」
「逃げる可能性があるからよ」
鬼籠深禪は煙草をふかしながら言う。
「深禪」
「ここは煙草禁止さね」
命苫姫路学園長がそう言うが鬼籠深禪は見せ付ける様に煙草を吐くと。
「知った事じゃねぇよババア」
そう吐き捨てて、その場から八峡義弥を連れて出て行くのだった。
送迎用の車に乗せられて車が出発する。
「ざけんなコラッ!」
「ッうわ!」
「シートフワフワじゃんッ」
かなりの高級車だ八峡義弥はシートの柔らかさに驚いている。
「騒がしいぞ凡人」
助手席から聞き慣れた声が聞こえ、八峡義弥はその後姿を認識すると。
「あ、お前」
「東院じゃねぇか」
「なんで来てんだよ」
助手席に座る東院一を発見した。
この任務に何故同行しているのか伺う。
「戯け」
「通常一年生は
「その基本も忘れたか凡人」
「え?いやそれは知ってるけどよぉ」
「お前特別仕様だから一人でも大丈夫だろうが」
東院一は強すぎる為に単独行動が認められている。
だが、八峡義弥と同じ任務に就いているのは何故か。
そこで八峡義弥は確信した。
「お前」
「俺を殺す敵なあれかッ!?」
討伐任務。
相手が誰だろうとまだ生き残る可能性はあるが。
東院一が殺害に関与するのならば、まず八峡義弥の命は無いと思って良い。
「……俺の仕事は討伐だ」
「そんな話は受けていない」
東院一は呆れた様に言うが八峡義弥は信用しない。
「そう言って後ろからブスリかっ!?」
「お前そういう性格してそうだもんなっ」
八峡義弥が騒ぎ出した為に、東院一が指を一本立てた。
それだけで八峡義弥は口を閉ざした。
「長旅になる」
「俺は今の内に寝ておく」
「次騒いだら」
「お前を殺す」
微かな殺意を感じ取る八峡義弥。
(殺すんじゃんッ)
(やっぱ殺すんじゃんッ!)
八峡義弥はそう思いながら東院一の言う通りに黙るのだった。
暫く、目を閉ざす東院は数時間前の会話を思い出すのだった。
『評議会は八峡義弥を殺せと言っておる』
命苫姫路学園長は、東院一にその内容を説明する。
『八峡義弥の死亡率を上げる為に』
『東院一、お前が選ばれた』
『友人を殺すのは胸を痛めるだろうが』
『それなりの報酬も用意しておる』
『階級の向上、東院家の援助金』
『そして、本家返り』
『虚空蔵小路家と話を通し』
『お前を虚空蔵小路家に戻す交渉をしてやる』
『悪くはない話だろうよ?』
虚空蔵小路家。
東院家は、その宗家から派生した分家に過ぎない。
『仮にも生徒を守る学園長が』
『生徒を殺す話をするか』
東院は静かにそう言った。
何の感情も込められていない言葉に命苫姫路はにやりと笑みを浮かべる。
『この歳にもなれば』
『何を守るべきかは良く分かる』
『評議会のご機嫌を』
『陰陽師のご機嫌を』
『それらを損ねてしまえば』
『この学園の維持は難しくなろう』
『儂は生徒を一人見捨て』
『この學園を守る』
命苫姫路にとってこの学園が彼女の誇りなのだ。
学園の生徒が決して大切じゃないワケでは無いが。
祓ヰ師としての血筋も経験も無い八峡義弥は彼女にとっても情が薄い存在。
捨て置いても多少の心が痛むだろうが、切り離しても支障は無いと思っている。
『殊勝な心掛けだな』
『お前はどうだ?東院』
『八峡義弥を殺せば』
『お前の守りたいものは保証される』
『お前の望む未来を歩む事が出来る』
『虚空蔵小路家に戻るのが』
『お前の理念なのだろう?』
『さあ、どうする?』
『受けるか?』
命苫学園長は東院一の夢へと攻め込む。
八峡義弥を殺害するだけで虚空蔵小路家に戻れる可能性がある。
東院一は、命苫学園長の話を聞いた上で。
『訂正すべき点がある』
『八峡義弥を友人と思った事は無い』
『任務は受けてやる』
そう、即答するのだった。