術師名家の世間知らずなお嬢様が寝取られる話   作:三流木青二斎

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第25話

八峡義弥が取った行動は心中紛いの飛び降りであった。

花良治伏籠が蛭の厭穢に気を取られている瞬間、相手が予測できない行動を取る事で意表を突いた。

 

「(おちおちっ落ちてッ落ち落ちる落ちる落ちてるよ!)」

「(神胤を循環させなきゃっ)」

 

落下する間。

花良治伏籠は自らの命を守る為に臨核から放出する神胤を洞孔へと巡らせ肉体の強化を図る。

神胤は肉体に展開された洞孔に神胤を高速で循環させる事で攻撃、速度、硬化が上昇する。

花良治伏籠は肉体の強化を行う落下衝撃の準備は完了した所で。

 

八峡義弥は花良治の首を掴んだままに彼の胴体に足を掛けて地面に衝突する寸前に。

 

「しゃッ!」

 

「あがッ!?」

 

花良治伏籠を蹴り真横に飛んだ。

落下威力を軽減させる為に行った行動。

八峡義弥は地面に叩き付けられてそのまま地面に削られる様に転がると。

 

「ガハッ!」

 

その衝撃で肺から息が零れ出す。

一瞬、呼吸が出来なくなるが気張り、立ち上がり、自らの胸を握り拳で叩いて無理矢理活動させる。

 

「はっ、ッ!」

「(し、死ぬかと思ったッ)」

 

随分と無茶をする八峡義弥。

屋上を見上げて、どれ程高い場所から落ちたのか。

それを改めて認識すると。

 

「ぐ、ぅ、う……」

 

か細い呻き声が聞こえる。

八峡義弥は声のする方へと歩き出すと、花良治伏籠が地面に横たわっている。

 

神胤による強化を行ったが運悪く背中を強打したらしい。

臨核は器官だ。

八峡義弥の肺一時的に麻痺した様に強い衝撃を受け流す事が出来なければ臨核は神胤を放出する事が出来ない。

花良治伏籠は。それでも何とか立ち上がろうとするが。

 

「『ぐ、ぅ、う……』か」

「それがアンタの最期の言葉だな」

 

そう言って八峡義弥は立ち上がろうとする花良治の顔面を蹴った。

神胤による防御も出来ない花良治は。

 

その一撃で簡単に気絶した。

そこでようやく。

八峡義弥は花良治伏籠に勝利したのだった。

 

「だぁッか、勝ったッ」

「この、クソ爺がッ」

 

罵倒を重ねて彼は止血の為にベルトを外して腕に巻く。

 

「クッソ、むかつくわ、この爺ッ、おら、尻出せオイッ」

 

寝転び気絶している老人のズボンに手を掛けた時。

月が隠れて辺りが暗くなる。

いや。

 

「あぁ!?……あ」

 

そして八峡義弥は忘れていた。

蛭の厭穢、その存在を。

激しく蠢く蛭の厭穢は獲物である八峡義弥を喰らう為に屋上から落ちて来る。

八峡義弥を簡単に飲み込む事が出来そうな巨体。

 

「やっべ」

「(逃げるの間に合わねぇ)」

 

食われるよりも落下による巨体の押し潰しを連想し、八峡義弥は死を悟るが。

蛭の厭穢が、八峡義弥を潰す事は無かった。

空間に展開された虚が、厭穢を削り取る。

肉の破片も、血の一滴も零す事無く蛭の厭穢を完全消滅させると宙から軽やかに降りて来る一人の姿。

それを見た八峡義弥は。

 

「東院……」

 

その男。

東院一の姿を認識する。

東院一は八峡義弥を見る。

八峡義弥は東院一を睨む。

 

「(あぁクソ)」

「(折角勝ったのによ)」

「(これで終わりかよ……)」

 

八峡義弥は悔しく思う。

東院一に狙われたらもう勝つ見込みは無い。

 

東院一と八峡義弥には圧倒的力の差が存在する。

文字通り、天と地の差が東院一は指を構える。

そして瞳を瞑り。

 

「……任務は終わりだ」

「早く帰る準備を済ませろ」

「凡人めが」

 

そう言って地面に着地すると八峡義弥を無視して校庭に停めた車の元へと向かう。

 

「……は?」

 

拍子抜けした八峡義弥は間の抜けた声を上げた。

 

「何をしている?」

 

東院一はそう言って阿保面をする八峡義弥を見る。

 

「いや、お前」

「あ、そうやって俺を騙して」

「俺を後ろからぶすりって」

 

「……貴様、何度も言わせるな」

「俺は、そんな任務」

「受けてはいない」

 

それだけ残して東院は一足先に車へと戻るのだった。

 

『任務は受けよう』

 

あの時。

東院一は確かに命苫学園長の依頼を受けた。

だが。

 

『但し』

『報酬は要らん』

『それに従い』

『あのバカを殺す気も無い』

 

ただ、東院一が選択したのは八峡義弥に干渉をせず依頼を遂行する事のみ命苫学園長はそれを聞いて。

 

『良いのかい?』

『虚空蔵小路家に』

『戻る可能性があるのだぞ?』

 

再三と東院一に伺うが、好い加減口説く老婆に対してうんざりしていた東院は。

 

『俺を誰だと思っている』

『俺は東院一だ』

評議会(やつら)の傀儡など御免だ』

『そんな事をしなとも』

『俺は俺の実力で』

『虚空蔵小路に並ぶ……いや』

『超えて見せる』

『俺の覇道に、邪道は要らん』

 

決心し、芯の強い回答をする東院に命苫学園長は深く溜息を吐く。

 

『なら、この話は無かった事にする』

『別の人間に頼むとするよ』

 

そして命苫学園長は花良治伏籠を呼んだ。

 

『八峡義弥の命を取る行為』

『邪魔をするんじゃないよ』

 

『誰がするか』

 

『それと、厭穢の討伐もだ、厭穢は討伐する。それはだけは譲らん』

 

東院一は厭穢は祓う事に執着している。

戦い事態を好む彼ではあるが、もっと他に事情があった。

 

『もしもの為にあれは必要さね』

『八峡義弥を喰ってくれるかもしれん』

『もう一度言う、厭穢には手を出すな』

 

『……三十分だ』

『現場に到着し、三十分が経過して』

『八峡義弥が殺せなかった場合は』

『自動的に俺は厭穢を祓う』

『それで良いな?』

 

それに了承して彼らの会話は終わった。

 

「(……しかし)

 

「(まさかあれが)」

「(祓ヰ師を倒すとはな)」

「(無能で無様なこの男が)」

「(気力と覚悟を以て)」

「(戦禍の生き残りを凌駕したか)」

「(………ふん)」

「分からんものだな」

 

内心、東院一は八峡義弥の評価を改めて、微かに笑った。

 

「あ?なんだよ」

「なんつった今」

 

八峡義弥は東院が殺す気が無い事を悟ると調子よくそう東院一に聞きに来るが。

 

「黙れ」

「口を効く気も無い」

 

東院一は何時もの様に八峡義弥を邪険に扱うのだった。

 

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