術師名家の世間知らずなお嬢様が寝取られる話   作:三流木青二斎

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第29話

 

 

永犬丸統志郎は八峡義弥を連れてその後ろに猿鳴形が付いていく。

 

三人は地下施設へと向かう為にエレベーターに乗る。

ぐぅん、とエレベーターが地下へと向かう中。

 

「あ」

「おんがからだ」

 

猿鳴形は空を見詰めたままにそう言った。

永犬丸統志郎が猿鳴形を見詰める。

猿鳴形の内部には通信機が備え付けられていた。

 

「にんむ」

「おわったらしい」

 

そう猿鳴形が永犬丸統志郎に報告する。

 

「そうかい」

「お土産買ってきてくれてるのだろうか」

 

そう世間話を行いながらエレベーターの扉が開き出す。

扉の先にはコンクリートで覆われた無機質な廊下だ、其処から永犬丸統志郎が前に出ようとして。

 

「?どうしたえいのまる」

「あしがとまってるぞ?」

 

永犬丸統志郎の足が不意に止まっているのを見る。

そして猿鳴がエレベーターから出ようとすると。

 

「止まるんだ絡繰童子」

 

と、永犬丸統志郎が猿鳴形の足を止める言葉を吐く。

 

「一旦上に戻ろう」

 

「なにがあった?」

 

永犬丸統志郎が地上に戻るボタンを押すがエレベーターは動かない。

どうやら電力を止められている様子だ。

 

永犬丸統志郎は珍しく舌打ちを打つと自らのシャツを脱いで袖を破り、そしてそれをマスクの様に被った。

 

「臭いだ」

 

永犬丸統志郎は半身のまま八峡義弥の口元をシャツで覆う。

 

「におい?」

 

猿鳴形が鼻を動かす。

しかし何の匂いも感じない。

 

「まだここらは薄い」

「だが……段々と濃くなっている」

 

永犬丸統志郎の鼻は犬と同じレベルの嗅覚を持つ。

 

人間には感じ得ない匂いでも永犬丸統志郎は感知する事が出来る。

 

「なにかじけんでもあったのか?」

 

「それは分からない……なんだろうか」

 

永犬丸統志郎は猿鳴形にもシャツの袖を渡すが。

 

「おれはひつようない」

「このからだはからくりだからな」

 

とそう言った。

猿鳴形の体は絡繰で出来ている。

 

殆どの臓器は機械で代用されている為に器官を攻撃するような毒性に対する耐性がある。

 

「おれがなにがあるのか」

「みてこよう」

 

猿鳴形は五指を前に突き出して構える。

猿鳴形の指先からは弾丸が射出される。

周囲を注意深く見回しながら部屋の奥へと進み、角を曲がると、其処には、着崩した着物を羽織る両手に太刀を握る女が煙管を銜えている。

 

「ようやくお出ましってか」

 

彼女の両隣には壷が置かれており、そこから白い煙が噴出している。

 

「なんだおまえは」

「なをなのれ」

 

猿鳴形がそう言うと。

 

「花古屋家代表」

「花古屋《けごや》華雪《はなぶき》」

「八峡義弥の命をもらい受ける」

 

そう答えて花古屋華雪は、太刀を構えるのだった。

 

「やかいを?」

「なにをいってるんだ?」

 

猿鳴形は今回の事件の内容を知らない。

八峡義弥が許嫁である九重花久遠に手を出し。

 

陰陽師である間人胤護の怒りを買った事など知らないし、例え知っていたとしても猿鳴形は八峡義弥の側に着く。

 

「(けむりがこい)」

「(これはおこうか?)」

 

お香。

その壷から焚かれている香木が視界の阻害や身体に対する影響を与える。

 

「(ちかしせつだから)」

「(まどをあけてけむりをどうにかというのはむりらしい)」

 

花古屋華雪は。

恐らくそれが狙いでこの地下施設を選んだのだろう。

花良治伏籠との闘いで例え八峡義弥が勝利してもその体はかなりの重傷だ。

 

この地下施設にて医療を行う可能性が高かった。

ならば花古屋は自身が有利になる戦況を作る事が可能だったのだ。

 

「(だけどしっぱいしたな)」

「(おれにはつうようしない)」

 

花良治家が扱うお香は。

体内摂取を行うと器官系統の麻痺が起こり神経麻痺による肉体能力の制限を掛けて極めつけに臨核の起動を鈍くさせる。

それによって神胤の生成及び神胤の循環が出来なくなるのだ。

だが猿鳴形の肉体は絡繰機巧で出来ている。

通常の人間とは性能が違う。

その事は、お香に近い場所に立つ猿鳴を見て花古屋華雪はお香の効果が効かないと認識している。

 

「(御香が利かない)」

「(なら別に良いさ)」

「(香に対する無効をする奴に対して)」

「(私の剣術で対応するだけ)」

 

彼女は御香遣いであり、士柄武物遣いである。

その二振りの太刀を構えて神胤を放出。

 

刀身の刃をなぞるように神胤を流し切断能力を上昇させる。

二人は硬直状態であり、互いが互いを睨み合っている。

 

花古屋華雪が煙管を口で揺らしながら。

一服をして紫煙を吐くと同時、その一瞬で勝敗は決まった。

 

猿鳴形に向けて疾走する花古屋。

肉体の洞孔に神胤を循環させて速力の強化を行う事で、超速移動を行う。

それに対応する猿鳴形は問答無用で発砲連射を行う。

一秒に二十五発放つ猿鳴形に対して一秒で一気に詰め寄る花古屋は猿鳴形の弾丸を太刀で弾きもう片方の太刀で、猿鳴形の胴を両断する。

 

「機械ならそれくらいじゃあ死なないだろ」

 

地面に倒れる猿鳴形にもう片方の太刀で首筋を突き刺して床を貫く。

 

「ぐっ!」

 

首を突き刺さっても、猿鳴形はなんとか活動が可能だが下半身が失われて、太刀が杭の代わりとなり上手く動く事が出来ずにいた。

事実上、猿鳴形は封じられたのだ。

 

「あと一人、楽勝だね、こりゃ」

 

悠々とした態度で花古屋がエレベーターの方へ向かおうと廊下の曲がり角を曲がった瞬間、俊敏な狼が牙を剥いて飛び掛かって来た。

 

 

 

 

 

 

 

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