術師名家の世間知らずなお嬢様が寝取られる話 作:三流木青二斎
花古屋華雪は武器を構える。
彼女の士柄武物は何の能力も持たない極めてシンプルな武器だ。
それを永犬丸統志郎に向ける。
彼女が選択した攻撃方法は刺突だった。
「一撃で仕留めてやるッ」
「一撃で、一撃でだッ!」
叫び、睨み、殺意を帯びて永犬丸統志郎に向けて闘志を剥き出す。
花古屋華雪は自らが強い事を理解している。
事実彼女は強い、十分に経験も積んでいる。
しかし、それで彼女は永犬丸統志郎を倒す事は出来ない。
今まで彼女は諦めた事が無かった。
自分よりも多少強い相手に立ち向かい、勝利して来た。
その勝利と言う経験が、彼女を支えるプライドであり、彼女の自信を裏付ける証明でもある。
目の前に立つ優男。
彼と戦い、そしてその性能を理解した。
十分に勝てる。実力を見切ったのだ。
だが、彼女は踏み込めない。
その刺突を繰り出せば倒せる。
例え避けようが防御をしようが、きっと彼女は勝てると思って再び刃を振るうだろう。
「キミは強いよ」
「ボクが保証するし」
「キミ自身がそれを理解している」
「それがキミの強さだ」
「だからボクは」
「キミと言う人格を築いた」
「そのプライドを殺そう」
永犬丸はそう言って。
「
術式の名を口にする。
その術式は、最も弱い術式。
その能力の詳細は、自らの強さを相手に見せつけるだけの能力。
それは闘志であり、殺意であり、意志の強さ。
それを目の当たりにした花古屋華雪は。
彼の強さを認識して。
「あ……ぁ……」
その強大な強さに恐れを抱いた。
永犬丸統志郎の本来の姿が、彼女の目には見えているのだろう。
その強大な強さに、彼女は恐れた。
自らの強さを悠々と超える強大さ、圧倒的な実力差を見せられて、彼女は、負けを感じる。
肉体は動かず、精神は粉砕された。
「そ、そんな……こんな……こん、な……」
「……誇りに思うと良い」
「この力だけは、我が友にも見せた事が無い」
「ボクが人間である限り」
「使う気は無かった術式だからね」
「……あぁ、聞こえて無いか」
ぶつぶつと彼女は呟き続ける。
彼女の自信は永犬丸統志郎の手によって粉砕された。
勝敗は決した。
この状態の花古屋華雪が、永犬丸統志郎に向けて刃を振るう事は無い。
既にプライドを壊された。
そんな彼女がこれ以上、自分自身の傷を広げる様な真似はしないだろう。
永犬丸統志郎は、そんな彼女を一瞥して傍に倒れる、八峡義弥の元へと向かうと。
「我が友……約束通りだ」
そう言って、八峡義弥を抱き抱えて医療室へと、運ぶのだった。
八峡義弥は入院する事になり永犬丸統志郎は軽い怪我で済み。
猿鳴形はお見舞いに向かい、遠賀秀翼はリンゴを貪っていた。
「
「だいじょうぶか、やかい」
八峡義弥を見る猿鳴形に八峡義弥は突っ込んだ。
「なんでお前だけ無傷なんだよ」
恐らくこの中で一番重傷に見えたのは。
猿鳴形の筈だ、何せ、体を真っ二つにされて首を刃物で貫かれた。
しかし、今ではそんな惨たらしい姿は何処にも無い。
「おれはぱーつをかえるだけだ」
「それでなんどでもふっかつできる」
猿鳴形の大半は絡繰機巧で出来ている為に部品を変更する事で同じ様に活動出来るが。
猿鳴の絡繰機巧には変更不可部分も存在する。
辛うじて今回の戦闘では猿鳴形が死に繋がる様な損傷は無かった。
「我が友だけ重傷だとは」
「しばらくは動けないのだろう?」
滑栄教師からは三日間は動けないと診断されている。
肉体の治癒は既に完了したが肺に入り込んだ香の影響で体の右半身が動かない様子だった。
「しかし案ずる事はない」
「我が友が動けぬ間」
「ボクが我が友の介護をしよう」
「同時に、我が友を狙う輩の」
「護衛も兼ねてね」
永犬丸はそう言いながら八峡の為に梨を剥いていた。
「おれもだ」
「まもってやるから」
「あんしんしてねてろ」
猿鳴形もやる気の様子だ、りんごの芯をゴミ箱に投げ捨てた遠賀秀翼は。
「俺は不在だったが」
「心配ないぜ兄弟」
親指を立てて八峡義弥の安全を保障する遠賀秀翼。
この三人の言葉を聞いて、八峡義弥は強引に寝返ると。
「お前らは」
「陰陽師の側に付かねぇのな」
「知らねえけどよ」
「そっちに付かねぇとヤバイんじゃねぇの?」
と、八峡義弥は随分と弱々しい事を口にするそれを聞いた永犬丸統志郎は。
「ボクが我が友を裏切る日などない」
「生涯の共を裏切るくらいならば」
「ボクは我が友に裏切られる方が良い」
猿鳴形は八峡義弥の方を向きながら。
「おれとおまえはともだちだ」
「どこのだれかもしらないやつにつくより」
「おまえについたほうがいい」
「おまえがおれなら」
「そうするだろ、やかい」
更に遠賀秀翼も続けて言う。
「俺とお前は
「その絆は簡単には解けないものだぜ」
そう恰好良い事を言う。
八峡義弥は。友たちの言葉を聞いて、少し間を置く様に沈黙を浮かべると。
「あー、その」
「なんだ、あのな」
「……あんがとな」
と、そっぽを向いたまま八峡義弥は友に感謝の言葉を口にする。
それ程の言葉を口にしてくれる人間は恐らく、彼ら以外に居なかった。
だから八峡義弥はその彼らの言葉を聞いて少し、気恥しくなった。
同時に、嬉しくも感じていた。
「どうしたやかい」
「ねつでもあるのか?」
猿鳴形が心配する様にそう言った。
何時もの八峡とは違い素直な八峡に驚愕を隠せない様子だ。
「うるせっ」
「寝かせろ」
八峡義弥は恥ずかしそうな顔を隠す様に枕で顔を隠すのだった。