術師名家の世間知らずなお嬢様が寝取られる話 作:三流木青二斎
花古屋華雪が倒された事で六弁花の三分の一を失った事になる。
残る代表者は四名。
その内、向花家及び花倉家の代表者は欠席。
残る二名、花天禱と花里崎刈連が九重花家の客室にて茶を啜る。
「あのバカ共が」
「あの人畜生如きに負けるなど」
そう侮蔑の言葉を口にするのは花里崎刈連。
茶髪に眼鏡、スーツを着込む二十代前半の男性だ。
「だから言ったのだ」
「全員で叩き潰せば良いと」
「素直に俺を待てば良かったのだ」
「この絡繰機巧〈
「あの人畜生など楽に殺せたと言うに」
花里崎刈連は絡繰機巧を使う技巧師だ。
その絡繰機巧は九重花家が発芽させた木材で補強されている。
この絡繰機巧を活動させれば恐らくは同じ技巧師である葦北静月の絡繰機巧〈
「ふーッ、ふーッ」
「ず、ずずず……」
「ふぁ………」
花天禱はこの口煩い花里崎の言葉を聞き流す。
多少なれど八峡義弥を知る花天は八峡義弥の罵倒を聞いて複雑な表情を浮かべていた。
「あの男のお陰で」
「久遠様は地下牢へと封じられた」
「あの儚げで美しく」
「端麗で心優しい久遠様が」
「あの男に洗脳された事で」
「幽閉されたのだぞ」
「久遠様の自由を奪ったあの男を」
「俺は決して許す事は無い」
熱めのお茶を吐息で冷ましながら。
「はあ。そうですか」
適当に相槌を打つ、花里崎の熱が冷める事は無く。
「最早なりふり構っていられない」
「八峡義弥を九重花家全精力で潰す」
「一応はあの人畜生は」
「六弁花の二人を撃破した実績がある」
「悔しいが、舐めてかかればこちらがやられるだろう」
「……だから、全員で倒しましょうって?」
花天は渇いた笑い声をあげる。
あの弱者である八峡義弥を相手に良くもこう警戒していられるものだと。
「一刻も早く……」
「と言いたいところだが」
「人畜生の周りは」
「何故か人が多い」
「そいつらは陰陽師に立てつく」
「おまけに強い」
「だから入院中の八峡義弥を狙うのは止める」
ならば何時狙うか。
「時は三日後」
「八峡義弥が退院したその瞬間を狙う」
「早々に斃して」
「久遠様の洗脳を解いてやらねばならない」
花里崎刈連は妄信的に八峡義弥が九重花久遠を洗脳していると信じている。
身近に居た花天にとっては。
(いやはや)
(こればっかりは)
(久遠様も可哀そうすね)
そう言いながら。
深い溜息を吐く花天禱
彼女は薄暗い地下牢で過ごしている。
彼女の事を思い浮かべていた。
九重花家の屋敷には地下牢がある。
木製の格子は鉄で出来たものよりも硬い。
外側から鍵を掛けられたら出る事は出来ない。
それに加えて彼女の術式に繋がる種は没収されていた。
「やかい、さま……もっと、おはなし、を」
彼女は没収されなかった携帯電話を使って八峡義弥にメールを送り続ける。
カチカチと、暗闇の中でメールを打つ音だけが聞こえて来た。
「……ふふ、やかい、さま」
「そのような、こと、は」
彼女は光の無い場所で笑みを浮かべる。
そのメールの内容に彼女は喜びを隠せない様子だ。
再びメールを打ち相手へと送信する。
そして数秒もせずに彼女の目には彼のメールが届いている。
「そう、ですか」
「また、一つ、やかいさまを」
「知る事が、出来、まし、た」
笑顔を絶やす事も無く、携帯電話を見続ける彼女。
扉が開かれる音が聞こえる。
微かな光が闇から漏れ出した。
其処から現れたのは、食事を持って来た花天だった。
「お疲れ様です、久遠さま」
そう言って隙間から食事を置く花天。
そして前回持って来た食器を確認するが。
料理の殆どは手が付けられていなかった。
「……いい加減、食べて貰わないと」
「死んじゃいますよ久遠さま」
「久遠さまが死んでもらうと」
「私が困るんで、食べて欲しいんすけど」
そう言うが、彼女は携帯電話に夢中だ。
花天は深く溜息を吐いて。
「……携帯電話」
「電源、付いて無いすよ」
「なのに、何が楽しいんすかね?」
九重花久遠の携帯電話はもう既に充電が切れている。
それでも彼女がガラケーを弄るのは八峡義弥と会話している。
そう、妄想していたに過ぎないから。
九重花久遠は八峡に会えぬ事で膨大なストレスを抱えありもしない現実を見ているに過ぎなかった。
「今日であのお話から三日目」
「花里崎さんが八峡義弥を殺すみたいですよ」
「このままの久遠さまじゃあ」
「八峡が死んでも、大した絶望にはならないみたいすね」
木製の格子に手を掛ける。
その先に居る九重花久遠の顔を見つめる。
光を失った瞳が携帯電話を弄り続けている。
「……今の久遠さまは」
「つまらないすね」
「ありもしない希望に縋り続けている様」
「見ていてイラつきますよ」
花天の暴言は彼女には届いていない。
完全に、九重花久遠の世界に閉じこもっている。
「……私はね」
「夢見がちなお嬢様が」
「現実に叩き付けられる様が見たいんす」
「だから私は」
花天の肉体から蟲が溢れ出す。
その蟲は、特別な格子を食い破り、あっという間に監獄が破られた。
花天は彼女の元に進んでその携帯電話を払った。
「私が見たいのはアンタじゃない」
「八峡義弥が見たいのなら」
「話したいのなら」
「愛したいのなら」
「私が連れてってやりますよ」
「そんなまやかしじゃなくて」
「ちゃんと血肉が通った現実に存在する男に」
「だから、ちゃんとして下さいよ」
「久遠さま」
花天禱が九重花久遠にそう言ってそこで、彼女は、ふと我に返る様に。
「……花天、さん?」
「あの、なに、を?」
そう、彼女を心配する様に言う。
この地下牢に入れられた所までは覚えているが、それ以降はまったく記憶に無い様子。
花天がこの地下牢を破る花天を見て、このままでは彼女が罰せられる、その事に対して心配していた。
「なにをするって?」
「八峡に合わせてやるんすよ」
「そしたら」
「ちゃんとしてください」
「ちゃんとした九重花久遠になって下さい」
「お願いしますよ」
花天禱はそう彼女に行って。
その手を引いて、学園へと目指すのだった。