術師名家の世間知らずなお嬢様が寝取られる話   作:三流木青二斎

35 / 62
第35話

「あー、長かったわ……」

 

エレベーターが動く。

向かう先は地上、扉が開くと同時、地上へ続く廊下に繋がる。

 

八峡義弥は退院した。

体の傷は完治したが三日も動かなかった為に少し体が鈍りつつある。

腕を回しながら歩いて八峡義弥は久方ぶりの空を仰いだ。

 

「うぉ、眩しっ」

 

何処までも広がっていく無窮の大空。

雲一つなく、燦爛と輝く太陽が目を細ませる。

 

「さっさと携帯電話」

「治しにいかねぇとな」

 

八峡義弥は未だに修理出来ずに居た携帯電話を握り締めて学園敷地外へと目指す。

しかし、八峡義弥の前には複数の男らが立ち塞がっている。

 

「八峡義弥か」

 

茶色の髪に眼鏡とスーツの姿。

その隣には絡繰機巧が居る。

六弁花・花里崎家代表、花里崎刈連(がいれん)

八峡義弥はその十数人程の人数を確認して。

 

「あぁ、俺は八峡義弥だが……」

「お前らは六弁花って奴か」

 

八峡義弥は携帯電話をポケットに仕舞って花里崎刈連を見据える。

 

「そうだ」

「なら、分かっているな?」

 

指に嵌めた指弦を振るう。

それで絡繰機巧が起動する。

 

「お前を殺す」

「九重花家の未来の為」

「久遠様の為に」

 

分家の祓ヰ師らが八峡義弥を取り囲む。

このまま一斉に攻撃されれば八峡義弥ですら死は必然的。

 

「俺を殺すのにこんな大勢で」

「なんだか申し訳なく感じるわ」

 

煽る様に八峡義弥は言い、花里崎刈連は鼻で笑う。

 

「思わなくて良い」

「思う事すらない」

「お前はここで死ぬからな」

 

「死なねぇよ」

 

其処で八峡義弥は花天に言った様な言葉を此処で今一度口に出す。

 

「その根拠はなんだ?」

 

花里崎は八峡義弥の自信が気になり。

伺っていく。八峡義弥はにやけながら言い放った。

 

「俺の内がそう言ってんのさ」

 

八峡義弥は自らの胸を親指で差して言う。

下らない事だと聞いて損をしたと言いたげに花里崎は指を動かした。

 

「殺せ」

 

その声を同時。

 

「来いや、お前らッ!」

 

八峡義弥も叫ぶ。

そして、何処からか二つの影が八峡義弥の近くに現れた。

 

永犬丸統志郎と猿鳴形が八峡義弥の元に現れる。

二人とも隠れていたらしい。

 

「三人に対して十五、六人」

「一人当たり約七人ってところだな」

 

「我が友、それだと計算が合わない」

 

「じゅうごにんとかていして」

「ひとりあたり、ごにんだぞ」

 

八峡義弥の数に二人は指摘するが。

 

「いや?」

 

「サルちゃんとイヌ丸が七人ずつ」

「俺が一人、この集団の頭をぶっ叩けば」

「ほら、計算は合ってるだろ?」

 

随分と無茶な計算だが。

 

「なるほど」

 

「流石我が友」

 

二人はそれで納得するのだった。

 

戦闘が始まる直前。

九重花久遠は学園内にやって来る。

 

「ちょっと待って下さいよ」

「んー………か、は………」

 

花天禱が自らの肉体に神胤を流し込む。

彼女の臨核蟲が動き出すと、神胤へと変換させた蟲を洞孔に流し込む。

そして指先の穴径から神胤を出すと同時、蟲へと姿を変えて彼女の指から飛んでいった。

彼女は蟲の視界と神縁を結んでいる為、索敵に有効。

そして蟲を使って八峡義弥を探すのだった。

 

 

「あ、久遠さま」

 

花天禱は彼女に一つの袋を渡す。

その中には九重花久遠が術式を扱うのに必要な品種改良された種が入っていた。

 

「あ、りがとう、ござい、ます」

 

彼女はそれを懐の中に入れる。

 

「それが無いと何も出来ないすからね」

「殆どの術式持ちの人たちは」

 

九重花家及びその分家は品種改良をした種を媒介に術式を使う。

しかし種が無ければ彼女たちは術式を扱う事が出来ない。

花良治伏籠に種が無ければ士柄武物の代用である武器を生む事は出来ず。

花古屋華雪に種が無ければお香の材料となる木を生やす事も出来ない。

種を欲さない分家が居るとすれば、それはただ一つだけ、花天家だけであった。

 

「……ありゃ」

 

「どう、か、しまし、た、か?」

 

花天の顔色が変わった様子に、九重花は気が付いてそう聞く。

 

「いや」

「一足遅かったって感じすね」

 

 

彼女の飛ばした蟲の視線から花天禱は其処に居る花里崎刈連を捉えた。

現在、花里崎刈連と八峡義弥一行が臨戦態勢に入っている瞬間だった。

それを見た花天禱は八峡義弥を心配する様に呟く。

 

「このままだと」

「八峡が死んじまいますね」

 

花天禱はそう断言する。

九重花久遠は八峡が死ぬと聞いて胸の鼓動が跳ね上がり、そして呼吸が一瞬だけ止まる。

 

「は、はや、く」

「やかい、さまの元、へ」

「八峡、さま」

 

慌て、冷静さを欠いた彼女の呟き、花天禱はそれに頷くと強く手を握り締めて。

 

「それじゃ行きますか」

 

そう言って花天禱は九重花久遠を連れて八峡義弥の元へと向かって行く。

彼女たちが向かった時には、既に八峡義弥はその九重花家の関係者に囲まれていた。

そしてその輪の中には永犬丸統志郎や猿鳴形が八峡義弥の護衛をしている。

 

其処に遠賀秀翼の姿は無かった。

どうやらこの三人で戦いを挑んでいる様子だ。

そして、九重花家の分家と八峡義弥たちが争いを始めようとした最中。

 

「八峡、さまッ!」

 

九重花久遠の声が敷地内に響き出す。

だが、彼女の放り出した言葉は彼らに届く前に唐突に校舎から。

巨大な、爆発音が聞こえるのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。