術師名家の世間知らずなお嬢様が寝取られる話 作:三流木青二斎
道理。
それは自分の世界を敷く術式。
その敷地内に携わる者はその世界の法則や事象を押し付けられる。
だが、永犬丸統志郎らにこの術式の影響下は無かった。
その事に関して永犬丸統志郎は疑問を浮かべ出す。
「(法則は働いていない……)」
「(あの異質な三人による術式)」
「(恐らくは同じ道理の住人)」
「(あの幼女らを殺せば)」
「(この道理は破壊される)」
永犬丸統志郎は転生者との対策を知っていた。
道理を破る方法は、同じ様に道理を敷くか。
それか極めて少ないが、術式による道理を無力化させる事。
そして、道理を敷いた転生者を殺す他、道理を壊す方法はない。
「皆、此処で争っている場合ではない!!」
「何者かがボクらに攻撃をしようとしている」
「それも我が友でも君らでもない」
「此処に居る全員が対象だッ!」
「一時休戦として、この状況を打破する必要があるッ!」
「手始めにこの道理を築いたものを倒さなければならない!」
「時間が無い!この道理がどの様な影響を及ぼすかッ」
「急げ、急ぐんだ!!」
永犬丸はそう慌てながら言い捨てる。
「おい、なんだァありゃ」
八峡義弥が士柄武物を構えた。
彼らを取り巻く様に、周囲に黒い人影が出現する。
「(道理、その効果なのか)」
永犬丸統志郎は爪を構える。
黒い人影は一体だけではない。
二体、三体と、影から人影が生まれて無尽蔵に増えていく。
その数は既に、指で数えるには足りぬ程に。
その数は既に、目で追うには早すぎる程に。
増殖して、分裂して、形成していく。
「キリがねぇぞッ!」
叫び、九重花久遠の背後から人影が迫り、獣の如き鋭い爪を上から振り下ろそうとする。
「しゃ、ッおらァ!!」
九重花久遠を押し退けて八峡義弥が士柄武物で受け止める。
人工臨核から大量に神胤を発生させて、洞孔に駆け巡らせる。
左腕の膂力は一時的に超人並みの力を得るが、それでも尚、彼の防御を押し返してしまいそうだった。
「ち、く、しょォ!」
八峡義弥を攻撃している人影の背後に永犬丸統志郎が現れると共に踵蹴りをかます。
攻撃を受けただけで、その人影は霧となって四散する。
「危ない、我が友よ」
八峡義弥は士柄武物を振り上げて永犬丸統志郎に向けて投げる。
彼の頬を掠めて、永犬丸統志郎の後ろに居た人影に突き刺さった。
「お前もな、イヌ丸」
次第に、周囲に発生する人影は百、二百と膨大な数に至る。
とにかく、この状況で八峡義弥に構っている暇は無く、全員が人影と戦い出す。
「はぁッ…はッ!クソッ…マジで何体居るんだよ」
八峡義弥の神胤は枯渇し掛けていた。
三十体以上は倒している。それなのに、人影は数が増えていくばかりだ。
「やはり。この道理を展開させた転生者を殺害する他無い」
永犬丸統志郎の言葉に、九重花久遠を守る花天禱が話に賛同する。
「転生者すか。そいつぶっ殺せば、どうにかなるってわけすね」
背中から巫女服を突き破って出て来る百足型の厭穢を振るい、人影を切り払う。
「それしか方法がない…このままだとジリ貧だ…ボクが見つけて、倒そう」
永犬丸統志郎が転生者殺しに自ら手を挙げる。
「五分で仕留めてこいよ」
「難しいね…けど、我が友の頼みならば…」
そして。
永犬丸統志郎は唐突に後ろを振り向いた。
寒気すら感じる強力な殺意、瘴気にも似たような感覚。
後ろを振り向こうとして永犬丸統志郎は、鋭い刃に貫かれた。
「ッ、ぐ、ふっ……」
八峡義弥が見ている目の前で唐突に出現する転生者。
「(なんだ、コイツ、急に現れやがった)」
甲冑を着込む外套を羽織った武士。
それが、永犬丸統志郎の背中に刃を喰い込ませる。
武士が引き抜くと同時に永犬丸統志郎の背を蹴る。
そのまま倒れる永犬丸統志郎は虫の息のままに、その場に倒れた。
「い、イヌ丸ッ!」
八峡義弥が叫び、近寄ろうとすると。
「……」
その武士は八峡義弥に向けて刀の切っ先を向ける。
その切っ先を突き付けられて八峡義弥は動けなくなる。
「(く、クソッ)」
「(なんて圧だ、コイツッ)」
「(俺が出会って来た厭穢)」
「(それが放つ瘴気以上に重たくて、冷たいッ)」
「(なんなんだよ、コイツは)」
「クソ、がッ」
「殺して、やるッ」
八峡義弥の停止。
恐ろしい殺意を放っていながらもそれでも八峡義弥は友の為に牙を剥いた。
武士は心底詰まらなそうに溜息を吐いて刀を地面に突き刺すと。
「〈
指を絡めて、武士はその術式を。
転生術式・道理を、この地に敷いていく。
それは先程見た道理よりも過少な範囲を包み込むがその術式によって。
「〈
八峡義弥とその周囲に居る者達は道理の内部へと、引き込まれていった。
「―――〈
その言葉と共に。
世界が一変した。
赤く燃え盛るマグマの様な地面。
其処に座る、複数の鎧武者。
その腹部には小刀が突き刺さり、皆一様に頭を垂れていた。
燃える火の地。墓標の様に立ち並ぶ刀身。
此処が、転生者の道理の中であった。