術師名家の世間知らずなお嬢様が寝取られる話   作:三流木青二斎

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第38話

 

鋭い一撃が幼女の首を刎ねた。

贄波阿羅はこの異変を察知していち早く行動をしている。

 

「……道理ですね」

 

酒瓶を一気飲みしていた駕与丁が言う。

 

「……空に三人、同じ顔をしたコレが居た」

「この道理はコレがやったらしいが」

「一人殺しても解除されない」

「と言う事は、後二人殺さなければならない」

「飫肥と鬼籠は何処に行った?」

 

祓ヰ師最強の男、飫肥壱教師。

封契神と多重契約をする鬼籠深禪教師。

そして対人戦最強の贄波阿羅。

この三人が居れば一先ずは襲撃してきた転生者を鎮圧出来る。

 

「校内放送で呼び出して見ます」

「けど、この可愛らしい子を殺すのは」

「飫肥せんせいは反対すると思いますが」

 

「ならば、俺が殺す前に」

「全ての転生者を殺せと言っておけ」

「俺は手当たり次第」

「転生者を殺していく」

 

コートの裏からスキットルを取り出して酒を摂取。

喉を焼く酒の味に酔い痴れるとスキットルを仕舞い、代わりにナイフを構え出す。

 

「面倒だ」

「さっさと終わらせたい」

「……これが終わったら京都に行こう」

 

疲れを癒す為に贄波阿羅教師はそう言った。

しかし、贄波教師の前に二人組の男が立ち並ぶ。

 

対人戦(タイマン)最強の男だ」

 

一人は鉈の様な刃物を持つ岩の様な男だ。

もう一人は、手足がひょろ長く、長髪の男。

 

「どちらの道理で封じる?」

 

「こっちがしてあげるよぉ」

 

指を絡めるひょろ長い男。

それを見て贄波阿羅が縮地を使おうとするが、その間に鉈を持つ男が出て来る。

 

「縮地は使わせねぇよ」

 

そして、一瞬の隙が生じて、ひょろ長い男が道理を展開させる。

 

「〈爬生道(はしょうどう)蛇喰(じゃばみ)()(ことわり)〉」

 

「〈罅渇道(かかつどう)酒融(しゅゆう)()(ことわり)〉」

 

言葉が重なる。

ひょろ長い男以外にも道理を発動させる者の姿がある。

 

それは彼女の、駕与丁雅。

彼女は転生者であり祓ヰ師だった。

 

「──—〈離離蛇等萬形窟(りりだらばんけいくつ)〉」

 

「──—〈呑蕩(いんとう)狂楽宴(きょうらくえん)〉」

 

 

互いの道理が展開される。

地面を浸蝕する道理が他者の道理と重なり壊し、喰らい、崩し、奪い合う。

そして展開されるのは歪な道理、片方は無限に等しい蛇が敵対者を威嚇しもう一つは満杯な酒の泉。

赤く黒く濁った水面からドロドロに融けた亡者が手を伸ばしていた。

両者共に、悪辣極める道理であった。

 

「これで少なくとも」

「相手の領地に入らない限りは」

「あの蛇による攻撃も喰らいません」

「ここらあたりは、私の領土ですから」

 

逆を言えば相手の領土に踏み込めば一気に攻撃の手が来てしまう。

互いに均衡状態に陥る。

 

「困ったな」

「お前の道理は」

「酔うから嫌いなんだ」

 

そう言いつつ靴まで浸かる酒にスキットルを沈めて酒を掬って飲むと。

 

「…………確かこれの原材料は」

 

「はい、人肉です」

 

「…………上手いな」

 

と、呑気にそう言うのだった。

 

その頃。

道理が展開された最中、意外にも八峡義弥は冷静だった。

 

「(殺、してやる)」

「(殺して……)」

「(……────)」

 

殺意を内に滾らせながらもそれを漏らす事無く沈めていく。

 

世界に浸透する様に背景と同化する様に。

八峡義弥の存在はその場から消えていく。

ある種、禪に到達した者が扱える技。

 

隠形(おんぎょう)〉。

 

八峡義弥はあの日、逃げる選択をした。

贄波阿羅から逃れ続ける日々。

その際に気配を断つ事を無自覚で覚え厭穢や九重花家の分家との戦闘による経験。

そして絶対に殺すと言う目的、それが合致した事により今この瞬間に生まれた彼の力。

しかしそれは無自覚であり彼がそれを認識する事は無い。

 

 

「(八峡、さま、が)」

「(離れて、いき、ます)」

「(そう、ですか)」

「(あの御仁を、斃す、の、ですね)」

 

ならば九重花久遠は袋から種を取り出しそれを手に握り締めて相手に立ち向かう。

 

八峡義弥がそう命令した訳ではない。

ただ彼女は、八峡義弥の意図を汲んで自分がやるべき事を認識した。

 

「おまえ、なんだ」

 

「転生者っすか、面倒すね」

 

この道理に引き込まれたのは何も、八峡と九重花だけではない。

 

花天禱。猿鳴形。

 

そして、地面に横たわる永犬丸統志郎。

猿鳴形が構えて、花天禱が背中から百足型の蟲を袖口から出す。

 

「(蟲の中で最も好戦的で俊敏性のある切々百足ッ)」

 

「(だんがんでうちころす)」

 

二人が構える。

最初に花天禱が飛び出して百足を操る。

百足の足は鋼の刃。鋸の様に敵の肉を抉り切る。

後に続く様に猿鳴形が射撃を行う。

弾丸が射出されて甲冑男に向かうが。

 

「〈初之陣《いちのじん》・火巖柱《ひがんのはしら》〉」

 

地面から炎が噴き出る。

その炎は高出力で空に昇り、弾丸の軌道は簡単に逸れてしまう。

 

「ッ」

 

花天禱は自らの足を止めて攻撃を変更。

掌から林檎程の蜂を複数飛び出させる。

 

「(飛針蜂ッ、背後に回って敵を穿てッ!)」

 

命令を与えて数十の蟲を旋回させて左右から挟む様に攻撃するが。

 

「恐るに能わず」

 

甲冑の男は腰に携える刀を引き抜くと同時。

左右から来る蟲に向けて素振りを行う。

それだけで、虫は鋭い風圧によって簡単に切断された。

 

「なっ!」

 

視覚情報を共有する彼女は、一撃で殺された蟲の惨状を確認。

彼女の前には炎の壁がある、甲冑の男はその壁を突き破り、花天禱へと切っ先を向ける。

 

「ッ」

 

放たれる刺突。

花天禱は自らの腹部から蟲を繰り出す。

最高硬度を誇る鎧蟲。それが彼女の体を守る。

甲冑の男の切っ先は彼女の体を貫く事は出来ない。

 

「鎧を仕込むか」

「だが、俺の攻撃を受け切れる程ではない」

 

刀の切っ先を一度彼女から離して甲冑の男は地面を強く踏み締める。

再度、彼女に刺突を繰り出す。

その一撃は、まるで自動車に跳ねられたかの様に彼女の体は吹き飛んでいく。

 

「ぐ、ッは!」

 

そのまま地面に倒れる花天禱。

猿鳴は一瞬の隙を狙い、腕から刀身を出して背後から一撃を加えるがその刀は、甲冑の男を切るどころか。甲冑にすら傷一つ付ける事が出来ない。

 

「付け焼刃だ」

「剣術もろくに知らぬのか」

「太刀筋が逸れている」

「正しき劔でなければ」

「俺の甲冑を通す事は出来ぬ」

 

そして男は腰を落とし、空手のままに腕を上げる。

そして息を吐く様に腕を振り下ろし平手のままで、猿鳴形を袈裟切りにした。

 

「剣の理を識れば」

「剣で無くとも」

「あらゆる得手は剣となる」

「眠れ、人擬き」

 

花天禱。猿鳴形が立て続けに倒された。

其処に、九重花久遠が、前に立つ。

 

「次か」

 

そう言い男は手を翳すと。

 

「〈次之陣(にのじん)灰劔墓碑銘(つるぎのはか)〉」

 

地面に突き刺さる刀剣類が煤の色に変わり、火が宿る。

それを握り締めて、甲冑の男は引き抜き、彼女に刃を向けた。

 

 

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