術師名家の世間知らずなお嬢様が寝取られる話   作:三流木青二斎

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第4話

ハンバーガーショップ。

適当に頼んだハンバーガーセットを持ってテーブル席に座る。

 

「おら、お前の」

 

そう言って八峡義弥は彼女の為に購入したプレーンハンバーグを渡す。

ハンバーガーショップに初めて来た彼女は不思議そうにあたりをキョロキョロと見まわしていた。

 

「……なに、やら人が、多い、ですね」

 

時刻は一時頃。

昼時で平日とは言え相応の客で溢れていた。

 

「まあこんなもんだ」

「あんま見ない方が良いぞ」

「田舎モンだと思われるからな」

 

八峡義弥が適当な事を言って彼女は見回すのを止めてテーブルを見る。

彼女の前には八峡義弥が持ってきたハンバーガーがあった。

 

「これ、が」

「はんばー、がー、です、か?」

 

彼女は包みを持って興味深く眺める。

袋越しから伝わる出来立ての熱。

ほのかに香るソースの香りが食欲を引き立てる。

 

「あと飲み物」

「コーラで良かったか?」

 

八峡義弥が持ってきたドリンク。

聞き覚えのある単語を聞いて九重花は首を縦に振る。

 

「はい、こおら」

「八峡さまと、出会った、日」

「はじ、めて飲んだ」

「思い出の、飲み物、で、御座います、ね」

 

そう大したものでは無い。

八峡義弥はそう口を開こうとしたが感慨に浸る彼女の手前、無粋な事を言うのはやめておいた。

 

「じゃあさっさと食って」

「帰ろうぜ」

 

包みを開けて八峡義弥はチーズバーガーを頬張る。

彼女は八峡義弥の包みの開け方を見て、見様見真似でハンバーガーを開けた。

 

プレーンハンバーガー。

バンズの中には。

トマト、レタス、オニオン、ピクルス。

そして甘辛ソースを掛けたオードソックスな一品。

 

八峡義弥が片手でチーズバーガーを食べているのに対して。

彼女は両手でバンズを掴むと口を開いて、かぷりとハンバーガーを食べ始める。

 

「(おー……口、小さいな)」

 

ゆっくりと口を動かして食べる彼女の姿は草を食む小動物の様で愛らしく見える。

そんな事を思っても、流石に口に出す事はしなかった。

九重花はハンバーガーを味わうと目を丸くして、口元を手で覆いながら感想を口にする。

 

「おい、しい、です」

「こう、いった洋食、は」

「生まれて、初め、て、食べます」

 

頬を真横に引いて彼女は笑みを浮かべる。

そして彼女の頬にはハンバーガーのソースが付着していた。

 

「口、付いてんぞ」

 

八峡義弥が指でソースを指摘すると。

 

「?……ぁ」

「み、見ないで、くだ、さいませ……」

 

彼女は恥ずかしそうに。手でソースを隠す。

八峡義弥はそんな彼女の仕草を見て何処までも、上品な女性だと思った。

 

 

 

食事が終わった所で八峡義弥たちは外に出る。

暫く喋りながら歩いて別れの時が訪れた。

 

「用事は済ませたし」

「メールの打ち方も分かったか?」

 

ハンバーガーショップで教えたメールの打ち方を九重花は頷く。

 

「は、い」

「今日から、頑張って」

「覚え、ますので」

「ご鞭撻の、程を」

「お願い、します」

 

ガラケーを胸に抑えて彼女は笑みを浮かべる。

華やかな笑顔を見て花を愛でている気分になった。

 

「じゃあ帰るか」

 

もうやる事は無くなった。

色々な予定を建てても、世間知らずな彼女には少し刺激が強いだろう。

 

「八峡、さま、今日は、とても」

「有意義で、あり、ました」

「また、この様な日が、あれば、私は……」

 

彼女は言葉を続けようとして声を詰まらせる。

彼女はその願いを出過ぎた欲望だと思いそれを彼に伝えるのは気が引けた様子だった。

 

八峡義弥は続かない彼女の言葉を察して。

 

「あー……」

「また暇になったら来ようぜ」

「一応、恋を教えてやる立場だしな」

 

八峡義弥は彼女が欲する言葉を言う。

その言葉を聞いて九重花は自らの心を理解してくれた八峡に微笑みを向けた。

 

「はい」

「八峡、さま」

 

そうして八峡義弥と九重花久遠は暫く歩いて。

 

「……お」

 

と、近くのゲームセンターに目を向ける。

九重花久遠は、急に止まった八峡義弥に首を傾げて。

 

「如何、なさい、ました、か?」

 

そう八峡義弥に聞くと八峡義弥はゲームセンターに置かれたUFOキャッチャーへと近づく。

 

「待ってろよ」

「ちょいとな」

 

百円硬貨を機体に投入して軽く動かす。ボタンを押すとアームが動いて景品を掴む。

 

「……あっちゃー」

「一回じゃ上手くいかねぇか」

 

そう言って五百円硬貨を入れて三回プレイする。

それすら外して、八峡義弥は二千円程入れた所でお目当てのものが取れた。

 

「………しっ」

「取った」

 

そう言って、UFOキャッチャーで手に入れた代物を取り出した。

 

「八峡、さま」

「それは、一体……」

 

不思議そうな表情を浮かべて八峡義弥の手に持つそれを不思議そうに眺めていた。

 

掌に収まる程の小さなストラップ。

何か、流行りの品物なのだろうかツギハギだらけのウサギストラップだ。

 

「携帯電話」

「貸してみ」

 

言われるがまま、九重花久遠は八峡義弥に携帯電話を渡す。

 

「本当はもうちっと高価なモン送りたかったけどよ」

「今はこれが精一杯」

 

そう言って彼女の携帯電話にそのツギハギウサギストラップを付けた。

 

「安価で悪いが」

「仮ん彼氏なりの贈りモンだ」

 

携帯電話に繋がった。

ツギハギウサギのストラップ。

安価な代物を、九重花久遠は宝石の様な眼で見つめて。

 

「とて、も、嬉しく」

「思い、ます……八峡、さま」

「ありがとう、ござい、ます」

 

そう彼女は微笑んで携帯電話を胸に秘めた。

 

そして八峡義弥と九重花久遠は再び帰路を歩き出して学園前で別れる事になった。

八峡義弥が校門へと入り彼女に手を振ってその場から離れる。

時折、八峡義弥が後ろを振り向くと彼女は未だに、手を振り続けていた。

 

八峡義弥の姿が無くなるまで彼女はその行動をし続けるだろう。

足早く、八峡義弥はその場から離れて、九重花は八峡義弥の姿を見失う。

一人になった九重花ゆっくりと手を下ろして巾着袋からガラケーを取り出す。

 

開いてメールを作り出す。

 

『きょうはたのしかたです』

 

自らの心を表す為に彼女は素早くメールを打つ。

漢字の入れ方も分からず出鱈目な改行をしたメール。

 

それを八峡に向けて送信をすると数分足らずに連絡が入る。

 

『また遊びに行こうな』

 

と八峡義弥のメールが届く。

その内容を見て九重花久遠は、ガラケーを抱き締めた。

 

流行る気持ち、体中を駆け巡る痺れ。

喉の奥から零れ出る熱い吐息。

恋と言う感情を、彼女は知らない。

 

「(今日は、本当に有意、義でした)」

「(また、八峡さまと、共に……)」

 

其処まで考えて、九重花は視線に気が付く。

振り向いて校門の角を注視する。

するとゆっくり、人影が現れた。

 

白く不健康そうな見た目。

枯れた花の様に儚く美麗な容姿を持つ女性の姿。

それは、九重花の知り合いだった。

 

「……居た、のですね」

 

其処に立つのは。

九重花久遠の付き人。

花天《けてん》禱《いのり》であった。

 

 

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