術師名家の世間知らずなお嬢様が寝取られる話   作:三流木青二斎

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第40話

 

死の一撃は幾ら待っても来ることは無い。

ゆっくりと瞳を開ける。

その一撃を受け止める男の姿。

永犬丸統志郎が腹部を抑えながら、片手の爪でその一撃を受け止めている。

更には猿鳴形も崩れ掛けた体を無理に動かして、指先の銃器を天積に向ける。

 

「永犬丸、さま」

「猿鳴、さま」

 

彼女が彼らの名を呼んだ。

息も絶え絶えで何時でも斃れそうな彼らは天積の攻撃を受け切るので精一杯。

 

「何をしているッ」

「勝手に」

「我が友と心中するなッ」

「君の願いに」

「我が友を巻き込むな!」

 

息を切らしながら永犬丸統志郎はそう叫ぶ。

九重花久遠は首を横に振って。

 

「……」

「もう、八峡、さまは……」

 

「しんでない」

「やかいがしぬはずがない」

 

猿鳴形が発砲する。

天積は一度下がり、再び炎の盾を繰り出す。

 

「そうだ」

「死などあり得ない」

「我が友は」

「死んでいない」

 

永犬丸統志郎は吼える。

最早動く事の無い身体を、冷めていく彼の熱を。

 

それでもなお生きていると信じている、生き返ると信じている。

 

「無駄だ」

「それは死んでいる」

「俺が殺した」

「それよりも」

「在り得ぬ話だが」

「貴殿らは」

「その男を慕うのか」

「何故だ」

「その男に」

「どんな価値がある?」

 

力は無い。

卑怯な手でしか価値を取れない。

そんな男にどの様な意味を以て八峡義弥を信用出来るのか。

信頼出来るのか。

 

部外者である天積には、理解出来ない事だった。

 

「価値、無価値なんて」

「関係ない」

「ボクは我が友に救われた」

「ボクは我が友に助けられた」

「恩義や忠義を感じ得ても」

「それ以上に」

「ボクは彼を友と認めたんだ」

「友の全てを信用せずに」

「友の全てを信頼せずに」

「どうしろと言うのだ」

 

「ああ、おれたちは」

「しょせん、このちにうまれた」

「れっとういんし」

「にんげんにもみたないおれたちを」

「やかいはみとめてくれた」

「なかまだとてれくさそうにいったんだ」

「ならおれはたちあがる」

「なかまといってくれたやかいのために」

「おれはがんばるんだ」

 

二人の強き意志を天積は感じて、そして鼻で笑う。

 

「青いな」

「羨ましくも思える」

「だが」

「事実は変わらない」

「その男は死んだ」

 

どれ程強き絆でもそれが死者を蘇らせる要因にはならない。

この世界に奇跡は無い。

あるのは積み重ね。

偶然の重なり。

ただそれだけだ。

 

「果たして、そうかな?」

 

永犬丸統志郎は笑う。

この世界に存在しない筈の奇跡をいや、奇跡ではない。

偶然の重なりを、必然の重なりを待ち侘びていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八峡義弥は公園に居た。

夕焼けが地平に消えかけた薄暗い空。

 

誰も居ない遊具は風に揺られてキィキィと鳴いている。

八峡義弥がその公園を知覚して。

その光景に、何処か見覚えを感じていた。

 

「ここは……」

 

この場所に、懐かしさすら覚える。

そして八峡義弥は。

 

「団地の、近くの」

「公園……か?」

 

幼少期の頃に遊んだ公園だと思い出す。

 

「いや、なんだ、此処」

「俺、なんで、此処に?」

 

先程まで八峡義弥は戦っていた。

そして天積による攻撃で殺された筈だった。

意識を失い、気が付けばこの公園に立っている。

 

「(よく分からねぇ)」

「けど」

「戻らねぇと」

 

あの場所へ。

八峡義弥が残した場所へ。

公園から出て行こうと闇が濃い外へ向かい出すと同時。

 

「待てよ」

 

誰かが八峡義弥を引き留めた。

後ろを振り向く。

視界の先にはブランコに腰を落として座って居る男の姿があった。

赤に近い茶髪頭に、首からぶら下げられたシルバーのアクセサリー。

その男の茶色の瞳を見て八峡義弥は驚愕した。

 

「……なんで」

「アンタが、此処に」

「五十市、さん」

 

其処に居たのは。

約半年前、八峡義弥を救い、八峡義弥が見捨てた男。

 

「久しぶりだなぁ」

「八峡」

 

五十市依光が、其処に居た。

 

「んや」

「久しぶりって訳じゃないか」

「お前ん中で、見てたもんなぁ」

 

それは五十市依光であり、五十市依光では無い存在。

 

「俺はお前に宿る呪いさ」

「五十市依光の呪い」

「けど、五十市依光の意志を持つ」

「残滓さ」

 

八峡義弥の中にある禍憑(まがつき)

五十市依光が最後に残したもの。

それは、八峡義弥の中に眠り、八峡義弥を呪う為に、活動していた。

 

「残滓?」

「なんで、そんなもんが俺の前に……」

 

「薄々勘付いてんだろ?」

「自分に何があったか」

「お前がどうなったか」

 

五十市依光はブランコから立ち上がる。

キィキィと錆び付いた音を鳴らしながら揺れるブランコ。

そのまま、五十市依光は八峡義弥の前へ向かうと。

 

「死んだよ」

 

間髪入れずに八峡義弥の結末を教える。

 

「何も成す事が出来ずに」

「お前は死んだんだ。八峡」

 

それを聞いた八峡義弥は。

 

「なら、此処は」

「あの世って訳、すか?」

 

こんなにも親しみやすいあの世があるのかと。

八峡義弥は五十市依光に言うが。

 

「ここは三途の川さ」

「お前にとっての三途の川」

「お前が心に残った場所が」

「この公園なのさ」

 

この公園は幼少の頃、八峡義弥が親の愛を試そうと夜中までずっと居た場所だった。

結局、彼の両親は八峡義弥を迎えに来る事は無かった。

アパートに戻ってリビングを見たらバラエティ番組を見て笑う両親の姿を見て、自らが愛されていないと理解した瞬間でもある。

 

「(なに、考えてんだ)」

「(今はそんな事、どうでもいい)」

「俺は、戻らねぇと」

「あいつらの、元に」

 

八峡義弥はそう五十市依光に言うが。

 

「戻ってどうする?」

「なあ八峡」

「そんな事よりもよォ」

 

五十市依光が公園の外に行こうとする。

八峡義弥の肩を掴んで思い切り引っ張った後に八峡義弥の頬を思い切り殴った。

 

「がッ!」

 

殴られてよろめく、八峡義弥。

腕を振って五十市依光は笑みを浮かべている。

 

「忘れた訳じゃないよな?」

「俺はお前のお陰で死んだんだ」

「その落とし前は、付けて貰わねぇとな?」

 

八峡義弥は殴られた痛みを実感しながら。

ゆっくりと立ち上がる。

 

「……あれは、仕方が無かった」

「なんて言うつもりはねぇっす」

「俺がやった事は正しい事」

「なんて事も言わねぇ」

「謝った所で」

「あんたが生き返る訳でも無いし」

「あんたを見殺しにした」

「その事実も変わらないっすから」

「改心も更生も」

「そんなモン、した所で」

「拭いきれねぇ事実があるから」

「なら」

「俺はこの事実を誤魔化す真似は、しません」

「……殴りたきゃ殴りゃいい」

 

八峡義弥は構える。

五十市依光を見て、握り拳を固めて。

 

「俺も、殴り返す」

「戻らなきゃならねぇんだ」

「あそこに……それを」

「それを邪魔するってんなら」

「……殴り倒してでも」

「俺は、戻るんだよォ!!」

 

思い切り駆けて八峡義弥は五十市依光との殴り合いを行う。

 

 

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