術師名家の世間知らずなお嬢様が寝取られる話   作:三流木青二斎

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第42話

 

八峡義弥が尻餅を突いた。

五十市依光も地面に座って髪を掻き揚げる。

 

「俺の呪いは」

「誰かの為に動く事」

「お前は自分の為に動いていた」

「だからお前に呪いを与えたんだ」

「お前が本心で」

「誰かを救う為に生きるまで」

「呪い続ける」

「それが俺の呪いだ」

 

自分主義である八峡義弥が誰かの為に動く事、戦う事など決してあり得なかった。

だからこそ呪いは強く無意識に強制させる。

 

「此処はお前の中だ」

「お前の本心が聞ける場所だ」

「此処でお前が吐く言葉は」

「紛れも無い真実」

「疑う余地なんざ、無いさ」

 

八峡義弥が本心でそう言っていると五十市依光は信じている。

 

「今のお前なら」

「きっと」

「仲間を助けられる」

「断言する」

「救えるよ、お前は」

 

そう言って五十市依光は笑う。

純粋な笑みは先程まで殺意を滾らせた五十市依光の姿は無い。

 

「……救える」

「けど、無理なんだろ」

「よく考えて見りゃ」

「ここはあの世だ」

「生き返る方法なんて」

「何処にも無い」

 

気分が沈んだままに八峡義弥は呟く。

この公園は八峡義弥にとっての三途の川。

死に近しい場所、けれど。

 

「そうでも無いさ」

「三途の川は」

「死の川でもあり」

「生の川でもある」

「一度船に乗っかっても」

「彼岸に行かなきゃ」

「生き返る可能性はある」

 

あの世から帰還出来ると五十市依光は言う。

 

「……奇跡ってのは」

「偶然の積み重ねだ」

「同時に」

「必然の組み合わせでもある」

「八峡」

「お前はあの野郎と戦って」

「一撃を秘めた攻撃を行っただろ」

 

八峡義弥の全力。

臨核に貯蓄された神胤を全て放出して、必殺の突きを行ったが、しかしそれは不発した。

受ける寸前に天積によって殺された。

 

「無駄打ちになったお前の渾身は」

「お前を生き返らせる要因になる」

 

「……それが」

「生き返るのに、どう意味が?」

 

八峡義弥にはそれがどう生き返る話に繋がるのか分からなかった。

しかし五十市依光は更に話を続けて八峡に問う。

 

「絶望を抱いた者こそが」

「死から生き返る可能性を持つ」

 

何も成せないまま自らが死ぬ。

それを八峡義弥は憂い、絶望しながら死んでいった。

 

「この二つが」

「お前を生き返らせる偶然と必然だ」

 

「……さっきから」

「何を言ってるん、すか」

 

八峡義弥は理解出来ない。

理解出来ないのも仕方がない。

それは、敢えて八峡義弥が知る事も無い情報。

 

「臨核が貯蓄する神胤が枯渇し」

「尚且つ」

「精神的に絶望を得た状態のみ」

「それは発動する」

 

臨核の生存本能。

臨核器官の容量限界の上昇。

 

「起死回生の一手」

「万物の祝福」

「死からの帰還」

「真の絶望を得たものだけが」

「真の希望を掴む事が出来る」

「その名は」

「〈臨終(りんじゅう)廻命(かいせい)〉」

 

一時的な身体能力の上昇。

肉体傷害の自動回復。

洞孔の約二割を拡張させる事が可能。

それを聞いた八峡義弥は。

 

「そ、そんなもんあるんなら」

「先に言ってくれりゃ良いのにッ」

 

その現象が八峡義弥を生き返らせる。

それを理解していたのならばこうして殴り合いに発展する事無く生き返るのを待てば良かった。

 

「いいや」

「臨終廻命は」

「それに頼った時点で」

「復活は不可能になる」

 

臨界点突破の条件として。

神胤が枯渇した状態であり、絶望した状態で無ければならない。

臨終廻命に期待した時点で、絶望では無く希望を得た状態になる。

つまり、その能力を知らぬものこそ臨終廻命の可能性が高くなる。

 

「まあ、そういうわけだ」

「お前は生き返る」

「この公園を走って行けば」

「光が指し示すから」

「その光に突っ込んでいけ」

「そうすりゃ」

「簡単に生き返るだろうよ」

 

五十市依光は言う。

だが、まだ問題点はあった。

 

「あの、俺が生き返ったとして」

「俺は、アイツを倒せる程の実力は無んすけど」

「生き返った所で」

「また、無駄死にしちまいますよ」

 

生き返ったとしても八峡義弥の実力では天積を倒す事は出来ない。

しかし五十市依光は笑って立ち上がり、八峡義弥に手を伸ばす。

八峡義弥はその手を取って無理に立ち上がらせられると。

 

「心配すんな」

「俺が力を貸してやる」

五十市依光(おれ)が」

八峡義弥(おまえ)術式(ちから)になってやるよ」

 

言いながら五十市依光の体は光となって崩壊しつつあった。

 

「うわ、なんすかそれッ」

「どうしたんすか、五十市さんっ」

 

八峡義弥が慌てながら言う。

 

「俺は呪いだ」

「その呪いは解かれた」

「お前が誰かの為に戦う決意をしたから」

「解呪しちまうんだよ」

「そんで」

「お前を蝕む呪いは」

「お前を救う奇跡に変わるんだ」

 

呪いは強力であれば協力である程その体に影響を及ぼすが、それを解呪した時、その恩恵は多大になる。

五十市依光の呪いを解呪した八峡は、五十市依光に祝福されるのだ。

 

「お前が誰かの為に戦い続ける限り」

「俺は、お前の力になり続ける」

「……俺の術式をくれてやるんだ」

「あんな奴、斃せるさ」

 

そう笑って、八峡義弥の背中に手を添える。

 

「行ってこい八峡義弥」

「俺の想いを」

「俺の力を乗せて」

「勝って来いや」

 

その背を、思い切り押した。

八峡義弥はそれに合わせるかの様に。

強く、地面を蹴って公園から、飛び出していく。

 

「まっすぐ進めッ!」

「絶対に振り向くなッ!」

「前を向いて走っていけッ!」

「もう二度と」

「此処に顔を出してくんじゃねぇぞ!」

「じゃあな、()()ッ!」

 

その言葉が後ろから聞こえて。

八峡義弥は決して振り向かず。

走る速度を落とす事無く光の先へと、駆けていく。

 

長い夢を見ていたかのようだ。

八峡義弥は、ゆっくりと目を開き己の血で濡れた彼女の顔を見る。

 

命の通う掌を、彼女に向けて伸ばして頬に触れる。

彼女はその手に気が付いて八峡義弥の生存を知ると彼の手に触れて、ゆっくりと目を瞑った。

 

「……」

「悪い、少し」

「死んでたわ」

「不安にさせたかよ?」

 

八峡義弥が彼女にそう聞いた。

九重花久遠は首を横に振って。

 

「八峡、さま」

「ご存命で、何より、です」

「……申し訳、ありま、せん」

「私は、永犬丸、さまと、違い」

「八峡、さまの、復活を」

「望んでは、いません、でした」

「私は、貴方と共に」

「死ぬ事を、思って、おりました」

 

九重花久遠は言う。

八峡義弥はそれを聞いて頷く。

 

「なら」

「死ぬのは無しだな」

「俺、生き返ったし」

「この後も」

「死ぬ予定もねぇしよ」

 

八峡義弥は立ち上がって喉元に触れる。

首に刻まれた傷はもう消え失せていた。

臨核器官が生存本能を全開にさせ喉元を急速に治癒させた。

 

もう、傷跡は無い。

前を向く、必死になりながらも戦い続ける仲間の姿があった。

 

八峡義弥にとって大切な存在、大切な価値。

もうこれ以上、失ってはならない唯一の宝物。

 

「あいつらの為に」

「お前の為に」

「俺は生き返った」

「失わせねぇ」

「殺させもしねぇ」

「俺の力は」

「その為にある」

 

臨核を起動。

刻まれた術式を開放する。

それは五十市依光の術式。

 

八峡義弥が許された証明、左腕から放出その術式を。

 

「ぐ、」

「ぉ、おぉおォおお!!」

 

赤黒い稲妻として自らの肉体に押し当てる。

 

「や、かいッさま!」

 

絶え間ない激痛、全身に針金を通される感覚。

神経が煮え立ち、血液が沸騰し、肉が焼かれて、骨が燻る。

それでも、八峡義弥は術式を止めない。

 

これは本望。

八峡義弥は大切な者の為に命を削る事が出来るだから。

 

骨の髄まで。

つま先から指先まで。

余すところなく、術式を堪能する八峡義弥は。

 

空気を吸う。

その空気が臨核を通して神胤を生む。

それはまるで、万物が唯一つの生命を祝福する様に。

 

「……か、ッ、はッ!」

「イヌ丸ゥう!猿鳴ィ!!」

 

八峡義弥が吼える。

友の名を口にして天積と戦う二人は八峡義弥の生存を知り。

 

「やっとおきたか」

 

「長い眠りだ、我が友よ」

 

息を絶えらせながら、笑みを浮かべて彼の生存を喜んだ。

 

「やあ。転生者」

「此処から先は」

「ボク達の戦いでは無い」

「後の事は」

「我が友に譲ろう」

 

「おどろけおののけ」

「やかいはつよいぞ」

 

確信する様に二人が言い放ち、永犬丸と猿鳴が戦線を離脱する。

 

「させると思うか」

 

一歩踏み出して、その太刀で生命を断とうとした瞬間。

ドンッ、と重圧な音が響き、目の前に、八峡義弥が現れた。

 

「ッ」

 

拳を握り締めて。神胤を循環させる肉体で。

思い切り、天積を殴り付ける。

 

その一撃は、天積が認識出来ない程の速さ。

打たれて、後退して、そして、その拳の重みを認識する。

 

「(どういう事だ)」

「(息を吹き返した)」

「(それは良い)」

「(俺の道理ではよくある事だ)」

「(だがこの強さは)」

「(一体、どこからきている?)」

 

天積は知らない。

八峡義弥が死に、呪いと対話してその罪を許された事を。

赤黒き雷鳴が、八峡義弥を駆け巡る。

 

「今一度言うわ」

「お前を殺す」

「俺の為じゃない」

「あいつらの為に」

「手前は邪魔だッ」

 

「囀るな、弱者がッ!」

 

道理が振われる。

龍の如くうねる炎が八峡義弥に向けて放たれる。

 

ダンッ!震える程の大地の踏み締め。

足元から放たれる赤黒き稲妻が大地を張って、赤き陣を築き上げる。

その陣には、炎の龍が侵入する事は不可能。

 

「馬鹿なッ!」

「此処は、俺の道理だぞ!」

「俺の世界だ」

「俺の力が遮断されるなどッ!」

 

天積は驚愕してそう口にする。

此処は天積の想定通りとなる道理。

 

なのに炎の龍によって、八峡義弥は焼ける処か炎を遮った。

 

「……これが」

「俺が見殺しにした人の力だ」

「……俺を赦してくれた人の力だ」

「強いだろ?なあ」

「もっと見せてやる」

「イヤと言う程になぁ!!」

 

八峡義弥が叫ぶ。

 

「やってみせろッ」

 

天積は八峡義弥を睨み煤の刃を握り締めて。八峡義弥の元へ駆けた。

 

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